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昼休み。
食堂は、まるで祭り前みたいにざわついていた。
壁には「国際交流演習まであと二十日!」という横断幕。
真田が購買で買ってきたアイスを四つ並べ、ドヤ顔で配る。
「ほら、買ってきたぞ。最初に溶けたやつは俺が責任取るからな!」
「いらない責任感だな」悠真が笑う。
朱音が手のひらでスプーンをくるくる回しながら言った。
「夏近いし、訓練地行きたいね。外で体動かすの、気持ちいいし」
「じゃあ海がいいアル!」
「水中は体幹にいいらしいわ。波に逆らって動くの、鍛えになるらしいの」
「泳げるタイプ?」
「……沈むタイプ」
一瞬の間のあと、三人がそろって吹き出す。
真田が笑いながら頷いた。
「お前ら、どんな訓練でも結局沈むか浮くかしか言ってねぇな」
「沈むのも才能よ」と朱音が肩をすくめる。
「どんな才能だそれ」
テレビではニュースキャスターが熱っぽく語っている。
> 「日本からは天城凛、そして十支族ではない相原悠真が参加するとのことです。――また、各国の十支族が来日予定!」
パンをくわえた外村が、席に滑り込むようにやってきた。
「なぁ悠真、これ絶対特集組まれるやつだろ! “日本代表候補、謎のEランク男”とか!」
「……そういうタイトル、だいたいバズらないやつだぞ」
「いいんだよ! とりあえず出とけば有名になるって!」
「俺、喋るの苦手だから……」
「喋らなくても映るだけで再生数伸びそうだけどね」
白鳥がストローをくわえたまま笑う。
外村は満足げにうなずき、
「だろ!? ビジュアルって大事なんだよ!」と自信満々に言い放った。
凛はその横で、真面目にトーストをかじりながら冷静に言う。
「浮かれすぎると事故るわよ。うちの学園、マスコミ慣れしてるとはいえ、かなりの数が来ると思うわ。」
「そっちは頼むよ、天城さん。結界でカメラ避けるとかできないの?」
「そんな便利な使い方しないわよ。」
「なんか、こういう時間、久しぶりだな」
「何、感傷?」
「いや、なんか……一か月前までは毎日が戦いだった気がして」
「まぁ、あんた全国配信でモンスター粉砕してたもんね」
「やめてくれ……あれ、まだコメント残ってんの?」
「“物理で理を越えた男”ってタグあるネ。」
「やめてくれ...」
リーメイは笑いながら、空のアイスカップを手で弄ぶ。
「でも、そういう人が代表に選ばれるの。悪くないネ」
「……実感は、あんまりないけどな」
「実感なんて後からついてくるものよ。
いまはちゃんと、息できてるだけでいいと思うわ」
彼女の声は柔らかくて、風と一緒に流れていった。
それが妙に心地よくて、悠真は何も言わずに頷いた。




