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錬金術で進める国作り  作者: 黄昏人
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マサキ生家を豊かにすること、シマズ家への技術移転

読んで頂いてありがとうございます。

 マサキはカジオウの臣下になる際に、実家のオリタ家から、20人ほどの錬金術師を連れてきた。彼らは、オリタ家において、マサキが自分の発見した錬金術の実用方法を教え込んだ者達である。その意味では、オリタ家では中軸の術者を引き抜かれて困るはずである。


 しかし、マサキはいずれ大身の家に潜り込んで、もっと規模の大きい国作りをやろうと思っていた。そのためには自分の手足になる術者が必要になることは解っていた。だから、オリタ家が困らない程度の術者は残して自分で必要な者達を連れて行けるだけの術者を育てていた。彼らは、基本的にはマサキによって単位面積当たりの収量を劇的に上げ、農作を効率化したために、手の空いた農家の2男3男や女子である。


 マサキの行った農業生産の向上は、錬金術によって必要な成分(窒素、リン、カリウム)を濃縮した肥料の施肥がまずある。米が主食のワ国では、水田にするほど水が得られない場合の多かったために、陸稲の栽培が多かったが、従来から陸稲を繰り返して栽培すると収量が低下していくことは知られていた。


 これに対しては豊穣の魔術の達人がいて、彼らが魔力を振り絞って田園に魔術を施すことで収量が一気に回復する。これは、マサキの分析によると、“稲の生育に良いもの”という術者の意識で魔力が作用して肥効成分が集まってきて数年は実りが良くなるというものである。

 ただ、魔力の使い方の目的があいまいであるため、効率が甚だ悪く、10反(1万㎡)の施術に1日を要し、術者はへとへとになるという具合である。


 マサキは植物の3大栄養素が窒素、リンにカリウムであることは当然知っていた。これらは、植物が生育していくと不足するので、補充してやる必要があるが、さらに、これらを必要量与えたうえで有機物を補給する方が効果が高い。


 ただ、錬金術でどうやってこれらの栄養素を集めるのか?マサキは、すでに魔力で物質に力を及ぼせることは確認していた。例えば、鉄については、鉄の延べ板を小刀に変形させ、さらには炭素量を調整して、刃先は固い刃金に、刀身は柔軟にしていわゆる日本刀に近いものを作りあげ、領内最高の錬物術師をしてうならせた。


 そして、常温の固い鉄と、熱して柔らかくした鉄では何倍にも必要な魔力量が異なるのを実感した。こうした錬物術において、幼いマサキがベテランに比べより優れた加工が可能なのは、彼の持つ物理や冶金に係わる知識の故である。つまり、より良くやっていることを理解している方が、少ない魔力かつ時間でより良い物が出来る。


 ただ、肥料についてはなかなか難しい面がある。窒素については大気中に含まれているので、高い鑑定能力を持つ彼には特定することは容易であり、化合物としてそれを水中に溶け込ませるのは簡単に出来た。地球では、大気中の窒素を化学的に固定するハーバーボッシュ法などがあるが、それを魔力で行うわけだ。


 魔法において、原子変換して新たな物質を作り出すことはできないが、自然界の現象を真似て分子変換は可能である。その意味で、リンについては鳥の糞に高濃度のリン酸が含まれることは知っていたので、それを集めてリンというものを魔力的に分別することが出来るようになった。


 カリウムについては、地球では海水中の塩分の1%程度がカリウムであり、肥料に使うカリウム塩鉱石は乾いた塩が変質したものである。オリタ領の隣の領が海に接しているので、マサキは海岸で乾いた塩を鑑定して、カリウムを分別できるようになる、2%がそれであることを見いだした。


 このように、マサキはリンとカリウムを分別できるようになったが、周辺の山野や池を“鑑定”してどちらも土中・水中に普遍的に存在することを確認した。まあそうでないと、普通に植物は生えないよね。だけど、土中のある成分を選択的に集めるのは難しいが、水中にあるものは楽である。


 だから、カリウムは海水から分離するのが楽なのだが、障害になるのは植物にとって有害な塩分中の75%以上を占める塩化ナトリウムつまり食塩であって、これを排除しつつ分離することができず断念した。

 そこで、結局淡水の池の水から高濃度のカリウム塩とリン酸が含まれた“カリ・窒素肥料水”を取り出すことにした。こうして、窒素含有水を混ぜて“肥料水”を作り出したのだ。


 ただ、オリタ家の領には大きな池があって、十分な量のこうした分離が出来たが、周辺の山野からの流水でリンとカリウムは供給されるものの、何れは生産量が足りなくなることが予想される。だから、リン酸、カリウム塩の鉱山をいずれは発見する必要があると彼は考えている。


 マサキは、こうした方法を編み出したので、集めた人々を訓練して、肥料水製造班を編成している。さらに、し尿と家庭等の汚水をスライムで処理して、そのスライムを乾燥分解することで肥料にしている。それに合わせて、塩水中で沈んだ籾のみを植え付けに使うことで優良な苗としている。


 さらに田圃は極力輪作が可能な水田にして、不定形だった形状を長方形にすることで定規をつかって容易に規則正しく苗を植え付けている。こうしたことで、オリタ領においては単位面積当たりの収量は2.5倍程度になっており、それに加えて足踏みタイプの脱穀機と精米機の開発と導入によって農作業を大幅に効率化した。


 また、汚水を処理して有機肥料とするためというより領の衛生状態を改善するために、領内のぼっとん便所であったものを水洗便所に改修し台所など高濃度の汚水も一緒に処理することにした。

 その前に衛生的な給水が必要であるのだが、その点はオリタ領では良質な地下水に恵まれていて、大体各家に井戸があって、土魔法で作ったタンクを高所に設けている。それに錬物術で加工した竹の管を宅内に巡らして末端には木製水栓がついている。そしてタンクまでは水魔法で揚水しているのだ。


 それは近代水道とそん色ないが、料金を払う代わりに、家人の誰かが井戸から魔力を使って揚水しなければならないし、消毒の機能はない。だが、この点はオリタ領の地下水には汚染の恐れはない。

 一方の便所を含めた排水であるが、従来の便所は先述のように溜め桝の上に便座があるぼっとん便所であり、その他の排水は垂れ流しであった。溜め桝のし尿は一杯になると、魔力で木製の桶に溜めて人力車で運び、村外れの処分場に放り込む。そこも一杯になると1年ほど放置して、肥料として使っている。


 そして、便所の周辺や汚水の水路などにスライムが、いてそれを食べて(浄化して)いるのは知られていたが、積極的に活用はされていなかった。

 マサキはスライムの生態を見て、『これは活性汚泥の大型版じゃん!』と思った。活性汚泥というのは有機性の汚水を処理するのに使う微生物であるが、無論、小指ほどの大きさのスライムのように肉眼では見えない。下水の専門家でもあったマサキの中のエンジニアは興味を持って調べた。


 その結果、その種のスライムは汚水中の有機物や、固形物でも腐敗している有機物を食べて自分の体にする生物で旺盛な繁殖能力を持つ。ただ、酸素のある状態でないと増殖が出来ないという活性汚泥そっくりな性質を持っており、分解能力は活性汚泥より2倍から3倍高い。また、その体は乾かすとすぐに死に急速に分解する。また、乾かして分解したものは有機肥料として有効である。


 マサキはまず自分の住んでいる領主館の、排水設備を改装した。それは、まずトイレを水洗化して台所等の排水を含めた汚水をスライムで満たした水槽を通すようにした。この50㎥の水槽は土魔法で簡単に作ったが、この世界では目で見て魔力を行使できる土魔法は達者な者が多い。


 土魔法では土を加工して形作ることは無論、それをコンクリート程度の強度にすることが可能である。ただ鉄筋コンクリートという概念はないので、地上に突き出た水槽などは作れるが、水を入れると水圧で壊れる。だから、この水槽は地下式にして周辺の土圧で水圧に対抗させている。


 問題は、スライムを繁殖させるために、その水槽には酸素を供給しなければならないことであるが、これは簡単であった。実のところ実家の井戸からの高置水槽への揚水は魔道具によっている。これはマサキ家が豪族であるのでその家は簡易な城郭構造で3階建てになっている。


 このため、そこに揚水するためには高い魔力が必要なのだ。だから、その揚水のために魔道具が使われていて、これは管の周りに着けてその中の水を圧送できるようになっている。その動力は魔石と呼ばれるもので、魔道具に埋め込まれており、ちょくちょく人が魔力をいわば充填する必要がある。


 マサキが魔法に興味を持って、魔道具として最初に研究したのはこの魔道具である。ある程度のプログラミングもできた彼にはそのメカニズムを飲み込むのは難しくはなく、さらに物理現象についてはこの世界では誰よりも詳しい彼は、その後様々な魔道具を作った。


 ちなみに、魔道具を動かすには魔力が必要であり、そのためには魔力のバッテリーとしての魔石かまたは、空気中の魔力を集める魔回路を刻む必要がある。後述の回路は高い魔力を要求される場合には使えず、灯りの魔道具など比較的低い魔力を長く発する場合に適する。

 魔石は大体水辺の色んな所で見つかるが、石が魔力を吸って変化したもので、大体は手のひら位の平べったいものである。そして、大体一つの価格が、5人家族の生活費である5両ほどであるため結構高価である。


 マサキは自分の家に作った汚水処理槽のスライムへの酸素を供給するために、水の代わりに管の周りに魔道具を取りつけて空気を圧送するようにしている。その管の先を水中に設置するので、空気が水中で吹き出して泡となって、その泡から酸素が水中に溶け込んで、スライムがそれを呼吸して有機物を食べて水を浄化する。


 空気がぼこぼこと吹いている汚水処理槽の次に沈殿池という槽があって、そこでスライム交じりの水はスライムが底に沈んで処理された水が流出する。沈殿池の底から増えたスライムが引き抜かれて貯槽に溜められて、定期的に排出させて砂の上で干される。この干したスライムが肥料になるのだ。


 これは地球における活性汚泥法と全く同じ原理であるが、効率の良いスライムのお陰で、規模は半分以下のコンパクトさである。こうして汚水を処理する施設であるが、常に浄化が行われているので悪臭は全くなく、処理した水は、一見したところは井戸水と変わらないほどである。


 領主館で作られた汚水処理設備は、マサキの母のヨシノから絶賛され、領内に広めることになった。3軒に一つ程度必要な魔石については領から援助することになって、顔を顰めた父のハヤトであるが、マサキによって領が大いに潤っていることもあってしぶしぶではあるが普及に同意している。


 そのお陰で、少なくともオリタ領内では、水回りと同様にスライムを使っての処理を行っているごみについては極めて進んだ処理・処分を行っている。さらに、農業生産の劇的な上昇もあり、飢えとは無縁の豊かな食生活をすることが出来、加えてマサキが持ち込んだ効率化した手工業による大きな増収がある。


 そのためオリタ領民は、多くがあばら家を立て直すまではいかないにしろ、それを改修し、替えの服を買うことが出来て、飢えとは無縁のそれなりの食生活と、この世界では普通である悪臭とは無縁で清潔な生活をしている。つまり、人々が衣食住の面で、明らかに“貧困”からは抜け出しつつある状態である。


 マサキがカジオウの誘いに乗る点は、オリタの父母は歓迎ではないが了解している。両親もオリタ領の規模では、マサキの能力を生かせないということは理解しているのだ。そして、マサキがオリタ家もその傘下にあるシマズ家の中枢に登って活躍することは、オリタ家にとって悪いことにはならない。


 無論、今までのように急速な発展は望めないが、そのままのペースでやっていれば、目立ちすぎてシマズ家の中でいずれは叩かれただろう。だから、オリタ家の貴重な戦力である20人をマサキが連れて出ることにも、問題なく同意している。


 マサキは、シマズ家においてはまず“成果”を出すことが必要であることは承知していた。そして、シマズという大家に守られていたオリタ家と違って、争っている大きないくつもの領に隣接している以上は、兵器開発の面でも大きな成果が必要である。


 マサキとしての本音は、錬金術師を育てることから始めたかったが、当面農業生産の増強と新兵器の開発にかかった。農業生産増強はオリタ領でやったのと同じ方法が使えるので、連れてきた年上に部下たちに実行は任せて、動き始める所まではカジオウの援助の元に早めに滑り出すことができた。


 新兵器については、直接の戦闘における兵器もいずれ必要であるが、例えば銃などを開発は容易であるが、数を揃えるのは時間を要する。一方で、シマズ家は将も兵も優秀であり、周辺の諸領の中では最も強いというマサキの判断である。だから、周辺に団結されると困るが、各個撃破は十分に可能である。


 そのため、情報の面で強化することを優先することを考えた。そのための準備として無線機の開発はすでに終わっていた。実は魔力を使った念話というものはあって、実際に使う者もいるが、魔法の投射距離と同様に到達距離が短く精々数百mであり、戦闘中に同じ戦場に使える程度である。


 だから、マサキは携帯できる無線機の開発を考えた。魔力を使っての無線機も考えたが、その程度マナが飛ぶかも判らない点と大部分の人が魔法を人が使えるこの世界では傍受の可能性を考えて電気によることにした。


 携帯するということを考えると電池と電波発生器に受信機を開発することにした。一応マサキは高校生の時に無線機は組み立てたことがあって原理は承知していたが、当然音声が伝わるようなものは無理で、シグナルを発してそれを解読する原始的なものが限度と考えていた。


 マンガン電池の構成は知っていたので、土中からマンガンを集めて苦労の末に2Vの電池を作った。1年以上の試行錯誤の結果であったが、無線機はそれに比べると簡単であった。受信・発信装置は20㎝角程度の木箱に入った3㎏程度のものでまあ携帯可能と言っていいだろう。


 到達距離は頑張って50㎞まで伸ばしたが、これは通常の軍の2日の移動距離であるので、この世界では画期的なものであるだろう。シマズ家が数多く送り出している間者が、この距離から情報を送って来れるというのは、指揮官に多くの選択肢を与える。


 それから、少数で効果を上げる兵器として、指揮官を狙うための狙撃銃を考えた。銃そのものは綿火薬を炸薬として雷管を用いた銃はすでに開発していたが、量産はしていなかった。だから、刀剣の製作に長けているベテランの錬物術師に銃身を作らせて100丁の狙撃銃を完成した。射程は500mを超える。


 火縄銃はすでにワ国に渡って来ており、シマズ家も3丁入手している。だから、カジオウにはすぐにマサキが作っていた銃の先進性を見抜いた。その上でその精密版の狙撃銃の意義を認め製作に同意したが、同時に通常の銃の量産も命じた。


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