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篠原の説明が一段落すると、司会役のギルド関係者が一歩前に出た。
「続いて、代表者間の顔合わせを行います。各国から、一言ずつ挨拶を。」
静かな拍手のあと、最初に立ち上がったのは炎のような赤髪の男だった。
「レオン・グレンデル。アメリカ代表だ。
日本は暑いな、いや、俺ほどじゃないけどな。
演習って聞いてるが、実際は危険地帯だろ? 遠慮はいらない。
――戦うなら、全力でやるぞ。」
短い言葉だったが、熱と軽さが同居していた。
次に席を立ったのは、金髪の青年。
「アーサー・シルヴァ。イギリスから来ました。
皆さんと、理解し合える演習になることを願っています。」
その穏やかな声に、空気がわずかに柔らぐ。
「リュシアン・アルヴェルデ、フランス代表。
水のように柔らかく、でも芯のある時間にしたいね。」
「セルゲイ・アレクサンドロフ。ロシアからだ。……以上。」
「ダリオ・エルナンデス、スペイン代表。
光の下では影もよく見える――だから、興味深い。」
「アニル・アザミ。インド。静かな環境を、どうか。」
「カリム・シャヒーン。サウジアラビア。
砂漠では、言葉よりも行動が尊ばれる。」
それぞれが短く挨拶を交わすたび、
ホールの温度が少しずつ変わっていくようだった。
見た目も言葉も違うのに、不思議と全員が“同じ場所に立つ者の気配”を持っている。
最後に、天城凛が静かに立ち上がる。
「日本代表、天城凛。
この地での安全と、皆さんの成果を約束します。」
そして、悠真。
名前を呼ばれても、彼は一瞬ためらった。
「……相原悠真。能力は身体能力上昇でEランク異能者です。」
それだけ言って、席に戻る。
だが――不思議と、誰も笑わなかった。
短い沈黙のあと、リーメイが微笑む。
「彼は謙虚なだけネ。戦えば、すぐ分かるアル。」
「なるほど、評判通りか」
その言葉に、他の代表たちの視線が一瞬だけ集まった。
けれど敵意も嘲りもない。
ただ、同じ領域にいる者を見る目だけがそこにあった。
会議の終盤、篠原が再びマイクを取る。
「最後に一点、追加報告があります。」
スクリーンが切り替わり、ダンジョンの内部映像が映し出される。
監視ドローンの記録。
黒く濁った魔石の核が――脈打っていた。
「封鎖区域の魔石コアに、再活性反応が確認されました。
演習は予定通り行います。ただし――観測下での実戦を許可します。」
悠真はほんの一瞬、視界の端が揺らいだ気がした。
(……また、何かが呼んでる。)
その感覚を押し殺すように、拳を握る。
視線の先では、世界の頂点たちが静かに立ち上がっていた。
――国際交流演習、開始まで三日。




