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帝都探索学園の配信を見た衝撃は、まだ頭から離れていなかった。
天城凛。アシュベル家。
同じ世代とは思えないほどの圧倒的な実力。
(……あそこに、俺が並べるはずない。
でも……少しでも、強くならなきゃ……)
そう自分に言い聞かせるように、俺は再び上層へ足を踏み入れていた。
ギルドカードが光り、頭上に追尾カメラが浮かび上がる。
視界の端には小さなウィンドウ。視聴者数は一桁で、コメントもない。
(……見られてなくて助かるな。こんな未熟な姿……)
苦笑しながら剣を抜き、探索を開始した。
スライムは難なく倒せた。
袋に核を入れ、少し奥へ進むと――ゴブリンが姿を現した。
「よし……!」
剣を振り下ろす。
だが、その瞬間。
――バキィィィィンッ!
耳障りな音と共に、手にしていた剣が粉々に砕け散った。
「ま、またかよ!?」
柄だけが手に残り、先端は床に散らばっている。
ゴブリンは一瞬たじろいだが、すぐに仲間を呼ぶように甲高い声を上げた。
――ギギギャァァ!
奥から複数の影。
次々とゴブリンが現れ、俺を取り囲む。
(やばい……! 丸腰だぞ……!)
背中に冷たい汗が流れる。
四方から一斉に棍棒が振り下ろされる。
反射的に腕を上げた。
――ドゴッ!
「ぐっ……」
鈍い衝撃が走る。
だが、痛みは――ない。
「……あれ?」
さらに横から棍棒が脇腹に直撃する。
ドゴォッ! という音が響く。
しかし、体はびくともしなかった。
ゴブリンがきょとんとした顔をして、もう一撃を叩き込む。
ドガッ!
ドガンッ!
それでも、俺の体は無傷だった。
「……痛くも、痒くもない……」
俺自身が一番驚いていた。
パニックのまま、俺は反射的に拳を振るった。
――ゴシャァッ!
手に伝わったのは、何か柔らかいものが砕ける感触。
次の瞬間、殴られたゴブリンが壁際まで吹き飛び、動かなくなっていた。
「……っ!?」
力を込めたつもりはない。ただ払いのけようとしただけ。
それなのに、一撃で沈んだ。
残りのゴブリンたちが怯えたように後ずさる。
俺はもう一度拳を振るう。
ドガァッ!
ズガァンッ!
殴るたびにゴブリンが吹き飛び、床に沈む。
数秒後には、辺りに静寂だけが残っていた。
はぁ、はぁ、と息を整える。
手のひらを見つめても、傷一つついていない。
(……俺、やっぱりおかしいんじゃないか?)
頭上のカメラが、淡々とその様子を記録している。
コメント欄は相変わらず無反応。
だが、この映像は確かに保存されている。
俺は拳を握りしめ、震える吐息を吐いた。
「……どうなってるんだ、俺……」
不安と恐怖が、心の奥底でじわじわと広がっていった。




