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 帝都探索学園 理事棟では

 重厚な木扉の奥、数名の教師と理事たちが円卓を囲んでいた。

 モニターには、各国の要請文と報道の映像が並んでいる。

 篠原は資料をめくりながら、低く呟いた。

「……予想はしていたが、、」

 理事のひとりが、眼鏡を押し上げる。

 「各国から正式に交流演習の要請が来ている。拒否は、まぁ難しいだろう。

  日本政府経由で文科省まで話が通っている。」

 別の教師が苦い顔で言った。

 「だが、形式上は演習でも……狙いは明白だ。」

 短い沈黙のあと、誰かが言葉を継ぐ。

 「――相原悠真の観測。」

 篠原は腕を組み、ゆっくりと天井を仰いだ。

 「彼を試すなら、相応の舞台が必要だな。

  十支族が動く規模の演習……そう簡単には済まないぞ。」

 重い空気の中、理事長が決断を下した。

 「……構わん。受けよう。

  だが、学園としては育成目的の合同演習という立場を貫く。

  正式な国際トーナメントではない――あくまで友好だ。」

 篠原は頷き、椅子から立ち上がった。

 「了解した。あとは、本人への通達だな。」


 翌日。

 訓練棟の廊下で、悠真が呼び止められる。

 篠原が手に書類を持ちながら、静かに告げた。

 「国際交流演習に参加してもらう。まだ正式な日程は未定だが、

  準備をしておけ。」

 悠真は一瞬だけ目を瞬かせ、すぐに頷いた。

 「…?…わかりました。」

 その声に迷いはなかった。



 放課後、校舎の屋上を静かに撫でていた。

 街の光が遠くまで伸び、学園の外壁にはカメラの赤いランプがいくつも瞬いている。

 下の通りではニュースクルーが張り込み、記者たちが「日本の新星」だの「異能界の革命児」だのと騒ぎ立てていた。

 悠真はフェンスに肘をかけ、ただ黙って夜空を見上げる。

 扉の音がして、黒瀬が出てきた。

 「お前、また世界にバレてんぞ。」

 「もう慣れたよ。」

 続いて神谷が顔を出す。

 「SNSのトレンド、三日連続で“クラッシャー”。もう公式タグ作られてるぞ。」

 「……マジでやめてくれ。」

 「無理だな。もう止まらん。」

 少し遅れて、凛が風を押しのけて現れた。

 月明かりに照らされた髪が揺れ、彼女は小さく微笑む。

 「次は世界ランキング戦ってわけね。」

 悠真は少しだけ目を細めた。

 「十支族なんて本当は雲の上のその先の存在だったのにな。どうしてこうなってしまったんだ。」

 その言葉に、黒瀬も神谷も笑った

 風が三人の間を抜け、夜の空気がひんやりと肌を撫でる。

 夜空が静かに明滅する。

 アメリカ、フランス、中国、ロシア、インド――そして、日本。

 世界が、再び交わろうとしていた。




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