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錬金術で進める国作り  作者: 黄昏人
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北ワ南テンチ領の攻防3

読んで頂いてありがとうございます。

 使者は役目を果たした。通訳が戻ってきて、お互いの責任者が中間部でそれぞれ通訳に加え3人の護衛付きで会談すると云う条件を飲み、相手側の建物から3人の者が出てきて歩き始める。会合点は概ね中間点の指定した樹木の傍である。


 相手は、ヘルメットに板金製に鎧を纏って、同じくヘルメットに板金製胴着に鎖帷子を纏った護衛兵に付き添われてやって来る。相手の大将は、中年の赤毛のひげもじゃで、身長は185㎝を超える大男ではあるが痩せている。

 シマズの大将は、ヒラタ陸将であり、ヒジカタが「そのような危険な役割を!」と言うのに、「なに武器に絶対の自信がありますからな。大丈夫ですよ」笑って返して押し切ったものだ。


 シマズ側の護衛兵は、シマズ軍でも少数しか配備されていない自動小銃に自動拳銃を持っており、手榴弾も各3発腰に吊っている。中間点で、シマズ側で通訳を務める若手将校が、持って来た折りたたみの椅子を地上に置きそれを広げる。


「私は、シマズ王国軍の南テンチ領派遣軍司令官のヒラタ陸将だ。貴殿は?」

 相手に比べて20㎝ほども背の低いヒラタが、向かい合った相手に冷静に言う。


「大ブリターニア帝国、東洋派遣軍、第2艦隊、陸戦部隊長のビブリオ大佐だ。お前は、何の権限で我々を攻撃したのだ?その結果が、お前の国の破滅を招くことが判らんのか?」


「ふむ、椅子を用意した。座って話をしよう。まあ座りなさい」

 そう言ったヒラタは、自分から椅子に座って、相手も座ったのを確認して平静に言う。


「ビブリオ大佐。我がシマズ王国はこの地を治める南テンチ領の領主殿の要請で、君ら侵略者をたたき出すかせん滅して、この地の人々の安全を保つためにやってきた。それは我がシマズ王国の国王陛下のご命令じゃ。かつ、この地の現在の領主であるキシワ・ダイゴ様の要請でもある。

 これ以上の根拠が必要かな?

 まあしかし、大ブリターニア帝国とは、はるばる来たものだな。その遠路をやってきた壮挙は認めてやろう。だが、その君らの帝国があちこちを荒らしまわっているのは聞いておる。この南テンチ領もその一つになった訳だな。

 お前に言っても仕方がないが、お前らの南北ワ大島の侵略はこのシマズ王国が許さん。いずれにせよ、母船を失って、陸に上がった千人足らずのお前らに我々に勝つ術はない。我らも無駄なことをしたくはない。命が惜しくば直ちに降伏せよ!」


「なにを言う、野蛮人が偉そうに!我ら白い者達はお前のような、濃い色付きの遅れた連中を統べるべく運命づけられているのだ」

 なるほど、ビブリオと護衛は日には焼けているが、元々は白い肌のようだが、通訳は浅黒い肌色で顔つきも違う。ビブリオは立ち上がり目を怒らせて立ち上がり、ヒラタに迫るが彼は平然として言い返す。


「ふん、お前が何を信じようと良い。選べ。お前ら全員の死か、降伏するか」


「野蛮人が!我らは大勢の人質を捕らえている。そいつらも死んでも良いのか?」


「人質で脅すとは野蛮人はどっちだ。まあ、お前らが捉えているのは大部分が女であることは判っている。どのみち、お前らに汚された女達はここでは生き辛い。ここで、お前らに殺されるか、盾にされて殺される方が幸せかもしれんな。しかし、その場合にはお前らは楽には死なせんぞ!

 殺してくれと頼んでも、一寸刻みで引き裂いてやろう。判っているだろう?我々がお前らより圧倒的に強いことを。まあ、降伏するなら命だけは助けてやる。あまりに残虐なことをして、恨みを買った者達はその限りではないがな。

 それに、我らは近いうちにお前の国ブリターニア帝国に行くことになる。我らのために働くなら、その際に連れて帰ってやっても良い。

 そうだの。もう一つの選択肢をやろう。それは、捕らえている者達を解放して戦うというものだ。その場合には普通に戦いの中で楽に殺してやろう。選べ、地獄の苦しみの中で死ぬか、戦いの中で死ぬか、生きるか?」


 力を持つ者の迫力に気圧されたビブリオは、思わずのけ反りそうになったが、司令官という誇りにかけてかろうじて立ち直った。

「ま、まて、一度部下と話し合う。少し時間をくれ」


「ふん、まあいいだろう。猶予の時間はこの棒の影がこの線に達するまでだ。それまでに返事がない場合には攻撃を開始する」


 ヒラタは傍に立っている棒の影を指して、その端から少し離れた所に線を引き言う。彼は懐中時計を持っているが、まだこれはシマズでも高級品であり、彼のものは軍からの支給品である。ブリターニア帝国とワ国に交流は全くないので、当然時間の単位も異なるはずである。


「しかし、儂の方からはこの影は見えん」

 ビブリオの抗議にヒラタが言葉を返す。


「であれば、通訳を残して合図をざせればよい。通訳を害するようなことはせんよ。だからお前らが戦うことを決めても彼は安全だ」

 そう言ってヒラタが笑うのに、ビブリオは渋面を見せて背を向け去っていく。


「して、そこの通訳、お前はどこの民族だ。あの異人共とは違うだろう?」

 ヒラタの問いにしわが目立つが40歳代に見える通訳が応える。無論、相手はワ国語はしゃべれないのでシマズ側の通訳を通してである。


「はい、まず私はワンと言います。私は、大陸の大国である楚の国の隣のワイガ王国という滅びた国の者です。今は帝国のワイガ区という名になっていますが、ワイガ王国は大ブリターニア帝国に15年前に滅ぼされました。

 その国民だった我らは、ブリターニア帝国の者の所有物になっています。私の場合は海軍の物というわけです。まあ、ワイガの言葉は殆ど楚と一緒なので、私はこちらで大陸語と呼んでいる楚の言葉が使えるのです」


「ふむ、ワンよ。そのワイガ王国の民はどのくらいの数がいたのか?そしてどのように征服されたのか?」


「はい、私が聞いていた民の数は200万人ほどです。ブリターニア帝国は、いきなり10隻ほどの大船で我らの首都の近くの港町を砲撃して占領し、すぐさま首都カームイまで進軍し、王宮を含めて占領してしまいました。

 無論、王国軍も戦ったのですが、銃と陸揚げされた大砲にまったく敵わず敗走しました。その後、帝国から軍だけでなく商人など次々にやってきて、国を掌握したのです」


「ほお、随分簡単に200万もの民がいる国が征服されたものだの。帝国の領になってからの生活はどうだ?」


「無論、旧王族・貴族たちは大いに不満でしょうな。民を睥睨して贅沢に暮らしていた彼らは、帝国のために平民になった訳で、むしろ普通の民に比べて厳しく監視されて辛い労働をさせられています。

 帝国も彼らの国民のみでは、ワイガの地を治めることはできませんので、貴族の家臣だった連中が帝国の者の下にいて中間的な支配者になっています。それと、私のような商人や様々な産業を興し豊かになった者達とその子弟である教育を受けるゆとりがあった者達が、帝国に使われて民を治めています。


 そのように、旧王国の普通の民は、同じ旧王国の教育を受けたもの達の支配を受けている訳で、その統治は民にとってはむしろ良くなったと思います。どのみち、平民の彼らは、王国時代には貴族やその家臣に比べれば、虫けらのようなもので人として扱われていなかったのです。

 その点、我々も含めてワイガの者を、帝国の者達は等しく人間扱いはしていませんが、その統治は少なくとも民が飢えないようにしています。まあそれは家畜を飢えさせる飼い主は馬鹿だという発想ですけど。その点では、頻繁に飢えが起きていた王国の政権より意味では増しです。


 私は平民の商人で、王国時代は比較的豊かな生活をしていましたが、その時代には貴族連中の横暴にはなかなか辛い目に遭いました。その点では、帝国人を前の貴族と考えれば、それほど腹も立ちません。また、私は比較的早く通訳という立場になったので、待遇はさほど悪くはなく旧王国時代とあまり変わないと云うところです」


 そのように言うワンは、内容からして相当に見識のある男のようだ。ヒラタは面白くなって、尚も質問を続ける。

「うむ、ワイガ王国とは相当にひどい体制であったようだの。あのような異人が治めたほうが暮らし易いとは……。施政者としては恥ずかしいことだの。して、お前は我らが帝国の船を沈め、兵を殺したのはどう思っておるか?」


「はい、日々接している異民族であるブリターニア帝国の者達を私も深く憎んでいます。一緒にいると相手が自分を家畜並みに思っていることを、実感します。ただ肌が白く、戦の道具に優れているのみで、そうでない相手を人間扱いしないなどと言うことは許されるべきではないです。 

 だから、正直に言って、自分が危ない目にあっているのにブリターニアの艦船が破壊されたのには嬉しかったのです。

 また、我々が見れば雲の上の人と見ざるを得ないビブリオ司令官が、貴方様から脅しつけられて言い返せないというのは痛快でした。色々聞くと、彼らブリターニア帝国は様々な土地でひどいことをしていますから、より強い相手にこのような目に合うのは当然だと思います」


「なるほど、どういう相手でもやはり人間扱いをされないのは納得ができんよな。しかし、そのような具合だと、お前の国を自分達で復興するのは難しいのではないか?」


「はい、その通りです。無論ワイガ王国の旧貴族だった連中が集まって、王族の縁戚の者を担いで王国復興を言っているようですが、旧貴族であった少数以外はそんな話には乗りません。私も正直に言って、前の王国に戻るのは嫌ですね。かといって、人間扱いされないブリターニア帝国支配が続くのも嫌です」


「ふーむ。とは言え、お前は学問があって見識も持っており、立場としては直接帝国に使われているなど旧ワイガ王国の民でも少数派であろう。ごく一般の民はどうなのだ?」


「はい、どちらかと言えば前より増しと思っているように考えます。帝国は進んだ知識で農産物を増やし、安い服を流通させるなどで、家畜としての民の面倒をそれなりに見ています。ワイガの者を通してですが。だから、民は少なくとも飢えることはなく、前のように服がぼろぼろと云うことは無くなっています。

 一方で旧貴族の代わりに彼らの家臣だった者達が、帝国の立場になって民を横暴に扱う立場になっていますが、それは前の貴族とて同じで、生活そのものは楽になっている訳です。だから、少なくとも前の王政に戻そうという者はいませんね。私だってそうですが」


「なるほど、悪政を引く国は侵略に弱いわけだな。しかし……」


「閣下!異人共が出てきました」

 ヒラタたちを守護していた兵が叫ぶ。そちらを見ると、ビブリオが銃を捧げ持っており、旗を持った兵がそれに続いている。


「少し早かったな。まあしかし、こっちに彼が来るということは降伏するのだろうな。ワン、お前はどう思うか?」


「はい、ブリターニア帝国はあちこちに侵攻しており、その際に局部的に不利になる場合もあり、その場合には戦って死ぬより、降伏することも許されているそうです。ただそれも相手次第であり、嬲り殺されるような相手では全滅するまで戦うようですが……。あなた方は降伏するに値する相手だと考えたのでしょう」


「ふん、まあ良い。戦えば必ずわが軍も何人かは死ぬことになる。また、人質になっている者達を救うことが出来たのは喜ばしい。それに、連中は労働力として使えるからの」


「なるほど、貴方は戦いを避けられて良かったと思われるのですね?」


「無論だ。我々指揮官は常に実戦に備えているが、進んで戦いたいと思ってはいない。自ら鍛えた兵が死ぬのはなかなか辛いものがあるからな。一番良いのは、敵が我らの強さを認めて降伏してくれることだ。その意味では、今回はシマズ軍にはまったく被害がなく、実際に降伏してくれれば、理想的な展開ということになる」


 そういう話をしている内に、ビブリオがヒラタの前に来て、持っていた銃を両手で捧げヒラタに向かって差し出す。その間、慎重に銃口がヒラタを向かないように、引き金に手を掛けないようにしている。


「閣下、わがブリターニア帝国東洋派遣軍、第2艦隊、陸戦部隊はシマズ軍に降伏します。ついては、部下の将兵の生命・安全については安んじて頂きたい」


「うむ。基本的にはそのようにする。君らは国の方針に従ったのみであるということになるからな。しかし、捕虜となった君らの兵は、住民及び君らに囚われていた人々に面通しをして、何件もの殺人を故意に起こしたもの、多くの女性を残虐に扱ったものなどについては死罪もありうる。

 この量刑は、君らの民に対して兵が犯した犯罪と同じようなものであるが、そうすると多分全員が死罪になるので、君らの自分たち以外は人として見做さないというと言う特殊な性癖を考慮する。まあ、死罪の者の数は1割以下にするようにするよ」


「そ、それは話が違うのでは?」


「そうか?君らも民に対する殺人、強奪、暴行、強姦を命じたわけではないだろう?」


「無論だ。……ただ、財を奪い取るのは認めていた」


「野蛮人というのはお前らだ。それで言っておくが、自分らの食い扶持は自分で稼げよ。まあ、信用が出来んお前らを事務などの仕事をさせる訳にいかないから肉体労働だな。服も与えるし、飯は食わしてやるよ。どうする?嫌だったら言った通り、総攻撃で皆殺しにしてやるよ。

 そして、その際にお前らが捉えている捕虜を傷つけたら、出来るだけ生かして捕らえ『殺して下さい』と言うまで痛めつけてやる」


 20㎝も背の低いヒラタから睨まれて、ビブリオはガクリと頭を垂れ弱々しく言う。

「降伏する」


 だが、すぐに頭を挙げて言い放つ。

「しかし、必ず我がブリターニア帝国は報復の艦隊を送ってきて、君らシマズを撃ち滅ぼすぞ!」


 ヒラタはそれに対して、ニヤリと笑って応じる。

「ふむ、その帝国がどれほどの船を送って来る力があるかは知らんが、あの破壊された船が100隻くらいだったら、あそこにいる戦艦2隻であしらえるぞ。お前の帝国には我がシマズを滅ぼすほどの力はないよ。それは、わが国に住んでみれば解かる。

 我が国は今のところ、自分の国を発展させるので忙しいので、戦争をするのは迷惑だが、近いうちにお前の帝国に船を送るつもりだ。その際に貴殿は出来るだけ連れて行くようにしてやろう。それまで大人しくシマズでの捕虜生活を精々楽しむことだな」


 そのヒラタの言葉をビブリオは歯を食いしばって聞いている。


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