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ランキング戦が終わって、2日が経った。
学園は祭りのあとのように静まり返っている――はずなのに、廊下を歩くたび、耳にかすかなざわめきが届く。
> 「十支族を倒して無傷とか、流石すぎるけどもう人間じゃないよな」
> 「決勝の映像。あれ、マジでCGって言われても納得する」
生徒たちの視線の端に混じるのは、恐れと敬意の中間。
憧れもありつつ、怪物を目撃したあとの静かな敬礼のようだった。
悠真はそんな空気を、まるで他人事のように受け流していた。
肩に掛けた鞄を揺らしながら、昇降口で靴を履き替える。
遅れてきた凛が隣に並び、ちらりと彼の横顔を見上げる。
「……相変わらずね。全部終わったあとでも、特に変わった様子もないんだから」
「うん、特に何も。いつも通りだよ」
凛は苦笑しながら息をついた。
「無傷の連勝なんて前代未聞なのに……あなた、もうちょっと自覚しなさいよ」
「自覚って言われても、本当に無傷だったから...」
「まぁ、そうね」
彼女の言葉に、悠真は小さく笑って教室へ向かった。
そんな国内の熱が冷めきるよりも早く、海外は動いていた。
ランキング戦の記録映像はアップロードから一日で拡散し、翌朝には世界中のニュース番組で流れていた。
『日本・帝都探索学園の一年生、十支族を連破』
『模擬戦レベルを超えた物理現象。国家クラス異能か』
報道の見出しはどこも似たような調子で、
日本の少年という存在を一斉に取り上げていた。
SNSでは「#クラッシャー」「#新世代異能」「#TheUnbroken」などが世界トレンド入り。
リプレイ動画には百万単位の再生が付き、専門家たちがスロー再生で拳の軌跡を分析しては「あり得ない」と首を振っていた。
そして、各国の十支族本家が次々に反応を見せ始める。
US グレンデル家。
アメリカの荒野に立つ要塞のような邸宅で、当主の青年が笑う。
「炎を超える拳……いいね。久々に血が騒ぐ」
背後の壁には、燃え焦げた大地の映像が映っていた。
CN フォン家。
黒漆塗りの机の上で、長髪の女性が報告書をめくる。
「リーメイが敗北? ……記録映像を送れ。詳細を解析する」
声には怒りも悲しみもなく、ただ無機質な興味が滲んでいた。
FR アルヴェルデ家。
大理石の舞台で青年が仮面を外し、カメラに向かって微笑む。
「圧倒的な力という芸術。――今度、舞台で再現してみようか」
周囲の観客が静かに拍手を送る。
RU アレクサンドロフ家。
極寒の研究塔で白衣をまとった男が、氷壁に指先を滑らせた。
「私の氷でも、無傷でいられるか……気になりますね」
数時間後、国際異能評議会――各国の十支族を監督する機関が声明を発表した。
> 『日本・帝都探索学園との友好演習を正式提案。
> 文化交流を目的とする。』
表向きは友好。だが専門家たちはその意図を知っている。
――観測。
彼らは、日本のクラッシャーという現象を、直接見に来ようとしていた。




