08: 初クエスト
「おい人間。朝だ。起きろ」俺はそんなカゲロウの声と頬に感じる針の差すような痛みと共に目が覚めた。
「……あれ……もう朝?」俺は起き上がって伸びをする。辺りには――やっぱり何にもない。だって昨日路地裏で寝たんだった。せりゃ何もないわけだ。
「家が恋しい……。で、お前は俺のマフラーから降りろ」
「無理だ。僕は疲れている」
「いやそれ俺も何だけど!?何の職業でもなくてしかも呪いスキルのせいでしかもしかもそんな奴が上位種のモンスターを肩に引っ提げて昨日門番にスパイ疑惑かけられてそんでそんで足筋肉痛のままたちっぱで尋問受けたばっかだかんな!?歩き方変で金も持ってない奴止めて当然だろうけど!?でもでも日付変わるまで尋問するっておかしいだろ!」
「うるさい。まだ朝だ。近所迷惑だろうが」カゲロウがバッサリと言った。
「うるせぇよ!第一昨日スパイ疑惑かけられたのも大体お前のせいだからな!?堂々と【この人間はスパイだ】って宣言しやがって……!」
「言葉の綾って奴だ。せっかく無職のお前に大層な肩書きをつけてやったんだからお前は僕に感謝すべきだ」
「そのせいで俺は今怒鳴り散らかしてるっつーの!」俺はカゲロウをデコピンで弾き飛ばして立ちあがった。
「王国についたから次の目的地は――」俺はマントを漁って地図を取り出そうとした瞬間……と思ったら手の甲に何かが触れた。引っ張り出してみると……俺の財布だった。
「……あ、金……ねーじゃん……」
「これが現実だ。あきらめろ」カゲロウは俺の肩に乗ってきながら言った。俺はカゲロウを睨みながらため息をついた。
「さて……これからどうするか?今のうちに墓掘っとくか――」俺がそう言いかけた瞬間、どこからか鐘の音がカーンと甲高くなり始めた。
「……これは……?」
「ギルドが営業開始したみたいだな」カゲロウは真顔で言った。
「……いや、また変なクエスト押し付けられるでしょ。今度は何?魔王の肩たたき?」
「安心しろ。ここは王国だ。お前みたいな田舎の街のように治安は悪くない」
「……じゃあ昨日のスパイ疑惑は……?」
「それは想定外の事故だ。気にすることはない」
「想定内だろうがこの元凶が!……どうせこのギルドも変なんだろうなぁ」俺はため息をつきながら金が鳴り響いている方へと足を向けた。
「ではこちら、アースウォームの生息地までの地図と、アースウォームの弱点などをまとめた表ですねー!あと、クエスト受理に当たってこちらの誓約書にサインをおねがいします」
「…………」俺は黙って誓約書にサインして受付嬢に手渡すと受付嬢はにっこりと笑って言った。
「確かに確認いたしました。では、お気をつけて行ってらっしゃいませ!」受付嬢は深々と頭を下げた。
「……はい」俺は黙ってギルドを出て――叫んだ。
「……めぇぇぇぇっちゃ普通なんですけどぉぉぉぉぉ!?いやなんで!?逆に怖ぇよ!?え、俺が間違ってるの!?ここ異世界じゃなかったの!?」
「うるさいぞ人間。さっきも言ったがまだ朝。近所迷惑だ」
「いや黙ってられるかぁぁぁぁ!俺がいた街のギルドとんでもなく恐ろしい場所だったぞ!?なに駆け出し冒険者に魔王城のトイレ掃除押し付けてんだ!?」カゲロウは翼を広げて浮き上がった。
「さらばだ人間。魔王城はなんか好かん」俺は飛び去ろうとするカゲロウの尻尾を掴んだ。
「お前が勝手についてきたんだろこのカラスめ!勝手についてくる以上俺はお前を逃がさんからな!?」
「魔王城に行くなら焼き鳥になったほうがマシだ。別にから揚げでもいい」
「いやそうゆうことじゃねぇんだよ!お前がついてくるって言った以上責任もてってんだ!」俺はカゲロウを無理やり肩に乗せて地図を見ながら歩き出した。
「……ってムリムリムリムリムリムリムリ!何あのキモい生物!ムリムリムリ!そんで地味に無理って10回言った!」
「11回だ」
「そんなもん知るか!そんでなんでお前は数えてたんだよ!」俺は唾をまき散らして怒鳴りながら前を見る。そこには――地面をのたうち回っている巨大なミミズ。
「ってか巨大なミミズって何!?普通に見るだけで吐き気がするんだけど!なにその「キモいを極めました!」見たいなモンスター!こんなもんならゴキブリのほうがまだいいんですけど!」俺は右肩の重みが急になくなったのに気づいてふと右を見ると――。
「ゴキブリのほうがマシって言ったろ?僕を見てれば解決だな」ゴキブリになったカゲロウが右肩でくるくると回り出した。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!やっぱむりぃぃぃぃ!」俺はミミズに突っ込む前にぞの場にぶっ倒れる謎の生物と化した。
「情けないな。人間」カゲロウは元の姿に戻って俺のマフラーの上にとまった。
「いやお前のせいだろ!誰だってゴキブリが肩にとまってたらそりゃ腰抜かすわ!」
「お前がゴキブリのほうがマシって言ったろ。僕はお前のために変身しただけだ。褒めろ」
「誰が褒めるかこのローストチキンが!」
「旨そうだなローストチキン。久しぶりに食べたくなってきた」俺はため息をついて立ちあがった。
「……さてと……ミミズの弱点……」俺はそう言いながら小さなメモを取り出した瞬間――横から強烈な風が吹き荒れメモは吹き飛ばされていった。
「あ!せっかくの弱点が!」俺はカゲロウを見た。
「お前鳥なんだから取って来いよ」
「嫌だ。せっかくの厚意を無下にされたからな。萎えた」
「厚意?どこにあった厚意!?もしかしてだけどさっきのゴキブリ!?」
「だから“厚意だったかもしれない未来”を否定されたことで萎えた」
「過去でも未来でも面倒くせぇなお前ぇぇぇ!――じゃあお前モグラになってあいつ食ってこい」
「嫌だ。あいつはまずい。味のしないガムとゴミ箱で見つけたパンの食べかすみたいな触感がする」
「食ったことあんのかい!」俺はため息をついてステータスを開いた。
「また課金かぁ……クッソ……こんな便利な便利屋が俺の肩にいるというのに……」
「落ち着け。ゴキブリ見たら落ち着くか?」
「……っざけんなよ!」俺はそう叫びながらも購入画面を開く。
「……ん?アップデート……」画面によくある水色のポップが表示された。
「……残金が画面に表示されるようになりました……へぇー便利になったもんなんだなー」俺はため息をつきながらバッテンを押すと――【残金:1273】という表示が目に入って俺は「うーん」という声にならないような鳴き声を上げた。
「人間。なんだこれは」
「いいかい鳥のお坊ちゃん。これは課金っていうね……説明すんのめんどくなった。これで金払ってなんか買ってうえーいってやんの!」
「なるほど、貧困の道理は奥が深いな」
「貧困って言うなぁぁぁ!!」俺はそう叫びながら【職業】と書かれたボタンを押す。
「アサシンアサシン……そーだった……こいつ2000くらいかかんじゃん」俺は右上をいじくって価格の安い順にする。
「プリースト978……ここで回復職買ってもなぁ」
「買ったところでお前はどうせ回復する前に死ぬだろうから無駄だな。買わないほうがいいぞ」
「言い方考えろぉぉぉぉ!」すると俺の頭の中で何かが弾けたような気がした。
「……まてよ……確かこいつの引き落としって……」俺の頭の中で画面の中に浮かび上がるポップが映画のように映し出された。
「……確か……夜だったよな!?」俺は画面をスクロールしまくって【アサシン】という文字を探し出す。
「あったアサシン!よっしゃかったるでー!大人買いやぁぁぁ!」俺はそう言って購入ボタンを押した。
「人間。そんなキャラだったか。そのエセ関西弁なんかムカつくからやめろ。それと、君の“大人”要素が金額にも人格にも見当たらないのがまた腹立つ」
「うるせぇぇぇ!!」俺はそう言いながら画面を閉じた。
「じゃ、お前はなんか適当に飛び回ってあのミミズの注意ひいといてー」
「嫌だ。あいつ性格悪いからな。前あいつのちょっかい出したら食われそうになった」
「それ普通ちゃうん?」
「あいつは草食だ。草食動物が鳥を食おうとしてるとこ見たことあるのか人間」
「……あ、そう……」俺はそう言いながらダガーを引き抜いた。カゲロウはため息をつきながら高速で上空に飛び立って――次の瞬間、俺の目の前にハヤブサが現れた。
「じゃ……突撃じゃぁぁぁ!」俺はそう言うなりマントを翻して全速で駆けて行った。
ここまで読んでくださってありがとうございました!
もし「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、下の評価ボタン、ブクマ、感想など、ぽちっと押してもらえるとすごく励みになります!(笑)
次の投稿は土曜日の午後五時にになります!お楽しみに!
【ここまで読んでくれた貴方へ】
実はもう1本連載中の異世界ラノベがあります!その名も、
『マイナス英雄 ー運ゲー異世界、俺だけ致命的にツイてなさすぎる件。』
幸運値がー43という何をしても上手くいかない男の冒険譚ももしよければぜひ!
▼ https://ncode.syosetu.com/n5345jz/