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錬金術で進める国作り  作者: 黄昏人
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シマズ家領を倍増させること、カジオウの活躍

読んで頂いてありがとうございます。

 カジオウが指揮を執った西側の戦いで、全く被害なく相手の概ね1万人を捕虜としたシマズ家は、この戦いを単なる防衛戦とは捕らえていなかった。戦支度をしていたシマズ家の兵士たちは、シマズ家の陣に逃げ込まずに、狙撃を恐れて逃げ出した敵兵を追う形で出撃した。


 これらの逃げた兵は、主として下級の武士達と、シマズを信用しきれずに自領に戻ろうとした者達である。一方で上級武士であって、それなりの装備を身に付けていた者達の多くは狙撃兵に撃たれ殺されたか重傷を負っている。カジオウの軍に配置された狙撃兵は45人であったが、彼らが狙撃して命中した相手は後の調査で520人に上ったことが判った。つまり、狙撃兵は一人10人以上を無力化したことになる。


 このため、シマズ掃討軍を編成した3つの領は中枢の武将を殆ど打ち取られて、大きくその統治機能と戦闘能力を落としている。もっとも当主が戦に加わったのは、カワベ家のみであり、当然当主が撃たれて重傷を負ったのもカワベ家のみである。


 狙撃されて、わき腹から腹を打ち抜かれたカワベ・サンザエモンは、生きてはいたが重症であり、この世界の普通の医療技術では助からない。事実、カワベは直ちに近習によって輿に乗せられて居城に向かった。だが、シマズの追撃軍に追い付かれ、傍にいた家老のみが捕虜にされたが、本人は無視されて放置されその日の内に苦しんで死んだ。


 ちなみに、これら狙撃されて重傷を負った520人は、8割が結局その傷が元で死亡したが、大いに周りの手を煩わせた。その意味では、出来るだけ人手を掛けるために、即死しないように狙撃するというシマズの狙いは功を奏したと言えよう。


 ちなみに、シマズの追撃軍は大将であるカジオウが率いた。彼と供周り10人の軍装は、顔の大部分を守る鋼製の覆いを含めたヘルメットに、胴を守る板金胴巻に他の主要部を守る鎖帷子である。これらは鋼製であるが、冶金の知識もあるマサキが強度を十分に考え、できるだけ軽量にした逸品である。


 今のところは、100領のみしか出来ていないが、カジオウは近い将来にはシマズ軍の標準装備にしようと考えている。これらの装備は、負傷はしても致命傷は避けようというものある。特に大将はその通りで、多少障害が残っても大将としての役割は果たせるのだ。


 供周りの者は、最年長の18歳のアダチ・ゲンゴが頭で、彼は槍と弓の達者であるが、狙撃銃にはまり込んでいる。彼はそれを夢中になって練習をしてきて、才能もあって領きっての腕になっている。彼はカジオウの側近であるために、マサキが狙撃銃を試作したころからその開発状況を熟知しており、今の形になるまでもいろいろ知恵を絞って大いに貢献している。


 今回の戦いでも、必要がないことを確認したうえではあるが、カジオウの護衛はほったらかして敵将の16人を仕留めている。彼は、カジオウと同年の15歳から17歳までの他の9人の供周りを、徹底的に鍛えて全員が騎馬の達者として、主兵器を銃で予備兵器を短槍として騎銃隊として機能するようにした。


 現状ではシマズ家でも、騎馬から銃を撃てる者は少なく、部隊として機能しているのは、カジオウの供周り隊のみである。とは言いながら、彼等とて走りながら精密な射撃は無理で、馬を止めての馬上であれば100m程度が必中というレベルで、長距離狙撃は下馬してのしっかりした足場が必要である。


 ちなみに、狙撃銃のみならずシマズで作られている銃は一発ずつ弾を込める単発銃であり、連発銃は未だ開発中である。ただ、ワ国でもすでに出回っている火縄銃は、鉛の玉に早合と言って火薬を詰めた包みを銃身の先から突き棒で押し込むものであり、一発撃つのに1分程度を要する。


 さらに、手作りのいびつな弾の弾道が正確であろう訳がなく、それに雨に弱い上に銃と火薬が極めて高価なのでほとんど普及していない。それに比べると、シマズの銃は、マサキの作った銅で被覆した薬莢付きの弾を込めるのには概ね精々が5秒程度であり、馬上でも弾込めは難しくはない。


 つまり、遠射兵器としてはこの世界では通常弓が使われているが、弓を使いこなすには多大な才能と時間を要するが、馬上での弓の達者になるにはそれ以上である。その意味では、銃は一定のレベルであれば、普通の者にも到達可能であるので、アダチが麾下の若者を騎馬銃隊として編成できたのはそのおかげである。


 さて、カジオウは追撃に当たって麾下の1000騎を超える騎馬隊を率いた。それに対して合同軍の騎馬隊が抵抗しようとしたが、狙撃兵が前進して主だった者を狙撃していくとあっさり逃げ去ったので、相手は逃げていく歩兵と荷駄である。


 これらの兵で、踏み留まって組織的な抵抗しようという部隊には、カジオウの供周り隊がその指揮官を狙撃していくので、逃げていく者達に抵抗する術はない。進撃する騎馬隊は、逃げようとして追いつかれた兵達に大声で告げる。


「逃げるな、お前らを傷つけはしない。食うものも与える。そこで留まれ!」

 すり抜けて前進する騎馬隊にそう叫ばれた兵たちは、それを止める指揮官もおらず前進を止めて座り込む。彼らは、後ろから前進してくるシマズの歩兵によって捕虜として吸収されていくことになる。


 騎馬隊は尚も進み、カワベ領に入る前重傷を負ったカワベ領の領主に追い付いた。そこで、家老を捕虜にして伴い、さらに領都であるカワベラの街についた。5時間ほどの、35㎞の行程であったが、まばらに現れる村役人を蹴散らしての進軍であった。


 カワベ城に到着した時には、すでに辺りは暗くなっていた。城では先行した早馬の知らせで城門は閉じられていたが、これをまばらに飛んでくる矢を盾で防ぎつつ城門に爆薬を仕掛けてあっさり爆破した。それでも城門突破を許すまいと集まってくる城兵を、始めて出番となった迫撃砲と銃のよる狙撃でせん滅する。


 その後、銃を持った兵を先頭に、馬を降りた騎馬兵が続々と場内に進入して、2時間ほどで天守閣まで到達して場内を制圧した。そして、主君の傍で捕虜になった家老のイイダ・サエモンを仲介役にして、残された13歳の嫡男、奥方に状況を説明し、捕虜になることを説得する。


 そして、その深夜には重症だった領主のカワベ・サンザエモンの死去が伝えられ、それまで強気であったカワベの親族も絶望に沈んでしまった。かくして、17万民の大名であったカワベ家は滅び、カワベ家の嫡男がシマズ家の家禄5千民の家臣として命脈を保つことになった。


 無論カワベ家の領地はシマズ領になり、カワベ家に仕えていた武士で、当主または後継ぎが生き残った家はシマズ家に仕えることになった。その後、ヤマシタ領へもカジオウに率いられた騎馬隊が先行して引きつづき侵攻し、カワベ家と同様にシマズ領となった。

 とは言え、ナカノ家、ムラソコ家については、占領が追いつかず属国化をしたものの一応家としての体裁は残った。その意味では、現状で実質シマズ家の支配下に入っているウミベと同じ扱いということになる。


 一方で、領主のアマオウが指揮を執った東の方の戦いも概ね同じような推移となり、大将をはじめとした主要な家臣を狙撃により打ち取り、殆ど自軍に被害なく撃ち破っている。ただ、こちらは無理に併合せずに属国化に留めている。


 この結果、シマズ領としては現状の25万民に加えてムロ池を囲む領の25万民の領が新たに加わって直轄領が50万民となった。さらに、属国化した領を加えると100万民を超えることになってワ国においての最大の勢力に躍り出たことになる。


 シマズ家では戦勝会を開いたが、その後大広間で論功行賞を行った。概ね数として倍になる相手に、内心は勝てるかどうか懸念する家臣も多かったので、戦勝会は大いに賑わった。ただ、その戦いは、今までのような戦場での戦働きの結果で勝ったというものでなく、基本的には狙撃で相手の主だった者を狙撃することで、組織を瓦解させた結果のものである。


 その意味では、槍、剣、あるいは弓の達者で従来大いに働いたもの達は、酒を煽り乍らも沈んでいたという。実のところ今回の戦いで最も活躍したのは狙撃手であるが、カジオウの側近衆の10人ほどを除き、彼らは身分の低い者が多い。


 これは性能が劣る練習用の銃を撃たせてみて、才能のあるものを選んだ結果そのようになったのだ。狙撃のような特殊な技能に向く人間というのは、結局目が良くおっとりして沈着であるが、風・弾道の落下などを計算する必要があるので馬鹿でもいけない。


 一方で性格は内向的なほうが良く、落ち着いた若者が選ばれているが、指揮官には向かないと判断されている。その意味では、カジオウの側近は、頭のアダチは例外として他は銃手として平均的である。論功行賞が行われたが、主だった武将に与えられる賞がありはしたが、敵の軍が瓦解した後に、敵領に攻め込んでの交渉や振る舞いに対してであって戦働きに対してではない。


 狙撃手に対しては、基本的にはその仕留めた相手に応じて、金が与えられ、さらに昇進させているが、指揮官にするという形の者はほとんどいなかった。狙撃手が指揮官に向かないというのは首脳部にもわかっているのだ。


 論功行賞の後に300人を超える出席者に対してアマオウが改めて言った。

「皆のもの、今回の戦では御苦労であった。各々がその役割を忠実の果たしてくれたからこそ、大勝利と呼んでよいこの度の結果があった。今回の戦は、実のところでは領を守るためのものであったが、結果から言えば直轄の領民を倍にして、なおかつ敵であった周りの家々を従属するものに変えることができた。

 このことで、余は当面は我が領が戦をする必要はないと考えており、他に戦を仕掛けるつもりもない。一部のものが、この際の勝利を機会にワ国征服の行動を起こすべきと言っていると聞いた。しかし、この際にはっきり言っておくが、さっきも申したように余はその気はない。


 そもそも戦をする目的は、今回のように基本は守るためである。そのほかに他の領地が我が領に対して目指したように、食い物や財と領民を奪うためもある。これが今回我が領に攻め入ろうとした領主共の半分の目的であるが、彼らはもう一つの理由は勢いのある我がシマズ領に飲み込まれるという恐怖があったのだろう。実際に、彼らの領民が何かと理由をつけて我が領民になろうとしていたからの。

 最近、密偵も使っていろいろワ国における他国のことを調べさせて、我が領の実情と比べている。その結果領ごとの豊かさというものが大体判ってきた。皆も知っているように我がシマズは周りに比べて裕福じゃ。それは、度合いで言うと周辺の諸領が1とすると我がシマズが1.3位じゃな。


 しかし、カジオウに仕えておるオリタ・マサキの出たオリタ領は、概ねシマズの倍じゃ。オリタの数々の工夫のお陰じゃ。無論、オリタ領は小さな領であり、シマズとは違う。だが、オリタ領でやってきた方法をシマズ全土でやりつつあって、その結果が出始めたのは皆も存じておろう?」

 その言葉に対して、熱心さの濃淡はあるが、一様に出席者が頷くのを見てアマオウは続ける。

「我が領はもっと力を入れてそれを続ける。3年じゃ。3年でシマズの元からの25万民の領に加えて、今回加わって50万民となった直轄領の豊かさを今の2倍以上にする。その際には、わが領の支配下に入った領にも、その方法を伝えて出来る限りのことをさせる。


 しかし、彼らが軍備を持ったままで、豊かになるのは面白くないので、軍事はこのシマズが受け持つことになる。その賦役は課すがな。戦をする目的は基本的には豊かになるため、またはより多くの民を支配下に置いてより豊かになることじゃ。あるいは者によっては、より多くの他を支配するために戦をするものもいるがな。

 余は、戦は無ければない方が良いと思っておる。わが父も余が19歳の時に討ち死にしたからの。しかし、今までは、簡単に潰されないために大きくならなければならないこと、さらに守るために進んで戦ってきた。そして、ここに来て、対立する領を平らげて、さらに周囲に我が領が手強いと思わせることのできる武器を持つことが出来た。当分はこちらから打って出ない限り戦は必要ないじゃろう。


 だから、今後3年は少なくとも戦をせずに豊かになることに専念する。無論、その中により強力な守りを固めるための備えは行う。具体的には常備軍は今後3年で2倍にして、全員に銃を持たせる。そして、その中でも皆への棒給の支払いは、領が豊かになるのに合わせてどんどんあげていくので、暮らしは豊かになるぞ」


「「「「おお、それは」」」」一同から静かなざわめきが起きる。

「そして、その領を豊かになるための今後の計画と実行は次期領主として、カジオウが責任を持って行うものとする。余は、今回戦の結果起きた様々な対外的なごたごたを片付けるつもりじゃ。良いな、カジオウ!」


 アマオウの言葉に頷いてカジオウが立ち上がって言う。

「今、大殿の言ったように、俺が領を豊かにするための指揮を執る。当面の目標は50万民の直轄領について、今の豊かさの2倍だ。“豊かさ”というのは曖昧な言葉だが、そのあたりは皆も勉強してもらうことになるが、数字で出せるように計算方法は決めている。

 そして、今そのための実際の計画をマサキが立てていて、10日以内には皆にも説明できる予定だ。

 基本的にはまず農業では田畑の収穫量を2倍以上にして、作物の種類を増やす、肉を食べるためさらにその乳を取るために家畜を飼い、肉の他卵を取るため家禽を飼うなどをする。さらに、今は余りやっていないが海から魚を取って食べ物の種類を増やして、民の収入を増やす。


 また、今の錬物術師が色んなものを作っているが、これをもっと便利なものを沢山・早く作れるように大きな工房をつくることで大きな産業にしたい。すでに槍や刀、鉄砲など新しくいい物が出来始めているので知っている者も多いはずだ。

 特に錬物術では鉄が大事だが、これはずっといい物を大量に作る方法があって、その設備が今作られている。これが動き始めると鉄が良くなって値段もうんと安くなるので、もっと色んなことに使えるようになる。皆は今のところ戦がなくなるのは物足りなく思っているかもしれんが、始まってみるとそのように思う余裕はない。

 いずれにせよ、今後数年は今まで経験した事のない忙しいことになると思うぞ。そして言っておきたい」


挿絵(By みてみん)


 カジオウは一旦言葉を切って、皆を見渡して言い切る。

「俺は、とりあえずこのシマズ領を南ワ大島で突出した豊かな領にして見せる。そして、その段階ではワ国に住む武将はともかく民は皆がシマズに住みたいと思うようになる。俺は南ワ全体をシマズ国として統治するつもりだ。そしてそのシマズ国は今に比べてずっと豊かで強い国になる。

 また、さらには俺の代で北ワ大島もシマズ国の一部とするつもりだ。それまでには中々遠い道ではあり、苦労も多いと思う。しかし、それは戦のない時代になることで、民にとっては幸せなことだ。皆も、そのような国を治める者達として満足できることになるはずだ。皆、そういう野望を持つ俺に皆協力してくれ!」


 そう言って、皆を真剣な顔をして凝視しているカジオウに「「「「「おお!」」」」」家臣一同は叫び、アマオウは満足そうに見ている。


遅くなり申し訳ございません。

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[気になる点] シマヅの領地は、南ワ島では? 北ワ島と南ワ島の表記が一部入れ替わっています。
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