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離婚って、こちらからも出来るって知ってました?  作者: 美杉。(美杉日和。)6/27節約令嬢発売中


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013 形勢逆転

「離婚したのか! まったくお前と言うやつは。だが白い結婚となれば、他の貴族を捕まえればいいからな。まぁ、いいだろう」


 言葉とは裏腹に、実家の入り口にて出迎えた父は満足げに(ひげ)を撫でた。

 私とダミアンが離婚したことを、早いうちに報告していたのだ。


 父の中では今頃、私の次の夫をどうしようか。

 私にまだ利用価値が残っていた。

 そんなことを考えながら、ほくそ笑んでいるに違いない。


 ほんの少し……。

 一瞬くらい、父が何か私を思って言葉をかけてくれるのではないか。

 そんなことを思った自分を消し去りたいほど、安定にクズな人ね。


 私があの家で、三年も放置された挙句に離婚したというのに。

 心配する素振りすらない。

 でもだからこそ、こっちも心置きなくやり返すことが出来るのだけど。


「次の結婚相手など心配いただかなくとも、私が自分で決めますので大丈夫です、お父様」

「お前にそんな権限などあるわけないだろう」


「もう大人ですので、いちいちあなたの指示を得なくても問題ありません」

「はっ。少し離れただけで、ずいぶん大きく出るようになったものだな」


 私が言い返すなど思っていなかった父は、額に青筋を浮かべる。

 でもそんなことで、私もひるむことなどない。


「離れただけではないですよ、お父様。だいたいあなたは平民で、私は貴族ですし」

「何を偉そうに! おれがお前を貴族にしてやったのだろう!」


「そうですね。あなたの手に、乗って()()()だけですけど?」

「なんだと!」


「まだ分からないのですか?」

「何がだ!」

「あなたは私をコマとして使って、ご自分のいいようになさったつもりかもしれませんが、実際はその逆なのですよ?」


 そう、逆。

 私が父の計画を全て乗っ取ったのだから。


 父に売られ、コマとして最後まで使い捨てられると考えた時、全部やり返してやろうって生まれて初めて思った。


 私のことを大事になどしてくれない他人(ひと)のためになんて、もう生きるのは止めようって。


 だから父の計画に乗るフリをして、こっちの都合のいいように全て書き換えていった。

 おかげで三年もかかってしまったけど、この先を考えたら決して無駄な時間ではなかったと思う。


「ど、どういう意味だ……」

「まずは爵位。これは便利ですね。成り上がりだろうが、なんだろうが身分は身分です。これがあるだけで、従ってくれる人間は多い」

「だからそれがなんだと言うんだ!」


 焦りからか、父の額には汗が浮かぶ。

 父のこんな顔など初めて見た。

 そしてそう思っているのは、私だけではないはず。

 奥に控える使用人たちだってそうだ。


「お父様が私に商会を下さったお陰で、私の地位は本当に確固たるものとなりましたのよ」

「あ、あれは! 一時的に名義をお前にすることで貴族の店とするだけで……」

「譲渡契約書もありますし、商会の他のメンバーや取引先も、もうお父様は必要ないとのことですわ」


「馬鹿な! そんなこと認められるわけないだろう!」

「でも、いつもお父様がなさっていたことですよね?」

「それは……」

「あなたの下で私は、本当によく学ばせていただきましたわ。その点だけは、感謝しています」


 確かに初めの契約書には、期間が設けられていた。

 そして私の子どもが生まれたら、その一人に商会を継がせつつも、自分が最高決定権をそのまま維持することも。


 だけど文書なんていうものは、地位と金さえあればいくらでも偽装が出来る。

 そう、かつて父がよく使っていた手だ。


 だからこそ、今回の譲渡の部分から下を全部書き換えて、ただ普通に譲渡しただけの書類にしてしまった。


 そして商会にも父の周りにも、誰一人としてこの件に反対する者などいなかった。

 この人徳のなさ。


 いくら力や商才があったって、所詮周りは敵だらけだったということ。


 同業者でさえ、経営者が父ではなく私になるならば、まだ勝ち目があると思ったのか二つ返事で協力してくれた。

 でもね……。私はどこまでいっても、この腹黒い男の娘でしかないのだけどね。


 でもいいわ。

 この人から全て奪えるのならば、どんな風に思われたって苦ではない。

 今度は私が捨てる番だもの。


「お父様はコマとなるような人間ではなかったですものね。だからもう、必要ありませんわ」

「アンリエッタぁぁぁぁぁ!」


 逆上し突進してくる父をかわすと、声を聞きつけた護衛たちが門から入ってきた。

 そしてそのまま激高する父を、羽交い絞めにする。


「お怪我はありませんか、男爵夫人」

「ええ、問題ないわ。どうも父が、我がダントレット商会のお金を横領していたようなの」

「それは……」


「今までは身内だからと目をつぶっていたのだけれど、さすがにもう……」

「確かに」

「しっかりと調べてもらうように、役所につき出してちょうだい」

「もちろんです!」


 ここに来る前に、役所の人間にもたっぷりお金を掴ませてある。

 ある意味茶番だけど、これで父はもう一生牢から出てくることはないだろう。


 しかも今までたくさんの恨みを買ってきてるから、せいぜいあの中で長生きできればいいけど。


「アンリエッタ、お前は!! 離せ離せ離せぇぇぇ!」


 父の叫び声など誰も気にする者はいなかった。


「さようならお父様。もう二度とお会いできなくて残念ですわ」


 私はそう言いながらも、自然と笑みがこぼれていた。 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] そして私の子どもが生まれたら、そのうち一人を父の養子とし、その子に店を継がせることも。 [一言] それ何の意味がある?わざわざ平民の子供にしてしまうだけじゃないのかなあ
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