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錬金術で進める国作り  作者: 黄昏人
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シマズ家でのマサキの定着、忙しくなる日常

読んで頂いてありがとうございます。

 マサキは、シマズ家に仕え始めて2年が経って12歳になったが、この世界では12歳で一応の中大人と呼ばれて、生産年齢に達したと見られている。そのため、彼はそれまで保留されていた、家内の役職である“生産技術研究所所長”に正式についた。


 とは言え、この役職は本人が望んで作った役職であり、実質的にはすで様々な製品の試作、初期の製品の生産をするための建物、設備、スタッフもすでに揃っており、実際に大きな成果を挙げていた。“研究所”の建物は現状で、全て合わせると2000㎡を超え、スタッフは300人余りになっている。


 この研究所は、ワ国以外の様々なところからも様々な高価な物を買い付け、場合によっては人を引っ張ってくるなどシマズ家の財政にとっても費やす費用は馬鹿にならない。とは言え、ワ国において、鉄砲を揃えることのみを取ってみても、現在ワ国では各領主は必死に集めているが、すでにマサキのお陰でそれは終わっているシマズ家にとってみれば、そのための巨額の費用に比べれば安いものである。


 この鉄砲フィーバーは、“南ワ国南部5日間騒乱”と後に呼ばれた戦いにおいて、シマズ家が銃を使ってその一方的な勝ちを収めたことから始まっている。しかし、この世界で出回り始めている鉄砲は、黒色火薬を使った火縄銃であって、シマズのすでに使っている小銃とは10世代ほど遅れたものだ。


 そして、その小銃が“研究所”の産物であり、さらにはそうした軍備のみならず、様々な研究所が送りだした文物がシマズ領の現在進んでいる画期的な産業革命に結びついているのだから、アマオウ、カジオウのみならず領の上層部は研究所の費えに基本的にはケチはつけられる訳がない。


 研究所はその秘匿性から、その敷地の300m四方を2mのコンクリートブロックの上に有刺鉄線を巻き付けた2mの鉄格子のある4mもの高い塀で囲まれている。さらに、3人の銃を持った警備兵が詰めている厳重な正門のみしか出入りできない厳重な守りがされている。その上、中には防衛のために兵30人が常時駐在しているが、マサキはその中に住んでいる。


 シマズ家はその命運を賭けた戦いに大勝ちしたが、それにマサキが大いに貢献したことは、家内の誰の目にも明らかであった。ということは、ワ国において、俄かに注目を集めることになったシマズ家で、その君主や嫡男に次いで注目される存在になったことになる。


 マサキも、武芸が出来ないわけではないが興味は薄く、カジオウなどに比べると大幅にその腕前は劣る。だから、暗殺者、誘拐者にとっては容易な的であるため、シマズ家にとってまさに宝である彼を万全の態勢で守ろうとするのは当然である。このことから、マサキが出歩く際には最低5人の護衛がついており、アマオウ、カジオウと変わらない。


 マサキはシマズ家に仕えた当初は、他のカジオウの同僚と一緒に、シマズ城の中の長屋に部屋を与えられて住んでいた。当初は、様々な開発を城の中でやっていたが、すぐに手狭になったために、城から1㎞ほど離れた丘を切り開いて塀で囲って小屋を建てて現在の研究所の原型を作った。


 それもだんだん規模が大きくなっていき、狙撃銃などが開発されて重要性が判ってくると、厳重な警護を行う今の研究所の構想が固まって塀の建設にかかったのだ。

 マサキにとっては城の中の生活は窮屈だった。彼にとっては、それなりの礼儀を要求される上に、着ることが要求されるワ国の標準的な服装である袴と合わせの組みあわせ(和服)に草鞋や草履は不自由なものであった。


 彼は、実家では自分用として、ズボンと頭からかぶるシャツを作って着ていた。それらは、ファスナーは実用化していないので前開きではないが、彼が日本で普通着ていたジャージのようなものであった。だが、これは人から見るとだらしなく見えるらしく、城ではなかなか着ることができず、それも彼の居心地の悪さを助長した。


 とは言え、ズボンとシャツ、さらに皮靴や布靴は見ていて使い心地が判るようで、真似をして使う者もいて、ポケットの多いスボンや靴は戦場では使い勝手が良いので、シマズ軍では正式に使われるようになっている


 マサキがもう一つ大いに不満であったのは食事である。この時代のワ国の食事は、日本の過去と同様に基本的に主食がコメと、副食は生野菜、漬物に野菜や魚や獣の肉を使った汁か煮物である。味噌、醤油はあるのでみそ汁はあり、醤油は煮物の味付けや焼き魚や漬物の味付け使われているが、あまり美味くないというか、味に馴染めない。


 だから、実家のオリタ家では、料理人を仕込んで前世で知っていた様々な料理を作らせていた。それにはマサキも概ね満足していたが、オリタ家でも大いに喜んでいて、領全体に広まっている。それは、ろ過などによる醤油の味の改善、山から見つけたコショウを始めとして様々な調味料の導入から始まった。


 さらには、大豆や菜種の栽培によって食用油を増産して、揚げ物や炒め物の開発、刺身の導入などを行って食生活が大いに豊かになっていたのだ。それがシマズの城にいくと、突然よそ者が若君の庇護をいいことに好き勝手をしているとして、様々な小さな意地悪の一環で台所に入ることもできない。


 そこで、彼は建設中の研究所に本格的な台所を作った。ちなみにマサキの感覚では、台所において重要なのは給水栓とコンロ、冷蔵庫である。給水は、すでに井戸ポンプは開発して実用化しているので問題ない。

 ポンプの構造は簡単なもので、冶金の技術があればその構造を知ってさえいれば製作は容易であるので、マサキにとっては簡単にできたものの一つである。問題は、ポンプを機能させるために必要な回転の仕掛けである。無論魔力で回転させることは出来るので、最初は魔力の高い者が魔力を使って稼働させていた。


 しかし、それでは不便なので、何とか電力を生み出すためにマサキは、結局火力を使った発電を行うことになった。当初は魔法のあるこの世界で魔法によって電力を起こせないかと考えてみた。

 結局この世界の魔法は物理の法則に従う。魔力も、結局マナが物質に働きかける一種の物理現象として作用すると考えれば理屈が通る。電気も化学的な反応の中で起きる。電池はその一つであるし、電圧の勾配によって電子が物質の中を流れる現象もその一つとして言えるだろう。


 だから、魔力を使って電気を起こすことはできるが、人が魔力を発している間だけのことで、それを止めれば電気も基本的に切れる。とは言え、電池に魔力で化学反応を起こして電池の充電をすることは可能であるので、今シマズで使っている電池の充電は人が魔法を使って行っているものもある。

 現状でマサキが作った化学的な電池は、それほどの出力は得られないので、ポンプ動かすようなことに使うのは効率が悪い。


 最初は構造が簡単なので水力発電を考えたが、残念ながら小さいオリタ領に適地はないため、火力に落ち着いた。ただ、火力発電はエンジンを回すか、または大規模なものはボイラーで蒸気を発生させて、その蒸気圧でタービンを回して磁石の間で回転子を回転させて発生する誘導電流を得る。


 それを実現するには、ボイラーの開発、磁石の製造、回転子の精度などそれなりにハードルが高い。そこで、誘導発電機を挟まないで、魔法を使って熱を電力に変換できないか考えてみた。つまり、何らかの作用を起こすためには何らかのエネルギーが必要であり、魔力もそのエネルギーの一つである。


 だから、熱というエネルギーを直接電力に変える方法もあるのでは、ということだ。魔法は物質に作用して、その構造を変化させる(いじる)ことができる。だから、魔法によって、熱っすることで電力を生み出す物質あるいは仕掛けを作ることが出来ないかということだ。


 まず1mの長さの銅の棒を炉で熱して、それに様々に魔力を作用させてみた。棒の先は塩水に漬けて自由に電気が逃げるようになっている。マサキは錬金術を使うために鑑定の魔法が使えるが、この世界で錬物術と言われる魔法を使える人物は、例外なく物質を鑑定する能力を持っている。


 そうでないと、物の性質と形を思ったように変化させることなど出来はしない。マサキは日本で長く学んだために、地球の科学の成果である物理・化学・冶金などの深い知識がある。だから、電気というのは電導体のなかを電子が移動する現象であることを知っているので、電気の流れを知覚できる。


 かくして彼はどのように魔力を作用させれば、電子が効率よく流れるか、つまり最大の電力を生み出すかを見出した。そしてその電子を作り出すのは熱であるために、媒体となった銅の性質は変化しないのだ。但し問題はマサキが魔力を供給し続けるのでは意味がなく、この作用が魔力を注ぐことなく継続する必要がある。


 この世界の錬物術師には、物にある記号を刻むことで一定の性質を持たせることが出来る者がいる。オリタ家に10人ほど雇われていた、錬物術師の長である中年のキゾラがその刻印の力を持っていて、マサキに教えてくれた。だが、すぐにマサキが自分の技量をしのいだと言ってくやしさ半分嬉しさ半分の表情を見せたものだ。


 これは地球の科学の知識があってのことである。その後、マサキが教室を開いて、物理、化学、冶金などの講習を行ったが、若者が比較的早く理解する一方で頭が固くなったキゾラの進歩は限定的であった。いずれにせよ、マサキは銅の棒に、刻印で自分の魔力が起こした作用を続けて起こすようにすることが出来た。


 つまり、熱することで発電する発電体を作りだしたことになる。このように、科学の発達した前世にもなかった画期的は発電システムを作ったが、これでは仕掛けを思いついただけで、実用化にはまだ超えなくてはならない壁が多くあった。


 つまりその後も、実用のために電流計と電圧計を作り、発電体としての最適の形と出力ごとの大きさ、重量を決め、整流・変電圧システムも作り出す必要があった。

 そこで簡易化のために問題は先送りして、オリタ領では最低限の規模として定格の家庭用の100V、5kWクラスのもので済ませていたので、大きな問題はなかった。その後、シマズ家に来てから多くの錬物術師を部下につけられたので、彼らに大型の発電システムは任せて開発させている。


 そういうことで、マサキはシマズに入った当初から電力は使えた。だから、シマズ城には早々発電機を取りつけて井戸ポンプを取り付けていった。そのため。建設中の研究所の構内に掘った井戸から井戸ポンプで台所のみならず、自分と所員の住居には水道管を引いたことは当然とされた。


 ちなみにコンロであるが、料理に使う火力調整ができるコンロは、マサキのような素人料理人には非常に重要である。木炭は比較的火力調整がしやすいが、バーベキューの経験がある人はそう簡単でないことはお分かりであろう。まして薪による料理は、煙いやら炎に悩まされてマサキには全くお手上げであるが、慣れたものでも出来の良い料理を作るのは至難の業である。


 マサキは、結局火力調整が容易な電気コンロを使っている。電気コンロは、効率が悪いとされるが、マサキが作ったオリタ式発電体は通常の発電機の熱効率の20~40%に対して80%以上であり、電気コンロも直接火で料理するのとそれほどの差はない。さらに調節は非常に容易で、燃焼による煙・ガスが出ないなど料理には理想的である。


 電気コンロを作るには、電気抵抗が大きく発熱する電熱コイが必要であるが、ニッケル・クロム合金かクロム・鉄合金が使われる。ニッケルは比較的希少であるが、クロムは日本でもそれなりの鉱山があったように比較的普遍的に見つかる鉱物である。オリタ領の錬物術師が鉄の腐食防止に少量使っており、マサキはそれを入手してクロム鉄線でコンロを作成している。


 ところで、冷蔵庫は氷魔法を使える魔法使いの者が多く意外に出回っていた。と言っても、結局分厚い木の箱であるが、それに魔法で作った氷をいれるか、随時魔法使いに中を冷やさせるというものもある。普通は刻印で冷蔵を長続きさせてて、それに魔法使いが時々魔力を注ぎ込む訳だ。

 マサキの場合には、そのように信頼性の低いものは作らず、少々原始的な形であるが別置きの冷凍機と冷蔵庫の組み合わせにしているが、動力は無論電気である。


 ちなみに照明であるが、人には何らかの照明は不可欠であり、この世界では魔灯というマサキにとって不思議な照明が出回っている。これは、ガラスの筒の中に入れた半透明の刻印のされた結晶に、魔力を通すと明るく輝くもので、前の世界の60Wの白熱電球位の明るさなので結構明るい。魔力で起動すると、同じく魔力で消すまで点いている。


 1日に3時間ほどの使用なら20日ほど使えるが、その後10日ほど外に出して日に晒せば、また同じ期間使えるようになる。とは言え比較的高価であるため、大抵の家は1つか2つしかない。


 城には住みづらく、食事が気に入らないマサキは研究所に居を構え、オリタから料理人を呼んで住みこませた。ミタカ・ヨリという28歳の女性で、7歳の息子の子持ちである。彼女の亭主も料理人であったが、5年前に親戚の家に出かけた時に山賊に襲われて命を落としたのだ。


 頼れる親戚もなく必死の彼女は、調理所の下働きをしながら、幼い変わり者のオリタ家の次男が教える料理を素直に習ってそれなりの料理人の一人になっていた。しかし、料理人としては男社会の中でなかなか難しかったようだ。それを聞いていたので、マサキが誘って彼女もそれに応じたということだ。


 マサキは、研究所の自分の居住スペースは自分の気に入るように作った。8畳の板張りの間にベッドとクローゼットを作りつけ、部屋の隅においた机に椅子と、部屋の中央の作業台と4つの椅子があり、さらに部屋の隅にはソファがある。ちなみに隣室には洗面台にトイレと風呂があって、風呂は電熱で沸くようになっている。


 マサキが好き勝手をしていると、シマズ家では少し騒ぎになった。しかし、カジオウを呼んで、ヨリの作る揚げ物や刺身、新しくまた改良された調味料を使った様々な料理でもてなしたところ、カジオウはすぐに虜になってしばしば通うようになった。

 その中で、君主のアマオウも訪れて、それを大いに気に入った彼の命令で城の料理人がヨリに料理を習うことになった。ただ、材料の問題もあって、城全体で食生活が変わったのは1年以上経過した後であった。


 そのような状況の中で、マサキの生活そのものは快適になっていったが、毎日が閉ざされた研究所の塀のなかで、たまに外に出る時も厳重な護衛付きであり、いささか窮屈ではあった。だが、訪問者がカジオウを始め毎日10人以上もいて、やることが多く非常に多忙でマサキには窮屈と思う暇もなかった。


 これは、急にシマズ領の面積が2.5倍で領民が2倍になった。そして、増えたそれらの領を含めて農業、水産業、兵器生産を含めた工業について、領内及び支配下に入った領の鉱業の開発計画と実施を行っているが、ほぼすべてに彼の知恵が必要であったからである。


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