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53 覚醒(2)

苛立ちをそろそろ抑えきれなくなってきたリナーチェにマルクがドレスをプレゼントすると言うのでそれなら、と機嫌をなおしてついていく。


そこは国では2番手の服飾店であった。


店の者はマルクの来訪で頭が膝につかんばかりの応対でもみ手にへりくだった笑顔で接客を始める。


1番手のお店かと思っていたリナーチェのテンションはだださがった。


何でも選んでいいぜ、とマルクのドヤ顔にリナーチェではなく店員が張り切って勧めはじめる。


どれもパッとしないドレスばかりであった。


アリーシアの身に着けたドレスを見てからは2番手の店でもそこそこ品は良いはずなのに全てが安っぽく見えてとても身に着けられそうになかった。


毛皮に至ってはもっともこの店で最高の値段を付けられていたものだが、アリーシアの金色の毛皮と比べればまるでみすぼらしいものである。


仕方がないので、この店でもっとも高値を付けられている若草色のドレスを選んだ。

するとマルクは


「君にこれは地味すぎるよ」


と眉をひそめて訳知り顔で隣のそれよりは値の安い黄色のドレスを勧めてくる。


それがあのケチだった父親の顔にそっくりでリナーチェは内心吐き気を催したが張り付いた笑顔でそれに同意した。マルクはまるで我儘な婚約者に振り回されているがごとく振る舞い、リナーチェの笑顔で努める精神を削り取っていった。



そろそろ帰りたいことを遠回しに伝えるリナーチェを健気に自分を気遣っていると勘違いしたマルクに手をひかれ今度はボートへ乗ろうと誘ってくる。恋人同士が二人きりでボートに乗る行為は、いうなれば少し進んだスキンシップが可能であるという双方の暗黙の了解がある。


そこで完全にリナーチェの忍耐はきれた。


「いやよ、乗るならあんた一人で乗ればいいじゃない」


冷たくよそよそしい言葉を残して、リナーチェは踵を返し馬車を呼ぼうと通りの方へ歩いて行った。


今まで見たこともないリナーチェの態度にマルクははっ、と気づいた。


(父親が死んでまだショックを受けてるんだな…俺が慰めてあげないと)


急いであとを追ってその手を掴む。いい加減にして、とリナーチェはその手を振り払う。


そうしてもみ合い言い争っている所に、ふとリナーチェはこの人気のない公園の木の陰に黒いローブを被ったどう見ても胡乱な雰囲気を醸し出す人物に気づいた。


その黒いローブを被った人物は、ずんずんとこちらに向かってきている。


ここにはマルクと自分しかいない。


昼間だというのに、湖をたたえたこの公園には他に誰一人見当たらなかった。


リナーチェはその向かってくる男に、不穏なものを感じ後ずさりした。


怯えるその姿を見てマルクは彼女が反省したものだと思いさらに抱きしめようとする。


「きゃあああああ!!」



その時、リナーチェが鋭い悲鳴をあげた。


マルクは驚き、その視線が自分ではなくその背後であることにようやく気づいた。


そして振り返ると、そこには剣を抜き鋭い切っ先を鈍く光らせながらこちらに走り迫ってくる黒いローブの男の姿があった。


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