石油のある未来、北ワ大島襲われる
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マサキは、アサヒ開発地から帰ってすぐさま王国政府に報告を行った。それだけ、シマズ王国にとって石油は今後の発展にとって重要である。このため、アサヒ開発地には最優先で資材と人材を投入し、すでに原油が出ることを見込んで製油所の準備も始めている。
逆に言えば、もし目論見が外れたら、石油の有用さを吹いてきたマサキも少なくともしばらくは肩身の狭い思いをしたであろう。その一つの現れに、石油が出たと言う現地からの無線の連絡によって、マサキの報告を聞くべく王国政府の主要メンバーが集まる御前会議が準備されていた。
それは、大会議室において、国王であるアマオウと王太子カジオウを始め、宰相のミナタ・ゲンゴ、その他内政を担当する次席も含めて常時出席者の閣僚を中心に20人が集まっている。マサキと一緒に来たアキタが出席者に手書きの報告書を配っている。今のところ研究所で、国王が出席する会議に出席する資格があるのは次長待遇のアキタのみである。
説明のための報告書は、手書きではあるが地球の複写の原理を使った魔道具を使って複写したものである。印刷物については、活版印刷、ガリ版印刷は実用しているが、ワープロを作るのはだいぶ先になりそうである。ワ語は日本語に似ていて、漢字のような文字とひらがなの組み合わせであるので、文字の数が千近くあるためにワープロ作りは難しい。
報告書はマサキとアキタが分担してまとめたが、マサキの書いたものはアキタが清書している。アキタはなかなか見事な字を書くが、マサキの字は誰が見ても下手な字であって、他の悪筆の者達の心の救いになっている。とは言え、マサキも自分の字を気にしていないわけではないので、外に出す書類は自分ではあまり書かない。
彼には有能な秘書であるノダ・ユキエがついており、概ねはマサキが口述して、ノダが筆記しているが、彼女はマサキよりむしろ早く書くのに、チキンと整った読みやすい字を書く。アサヒ開発地にはノダは連れて行ってないので、アキタに筆記役が回ってきたことになる。
報告書はA4サイズ程度のもので7ページになっているが、図と写真が半分以上を占めているので、書いている文章は長くはない。ちなみに写真は、手書き文字を複写する原理と同じことで、魔道具を使ったものであるが、現状ではカラーではなく白黒ではあるが、その写実性は絵とは大違いである。
今回の会議は御前会議ということになるので、その場合の司会は宰相府の総務奉行代理のビワタである。彼は40歳台半ば御前会議出席者としては若手で、背が高く痩せている。彼はまず国王を除いた全員に起立を求め、王に向かって拝礼を行わせる。それから開会の辞を述べて、慣例通り国王アマオウに言葉を求めるが、その間皆は立っているので、その話は短い。
「では、国王陛下から、本日の会議について一言お話を願います。陛下、お願い致します」
「うむ、先日、もう5日になるが、コンノ大森林のアサヒ開発地において、見込み通り石油を掘り当てた。今までの調べた限りでは埋蔵量は莫大なもので、わがシマズのみならず南北ワ大島で、今後使用量をどんどん増やしながら使っても百年ほども使える量であると予想されておる。
石油を使えることになると、現在の熱・電力変換の燃料が主として石炭であるのが石油になる。だから、自動車は途中で止めて石炭を補給するか、図体の大きい石炭の送り込み装置を備える必要がなくなる。なにより、現在では量の少ない灯油しか使えないため、回転翼機は少数であるが、今後は飛行機も使えるようになる。
無論それだけでなく、産業のあり方も大いに変わってくるだろう。いずれにせよ、この壮挙によって今後の我がシマズのみでなく、南北ワ大島の未来が大きく変わる話である。また、その石油を今後安定して採取するにはコンノ大森林の魔獣を抑える必要がある。
とりわけティラノと呼ぶようになった大魔獣については、果たして退けるか退治できるか疑問があったが、周到な準備の甲斐があって、今般持って行った機材と武器では退治できた。このことは、あの広大なコンノ大森林が今後開発出来ることも意味する。
今日は、その大魔獣の退治と、石油の掘り当てに立ち会ったマサキが帰っておるのでその報告を聞こうということで、集まってもらった。では、マサキ、報告を頼む」
「では、一同着席。マサキ様、報告をお願いします」
国王の言葉が終わるとビワタの言葉で、アマオウに一礼して皆が座り、マサキが話を始める。
「はい、では説明させて頂きます。お手元の資料を読みながら聞いて下さい。私が行った時点でアサヒ基地には戦艦シマズ他大型軍用貨物艦ムロ2号他の10隻が居ました。人員は……」
マサキは、アサヒ基地に持ち込んでいる機材、人員、すでに完成している施設、当面現地に建設を行っている施設を説明した。
「実のところ、もし思ったより掘り当てた石油層がずっと規模の小さなものであったら、過大な施設を作って無駄なことをしたということで、私と研究所共にお叱りを受ける所でした。しかし、現地でより詳細に調べた結果、さらに今回の試掘の結果から最も楽観的な予想を超える良好な油田であることがほぼ確実です。
予想されるその量は、全量で1億kℓを超え、燃料油分が多い軽質油のようですから、精製も簡単です。現在シマズで、製鉄に使っている部分を除き、燃料として使っている石炭・コークスが大体20万トンです。
だから、全ての石炭を石油に置き換えても、必要な量は僅か18万kℓですから、その資源が如何に莫大なものか判るでしょう。
しかも、この石油層には圧力がかかっていますから、パイプを差し込んでやれば勝手に吹きだしてきます。その上にその資源が海岸にあると来ていますから、輸送も極めて楽です。
ただ、燃料が石油に入れ替わるとなると、消費は今後10年ほどで一気に増えでしょうが、その時点で使用量は精々年間100万kℓ程度まででのはずですから、100年近く使えるかもしれません。従って、これから全力で油槽船の建造、それにコンノ領マサラで進めている石油の精製工場の建設を進めましょう。
勿論、アサヒ基地の油の送り出し設備の整備が第一優先になります。アサヒ基地は、石油生産積み出しのみならずコンノ大森林の開発都市として、いずれ数万の人が住むアサヒ市にする必要があります」
そこで、カジオウが片手をあげて発言の意思を示し、司会がそれを認めて口を開く。
「コンノ大森林の開発とはどういうことだ?まあ、かの大森林に多量の森林資源があることは解るが、今のところ材木は中央山地からの伐採で賄えていると思うが?」
「ええ、森林資源は、都市及び周辺の農場を広げるために伐採する樹木でいずれにせよ出てきますが、私が言っているのは魔物の肉です。現地で味わいましたが、それは想像を絶する旨さです。濃厚に含まれる魔素のためだと思われますが。今回ある程度持って帰りましたので味わってくだされば解かります。
とりわけ、最大の魔獣であるティラノの味と言ったら……」
マサキは思い出してよだれが垂れそうになって思わず天を仰ぎ、話を続ける。
「どうも、魔素が極めて濃い大森林では魔獣の発生は相当多いようで、アサヒ基地の地点を拠点に魔獣の採取場とすることはありだと思います」
それを聞いて、アマオウが豪快に笑って言う。
「ワーハハハ。流石にマサキじゃ!我らが恐れておった魔獣を食い物にするために狩ろうとは、ワハハハ」
「ふふ、なるほど。マサキ、お前がそれほどに言うのなら楽しみじゃ」
カジオウも笑って言う。
しかし、そこで年若い小姓が引き戸を開き慌ただしく入ってきて、司会のビワタに小声で何か言っている。「北ワ王国」……「船団が……」……「襲われて……」などという言葉が切れ切れに聞こえる。御前会議で、緊急事態にこうした小姓などが入ってくるのはよほどの緊急事態であり、マサキにも経験がない。
やがて、司会のビワタはその小姓をそばに置いたまま、向きなおって、一同に向かって話し始める。
「ええ、只今、北ワ王国のワトの我が国の大使館から緊急連絡が入りました。それによると北ワ大島の南西端の南テンチ領のテビラに艦隊が押し寄せ、船からの砲撃で多くの家が焼かれ、千以上の鉄砲を持った軍が上陸して、街の一画を占領しているらしいのです。
どうも連絡によると、船は巨船でありその数10隻でいずれも大砲を撃って来たということです。撃ってきた大砲の弾は炸裂して家事を引き起こしており、そのため港周辺から人が居なくなったところに小舟で上陸したようです。上陸してきた兵は全て制服を着ていたので、どこかの国の正規兵と考えられるようです。
また、上陸した兵は全員が銃を持って目についた男は全て撃ち倒したそうで、女は捉えて自分達が占領した建物に連れ込んだようです。それは、5日前のことですが、南テンチから小型の軍船が北ワ王国の首都のワトにたどりついて、王国に知らせて救援を請うたということです。
このことを北ワ王国から、先ほどワトにある我が国の大使館に知らせてきたものです。ただ、それも念のために知らせるというもので、特に助力を求めるものではなかったということです」
ざわめきと共に、皆の視線が自分に集中するのを感じながら国王のアマオウが口を開く。
「ふむ。南テンチのテビラか。北テンチの領都だの。北テンチは30万領民、テビラの人口は5万と言ったところだったな?」
アマオウが皆に問うように話し始めると、外事奉行のヨシマが応じる。
「その通りです、陛下。南テンチは北ワ王国の王の弟君が領を譲られる形でできた領であり、北ワ王国とも良好な関係、というよる属領に近い形です。だから、真っ先に北ワ王国を頼ったのでしょう。南テンチ領は所有する火縄銃の数も100丁に満たず、大砲もなく弓と槍、刀のみの軍であったかと」
「ということは、千に及ぶ火縄銃を持った相手には抗する術がないということだな。それにしても、南テンチからの北ワ王国への知らせが5日も掛かるものか?」
カジオウが口を挟んで言う。
「いえ、多分北ワ王国には3日位で連絡は入っていたと思います。ただ、王国としては我が国に連絡するかどうかで揉めたのではないでしょうか」
ビワタが応じる。
「して、軍事奉行のサクジ。北ワ王国はその船団の連中を追い返すか、撃滅するかを出来るのか?」
「はい。南テンチより北ワ王国の方が国力、軍事力は遥かに優れています。火縄銃も我が国が銃を大量に持っているのを知っていますので、すでに千丁程度は持っているはずです。また大砲も作っていると聞いています。
だから、それらの戦力を集中できれば追い払うことは出来ると思いますが、撃滅は無理だと思います。
というのが、今回の侵略者は大洋を渡って来たもの達で、船に関しては北ワ王国より上でしょう。北ワ王国の船は我々が調べた限りでは、遠洋航海には向かない構造ですし、大砲を備えた船は1~2隻でしょう。10隻もの優れた帆船に大砲を積んだ相手どって戦えるとは思えません。
そこの小姓。その船は帆船だと思うが、多分その件については何も連絡がないな?」
ビワタの傍で立って話を聞いていた小姓は、ものおじすることなく答える。
「はい、大きな船と言うだけで、特には帆船等とは聞いておりません」
「うん。まあ、当然ですな。現時点で機関を使った船は我がシマズ以外にあり得ないでしょう。
陛下、ということで北ワ国はその海賊どもを追い払うことはできるでしょうが、相当時間を要すると思いますし、増援が来ると占領されてしまう可能性があります。
よしんば追い払えても、大部分の敵は逃がしてしまうでしょうな。それに、多分南テンチの領都であるテビラは略奪にあって財物が持ち去られるでしょうし、多分若い女子が大勢連れ去られるかと」
「ふむ。異世界の記憶があるというマサキはどうすべきと思うかな?」
アマオウがマサキに聞く。
「今回は、シマズが介入すべきだと思います。北ワ王国に任せると、増援が無いにしても追い払えるまで、数ヶ月を要すると思います。その間に南テンチの民の犠牲者は増えて行きますし、なによりまずいのは今回攻め込んできた海賊国家が南北ワ大島が征服する対象として見てしまうことです。
多分、今回の者達は自分では進んだ文化の国と思っている連中で、その国は人口も多く豊かな国でしょう。半面、自分たち以外は野蛮人とみて、相手に何をしても良いと思っているはずです。平和な街にいきなり砲弾を撃ち込んでさらに上陸して人に銃を撃ちかけ女を攫うなど、まさに野獣よりひどい行為です。
しかし、実行した彼らは自分達には許された行為だと信じているはずです。それが思い違いだと判らせる必要があります。基本的には今回来た連中は全滅させましょう。そのうえで彼らの本国に艦隊を送って懲罰を下し、大きな賠償を取り上げましょう」
「おお、マサキがなかなか過激なことを言っておるな。しかし、たしかに南北ワ大島に手を出すと火傷をすると知らしめるのは良いかな。どうじゃ、一同?」
アマオウがマサキの言葉を受けて言うと、それに応えてカジオウが言う。
「断固やるべし!今回のようなことをやる連中というのは、他でも同じことをやっているはずだ。そういうことをやると痛い目に合うと言うことを知らすべしだ。マサキ。お前の言う通りにシマズは軍備の整備を進めてきたが、正直そこまでは必要ないと思っていた。だが、お前はこういうことを考えていたのか?」
「まあ、そうです。いまそういうことをやっている連中は、今回のようなことをしながら世界の多くを占領して豊かになっていきます。そして、豊かになることで、今のような獰猛さはなくなっていき、その過程でやった残虐なことを忘れたように綺麗ごとを言うようになります。
まあ、私は彼らに今回のようなことが出来ないようにしたいと思っていますが、そのために必要なのは知恵と力です。まあ、なにより自分達がその知恵によってまず豊かになって、幸せな生活をして他から奪う必要が無いようにしたいということです。それに加えて、他から奪われることのない力を身につけるということです」
「ふむ。シマズとしては、今回の南テンチへの攻撃と侵略は許さん。北ワ王国に十分な能力があれば、懲罰と撃退を任せても良いが、彼らに任せると、彼らの力は今のところ不足しているので、多分侵略者どもは南テンチを荒らすだけ荒らして逃げてしまうだろう。
それをさせてはならん。今回来た連中はせん滅するが、どこから来たかは明らかにする。どうじゃ、異議のあるものはおるか?」
アマオウがこのように言うのに対して、外事奉行のビワタが手を挙げて国王が頷くのを見て言う。
「異議ではございませんが、北ワ王国が支援の申し入れがないところにこちらが押しかける形になります。そこの所をどうするかですが……」
カジオウがそこで言った。
「南テンチと北ワ王国に、『今回の相手は南北ワ大島への侵略者であるので。最大の戦力を持つわがシマズがその侵略者を追い払いせん滅する。しかしそのわが軍は決して南テンチに居座って占領することはない』と通達する。そして、それは南北ワ大島の全ての領に知らせることとする。それでどうでしょう?」
「大変、よろしいと思います。ただ、その作戦にあたって決して彼らが捕えている若い女を始めとする人々を連れ去られてはなりません。連れ去られると人質にされます。ですから、彼らの船は捕虜が連れ込まれる前に真っ先に破壊するべきだと思います」
そのようにマサキが言うのに続いてアマオウが締めくくりに言った。
「よし、軍事奉行サクジ、外事奉行に、カジオウ、マサキの知恵も借りて、さっき言ったように侵略者どもをせん滅せよ。良いか?」
「は!畏まりました。必ず侵略者をせん滅し、合わせて彼らがどこから来たか突き止めます。それに際してはできるだけ、捕虜になった人々を助けるようにします」
軍事奉行サクジはキッパリ言った
申し訳ありません。北ワ大島の西側は2つの領に分かれていて、南北に別れています。
今回侵略の対象になったのは南テンチ領です。お詫びして地図共に訂正します。




