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探索を終えて、スライムの核とゴブリンの耳を窓口に差し出す。
職員が金額を計算し、封筒を渡そうとしたその時だった。
「――相原君、ちょっといいですか」
「えっ……お、俺、何かやらかしましたか!?」
思わず声が裏返る。
確かに今日も剣を壊した。しかも毎回だ。
(ま、まずい……ついに怒られる!? 弁償とか言われたらどうしよう……!)
胸の奥でドキドキが止まらないまま、俺は奥へと連れていかれた。
小部屋に案内されると、机の向こうに座った中年の職員が深いため息をついた。
「最近、君……レンタル武器を何本も壊してますよね?」
「い、いや……その……」
「免除範囲内とはいえ、ちょっと異常です。毎回ともなると、記録を確認しないわけにはいきません」
端末を操作すると、机の上に据え付けられた大画面に映像が浮かび上がる。
俺の探索配信だ。
剣を構えた俺が、ぎこちない姿勢でゴブリンに斬りかかる。
――バキィィッ!
その瞬間、剣は粉々に砕け散った。
「……この振り、そこまで力入れてないように見えるんですけど?」
「そ、そうなんです! 俺も分からなくて!」
顔が熱くなる。
(や、やめろ……! よりによって記録残ってたのかよ!)
再生は続く。
素手になった俺がゴブリンに囲まれ、棍棒を何度も叩きつけられる。
しかし、傷ひとつ負わずに立っていた。
「…………」
「…………」
部屋に沈黙が落ちた。
「……君、正直に言いなさい。本当に《身体能力上昇(S)》ですか?」
「い、いや、それしか持ってないです!」
オドオドと答える俺に、職員は腕を組み、しばらく無言で画面を見つめる。
「動きは確かに新人なんですよ。剣筋もぎこちないし、フォームも甘い。
でも結果だけ見れば――鉄壁の防御に、一撃必殺の破壊力。……どうなってるんですかね、君の体は」
「ぼ、僕にも分からないです……!」
心底困惑した声で返すと、職員は再びため息を吐いた。
「……普通なら即ギルド搬送案件ですよ、これ。
少なくとも、他の新人とは明らかに違う。何かあったらすぐに報告してくださいね」
「は、はいぃ……」
職員は困惑したままメモを残し、俺は部屋を出た。
外はすっかり夜になっていて、街灯の下を歩く自分の影が長く伸びていた。
夜風が肌を撫でても、不思議と心臓の鼓動は収まらない。
(俺、本当に……どうなってるんだ……?)
不安を抱えたまま、俺は家路を急いだ。




