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錬金術で進める国作り  作者: 黄昏人
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魔獣の森の開発、鋼鉄の巨人が活躍すること

読んで頂いてありがとうございます。

 キシベ2尉は、“鋼鉄の巨人”の操縦席に収まって、アサヒ開発地で巨木を切り倒し、枝を払って裸になった幹を4mほどに切り刻んでいる。彼は将校であるが、“操縦”の才能が見出されて、甲種特殊操縦士の資格をもっていて、通常の2尉の俸給の2倍ほどを貰っている。


 シマズでは領内の急速な開発に当たっては、工事を人力で行っていては遅々として進まないので、早くからマサキ様が“重機”を開発した。これはトラックは無論、ブルドーザ、ユンボ、クレーン車などが実用化されたものだ。その動力は基本的に熱を魔道具で変換した電力で動かすモーターであるが、可動部の精密かつ大荷重に耐える部品の製造は、錬金術あればこそである。


 コンノ領の魔獣の対処が必要になった時に、マサキ様は現時点でのシマズの運用している兵器では、魔獣に対処できるかどうか不安があったらしい。そこで、元々構想を温めていた鋼鉄の巨人を作ることを決断して、実際に数ヶ月で完成したという。


 それは“大恐竜”と名付けられた、正体がまだ明らかでないが、最大の魔獣をも対処できることを想定した機械である。これは、無限軌道であるキャタピラーで移動し、自在に動く強力な2本の腕がついている。その1本には幅が10㎝で長さが2.5mもある強力なチェンソーが取り付けられており、もう1本の腕には差し渡し1mもある2本の強力な指がついている。


 これを自在に動かせば、大恐竜でも格闘して勝てると期待されているが、その代わりに、比較的複雑な操縦が必要なユンボに比べても複雑で素早い操縦が必要になる。この点は、この世界でも割に希少な才能であるが傀儡使いがいる。彼らは、木または石で出来た人形を自由に操るのである。


 だから、彼らにユンボの操縦をさせると、信じられないほどに自由かつ滑らかに操るのである。それが、マサキが鋼鉄の巨人を発想した理由でもある。ユンボにしてもその操縦系は前の世界に比べるとお粗末なものであり、動力伝達機構も油圧で動く前の世界に比べお粗末である。


 にも拘わらず、あれだけ滑らかに動かせるのであれば、その出来が少々悪くても操縦者が何とかしてくれる、という目論見は当たった。マサキが動かせばのろのろとぎくしゃくとしか動かないプロトタイプ2号が、熟練の傀儡使いの手にかかると滑らかに動き、軽々と大木を切り倒し、枝を払って丸太にして積み上げる。


 さらに、巨人用に作った長さ7m太さ5㎝の巨大槍を片腕で軽々と振り回して、太さ100㎝の生木を貫き通す。22歳のキシベ2尉は、その傀儡使いの才能を一族から受け継いでいる。彼は、最初はユンボの操縦をしているところで才能を見いだされ軍に引っ張り込まれたのだ。


 キシベは、傀儡使いの一族の出身であったが、その能力は基本的に人形を操って見せるというだけのもので、社会的には高い評価を受ける訳もなく、身分は最底辺に近いものであった。彼らの操る傀儡は、基本的に魔力で人形を動かすものであるためにパワーはない。


 だから、到底実際の仕事に使ったり、戦には使えるものではないために所詮見世物にしかならなかった。

 そこに、強大な動力に裏打ちされたブルドーザやユンボが登場した訳であるので、傀儡使いたちは『これぞ!』と思ったらしい。


 実際に、その操縦者に応募して才能を認められると、皆良い待遇で重機の運転者として雇われるようになった。ブルドーザであると、さほど操縦者によって仕事の効率に大きな差は出ないが、とりわけユンボのように動きの複雑なものは大いに効率が違うのだ。


 増して鋼鉄の巨人の操縦は、傀儡使いの才能がない者には不可能と言ってよい。コンノ領の魔獣対応として作られた巨人であるが、王国は次の段階の軍事的な利用に大きな可能性を見いだしている。だから、傀儡使いの住む里には国からの使者が訪れてすでに全員を囲い込んでいる。


 キシベ・アキラは、その動きの中で、軍に半強制的に入れられた者であるが、22歳の若さで将校に任じられ、さらに操縦者手当として棒級が倍になるという好待遇に十分満足している。


 ここ、アサヒ開発地の湾に着いて、彼の鋼鉄の巨人の名称に密かに名付けた“ケント”は、輸送艦アズマの後部の開口部から台船に乗せて引き出された。引っ張っているのは、岸に設置されたウインチで巻かれたワイヤーであり、岸から概ね100mをワイヤーで引っ張って陸まで上げるのだ。 ところでケントというのは彼の兄の名前であるが、自分にこき使われるという皮肉を込めて付けたものだ。


 台船前部には車輪がついていて、台船が岸に前部を乗り上げた状態で、アサヒ2号が自力で岸に上がり、その後自力台船を海に突き放すので、後はボートで引っ張れるのだ。陸にはすでに先任の操縦者の操る巨人が上陸して、襲ってくる恐れのあるトカゲ人と犬型の魔獣である魔狼などを近づかないようにしている。


 ウインチの据え付けなど陸で行う作業は、ボートで海岸に上陸した工兵を含む40人ほどが、鋼鉄の巨人を含む重機や様々な機材を使って必要な工事を進めている。もっとも脆弱な最初の上陸の最初の2日には幸い魔獣に襲われることなく、ある程度の体制が整ったところで魔狼が現れた。


 これはトカゲ人と共に、よく人里にも現れる体長2m弱、体高1.2ほどの狼の魔獣であり、10人前後の部隊で槍と斧でタコ殴りにして、ようやく退治できるほどの手強い相手である。コンノ領の大森林を調査する時に、シマズ軍もトカゲ人と共によく遭遇した相手である。


 魔獣の内の最弱であるこれらも、通常の軍用銃では傷はつけられるが皮で止まってしまうので、急所である目や口に撃ち込まないと殺せない。ただ、長射程で火薬の量が多い狙撃銃であれば、胴体でも10発ほど打ち込めば仕留められることが判っている。だから、今回のアサヒ開発地には携行銃として猟銃と名付けられた、弾の口径が10㎜で炸薬量を増やした銃を持ち込んでいる。


 さらに、重機関銃として3脚架で固定して使う口径12.5㎜の銃も持ち込んでいる。これはマサキの前世の重機関銃のほどの貫通性能はなく、連射性能も1秒に一発程度と劣るが、最大2㎞ほどの最大射程があり、10㎜の鋼板でも打ち抜けるので、大抵の魔獣に対処できると期待されている。


 実際に、最初の上陸隊はまず一番に組み立て式の銃座である“あ型小型要塞”を組み立てて重機関銃を据え付けている。この“要塞”は、外周に直径5m高さ3mの円筒形の鋼板波板製の防護壁があり、その中央の高さ4mに360度を回転できる銃座が立っている。この内部には12人の兵が長期収容できるようになっている。


 この要塞の鋼製の部分は20名の兵士が2時間で組み立てられるので、当面の安全が確保できる。だが、この段階では貫通性能に限界があり、重量が小さく安定が悪い。だから、内側に土嚢を積んで貫通に対する耐性を高め、かつ重量を増して安定させるようになっている。この小型要塞は、中央の銃座に、機関銃を据えて全周をカバーし、外壁の上に兵を配置して大口径の猟銃と無反動砲で周辺に攻撃が可能である。


 幸い、魔獣はこの小型要塞が組み立てるまで、襲ってこなかったので、その後襲ってきた3匹の魔狼は重機関銃と猟銃の集中攻撃で2匹が殺され、1匹は足を引きずって逃げ出した。また、鋼鉄の巨人の全数の3機が上陸した次の日にはトカゲ人が現れた。


 だが、森林から姿を現したとたんに、猟銃、無反動砲、機関銃の連射を食らい、たて続きに2匹が倒されて知能の高いトカゲ人はぱったりと正面からは姿を現さなくなった。だから、キシベを始め巨人を操る傀儡師であった操縦者は、懸命に樹木を伐採して開発地を広げているところである。早く伐採が進んで防護壁が出来れば、中の生活が安全になるので快適に暮らせるようになるのだ。


 キシベは、機械の片手で径が50㎝ほどの大木の幹をがっちり掴んで、チェンソーでその下の根元を切断する。強力な歯のついたチェーンの回転は、1分も掛からず幹を切断するが、機械の腕で掴んだ幹はそのままである。切断が終わったところで機械の腕の手首を回転させて樹木を横倒しにする。


 そこで、幹に沿ってキャタビラで走りながら、チェンソーで枝を払い、長さ4mずつで幹を切断していく。さらに、切断した木を近くに仮置きとして積み上げておく。このように繰り返して、ものの5分ほどで1本の樹木の処理を終えて、次の木に向かう。こうして、伐採は人力で行うのに比べて圧倒的な速度で進んでいくので、半径300mの範囲を伐採するのに5日ほどで終わっている。


 ところで、巨人は当然森に入り込んで作業しているので、必ずしも要塞の援護を受けられない最も危険な場所にいる。実際にキシベも魔狼に1回、トカゲ人に1回襲われているが無事撃退している。魔狼の場合は行動が全くの獣なので対処はしやすい。


 巨人の運転席は20㎜の鋼棒の組み立てられた格子の檻の内部に、上半分は雨除けに透明樹脂の板が張られている。その基部は20㎜の鋼板の車体であるので、少なくとも魔狼やトカゲ人では歪ませることも無理だろう。その魔狼は、キシベの操縦する巨人が切断した幹を運んでいる時に運転席にとびかかってきた。


 そして体を檻に押し付け鋭い爪をむき出した腕でキシベを、引っ掻こうとした。しかし、概ね人間の腕ほどの魔狼の前腕の根本が格子にひっかかり、それ以上深くは腕が入らない。

 彼はとっさに運転席脇のホルスターから猟銃を抜いて、ぎらぎらと光る血走った眼をめがけて撃ち放つ。大きな反動とドコーンという音と共に発射された銃弾は、魔狼の目を撃ち抜いて後頭部から飛び出す。至近距離からの猟銃の弾は流石に魔狼を即死させた。


 トカゲ人はより狡猾だった。キシベが集中してチェンソーで樹木の幹を切っているとき、ガンという音と何かが飛んできたのに気がついて、そちらに目を向けると石が格子に挟まっており、そのかけらが体に当たったのだ。そして5mほど離れたその向こうの木の傍に、トカゲ人が立っているのに気付いた。


 そのトカゲ人の姿勢をみると、どうやら石を投げつけたらしいが、幸い鋼棒の隙間は50㎜ほどであるのに投げた石はそれより大きかったらしい。そのトカゲ人は、当たらなかったのに気付き、地面にあった棒を拾って走ってくる。早い!持っているのは金属の穂先のついた槍のようで、身長が2mほどもあるトカゲ人はそれを大きく振りかぶっている。


 とっさにキシベは、チェンソーを回したままで、鋼製の腕を振り払った。水平に振ったチェンソーは、大きく槍を投げるために跳ぼうとしたトカゲ人の緑色の胴部を薙ぎ払った。槍や剣などを受けつけない頑丈な鱗で覆われたその胴体は、半分切り裂かれつつ払いのけられた。血が飛び散る。


 トカゲ人は3mほどもすっ飛び、樹木に打ち付けられて地面にうつぶせに倒れて、びくりとも動かない。キシベはブルっと震えた。槍をもっと早く投げられていたら、あの2cmほどの太さしかない槍は格子を抜けていた可能性が高い。それを避けられたかどうかは、何とも言えない。


 しかし、あのチェンソーをまともに受けて、胴体が半ばしか切り裂かれなかったというのは何という頑丈さだ。トカゲ人が投擲を行うということは、何らかの対策が必要ということだ。これは報告して、早急に対策が必要だと思うキシベであった。


 そして、そのように巨人が働いている開発地の陸上の人員は“あ型小型要塞”に詰めている10人余と、甲2型宿舎5棟に滞在する30人余りのみである。無論彼らは“宿舎”の外に出て、様々な作業に従事しているが、すでに200m四方が切りひらかれている中央に建てられた、高さ10mの櫓の見張り所からの警報で直ちに最寄りの宿舎等に逃げこむことになっている。


 なお、キシベ他の巨人の操縦士も基本的には陸上の鋼製の宿舎に泊まっているが、2日に一度は船に行って風呂を使い陸での簡易な食事でなくそれなりの会食と飲酒が許されている。

 なお、甲2型宿舎は幅3m、長さ6mの鋼製波板の12人が宿泊できる頑丈な小屋であり、最大の魔獣といえども破壊は困難とされている。また開発地には、巨人の3機に加え、ダンプトラックが5台、クレーン車が3台、装甲車が5台あって活動している。


 さらに、本来の目的である原油の調査のために、削孔機もすでに陸揚げされて削孔が始まっている。井戸掘りの名人よると。彼らの言う気持ちの悪い液体は。上端が150mほど地下にあって、その量は彼らが経験したことのないほど膨大だという。


 それはそうだろう。地下水の帯水層は雨によってどんどん補給されるが、油は過去の生物が圧縮され化学変化してできたものがたまったもので、補給されることは基本的にないのだ。だから、その限界が感じ取れる程度の量では話にならないわけで、限界を感じ取れないほどでないと困るわけだ。


 そして、油層には与圧がかかっている場合が多いので、下手にボーリングで掘っていくと油層の上層の毒性がある液体が暴噴することになることもある。だから、ドリルのケーシングには緊急遮断弁がついているので、ドリルを抜いた時に暴噴したら、それをばねで閉めるスイッチを押す。ただドリルを抜く時間のタイムラグがあるので、ある程度の真っ黒な液体が噴出して、辺りに振り注ぐのは避けられない。


 マサキもアサヒ開発地にやってきた。ある意味最も重要な資源の、記念すべき実用が始まる瞬間を見とどけたいと思ったのだ。というより、コンノ大森林の新しくできつつある開発地を、自分の目で見たかったことによる。彼はシマズ型戦艦2番艦のアマオウに乗ってやってきた。


 戦艦からは回転翼機で開発地に降り立っている。上から見ると、広大な森林におおわれた海岸の大地の海よりの一部が切り裂かれ、赤茶けた土が露出している。現在は半径300mの範囲を高さ5mの鋼製のフェンスで囲みつつあり、その外側の森林を鋼鉄の巨人が尚も切り開いている。


 そこは、海岸線がくぼんだ湾になっているが、その湾には岸から500mほど離れてシマズが停泊し、さらに2隻の大型輸送艦、5隻ほどの中型輸送艦がおり、うち3隻は桟橋に舫われている。また、10隻を超えるボートに近い小型船が活動している。


 開発された内部には、ほぼ中心に見張り塔、さらにちっぽけな小型要塞に、甲2型宿舎はすでに10棟設置されている。さらには、フェンスが完成した時にはその中は安全と判断されているので、現在恒久的な管理棟と宿舎の基礎工事が進んでいる。


 なお、開発地のフェンスについては、最終的には最も内側が半径300m、外側は半径1㎞としてその外300mを当面の石油基地にする予定になっている。石油の精製はコンノ領のマサラ湾の最奥のマサラ付近で行うべく、現在年間100万トンの精製が可能な中規模な精製工場が建設中ある。


 ちなみに、マサラには現在大規模な製鉄・製鋼の工場が建設されている。マサラにこうした工場を集める理由は、どうしてもこうした工場はある程度の公害の発生が避けられないので、現在では人口が希薄であって豊富な水が得られる点がある。さらには、マサラ湾の最奥ということで、海から攻められる脅威に対処しやすいということがある。


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