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 光が戻った瞬間、世界は“静止画”のように変わっていた。

 空気は透明で、何の音もしない。

 ただ、自分の呼吸音だけがはっきりと耳に残る。

 悠真は、ゆっくりと周囲を見渡した。

 さっきまでいた仲間の姿は――ない。

 凛の声も、リーメイの笑いも、アシュベルの気配さえも消えていた。

 (……分断された、か。)



 空気が、ひどく重たかった。

 足音が響かない。息を吐く音さえ、地に吸い込まれるように消えていく。

 ――第十四層、最深域。

 腕につけた通信機を叩いてみる。

 ノイズ音だけがかすかに鳴り、すぐに沈黙した。

 「……完全に切れたな。」

 篠原たちの声も、誰の息遣いもない。

 唯一残っているのは、端末のモニターに並ぶ無意味な数字。

 魔力センサーは無限表し、赤い警告表示を点滅させている。

 数秒後、機器の内部から煙が上がり、ぷつりと光が消えた。

 悠真は小さく息を吐いた。

 (……静かだな。なのに、誰かが見てる気がする。)

 足元の砂に、黒い焦げ跡が残っていた。

 焦げた観測機材。ひしゃげた鉄のフレーム。

 その破片に、奇妙な刻印が焼き付いている。

 円と直線が組み合わされた、未知の文字列。

 日本語でも、英語でも、どこの言語でもない。

 「……見たことないな。どこの国の文字でもない。」

 指先でなぞると、刻印がじわりと赤く光った。

 ――ピシッ。

 耳の奥で、何かが割れるような音がした。

 カメラを通して見ているようなノイズ。

 視界の奥、闇の向こうで、黒い“影”が立ち上がった。

 それは人の形をしていた。

 しかし輪郭が曖昧で、霧のように揺らいでいる。

 まるで――無理やり形を持ったような。

 悠真は、自然と拳を握った。

 「……やっぱりな。誰か、いたろ。」

 影が、こちらを向く。

 顔はなく、口も目もないのに、確かに“見られている”感覚だけがあった。


 黒い霧が、ゆっくりと形を変えていった。

 最初はただの煙だった。だが、空気の流れを飲み込みながら凝集し、

 人の輪郭を真似るように、腕や脚を作っていく。

 骨も筋肉もない。ただ、流動する液体が人の形を保っているだけだった。

 輪郭は明確なのに、内部は空洞。

 中には光も影も存在せず、空そのものが空っぽのように見えた。

 悠真が一歩、前に出た。

 その瞬間、影もまったく同じ動きで一歩を踏み出す。

 踏みしめる音まで、完全に同期している。

 「……鏡、か?」

 悠真が立ち止まると、影も立ち止まる。

 わずかに首を傾けると、同じ角度で傾く。

 一拍、静寂。

 「いや――これは、なんだ。俺を見ている、のか?」

 その声に、影の胸の奥が一度だけ脈動した。

 黒い波紋が全身を走り、表面がざわめく。

  「……理外個体。観測、開始。」

 声というより、振動だった。

 耳の奥に直接響くような音。感情も意思もない、ただの“指令文”。

 悠真の周囲に、薄い光の輪が浮かび上がった。

 それは異世界からの観測魔法――遠隔干渉による座標固定式。

 黒い影の周囲には、微細な魔法陣がいくつも展開されていく――


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