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 崩壊した光が静かに散っていく。

 残響だけが空気を震わせ、床の亀裂に吸い込まれていった。

 黒い個体が完全に消滅したその瞬間――

 空中に、文字が浮かび上がる。

 赤と青の光が絡み合い、幾何学的な輪がいくつも重なる。

 それは魔法陣というより、巨大な演算式。

 文字列が次々に変換され、まるで誰かがリアルタイムで書き換えているようだった。

  『――対象X、反応確認。干渉率、八十七パーセント。』

  『異界通信回線、安定化。観測成功。』

 電子音のようなノイズが走り、光の輪が強く輝く。

 悠真は顔を上げた。

 「……今度は、なんだ?。」

 淡く光る魔法陣の中心――そこから、明確な言葉が届いた。

  「こちら、異界観測局。私はノヴァ・ヴェルナー。

   聞こえるか、あなたは――」

 悠真の眉がわずかに動く。

 「……誰だ?」

 瞬間、通信が乱れる。

 光が明滅し、魔法陣が不安定に揺れ始めた。

  『通信干渉検知――座標固定維持不能。』

  『再送信を試――』

 ノイズ混じりの声が途切れ、

 次の瞬間、床が低く鳴動した。

 地面の亀裂が走り、黒い霧が溢れ出す。

 その霧は、まるで何か別の世界へ繋がるかのように、

 ゆっくりと円を描いていった。

 悠真は拳を握り、低く呟く。

 「…おいおい、次から次へ何が起こって」

 ゲートが軋みを上げる。

 異界と現界、その境界が微かに震えた。

 そして、亀裂の向こうから――

 “誰か”の手が、こちら側へと伸びてきた。


 その瞬間、空間が崩れた。

 裂け目の縁がまるで紙のように破れ、黒い霧が吹き出す。

 光と闇が入り混じり、音が消える。

 悠真は一歩後ろに退き、反射的に拳を構えた。

 だがその手は攻撃ではなかった。

 まるで、何かを“渡す”ように――掌を上に向けていた。

 そこに、ひとつの結晶が落ちる。

 黒曜石のように滑らかな球体。

 中心がわずかに赤く脈打っており、

 まるで心臓の鼓動のように“生きている”ようだった。

 霧が消えると、手も、裂け目も跡形もなかった。

 ただ、残されたのはその結晶のみ。

 悠真はしゃがみ込み、指先でそれを拾い上げた。

 表面に自分の顔が映る。

 反射した瞳の奥で、何かが確かに光っていた。

 「...また変なもん置いていきやがって。異常個体に異常魔石、今度は何だよこれ。」

 広間全体が軋みを上げる。

 崩壊しかけたゲートの残骸が、まるで呼吸するように光り、

 それがゆっくりと暗闇に飲まれていった。

 悠真の姿が、微かにその光に溶けていく。


――異世界観測室。

 蒼白い光の中、異世界の観測室。

 ノヴァ・ヴェルナーが、沈黙のままホログラフィック画面を見つめていた。

 画面には、先ほどまで悠真が立っていた空間の映像が断片的に映っている。

  「理外個体、コードネーム《ゼロ》。」

 ノヴァの唇がわずかに動く。

  「接触成功――世界の干渉が始まったな。」

 その背後で、無数の魔法式が再起動する。

 計測不能だった数値が次々と形を取り、

 境界が、ゆっくりと崩れていった。

 ――世界は、今、ひとつ繋がった。



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