09: ミミズって火、噴くんすか?
「どぉりゃぁぁ!三枚お・ろ・シッ!」俺はそう叫びながらダガーを英語のNを描くように振った。
「……人間……いつの間にかこんな寒い生物になっていたとは……」カゲロウはミミズの顔らしき部分に爪を突き立ててくちばしで突っつきながら言った。
「うるせぇよ!初めてアサシンの職業が役に立った瞬間なんだからこれくらい言わせろよ!――でも確かに……三枚おろしってダサいな……」
「三枚おろしってより【影葬斬】のほうが雰囲気出ると思うがな」カゲロウは再び飛び上がりながら言った。
「やかましい!ってか鳥って中二病発症するもんなの!?そして無駄にかっけぇのむかつくぅぅぅ!」俺はダガーを逆手に構えてミミズの懐に潜り込む。ミミズはさっきまでの勢いはどこへ行ったのか、見るからに動きが鈍くなっている。
「うぉぉぉぉ!こいつ弱ってるぞ!おれの影葬斬効いたのか!?」
「ない。僕の錯乱につかれているだけだ。それに僕の技名パクるな。せっかく高貴で上品な名前が汚れるだろうが」
「なんだこいつ鳥のくせに生意気な――」俺がそう愚痴った瞬間――ミミズは身をかがめてプルプルと震え出した。
「……あーあ、こりゃめんどくさいやつだ。人間、後は頼む」カゲロウは元のカラスの姿に戻ってどこかへ飛び去って行った。
「あ、おい!逃げんな!この鳥め!」
「僕だって焼き鳥だけにはなりたくないからな。幸運を祈る」その言葉と同時に――ミミズは青白い炎を吐き出し始めた。
「…………あ、そーゆーことねー……じゃねー!え?なに!?ミミズって火吐くの!?果たしてそれはミミズというのか問題!ってかそれどころじゃねぇんだよ!」俺は転がって炎をかわす。俺の周りは一瞬のうちに炎で囲まれ、なんか闘技場みたいな感じになった。
「人間。踊り食いのタコのつもりか?動きが鈍いぞ」
「うるせぇ!俺だって踊り食われたくて踊ってるわけじゃねぇんだよ!そもそも俺食用じゃないけど!」ミミズは俺たちが言い争って言う間にもどんどん動きが活発になっていく。
「ってキモいキモいキモい!蛇みたいに動くな!ミミズってそういうもんだけど!――そうだっけ?」
「人間、お前らは相変わらず知能が低いな」
「なんだよその言い方!ってかお前は少しは助けろ!俺の頭上をハゲタカみたいにくるくる飛び回ってんじゃねぇ!」
「嫌だ。炎を吐き出したミミズは味のしないガムから腐った卵味になる。あと耳くそもちょっと混ざってるな」
「そんなこと言うな!気持ち悪いだろうが!」
「ま、戦闘指導くらいはできるだろ。まずは――伏せろ」
「……え?」俺は何となく身をかがめると――ねっばねばした粘液が俺の頭をかすめた。
「ってなんだよあれ!」
「あれに当たると体が溶ける。それだけだ」俺はぶるっと体を震わせた。するとミミズは――体から数えきれないほどの触手のようなものをはやし始めた。
「……ちょおお!?カゲロウ!カゲロウさん!いやカゲロウ様!カゲロウ大先生!次は何!?なんですか!!」
「……ま、適当に右によける……いや左か……まぁいいや。そこ動くな」次の瞬間、俺の周り東西南北半径1センチくらいの距離を触手がかすめる。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!かげろー!たしゅけてぇぇぇぇぇぇ!」
「うるさい。近所迷惑だ」
「ご近所さんご機嫌斜めなようでぇぇぇぇぇぇ!」するとカゲロウは空中でホバリングを始めて言った。
「人間。触手を切り落とせ。そのご自慢のダガーでな」
「いやいやいや!キモい!ムリ!カゲロウやって!カマキリとかなれるでしょ!」
「カマキリで触手を切れると思うのか。哀れだ」
「例えに決まってんだろぉぉぉぉ!」俺は絶叫しながらダガーを構えて腕を振り回しながらぐるぐると回った。
「いいぞ人間。そっからステイだ」俺の視界は開けた。ミミズは見るからに弱っている。
「おっとー?俺に風向いてきたんちゃいまっか!」俺はそう叫んで足を踏み出して――盛大に転んだ。
「人間。転倒」俺はカゲロウを睨んだ。
「言っただろうがステイって。その触手を切り落とすと切り落とした部分から出る分泌液が地面をつるつるにする。ただしすぐに効果は消えるけどな」
「マジか……いやでも……え?お前正しいこと言うの?」
「嫌か。ではこれからお前に何も言わないな」
「すみませんでした大先生!」俺は転んだ体制のまま土下座をした。
「……さっさと立ちあがってとどめを差せ。口の下らへんが急所だ」俺は寝っ転がったままダガーを投げる。すると――一瞬のうちにミミズが青白い炎に包まれた。
「…………え?」
「さっきお前が投げたダガーが刺さった場所はあいつの火袋だ。いかにそこを破るかが討伐の鍵だな。ちなみに三枚おろししてた場所は勝手に再生するから意味なかったな。まぁ、いい三枚おろしだったよ」
「あぁ……そう……ってかこんなダサくとどめ刺したくなかったんだけど!俺居合切りみたいなの期待してたんだけど!」
「お前らしくていいじゃないか。そのダサさがお前の唯一の取り柄だ」
「こいつ……!」俺はそう言いながら歯ぎしりしてるうちにもミミズは断末魔を上げながらどんどん燃え盛る炎に包まれていく。
「ま、金の問題は消えたな」カゲロウは俺の肩に乗っかっていった。
「だなー!これ上級クエストくらいあったんじゃねぇの!?あのお姉さんやっぱ普通じゃねぇじゃんか!」
「ミミズは中級モンスターだ。中級の中の下級。ただお前がビビり散らかしてただけだ。平均討伐時間は14.7秒。お前がかかった時間。癇癪も含め約1時間3分54秒。新記録樹立だ。おめでとう」
「お前焼き鳥にしてやろうか……!!!!!!」俺がまた癇癪を起しそうになってるうちに、ミミズはあっさり俺たちの前から消えて俺のダガーだけが残った。俺たちを囲んでいた炎もいつの間にか消えている。
「……こんの鳥め……!ほら!金貰いに行くぞ!」俺がそう言ってダガーを拾い上げようと瞬間――盛大に鼻から地面にぶっ去った。
「人間。転倒。再び。みっともないほど哀れだ」俺はうなだれた。
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