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9 女王拉致計画(1)



国土侵略戦争の報は世界を瞬時に駆け巡った―



どの国もその対策に喧々囂々(けんけんごうごう)となった。


この冬の国も例外ではない、幾日も女王と内政に携わる者、武力を司る者、数多の意見が飛び交い、紛糾した。


それはもっぱら侵略に関する事よりも、また別の議題であった。


ついに女王が、眷属を一人選ぶ事を宣言したからである。


既に対象は二名に絞られていた。

宰相か、将軍か、どちらも女王の最側近である。


宰相につく者は、これを推し、将軍につく者は武力の重要性を説く。

ただ当の本人はどちらも頑なに口を閉ざし、瞬きもせずただ静かに腕を組んでいる。

ならばいっそ二人を眷属にすればよいのでは、という案は、女王が即座に却下した。


眷属とは女王の伴侶である。

自国の防衛のためでなければ、女王は眷属というものを認める事は決して無かった。

そのような者は必要なかった。



では、これまでのように女王一人の権威で存続できるのではないか、一人がそう進言した。


だが、世界は戦争へと足を踏み入れた。

他でもない、神のごとき創造主の言葉なのだ。

この世界の誰一人として抗う事は出来ない。


春と夏が手を組む事は考えるまでもない。

秋は静観しているがいつ手の平を返すか。

よしんばまずこちらから夏の国へ討ってでるとする。

その背後を必ず春か秋が突いてくるだろう。

ならば自国のとる道は、守りしかない。それも武力がなければ解決できないのは明らかである。


議会の空気が、冬将軍に決まりかけていた。


だがそんな時、宰相が理路整然と女王の絶大な権能を説き始める。

そうするとやはり内政派の意見が強くなり、会議は平行線へと辿っていく。


白熱する論争の間でも、玉座の女王はただ静かに、身じろぎもせず耳を傾けていた。


決着のつかないまま、時は過ぎ去っていく。


そうして数度目の議会が開かれた時、一つの契機が訪れた。



「報告!!北東の海岸より船影を確認!夏の国の船団です!」


一同は同時に目を見開いた。それよりもさらに素早く将軍が退出する。


ざわめく議会に、人知れず宰相は口元を歪め、歯ぎしりをした。

こうなってはもはや、決まったも同然だ、と。


荒れ狂う冬の海の波と、冬将軍の率いる兵力をもってすれば、いかな数隻の戦艦であろうとも、ものの数ではない。

それは無残にも一つ残らず、凍てつく海中へと没した。

意気揚々と武勲と勝利を誇る兵達の中で、将軍はその鋭い眼光を海を漂う瓦礫に向ける。


奇妙な違和感があった。


戦艦はそれなりの威力はあったが、あまりにも敵兵の姿が少ない。

まるで船そのものがデコイであるかのように―


素早く兵に指示をする。

まずこの近辺をくまなく捜索する事、それから数人の部下をこの海岸沿いの見張りに立たせた。


そして城へ帰還した将軍を待っていたのは、歓喜の民の出迎えと女王の眷属の座である。



ついに冬将軍が、氷の女王の伴侶となる時がきたのだ。





音もなく、暗い夜の冬の海を泳ぐ者がいる。

すべるように岸へとあがり、素早く近場の岩へ身を潜める。

随所に設けられた防護の為の塔からは、見張りについた兵士の姿が火に照らされ、闇の中でもちらちらと見え隠れしている。

ふたたびその場から静かに気配を押し殺しながら、見張りの目の届かない隠れるにはうってつけの小さな洞穴へ身を潜めた。


「うう~っ、さっむ!」


ぶるぶると震えながら人影が軽く指を鳴らす。その瞬間、炎がわき上がる。

濡れそぼった髪、衣服、冷たく凍り付き始めたそれらが瞬時にして乾いた。

ふっ、と息を漏らす。


「まさか女王自ら乗り込んでくるとは、思ってもいないだろうなあ」


短く刈りあげられた黒い癖毛の髪、日焼けた浅黒い肌、頭上の王冠にはめ込まれた真紅の宝石が鈍くきらめき、その燃え盛る炎よりも赤い情熱をたたえた双眸、呼吸もままならない程の冷気をものともせずその頑健な体躯にはちろちろと真紅の炎がまとわりついている。



「さぁ~って…」


鍛え抜かれた長い手足を思う存分伸ばしながら、身に着けた黒の艶めく皮コートの襟を正し、白い歯を輝かせながら口角を上げた。




「今から会いに行くぜ、俺の可愛い白ウサギちゃん」


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