014 エピローグ
「いやぁ、スッキリしましたね~、お嬢様」
いつの間にかまたお嬢様呼びに戻っているマリアを、私は見上げた。
男爵家の執務室は、今まで以上に小綺麗になっており、先日入れ替えしたばかりの家具たちから木の香りが漂っている。
いや、いいわね。
自分だけにお金をかけられるって。
中古とはいえ、やっと手に入れた自分だけの屋敷だし。
「そうね。この屋敷も、人間関係も一掃出来て良かったわ」
「でもやっとご自由になれたというのに、まだ仕事をなさるんですか?」
マリアの休憩しろと言わんばかりの視線が突き刺さる。
「そうは言ってもねぇ。だってお父様たちも追い出してしまったし、仕事をするのは私しかいないじゃない」
「そういう時に、有能な秘書が必要なんですよ~」
「ああ、それは言えてるわね。平民でも貴族でもなんでもいいから、仕事が出来る人が欲しいわ」
元々父はこういった仕事をある程度、私に押し付けていた。
でも父がいなくなってしまった分と、自分の分の仕事が重なってしまって量が二倍になってしまったのだ。
このまま一人でこなすのは確かに無理があるのよね。
ん-。だけど、これっていう適任者もいないし。
「そんな時は、やっぱり出会いを求めて夜会に出るとか、町に出るとかなさらないと~」
「えええ。どうしてそうなるのよ」
「だって引きこもっていたら、いい人なんて見つけられませんよ?」
「それはそうかもしれないけど……」
マリアの言ってることの意味は分かるけど、いくら白い結婚だったとはいえ、離婚したばっかりで出歩くっていいのかしら。
周りに変な目で見られる気がするし。
今の私の周りに集まってくるような人なんて、碌なヤツがいないと思うんだけど。
「でも変な人が寄ってきても嫌だし……」
「そこはお嬢様が選べばいいんですよ。せっかくご自身で全てのことを選べるようになったんじゃないですか~」
「……」
そうね。
それは、そう。
今まで何一つ選ぶにしたって、あの人の顔色を窺うことしかできなかったものね。
だけど今はどこまでも自由なんだ。
変な人が来たら自分から断ればいい。
自分で自分がいいと思う人を選べばいいんだ。
「良くないモノを切った後っていうのは、良い縁に恵まれるとも言いますし。ね? 出かけましょう、お嬢様」
「もー。そうね。たまにはいいかもしれないわね。気分転換しましょうか」
「ですです!」
ノリノリなマリアを見ていると、こちらまで楽しくなってくる。
厄介ごとがないってだけで、こんなにも人生が明るく楽しくなるものなのね。
本当に捨ててしまって良かったわ。
「でもマリアンヌ様は大丈夫ですかね~?」
出かける用意をしつつ、私は白い帽子に手をかけ立ち止まった。
マリアンヌは当初の予定通り、ダミアンを連れて出て行った。
こっそりその荷物の中にお金を入れておいてあげたけど、彼女はいつそれに気づくかしら。
不幸な状況であるはずなのに、どこまでもマリアンヌは幸せそうな顔をしていた。
これこそが彼女の望んだ未来だから。
「彼女の望む未来で生活して、嫌になったらちゃんと捨てるんじゃないかな、マリアンヌも」
「捨てるって」
「だってそうじゃない? 私ならあんな元夫など不要だもの」
「あー、まぁ、そうですね。確かにいらないですね~」
「ダメになったら、マリアンヌもココにでも戻ってくればいいのよ。それこそ彼女を縛るものはもうないんだから」
「ああ、それもいいですね~。みんなでお仕事も悪くないです」
「でも本当に女ばっかりになってしまうわね」
「それならほら、お嬢様が新しい旦那様を見つけてきて下されば問題ないですよ」
「結局そこに戻るのね」
「もちろんです!」
思えば浮気相手とその妻なんて、相容れぬ存在だったはずなのに。
気づけば誰よりも、マリアンヌとは他愛のない会話が出来るようになっていた。
だから次に会った時は、ちゃんと普通の関係を築けそうな気がする。
お互いに大切なモノを手に入れたのだから。
その後、私が捨てた人たちがどうなったかなど知らない。
大切な物だけが残った。
ただ、それだけで私は十分幸せだった。
「さぁ行きましょう、お嬢様。もたもたしてると日が暮れちゃいますよ~」
「はいはい。今行くわ、マリア」
私は執務室を出る前に、もう一度振り返った。
大切なモノは全てココにある。
そんな幸せを噛みしめて。
最後までお読みいただきまして、大変ありがとうございました。
他にも長編や短編などたくさん書いてあります。
もしよろしければ、そちらもよろしくお願いいたします。
なお、ダイエットは明日から。転生白豚令嬢は愛する夫との初夜希望です!
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