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07:王国へ

「あがが!あし!あし!きんにくつぅぅぅぅ!あでででで!しぬぅぅぅ!」俺は何もない草原のど真ん中で足を抑えてごろごろ転がりまくっていた。

 「……何をやっている。まるで羽根をもがれて焼き鳥にされる寸前のカモみたいだ」カゲロウはのたうち回る鼻の上に乗っかって俺を見下ろしている。


 「誰が今から串刺しにされる予定の生物だぁぁぁ!おれはモモ肉なんかじゃねぇぇ!」

 「いや……モモ肉ってよりネギだな」

 「うるせぇぇぇぇ!カゲリン少しは口を慎みやがれ!俺は今脚が――」カゲロウは無言で俺の頬に連続でつつきまくった。


 「いだいいだいいだい!わかったから!謝るから!――うそ……モモまで痛くなってきたんだがぁぁぁぁぁ!?」

 「因果応報だな」

 「……ヤロォ」俺はそう呟きながらごろーんと仰向けで横たわった。さっきまで明るかった空は今では闇に染まって夜空に浮かぶ星が少しだけ眩しい。カゲロウは鼻を降りて俺の顔をてくてく歩いてマフラーの上で丸くなった。


 「…てか、なんでお前、そんな当然のように俺の顔の上歩いてんだよ……でも……なんか、重くはねぇな」

 「お前が人間だからだ。前聞いたぞ?鳥は人間のペットだって」

 「いや……まぁそうか。で?ここから王国はどれくらいだ?」

 「徒歩で半日だ」

 「いやでも……」俺はちらっと自分の足を見た。


 「俺今動けないしなぁ……何か買おうにも金ねぇし……もういっそここで寝るか!そうだ!そうしよう!」俺はそう言って目をつむった。その瞬間――カゲロウが俺の顎を突っついた。

 「いてぇ!おま、何すんだよ!」

 「起きろ人間。無知な人間だから知らないと思うが、夜は――」俺の周りを無数の赤い点が囲んだ。

 「出現モンスターの数が二倍になる。ウルフみたいな奴がな」赤い点はその声にこたえるかのように低くうなるように遠吠えをあげた。


 「はぁぁぁぁ!?さっさと言えよ!」

 「言おうとした」俺は飛び起きようとしたが――またすぐに倒れこんだ。

 「いたいいたいいたーい!俺の足今死んでる!」ウルフは低く喉を鳴らしてこっちを威嚇してくる。

 「えっとえっと……あ!ウルフさーん!ここに焼き鳥の材料があるんでそれで勘弁してくださーい!ネギなんか食べても何の得じゃないですよ!!!」

 「残念だったな。ここでネギを食うと戦闘力が二倍になる」


 「ちょっと待って!?俺いまネギってバフアイテム扱いされてんの!?誰だよそんなチート実装したやつ!!」俺は何とかしようとダガーを引き抜いた――がなんかしっくりこない。

 「……え?なんで?」俺の頭で何かが弾けた。

 「……時間切れか……オワタ!」俺の生命線――アサシンは今になっては手には届かないとこにある。ほかのスキルやらを買おうとしても、もちろん財布はすっからかん。

 「……お願いだから!こいつ焼き鳥じゃなくて手羽先でも親子丼でも何でもできるから!」ウルフはものすごく大きな音で方向を上げた。俺は思わず目をつむった。すると突然――俺の目の前で大きな振動した。その振動は――さっきカゲロウと初めて会った時のような感じがした。


 「……え?」俺は恐る恐る目を開けると――そこにはさっき俺を殺そうとしてきた巨大な黒い鳥……カゲロウが俺を守るようにして立ちふさがっている。

 「……何をしている。撤退だ。さっさと乗れ」

 「え……いやでも……」カゲロウはしびれを切らしたかのようにくちばしで俺のマントをくわえて真上に放り投げてカゲロウの背中に乗せた。

 「ちょおま――うわっ!」


 「飛ばすぞ。捕まってろ。でも羽根を抜いたらお前を上空から落とす」カゲロウはそう言って上空に舞い上がった。

 「お、おまっ……今の“落とす”って冗談だよな?な?」

 「……さぁ、どうかな」俺は振り返ると――ウルフの群れがこちらを唖然としたアホ面で見つめていた。

 「見たかこの犬ども!うちの焼き鳥はつえぇぇんだぞ!」

 「黙れこのカモネギが」


 「やーだね!こんなん叫ばずにいられんだろうが!……ってか風冷たっ!これめっちゃ高くないっすかカゲロウさん!」

 「お前らが低すぎるだけだ」俺はカゲロウに抱き着いた。

 「……何をしている。お前鳥に恋する病にでもなったのか」

 「いや……なんかこーしてた方があったかいかなーって」カゲロウは豪快に1回転をした。

 「ちょっ……!おま、俺を殺す気か!落ちるとこだったぞ!」

 「悪い。抱き着いてたからそう簡単に落っこちはせんだろと思ってな。正直落ちてほしかった気持ちもあるが」


 「つかお前、鳥なんだからもうちょい“優雅に”飛べんのかよ!」

 「鳥はバレエを踊らん」俺は苦笑いをしながらふと下を見る。さっきまではアホ面集団以外は何にもなかった地上が今になっては馬車のランタンの光がぽつぽつと浮かんでいる。整備された道も心なしか増えてきた。まるで……遊びまくった遊園地の帰り際、そんな感じの雰囲気がなんかたまらない。

 「カゲロウ、これが王国か――」

 「喋るな。今集中している」カゲロウが俺の話を遮った。

 「あ、そう。なに?変身に集中力が必要!そんな感じ?」


 「大正解だ。お前のくせに冴えてるな。なぜか」カゲロウは大きく羽ばたいて地面へと降下を始めた。

 「ってか少しはお前のことも聞かせろよ。ヴァーサタイル?だっけ?」

 「あぁ。説明すると長くなるけどな」カゲロウは一瞬言葉を切った。

 「さっきも言ったが、僕たちは変幻自在の種族。……まぁ、便利そうに見えて色々あるんだよ。詳しくはまた今度な、ネギ」

 「おいだからネギ言うな!このフライドチキンめ!」


 「フライドチキン……唐揚げか。前食べる機会があったが……あれはなかなかうまかった」

 「え?お前共食いしたの?」

 「知ってるか?カラスは雑食だ」

 「……まぁそうか?」

 しばらくすると――あれだけ遠かった地面が今や目の前に迫ってきている。

 「……着陸するぞ」カゲロウはそう言うなりいきなりミサイルが着弾したばりの衝撃と共に地面に着地した。

 「いってぇぇぇぇぇぇ!俺今脚いたいの!鳥の脳みそってピーナッツくらいしかないんか!?」


 「豆腐の奴に言われたくない。間違えた。ネギ……いや七味だ」

 「おれついに固形から粉末にグレードダウンしたん!?」

 「柚子胡椒のほうがいいならそれでもいい。どっちでも結局旨いから僕は構わん」

 「俺が構うんですけど!?」いつの間にかカラスの姿に戻ったカゲロウが俺の肩に乗っかってきた。

 「ほら七味。振り返ってみてみろ」俺は振り返る。そこには――夜空に浮かぶ金色の装飾のでっかい門が。門の隙間からは黄色くて少し白い光が漏れ、門の向こうからは何とも言えないようなにぎやかさが感じられてきた。


 「ここが――王国!!!いやっほーい!」俺は一歩踏み出そうとしたが――またすぐに倒れた。

 「……なぁ。牛になってくれよ。俺がお前に乗っかって移動するから」

 「却下だ。だれがそんな生姜焼きの素になるか」

 「生姜焼きは豚や!」

 「ま、旨ければそれでいい。さっさと歩け」俺はため息をついてヒィヒィ言いながら震える脚で一歩踏み出した。

ここまで読んでくださってありがとうございました!

もし「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、下の評価ボタン、ブクマ、感想など、ぽちっと押してもらえるとすごく励みになります!(笑)

次の投稿は土曜日の午後五時にになります!お楽しみに!


【ここまで読んでくれた貴方へ】

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