13
放課後、俺はまたギルドに足を運んでいた。
受付でカードを提示すると、いつもの職員がじとりとした視線を投げてくる。
「……相原君、また借りるのかい? 今度は壊さないようにね」
「は、はい……できれば……」
言い切る前に職員の視線が鋭さを増したので、慌てて頭を下げる。
まさかここまで「武器クラッシャー」として認識されているとは思わなかった。
苦笑しながら剣を受け取り、上層へと向かう。
スライムを倒し、ゴブリンを相手に剣を振る。
ぎこちないながらも動きには慣れてきた。
しかし、三撃目を振り下ろした瞬間――
――ビシッ!
嫌な音とともに刃にヒビが走る。
「……やっぱりか」
剣を見つめて苦笑する。もう驚きもしない。
結局ゴブリンは拳で殴って沈めた。
少し奥に進むと、床の石が妙に盛り上がっているのに気づいた。
おそるおそる踏むと――ズルッ! 足元が崩れ、落とし穴が口を開く。
「うわっ……!」
幸い浅い段差で済み、怪我はなかった。
底には古びた木箱が転がっている。
箱を開けると、中には小瓶が一つ。
「これ……ポーションか!」
手にした瞬間、視界に文字が浮かんだ。
《コメント:運いいな》
《ポーションか、羨ましい》
「……え」
思わず声が漏れる。
配信ウィンドウの端に、初めてコメントが流れたのだ。
視聴者数は十にも満たないけれど、確かに誰かが見ている。
(……俺の配信を、見てくれてる人がいるんだ)
胸の奥がほんの少し熱くなった。
その日の稼ぎは大したことなかったけれど、ポーションを拾ったことで妙な充実感があった。
武器はヒビ入りのまま返却。職員にため息をつかれつつも、特に咎められることはなかった。
家に帰って夕飯を済ませ、布団に潜り込む。
「……明日も頑張ろう」
つぶやいた瞬間、意識がすとんと落ちていった。
そして睡眠中の俺は荒々しい岩肌に囲まれた洞窟の中にいた。
赤黒い光が差し込み、奥で巨大な影が眠っている。
竜のようなシルエット――ドラゴンだ。
「グルルルル……」
低い唸り声が洞窟を震わせる。
だがその前に、場違いなほど無防備に布団で眠る少年――俺。
ごろり、と寝返りを打った瞬間。
――ドガァァァンッ!!
その衝撃だけで洞窟全体が揺れ、ドラゴンが岩壁に叩きつけられた。
悲鳴を上げる間もなく、巨体は地面に崩れ落ち、静かに消滅する。
【スキル獲得:瞬間記憶】
淡い光が俺の体を包み込んだ。
だが当の本人は、布団の中で穏やかな寝息を立て続けていた。
目を覚ました俺は、冒険者カードが光っているのに気づいた。
恐る恐る確認すると――
【スキル獲得:瞬間記憶】
「………………は?」
首を傾げる。
「瞬間記憶って……なんだよこれ」
手元のノートをパラパラと眺めると、文字が頭にすっと入ってくる。
確かに一度見ただけで覚えられるらしい。
「美肌に続いてこれかよ……」
布団の上で頭を抱えた。




