表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/74

67 レイト嬢の来訪(1)



「こここのたびはっ、おおおっおまねき頂きっ感謝いたしますっ」


がちがちに固まり震えながらアリーシアの前で一人の少女が挨拶した。


その姿はかつて晩餐会の折、壁際で交遊を深めたレイト嬢である。


あのまま何も言わず別れてしまった事が気にかかり、アリーシアはレイムナートに頼んでレイト嬢を招いたのだった。その時若干侯爵の顔が曇ったような気もしたが、初めて交遊関係に至ったアリーシアにとっては、今回彼女を招待できたことがとても嬉しかった。



侯爵邸の中では彼女が緊張するかもしれないと思い、庭園の東屋のほうでまずはお茶で寛いでもらおうと、アリーシアはレイトを招いた。


メイド三人にもお願いして、あとは二人きりにしてもらうとレイトはようやく緊張を解いて、頬を染めながらアリーシアに微笑んだ。


「アリーシア様にまたお会いできるなんて、夢のようです…っ」


きらきらとその黒ぶちの眼鏡の奥から瞳を輝かせている。


こんなにまっすぐに好意を示してくれる同世代の女性はアリーシアにとって初めてなので、面はゆいと同時に心から感謝した。


「私こそ、あの後なにもお伝えできなくて申し訳ない」


それにぶんぶんと首を振って、レイトは答える。


「いいえ!アリーシア様がとても幸せでいらっしゃるのがわかって私、とっても嬉しいです!」


顔を見合わせて、ふんわりと微笑みあった。


アリーシアにとってレイト嬢は初めての友人である。どうしても相談したい事があった。


「…その、私はレイト嬢に聞きたい事があって…」


らしくなく、もじもじと指先をアリーシアはこすり合わせる。


神妙な顔つきでレイトは居住まいを正した。


「その…男性に…好き、と言われたらどう返すのが正しいのだろうか…」


んぐっ、と目の前のレイトの口元からおかしな音が漏れた。


「ま…毎晩、唇を重ね合わせたりするのは…男女として普通?なのだろうか」


ごふごふうっ、とレイトが盛大に前のめりでむせ始めた。


慌ててアリーシアはお茶の入ったティーカップを渡す。


レイトは眼鏡をなおしながら震える手でカップから一口飲んだ。そして呼吸を整える。頬は真っ赤だった。


「……アリーシア様は、侯…ゴホンッその方の事をどう思われてるのですか?」


再び神妙な顔つきで、眼鏡を指で支えながら聞き返した。眼鏡がきらりと光る。


「…私…私は…」


アリーシアの脳裏に、ここ数日の夜の事が思い起こされた。


レイムナートが冬の国に住んでいたころの話を、あれから少しずつ眠る前に話してくれるようになった。それがアリーシアにとって、とても新鮮で、嬉しくて、今ままで感じた事のない喜びにあふれた時間となった。


気が付くと自分が彼の手を握っていた。そうするととても心が落ち着いた。そう思っていると、いつのまにか唇が彼に塞がれてしまっていた。思っていたよりも、それはずっと心地よかった、冷たい吐息はあの石と同じ安らかさをもたらしてくれた。しかし同時に胸の鼓動が強く鳴り響いた。ぴったりと密着する彼の胸を感じると身体の奥がざわめくような衝動がある。


そうしていつのまにか寝てしまっていたのか、朝になると隣でレイムナートが寝ている事に気づいた。その寝顔は無防備で、アリーシアは自分がまだ夢を見ているのかと勘違いするほどだった。


その後、毎晩レイムナートはアリーシアの部屋へ訪れた。


それもだんだん遠慮なく、大胆さを増して。


昨晩などは、また昔語りをしてくれたがその合間にやたらと唇を寄せてきて頬や額はともかく、首筋や胸元にまで及んできて、さすがにくすぐったいとアリーシアは抗議したがそうすると今までに見たこともないような笑顔で手の平であちこちとくすぐってくる。身をよじると、男の吐息が深くなるのがわかった。そうしてまた唇を深く塞がれて、貪られていく。アリーシアにとって、それは婚約した男女の間では当然の事なのかまるでわからなかった。今までだれともつきあった事なんてなかったのだから。


少しずつ目の前で赤くなっていくアリーシアをじっとりとレイトは観察し、眼鏡をきらりと光らせた。


「アリーシア様はそれで嫌だ、と思われなかったのですね?」


「う、うん…そうは思わなかった」


むしろ気持ちがよかった。とは言えない。


「普通です、それは愛し合う男女として、至極、当然のことなのです!」


ドン、と効果音が鳴り響くようにレイトは力強く断言した。


「あ、あいしあう…」


アリーシアは戸惑った。自分が彼の事をどう思っているのかなんて今まで気づいたことも理解したこともなかったのに。


「…わ、私は…彼の事を…」


(す、好きなのか…)


ようやく気付いて、アリーシアの顔面が真っ赤に染まった。


うん、うん…とレイトが悟ったように微笑みながら頷き続けた。


(そうか…そうだったのか…)


アリーシアの心は解き放たれたように自由になった。


瞳は青く、紫にまたたき、頬も唇も、薔薇色に色づいている。


そしてとても美しい、微笑みがそこにあった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ