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世界各地のモニターに、同じニュース映像が流れていた。
> 『日本とアメリカ、両国で異常魔石の反応を確認』
> 『国際探索者連盟は合同調査チームを結成へ』
> 『来月、帝都探索学園にて“国際探索者交流演習”を開催』
映像が切り替わり、キャスターの落ち着いた声が響く。
「日本・帝都探索学園で十支族を連破した少年――相原悠真。
その存在が、いま世界中で注目されています。」
背景には、決勝戦の映像が流れる。
光に包まれたアリーナ、そして拳ひとつで雷撃を打ち消す少年。
観客の歓声が薄れ、世界が静まり返る瞬間を切り取った映像だった。
スタジオではコメンテーターたちが言葉を交わす。
「日本の一年生が十支族に勝った? 冗談だろう。」
「いや、映像は本物だ。異能そのものが進化しているのかもしれない。」
「だが、それ以上に問題なのは異常魔石の出現だ。
アメリカと日本、両方で確認された。偶然とは思えない。」
画面下のテロップが、世界各地の地名を示して流れていく。
> 『ネバダ砂漠』『新宿』『ベルリン連盟支部』『ロンドン支局』
スタジオの照明が落ち、最後にキャスターが締めくくる。
「英雄の名と、未知の異常。
いま、世界の異能史は新たな局面を迎えています。」
ワシントン郊外の豪邸、そこはアメリカ十支族――〈炎〉のグレンデル家の本拠地。
夜にもかかわらず、館の中心にある書斎の暖炉は激しく燃えていた。
赤い光が壁の装飾を照らし、まるで生き物のように揺らめく。
椅子に腰をかけていたのは、レオン・グレンデル。
白金の髪を後ろで束ね、炎のような瞳を持つ男。
鍛え抜かれた腕を組み、燃え盛る火を見つめていた。
背後から部下が足音を立てる。
「レオン様、帝都学園との国際交流演習が正式決定しました。」
「そうか。」
「……それと、例の日本の少年――相原悠真。
現地では“クラッシャー”の異名で注目されています。」
レオンはわずかに口角を上げた。
「クラッシャー、ね。……いい名前だ。」
立ち上がり、暖炉の火に手をかざす。炎が彼の掌に吸い寄せられ、ひとつの球となって宙に浮かぶ。
「炎が最も輝くのは、最強の風が吹くときだ。
なら――あいつの拳がどんな風を起こすのか、見てみるのも悪くない。」
部下が控えめに尋ねる。
「ご出席なさるのですか?」
「もちろんだ。炎が立つ場所には、俺が行く。」
彼は炎の球を指先で弾き、ゆらめく火花が床に散った。
それは一瞬で燃え広がり、天井まで届く幻のような炎を形づくる。
「世界が揺れるなら――火をくべるのは俺の役目だ。」
その瞳に、燃え尽きることのない光が宿っていた。




