12
週が明けた月曜日。
教室の扉を開けた瞬間、耳に飛び込んできたのは、あちこちで弾ける笑い声と机を叩く音だった。
「お前の配信見たぞ! スライム相手に叫びすぎだろ!」
「だってさ、あいつ意外と跳んでくるじゃん!? マジで目に入ったら終わるんだって!」
「ははっ! でも声裏返ってたのおもろすぎたわ!」
廊下から入ってきたばかりなのに、その熱気に押されて足が止まる。
クラスのあちこちでパーティを組んで潜ったメンバーが集まって、互いの配信を見返して盛り上がっていた。
机を叩いて大笑いするやつもいれば、タブレットを取り出して友達に「ここ見ろよ!」と再生して見せているやつもいる。
(……俺は、呼ばれてないな)
小さくため息を吐き、俺は自分の席に向かった。
カバンを下ろし、机の上に置かれたカードをそっと見やる。
小さな画面に映る自分の配信の数字は――再生数6。
(……見られないに越したことはない。剣を壊してオドオドしてる姿なんて、晒されたら絶対笑い者になる)
そう自分に言い聞かせる。
けれど、胸の奥が少しだけ寂しくなるのを止められなかった。
「なあなあ、俺らの昨日の配信、100超えてたんだぜ!」
「マジか! やっぱ俺のトドメの一撃、かっこよかったよな!」
「いやいや、俺の挑発でゴブリン釣ったからだろ!」
机を囲んで笑い合うグループの声が、やけに耳に響く。
他のやつらも「すげー!」「ランキング入りあるんじゃね?」と盛り上がっていた。
俺は机に突っ伏しながら、ため息をついた。
(6回再生。
こっちは“存在してない”ようなもんだ。……比べるのも恥ずかしい)
でも、心のどこかで「俺の配信だって見られたら……」という淡い期待もある。
(……いや、やっぱり見られなくて正解だ。絶対笑われる。イジられる未来しかない)
「そういや昨日の帝都探索学園の配信、見たか?」
中心グループの一人が言った瞬間、教室全体の空気がさらに熱を帯びる。
「見た見た! 天城凛の結界ヤバすぎだろ!」
「アシュベルの雷撃もすげぇ! 新人で中層ってありえなくね?」
「同い年とは思えねぇよな……マジで規格外」
皆が口々に名前を挙げ、興奮したように身振り手振りで戦闘のシーンを再現する。
天城凛の手を広げる仕草を真似して「バリアー!」と叫んで笑うやつもいる。
クラスのほとんどが画面越しに彼女たちを見ているのだと実感させられる。
「同時視聴者、10万人超えてたらしいぞ」
「やっべえ……俺らとは格が違いすぎ」
「いや、次元が違うんだよ。あれが“世界十支族”ってやつだろ」
熱気に包まれる教室。
その中心には当然、俺はいない。
(俺の配信は再生数6。
帝都探索学園は全国区、視聴者は十万超え。
……同じ“新人”でも、差がありすぎる)
胸が重くなる。
けれど同時に、あの画面で見た光景が脳裏に蘇る。
群れを一瞬で弾き飛ばす結界。
雷鳴のような一撃で全てを薙ぎ払う力。
(……あの映像を見てしまったら、諦めるなんてできない。
たとえ遠くても、少しでも近づきたいって思っちまう)
自然と拳に力がこもった。
「席につけー!」
担任の声が教室を切り裂き、熱気は一気に静まった。
俺は顔を上げ、ノートを取り出す。
窓から差し込む光が、真っ白なページを照らしていた。
(次も潜ろう。小さくてもいい。俺なりに、一歩ずつ……)
その決意を胸に、今日の授業が始まった。
誤字報告ありがとうございます。訂正いたしました




