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 光がゆっくりと収束していく。

 空間の中心――そこに、ひとつの影が立っていた。

 拳を握り、静かに佇むその姿。

 灰色の光を背に、振り返った青年の輪郭がはっきりと浮かび上がる。

 「……悠真!」

 凛の声が反響する。

 悠真が振り向き、驚いたように目を見開いた。

 「――合流できたか!」

 声に安堵が混じる。

 宙を漂っていた光の粒が、彼の動きに合わせて微かに揺れた。

 アシュベルが周囲を見回しながら言う。

 「ここが……第十五層の中心か?」

 「わからない...これは、空間じゃない気がする。

   ……何かの中のような...」

 彼らの足元で、淡い光が円を描く。

 幾何学模様が重なり、宙に浮かぶ魔法陣が複雑に稼働していく。

 円環はまるで呼吸をするように明滅し、空間全体が微かに波打った。

 その瞬間、どこからともなく不明瞭な“声”が響いた。

 『――対象X、観測継続不能。自己認識干渉発生。』

 電子音のようでもあり、祈りのようでもあるその声が、頭の中に直接響く。

 凛が顔をしかめ、耳を押さえる。

 「なに……この声……」

 悠真の瞳が鋭く細められた。

 「またか。こっちを覗いてる奴ら、まだ諦めてねぇみたいだな。」

 背後の魔法陣が、一瞬、異常な速度で点滅する。

 円環が軋みを上げ、崩れかけた空間の奥で、

 “観測装置”そのものが揺らいでいた。

 リーメイが息を呑む。

 「……待って、これ……!」

 光が強まり、空間の構造が歪んでいく。

 『――干渉率上昇。対象X、観測外領域へ移行中。』

 ノイズ混じりの声が遠のくたびに、現実と幻想の境がぼやけていく。

 悠真の存在そのものが、この空間の“中心点”――いや、“異常値”になっていた。

 凛が必死に呼びかける。

 「悠真! 動かないで! その場所、何か……反応してる!」

 「わかってる。だけど――もう遅いかもな。」

 彼の足元に走る光が、一瞬で閃光に変わる。

 その輝きが、すべての音を飲み込んだ。

 世界が軋みを上げ、観測空間の奥で何かが崩れ始めた。


 光の波が引いていくと同時に、悠真の耳の奥に――声が届いた。

 それは誰のものでもなく、空間そのものが語りかけてくるような響きだった。

 『――接続、安定。対象ゼロとの通信を開始します。』

 静寂を破ったのは

 「……あなたは、異世界人――と我々は認識している。」

 悠真の視線がわずかに鋭くなる。

 「……誰だ。」

 「私はノヴァ・ヴェルナー。異界観測局の主任研究官。」

 声の調子は冷静で、まるで論文を朗読するような無機質さを帯びていた。

 「あなたは“ゼロ”と呼ばれている。理の外側に存在する、観測不能体。」

 悠真は短く鼻を鳴らした。

 「勝手に呼ぶな。俺は、相原悠真だ。」

 「…ふむ…相原悠真。」

 ノヴァが一度、その名を復唱する。

 言葉の端が、微かに感情を帯びたように聞こえた。

 「あなたのその異常な力。

  この世界――いや、あなたの世界でも、異様な目で見られたのではないか?」

 悠真の瞳が揺れた。

 「……どういう意味だ。」

 ノヴァは少し間を置き、淡々と続けた。

「あなたのその異様な力、気になりはしないか?」

「...なぜお前が知っている?」


「あぁ、やはり知らないのですね。

 あなたは一度、存在そのものがこちらの世界から断絶した痕跡がある。

   ――転移痕です。あなたは一度、別の位相にいた。」

 凛たちの背後で、微かな衝撃が走った。

 アシュベルが眉をひそめる。

 「転移……だと?」

 ノヴァの声が続く。

 「あなたは寝ている間に、異界を越えた。

  そして、どうやってかは私達にもわからないが、そこで我々の世界の魔王の一人を倒している。

  それがあなたの基礎――“ゼロ”の由来。」

 悠真の拳がわずかに震えた。

 「……ふざけるな。俺はそんな覚えは――」

 言葉の途中で、空間が微かに歪んだ。

 『――干渉エラー。情報層へアクセス不能。』

 ノヴァの声が一瞬、乱れる。

 「……くっ、観測干渉が……!」

 悠真が低く呟く。

 「どういう意味だ。」

 ノヴァの声が途切れ途切れに響く。

 「……あなたの中に――」

 次の瞬間、光が爆ぜた。

 通信回線が弾け、ノイズが全空間に広がる。

 凛が目を細め、必死に周囲を見回す。

 「悠真、離れて――!」

 悠真は一歩前へ出る。

 その瞳の奥に、静かな闘志が宿っていた。

 「……俺のこの力が魔王討伐だと?まるで意味がわからない。しかもなぜこいつらは俺等の世界に干渉できているんだ?」

 ノイズの中で、ノヴァの声が最後にひとことだけ残した。

 『――やはり“ゼロ”に相応しい。』

 通信が途切れ、空間が音を失った。



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