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錬金術で進める国作り  作者: 黄昏人
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シマズ王国石油開発のために魔獣狩りを行うこと

読んで頂いているがとうございます。

 ムカイ・サジロウ1佐は、作戦名“アサヒ”の指揮官に指名された。シマズ軍は“王国”に模様替えしたのを機に、その組織・階級の名称も改変している。現状では4万5千の旧来のシマズ領の常備兵に、王国に加わった領から抽出された兵約2万5千を組み込む過程で必要になった措置である。


 つまり、シマズ王国軍としては、兵力7万になる訳である。これは全てが常備兵であって、今後は臨時の徴兵である農民兵などは考えないということになった。それはシマズ王国が強力になりすぎて、南北ワ大島での戦乱の恐れがほとんど無くなったことも原因である。


 シマズ王国軍の軍政は、将、将補の2階級の将に続き、1佐、2佐、1尉、2尉までが将校であり、さらに、下士官としての1曹、2曹の2階級と兵士が1士、2士となっている。最近まで全部で5階級ほどしかなかったのであるから、これでも増えた方である。


 35歳のムカイはシマズ領軍生えぬきではなく、7年前にシマズに併合されたカワズ領の出身であり、併合の際にシマズ軍への募集に応じて加わったものである。カワズ領では中堅の家の3男であり、弓、槍や剣のような武芸は得意な方ではなかったために、彼は武士としてはうだつが上がらない存在であった。


 なにしろ、カワベ家では槍や剣術が得意な者が抜擢されて指揮官になっていた。まあ脳筋好みということだが、ムカイの見る所ではその組織のありかた、また指揮の考え方は無茶苦茶であった。さらには、槍や剣術と言っても技料を磨く場がなく、技よりパワーと体格が勝る者が強いという風であったから、細身で運動神経も平凡なムカイが浮かぶ瀬はなかった。


 ただ、彼は文や算術には長けていて、本については領内にあるものは殆ど目を通してしまっていた。だからとりわけ算術を評価されて勘定方では活躍もしていたが、武力偏重のなか名門の同年代の者から嫉まれて余り評価されることはなかった。領内には彼のように、個人の武には才能がないが、文に長けている者もそれなりに居て、互いに愚痴をこぼしながらも、情報を交換する仲間がいた。


 その意味で、周辺領から目の敵にされつつあったシマズ領については、注目もされていた訳で、それなりに情報を仕入れて、シマズが新兵器である鉄砲を多く所有していることは掴んでいた。槍や刀の扱いに自信がないムカイにとっては、鉄砲という兵器は、弓が得意な自分でもそれなりに扱える可能性がある。


 さらにそれを駆使した戦いは、今までと全く違ったものになるはずで、シマズに生まれなかった自分を嘆いたものであった。そして、自分の領がシマズと戦うことになって、武士の端くれであるムカイも当然動員されたが、彼は彼我の情報を比べてカワベ家も含まれる連合軍は勝てないと結論づけていた。


 それは鉄砲という武器は未知ものであるが、彼の判断ではそれは数を揃えたら大きな力を発揮すると感じていた。さらに、理性的な動きをするシマズの動きから。それに十全の信頼を置いていることが窺えたのである。ムカイはそのように見込みの薄い戦いで死にたくはなかった。


 だから、うまく立ち回って輜重担当になることで前戦に出ずに済ませた。カワベ家は当主自ら出馬するという力の入れようであったが、結果として戦いにもならず、当主が狙撃されることで、あっという間にカワベ領の兵は四散してしまった。


 そして、意図的に後方への配置を選んだムカイであったが、彼の属する輜重隊が、カワズ領を目指すシマズの騎馬隊に追い付かれてしまった。輜重隊の隊長は、ムロイという40歳代の半ばの細身の大人しい男であり、銃を持った200騎ほどの騎兵に追い付かれると、狼狽えて刀を抜いて抵抗するように号令を掛けようとする。


 それをムカイが慌ててムロイの刀を持った手を止める。こちらの武装した兵はたかが20人ほどであり、槍や銃を持った200騎に対してはまさに鎧袖一触である。


「降伏します。我々は輜重隊であり、碌な武装はしていません。降伏します。皆降伏せよ。刀や槍を捨てろ!」

 ムカイは必死で声を張り上げるが、内心は自分が大きな賭けをしていることが判っていた。シマズの兵の統制は取れていて、無体な乱取りなどはしないと聞いていることに賭けたのだ。


 実際には、このようなケースでは追撃してきた兵が、敗残兵を皆殺しにするのはよくあるらしい。騎兵はムカイ達を見ると一旦は止まって、20名ほどが馬上で銃を構えて相手の対応を見守っていたが、ムカイの声に隊長らしき兵が声をかける。


「ようし、手向かいしないのであれば、こちらも攻撃はしない。さっき言ったように武器を手放せ!手放さないなら撃つぞ!」

 その声と共に指揮官がムカイ達の頭上を指さし、横の兵に顎をしゃくるとその銃を構えた兵が銃を上げて空中に撃つ。ズキューン、薄く白い煙が吹き出すと共に火矢が走り、大きな銃声が響く。


「見ろ、俺たちは皆銃を持っているぞ。お前らでは相手にはならん。武器を捨てろ!」

 指揮官の声に、カワベの輜重隊の者達は諦めて一斉に持っていた刀や槍を捨てる。その後、指揮官は銃を持った5名を残し、他は更に前進させる。カワベ領の接収を優先させたのだ。


 その様子を見ていたムカイは、整然としたシマズ軍の行動に感じ入り、その後シマズ軍の募集があった時にすぐさま応じたのだ。無論、裏切り者などとそしられはしたが、全体に理性的な者が多いムカイの親族からは、シマズに身を投じるという決意を非難するものは少なかった。


 彼には、3歳下の妻と3歳の長女が居たが、大人しい妻は彼の決意に不安そうではあったが黙って従った。カワベ領からの50人ほどのシマズ軍への入隊希望者は、先に本人のみが馬車で集められた。そこではまず、槍と剣の手合わせ、さらに弓の射的があって、それぞれの腕を診られたようだ。


 武道の面では自身がないムカイとしては、いいようにあしらわれてすこし悲観したが余りそれは重んじられていない様子に、希望を持ったものであった。さらに面接があって、最初のものは軍務上や組織人としても振る舞いなど簡単なものであったが、2回目、3回目と段々に戦術、戦略的なことを問答するようになった。


 その3回目の時点では、カワベ領から来たものは2名ほどしか残っていなかったので、ムカイは相当に評価されたのであろう。その後、3回目の面接の後に彼らが与えられる官舎を見せられた。それはまだ新しい2軒が合わさった棟割りの家ではあったが、4間の部屋に召使の部屋もあって庭もあり厩、倉庫もあってまだ一般的でない風呂もあった。


 実際に、その後任官してシマズに引っ越すと、カワベでは長屋住まいであった妻は大喜びで、娘も新しく広い家に大満足であった。また軍では最初から10人ほどの小隊を任せられた立場で、相当に重用されていることが実感できたが、必死で頑張る内に組織の中でそれなりの存在感を感じるようになっていった。


 彼は、年々指揮下の人数が増えていきシマズが王国を名乗るようになった時点では、2千の兵を指揮する侍大将になっており、王国軍では新しい上級の指揮官である1佐に任じられたのだ。その時点では、自分の王国軍での立ち位置というものが見えてきた。


 王国軍として将、将補に任じられたのは12名であり、2/3は元々のシマズ領出身であるが、半数がそれ以外というのは、シマズ軍が開かれた存在である現れとムカイは考えている。まあ、軍の司令官は無論将に任じられている王太子のカジオウ殿下であるのが、これは別格である。


 ただ、ムカイとしては何度かカジオウ殿下とは会議の席を同じくし、さらに個別に議論もしたことがあるので、その優秀さを実感している。多分、殿下はあの“マサキ様”と最も密接に接しているので、マサキ様の異次元のものとも思える知恵を多く身につけていることも大いに原因しているだろう。


 しかし、生来の鋭い知性と進取の気性は疑いない。だから、カジオウ様ならマサキ様の存在なくしても、このワ国に覇を唱えることも大いにありえただろう。もっともシマズ王国は、すでに南北ワ大島において盤石かつ最強の存在であり、それもこの経済発展が続く限りは長く続くこと間違いないであろう。


 その意味で、ワ国での“軍”という存在の意味が薄れてきていると思うムカイであるが、今回のコンノ領の油田開発と魔獣退治は、ある意味新たな王国軍にとって大きな意味のある行動であると思うのだ。その指揮官を命じられ、詳しく状況を調べた彼は、魔獣が多分現在ではワ国おける最強の敵であると気を引き締めた。


 さらに、“石油”という資源が今後のシマズ王国にとっていかに大事なものであるか、マサキ様に呼び出されて懇々と説明されて、自分の仕事が絶対に失敗できないものであることを実感した。彼は調査の結果を元に、まずは調査隊によって橋頭保を築き、それから本格的な設営隊を送り込むつもりであった。


 設営隊は、分厚く軍で護衛した上で、技術者と職人による民間人によるもので最終的には石油による産業を中心に大きな都市を建設することになる可能性がある。その辺りは石油の埋蔵量次第ということになるというマサキ様の話であった。


 幸い、アサヒと名付けられたその場所は、元々沿岸を調査中に海での油膜で気が付いたというだけに、沿岸部でちょっとした湾になった土地である。また一帯は森林に覆われてはいるが、平らで乾いた土地であるので、地形・地質上で開発には適している。


 更に沿岸ということは船での大量かつ大重量の貨物の輸送に適しているので、魔獣に対しても重火器での対処が可能である。そして、その重要性に鑑み、予算や資器材の調達については最優先が与えられているので、海軍の最新・最強の戦艦シマズがしばらくは帯同することになっている。


 戦艦シマズは、シマズでは最近普通になりつつある全鋼製艦であり、全長80m、幅11mで総重量2千トンを超える艦で、砲塔に装備した40口径12㎝主砲を2門備えている。駆動はコークスを燃料として魔道具を使った熱発電によるモーターによっており、最大速度は時速30㎞で航行できる。


 この主砲は、2連装の砲塔に備えたライフルを刻んだ砲身から細長い爆裂弾を撃ちだすもので、最大10㎞の遠距離砲撃が可能であるが、2m四方程度の的に命中できる有効射程は2㎞程度である。従って、戦艦シマズが沿岸にある限り、最強の魔獣と言えども撃退することが可能とムカイは考えている。


 当初はシマズを要求したムカイに対して、大げさと言う意見が多く出たが、回転翼機による調査で体長10mに迫る魔獣がいることが判ったこともあって、王太子のカジオウの言葉で隊に加えることが決まった経緯がある。


 なにしろ、陸で運べる砲は現状では30口径100㎜砲、または75㎜の無反動砲であり、人より少し大きい程度の魔獣すら槍や斧でも歯が立たないようでは、何倍もの魔獣には威力が不足すると考えられたのだ。


「ううん、この魔獣はいささか手強いと思うよ。このトカゲ人か、これに対しても今のわが軍の標準装備では凄い犠牲が出る。単発銃では何十発もの命中弾が要るな。初速の早い狙撃銃で連発にした銃と、無反動砲を標準にする必要がある。それも近づけないように、乱射して仕留めないとだめだな。

 増して、この一番でかいトカゲだけど、これは俺が知ってるティラノサウルスで重量が5トンはあるな。多分手持ちの銃や無反動砲では、鱗の部分には歯が立たないだろうけど、目や口だと効くと思う。でも、軍の部隊で対処すると被害が凄いことになるから。遠距離から砲で仕留めるしかないだろうよ。


 多分、シマズの艦砲だったらいけるかな。あれは照準装置を大分工夫したから、1㎞位の距離だったら当てられるだろうしね。陸の野戦砲はちょっと威力不足のような気がする。

 うーん、やっぱりシマズを持って行った方がいいと思うな。このティラノサウルスが群れで襲ってきたら、陸上の部隊では手に負えないので、即刻船に逃げた方がいいし、その場合シマズだったら、対処できるよ。戦艦シマズもどのみち今のところは訓練しかやることが無いのだから、いいじゃん?」

 結局、ムカイとカジオウがいる席でマサキがこう言ったのが決め手になったのだ。


 ムカイは、輸送艦アズマの舷側からにアサヒ湾を見つめている。そこは幅2㎞奥行1㎞ほどで両方を小高く小さい岬に挟まれた小さな湾であり、その中央には幅20mほどの川が流れて込んでいる。水際は岩がごろごろしていて、水際から急に深くなっていて港を作るには適した地形である。


 アサヒ湾一帯半径10㎞の範囲は、すでに回転翼機で調査されて地図も出来ているが、緩やかに高くなっているがほぼ平らな地形であることが判っている。湾内には油兆である油膜がうっすらと浮いているが、すでに油が滲み出ている場所は上陸して特定している。


 だが、それを発見して上陸した調査船の上陸部隊も、トカゲ人の群れに襲われて2人の犠牲者を出している。だから、その時点では詳しい調査は出来ていないが、その後井戸掘りの専門の錬金術師を複数連れて来て、井戸掘りの水脈を診断するのと同様に油脈を診させている。


 常時海岸に船を着けて、魔獣が寄って来たらいつでも逃げられるようにしての調査である。その井戸掘りの名人達の見立てでは、水脈とは異なるが深いところに巨大な塊があるということであるが、油は水と違ってなにか気持ちが悪いということを言っていたそうな。


 このことで、アサヒ湾の油脈が相当に規模が大きいものであることが確かめられて、その開発の意欲に拍車がかかったことになる。ムカイの手元には。その井戸掘りの錬金術師から聞き取った、油層のスケッチを地図に重ねた図があって、それを舷側からの風景と重ねている。


「ヤジマ、油層はあの辺り一帯に広がっているので、削孔はあの当たりへんだな。だから、少なくともあの地点の海岸から半径500mほどは当面樹木の伐採をして、柵を巡らしたい」

 ムカイは、自分の横に立って広げている地図と現地を見くらべているヤジマ2佐に話しかける。彼は現地作業の指揮官である。


「ええ、大変ですが、鋼鉄の巨人、あれがあれば何とかやれると思います」

 ヤジマが返事をするが、5日の桟橋を作りながらの荷揚げ作業の後、ヤジマが鋼鉄の巨人と言った機械が上陸して、木々をなぎ倒し始めた。


 それはキャタビラで走行する車台に巨大な鋼鉄の2本の腕を付けた機械であり、運転手は鳥かごのような現状な檻に入っている。その腕の先に、一つは鋼製の開閉する2本指を付け、もう一つはチェーンソーを取り憑けた、開発作業機である愛称“鋼鉄の巨人”である。これは、すでに開発されていたブルドーザにユンボをベースに魔獣対策として改造したものである。


 無論ブルドーザとユンボは別途持ち込んできたが、オペレータに安全が確保できないので今のところは陸揚げしていない。この鋼鉄の巨人は、その重量が15トンに達する重量と、時速40㎞で不整地を走れる速度と、傀儡使いの才能を持った操縦者によって自由自在に動ける素早さがある。


 これは、すでに伐採の進める傍ら、寄って来た10体以上のトカゲ人を殴り倒しチェーンソーで切り裂いて退治している。運転席は頑丈な鋼棒で囲まれているので、魔獣が襲ってきても安全は確保できている。現場はすでに、到着から7日で海に30m突き出した鋼製の桟橋が出来ており、200m四方の伐採が済んで、一隅に裸にされた樹木が積みあがっている。


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