33 お茶会(1)
「お姉さまああ~早くして~っ」
馬車の中からリナーチェが顔を出し急かすように甘ったるい声を上げる。
その身にまとうドレスは、普段よりもなお豪華で髪色とおなじ薄紅色の淡いレースをふんだんに使い宝石をはめ込んだ花飾りを髪にちりばめふんわりと風をはらみ、その愛らしさがより一層際立っている。
「リナーチェ」
馬車の方へ向かって歩いてくるアリーシアの声がする。
にっこりと満足げにリナーチェが目を向けた時その眼は見開かれ、まなじりがぴくりと痙攣した。
可憐な微笑みが一瞬にして歪む。
アリーシアのいでたちは、いつもの薄汚れた灰色のそれではなかった。
そのドレスは蒼穹色から裾にそって青く深い色で、ふんだんに金糸が縫いつけてあり動くたびに美しくきらめく。ほっそりとしなやかなアリーシアの姿をいっそう優美に見せるシルエットは肩の部分は薄い水色のレースで覆われて、それは着る者をより清楚にみせた。
白い髪はドレスで青く紫がかった輝きを放ち、三つ編みにした髪の所々にさまざまな色に輝く真珠をあしらっている。それは夏の国のみでしか取れない非常に稀少なものであった。
硬直するリナーチェの前に、静かにアリーシアは腰を降ろす。
我に返った妹の鋭い視線は、馬車を見送る為に控えていた痩せぎすのメイド長へそそがれた。
しかし、メイド長は俯き顔は青ざめ震えているようである。
そのまま馬車は走り出し、しばらく無言のまま時は過ぎ去った。
目の前の妹の顔は不機嫌極まりない顔で、頬づえをつきながらこちらを見ようともしない。
アリーシアもまたそれとは逆方向の流れる景色を無言で見やる。
頭の中は、これまで起きた事の反芻であった。
切り裂かれたドレスを眺めながらぼんやりと座り込んだ昨日の夜から、朝起きて洗濯のため川岸に行った事、もしかしたらという期待に反して、結局彼はそこにはいなかった。
が、その傍らの茂みが白く凍っている事に気づいた。
朝の霜が降りたのだろうか。
そっと触れるとまるでそれは氷の薄い板のようにパラパラと砕け散る。
そしてそこに隠されたかのように、エンド侯爵から贈られたあのドレスが入っていた箱と同じものがそこにあった。
開けてみるとふたたび「アリーシア嬢へ」と一言のみ添えられた白いカードがある。
中のドレスは、以前贈られたそれよりもずっと美しく素晴らしいものであった。
そうすると、あの白銀の騎士はエンド侯爵の縁の者であるということも考えられる。
討伐を生業とするのなら、傭兵がいてもおかしくはない。
もしも、私が侯爵の元へ行くことになるのならそれは彼とまた会える可能性も高くなるという事なのかもしれない。
アリーシアは静かに胸をおさえ、わずかに目を細めた。




