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錬金術で進める国作り  作者: 黄昏人
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北ワ王国、今後を悩むこと

読んで頂いてありがとうございます。

 北ワ王国の軍事奉行のマカズ・ジュウロウは、第一師団長のミワ・カズジとその他の幹部7人を交えて自分の執務室で話をしている。


「昨日の御前会議の内容と、それに伴って軍としての方向について決めなくてはならんので、まず貴殿らと話し会いたい。会議の内容の要旨はその渡した書類の通りだが、あくまで軍で言えば将軍以上の職にあるものに限られた秘密であることを言っておく」

 マカズが言って出席者を見渡すと、いずれも真剣に頷いている。


 ちなみに、ワ国において印刷術はあるが、手練れの木版の錬物術師が元の文章をそのまま木板に凹版として写しとり、それにインクをローラーで押し当て紙に写し取るという手法である。無論紙は粘性のある樹皮を使って作ったいわゆる和紙である。


 この点でシマズでは、すでに紙はパルプを使ったものが主流になって価格が大きく下がっており、活版印刷が普及して多数の本が出版されつつある。その他にも、ワープロの働きをする魔道具が出来ており、それをコピーする魔道具もあってマサキの率いる研究所では普通に使われている。


「そこの書類にあるように、1に示しているのは、基本的には別途御前会議で決めるまでの期間、シマズ、今はシマズ王国になったが、彼らと軍事的に争わないということだ。つまり、今までやって来た南ワ大島に攻め込むための準備、軍船や兵の輸送船の建造、兵の装備、北ワ大島の南側領主との交渉などは止めるということになる」


 マカズが一旦話を切ったのに、共に大演習に行ったミワが追加する。

「この点は、すでに皆には報告したように、キラ王陛下を始め中枢の方々が、シマズの演習を視察したマカズ閣下や儂の報告を受けた結果になる。少なくとも我が王国軍が、今の兵力と装備でシマズと争うことは自殺行為であることが、明らかになったということだの。

 すでに説明したように、彼らの使っている鉄砲は、我らの知っているものとは全く違う。あれに対して、我が王国の持つ3千の鉄砲隊に加えて、弓や、槍あるいは刀剣に騎馬隊を含めても戦うのは単なる自殺じゃ。しかも、鍛冶の者とも相談したが、彼らの銃はどうやって作るか見当も付かん。


 それを近くで見せられたが、銃は鍛冶の者が多分作れるじゃろうが、撃ちだす炸薬と弾が一体になった“弾”はどうにもならん。これは、大陸の商人にも聞いてみたが、皆火縄銃以外の銃は知らないと言って、彼らもシマズの銃に大いに興味を持ったようだ。

 更には彼らの大砲じゃ。大陸の大砲というのは重くて中々持ち運びが出来んということと、威力もそれほどでもないということで、わが軍では試験に使う2基以外は買っておらん。それに対して、シマズのものはすでに次元が異なる。

 着弾すると大爆発する弾と、2㎞先の的を正確に撃てる精度、さらに彼らそれをトラックという自動車で引いているので、軍の行軍に楽々ついていける。そのような軍に例え10倍の兵がおっても勝てん」


 強気で知られてはいるが、知将でもある第一師団長の言葉に、出席者はすでに骨子は聞いてはいるが改めてその意味を噛み締めている。さらに、マカズ奉行の話が続く。


「ミワの言う通り、我ら軍としては残念ながらシマズには勝てんことは認めるしかないことを、キラ王陛下に申し上げた。さらに、シマズの者は我らのみでなく、視察団を送った全ての領の者の前で言明した。

『シマズは、少なくともワ国における他の国・領に相手から攻撃されない限り、武力をもって侵略してその領土を奪うことはない。ただし、その民を、売り買いする、奴隷化する、飢えさせるなど余りにひどい扱いをしない限りにおいてである』とな。


 我が王国は、王陛下が民は国の礎であると言われ、愛しんでおられる。従って、シマズが言うように民を迫害することなどはあり得ないから、彼らが言う事項についてわが王国を攻める理由はないのだ。我らは、ワ国ほぼすべての領のそれなりの者に前で言明したことをシマズは覆すことはないと考えておる。

 我らには、今のところ軍事的に脅威となるのはそのシマズしかおらん。だから、今後は船を造ったり、銃を始めとする軍備を整えることで、多くの人出を掛け湯水のように金を使っているのを止めるということだの。今後は、それで浮いた金を使って、シマズの技術を取り入れて国を豊かにすることに専念することになる。


 シマズの戦をしないという宣言も、結局大幅に急に大きくなった自分の領内の開発を、もっと進めてより豊かになろうということだ。戦などやっている暇と金はないということじゃな。

 軍としては予算が削られるので有難くはないが、シマズに全く敵しえない武器を増やしても仕方がないのも事実である。とは言え火縄銃などはシマズには使えんが他の相手には使えるし、作ってきた船は今後国を豊かにするために大事な設備だ。また増やしてきた常備兵は、国を挙げての様々な活動に使う予定である。

 そこで、2に示しているように、我が北ワ王国の産業開発計画を立てることになっている。そして、これの骨子はすでに決まっていて、基本的にはシマズの真似をするこということだな」


「ええ、そんな安直なことを!」

 御前会議に出ていないミワも含めてあきれ返るが、マカズが続ける。


「まあ、ぶっちゃけるとそういうことだが、そのようには書いていないだろう?」


「ええ、『シマズの協力を得て、王国の農業、工業、商業などの発展を促進する』、とありますな。して工業と言うのはなんでしょうか。木工とか鍛冶のことですかな?」

 第3師団長のカジキが文書を読んで聞く。


「工業というのは概ねはカジキの言う通りじゃ。しかし、実際には巨大な建物に数多くの錬物術師などを配置して、今までは考えられんほどの多量のものを作りだすような産業になる。

 さて、結局シマズがそのような産業で著しい成果を挙げているのは事実じゃ。その効果で、儂とミワが行ったシマズ領の生活は、全く我が王国とはかけ離れていて、民の生活はすでにわが王国を大きく上回っておる。放置すれば、その差はどんどん広がって、その差に怒った我が民が王陛下に不満を持つやも知れん。


 実際に南ワ大島のシマズ周辺の領の、民ならず武士階級の者もシマズに統合されることを望んでシマズ王国に加わっておる。キラ王陛下と宰相閣下は遠からず、南ワ大島の全ては、戦をするまでもなく、シマズ王国に統合されると見ておられる。

 実際に、シマズに自ら統合された領の民は無論、領主及びその家臣であった武士階級の者は、戦への費えが無いだけにその前に比べてむしろ良い生活をしておるようだ。ただ、領主・家臣共は今まで領内で一番の立場から多数のシマズに仕える一家臣になるがな。


 それに、侵略に怯え戦で傷つくあるいは死ぬこともない。シマズはそれを積極的に知らせているので、シマズの周辺の領では広くそれを知っておる。だから、領主もその一族もシマズへの統合を拒まなかったのだな。

 しかし、わが王国はいささか事情が異なる。かつてはワ国として、南北大島を統合していた時代にそれを治めていた大王様の御子孫が今のキラ王陛下である。今は北ワ大島の過半のみが領土ではあるが、シマズも凌いでワ国最大の領民を持つことは事実であり、歴史的にもっとも権威ある存在である。


 であるから、我が王国がシマズの下に付く、つまりシマズ王国の一部となることはあり得ない。とは言いながら、わが王国の立場はどんどんシマズに奪われつつあるのは事実である。すでに、貨幣の発行量において我がワ国貨幣はシマズに抜き去られておるし、嘗て最良の鉄と言われたわが王国の鉄材も質と量の両面で抜き去られている。

 シマズのそのような動きの全ての中心は、“マサキ”と呼ばれる弱冠16歳で、シマズの生産研究所の所長を務める年若い天才の知恵であるようだ。だから、その知恵を手に入れて、かつシマズがやって来たことをなぞれば、わが王国もシマズにさほど劣ることないほどに豊かになる。

 つまり国力を上げていくことが可能になる、いや可能にするということだ」


「なるほど、それは道理ですな。しかし、とは言えその“マサキ”の知恵を手に入れること、さらにシマズのやって来たこと真似をすると言っても、シマズの協力なくばなかなか難しいのでは。最近まで、彼らを攻めようとしていた我らに力を貸すほど彼らがお人好しとは思えませんが、いかがでしょう?」

 カジキが聞くのに、ミワが応える。


「ああ、その点は大演習の後にシマズの世継ぎ、今の王太子のカジオウ殿から奉行様と共に聞いている。彼らはワ国から続く我が北ワ国の歴史と権威を認めているという。まあ、彼らは古くから民に慕われていて連綿と続くわが王国を滅ぼすことによる民の反感を嫌っているのと、戦による無駄を嫌っているのだろうな。

 カジオウ殿は、この世界においてワ国の南北大島などはちっぽけな存在であり、ワ国の民どうしが互いに争って憎しみ会うのは大いに無駄であると言っておった。大陸からの商人は、シマズにも来ておりシマズも大陸に船を出しているらしく、彼らは様々なことを調べておるようだ。


 いずれにせよ、カジオウ殿からは、シマズとしては古くからのワ国の王家である我が王室は存続してほしいという意向であると言われた。そして、北ワ王国が力を付けるためにできるだけの手助けをするとも、カジオウ殿から確約された。

 だから、我が王国から、シマズの技術と仕組みさらに開発のありようを学ぶために人を送り出せば、きちんと教育すると言う。さらに、無償ではないが資材も提供し場合によっては金も貸すと言う。


 我が王国が、シマズ如きの新興領に教えられるというのはいささか業腹であるが、彼我の今の力関係からはやむを得ん。ただ、軍については、時間をかけてワ国全体について、統一したものにしたいと言う。ただ治安維持という面での人員は各領、わが王国にも残すと言うが……」


 それにマカズが続く。

「カジオウ殿は、まだ20歳になったばかりの若者であるが、天才というより異様な知恵を持つマサキ殿と行動を共にすることが多いせいか、我々に比べて物事を見る目が広い。そして、その彼が大陸からの脅威について相当に懸念されていた。

 どうも直近の大陸には我々に似たもの達が住んでいるが、遠く離れた所には肌の色、顔つき、体つきが大いに異なる人々が住んで、血で血を洗うような諍いを続けているそうな。そして彼らが多くの異民族を征服しているとも言う。確かにそのような者達であれば、我々の考えつかないようなことをする懸念がある。


 その意味では、確かに全部で1千万民になるであろうワ国は全体でまとまる必要があるかもしれん。そうした場合には、その軍にはシマズが主たるところを占めるであろうが、わが王国からも相当な数が入るはずじゃ。だから、その軍はシマズのみのために働くような軍にはならないと考えておる。

 カジオウ様が言うには、できるだけ多くのことは我らに教え、人も送り込んで指導するが、当面鉄砲・大砲などの軍備については除くそうだ。しかし、わが王国からの者がシマズ軍、これは将来はワ国全体の軍になるというが、それに入れば無論すべてを伝えることになると言う」


 そこに、参謀長であるムネタ・ロクロウが、皆を見渡しながら口を挟む。彼は物事を的確に判断することでは信頼をえているが、極めて慎重な性格でもある。

「マカズ奉行様、ミワ殿共に、シマズの言うことを信じておられるようですが、それは少し早いのではないでしょうか。確かに、大演習の様子、シマズの街の様子を聞き、さらにはマカズ様達のみ見せられた人を乗せて飛ぶ機械のことを思うと、わが軍が南ワ大島に攻め込んでも簡単に撃退されることは確かでしょう。

 しかし、わが王国の戦力でも、守る方になればまた別の話だと思います。なにより、海に隔てられているわけですから、簡単に彼らがわが王国を征服することはできません。それを、彼らを受け入れて人の行き来が始まった時に、彼らが突然武力を持って征服にかかったら抵抗の術はなくなるでしょう。


 そのカジオウ様の言うことが、正しいというか正直であったとしても、シマズとしてはワ国の中に我が北ワ皇国があるよりも、シマズの統一王朝の方が外部から敵が来た際には守り易いのじゃないですか?だから、まだシマズの意図は、疑ってかかった方が良いと思います」


 そのように言われると、カジオウと直接話した訳でない者達は迷ってしまうのを見て、マカズが応じる。

「うむ、そのような意見は当然出ると思った。しかし、何も動かず守りを固めることは、シマズという特異な存在がある限りできない。もしそうすると、自分は殆ど進歩なしに急速に高まっていく相手を黙って見ているしかない。そして、シマズは自分と自分の味方についた領の繁栄を大いに誇るだろうな。

 そうして、国内に不満が高まって行き、彼我の力の差が大きく開くことで、いずれにせよ、シマズに屈することになると思うがの。つまり、マサキ殿という異常な存在がシマズに仕えたことで、こうなるのは必然であったのだよ。もはや、見てみない振りをして穴に閉じこもるのは許されないのだ」


 その言葉に、ムネタを始め他の武将も俯いてため息を吐くのみであったが、第3師団長のカジキが愚痴をこぼすように言った。

「はあ、もしそのマサキがわが王国に仕えるようであれば、立場は逆であったのでしょうが……」


「ああ、しかし、果たしてわが王国にマサキが居たとして、彼を仕えるように誘って思うようにやらせたかな?わが王国は歴史が古いだけに保守的であり、カジオウ殿のように国を動かす人物が彼を生かせたかどうかは疑問だ」


 マカズが応じて、さらに皆を見て言葉を続ける。

「さて、そのようなことで、手元の書類にはその他に我が王国の組織変革と、シマズに送り出す人員についても概略が書いてある。とは言え、実際には王国の産業開発計画が固まってからのことになる。

 これが概ねの骨子であるが、さて軍として国のこの動きにどう対応するか皆の意見を聞きたい」


 それに対して、自分の利害に直接からむことなので、出席した将官からは積極的な意見が数多く出た。


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