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錬金術で進める国作り  作者: 黄昏人
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シマズ王国軍魔獣狩りに取り組むこと

読んで頂いてありがとうございます。

 シマズ王国軍は最初の大仕事として、コンノ領南部の大森林に跋扈する魔獣を狩ることになった。これは、コンノ領がシマズの傘下に入り、かつそこに大製鉄所を造ることの条件となっていた懸案事項であった。コンノ領南部の沿岸地方は東西100㎞、南北50㎞の広大な森林がある。


 そこには人が侵入すると、まず間違いなく帰って来ない謎の地区であった。しかし、まれに中に侵入して生き延びる者がいて、そこには多数の野獣が住みついて、吠え声が聞こえたという。しかし、コンノ領としても、その広大で莫大な巨木や多くの資源があることが判っている地を放置することはできない。


 人口が増えて、人々が住む土地が不足し始めたのだ。そこで、現在のコンノ領主であるコンノ・ショウザの父のゲンゴが、20人の精鋭を大森林内部の探索に行かせている。無論そのために、森林の周辺に住んで、森林の浅いところで様々な果物や小動物などを採取して生計を立てている村人を案内につけている。


 村人は森林の奥に踏み込むことを非常に嫌がったそうであるが、武装した兵達に領主の命令と言われると行かざるを得ない。そして、3日後に帰って来たのは、案内についた村一番強いという若者に、ぼろぼろになった兵2人のみであった。


 彼らも、最初の日は順調であったらしい。その日は全長1m位の犬のような獣に、やはり同じ程度の大きさの猪のような獣に数回出会った。これらは、強弓と槍、長柄の斧で武装した彼らにとっては2~3人であしらえる相手だった。


 しかし、2日目はまず体長3mもの熊の魔獣に出会い、これは隊の半数が弓で目を狙い、弓と斧で交互に打ちかかってようやく倒した。そこで、更に進むかどうか迷ったそうだが、結局前に進むと、今度は鱗のある全長5m、体高1.5mほどもある大きなトカゲに出会った。これには、弓は無論、槍も斧も歯が立たず、早々に退却に入った。


 しかし、逃げ帰るところに今度は体高2mほどの直立する鱗のあるトカゲのような3匹の獣に出会った。これらも、先ほどのオオトカゲのように、持っている武器では歯が立たず、しかも鋭い上腕の爪と、尖った歯で素早く襲ってくる。彼らは必死でその攻撃をさばいて逃げ回るしかなかった。


 どんどん隊員が爪で引き裂かれ、牙で噛みつかれ引き裂かれて、動ける隊員が減っていくが、やがて3匹の獣は倒した人体を食うことに夢中になった。それで、かろうじて最初から逃げることに専念した村の若者に加え負傷した2人の隊員が逃げ帰れたのだ。


 それに加えて、彼らの証言によると最終的にたどり着いた30㎞ほどの森の奥で、5mを超えるような何かの動くのが遠目に見え、それが発する響き渡る咆哮を聞いたという。だから、彼らの出会った相手を遥かに超える強さの獣が存在する可能性があるということだ。


 その報告で、コンノ領としてはそれ以上に部隊を大森林に送ることは諦めた。しかし、その部隊が出会ったという強力な獣が森林周辺の村に出没したという報告がないことから、森に踏み込まないで周辺を開発するなら、問題ないと結論した。


 それで、領主であるコンノ・ゲンゴは既存の村の周辺に存在する、広大な荒野を開発にかかった。その地区は肥沃で、川があるので水も十分で良好な農地になったために、20年ほどで総計2万人以上が住む村々が出来で、領の穀倉となりつつあった。


 しかし、そのように人口が増えてためであろうか、様々な獣による人が襲われる案件が報告されるようになった。それは主として、前に報告のあった犬や猪のような獣が主であったが、時折トカゲ人と呼ばれるようになった直立する鱗のある獣によるものである。


 全てが村人には手に負えない相手であり、トカゲ人に至っては、派遣された領軍でも手に負えず、人や家畜を食って満足して帰るのを待つしかなかった。トカゲ人は、村に行くと餌にありつけるということを認識したらしく、時に10頭を超える群れを作って侵入してくるようになった。


 それを退治しようとして、領主のゲンゴは自ら指揮を執って200騎の騎馬と1000の歩兵から成る領軍で戦ったが、12頭の群れに圧倒されて半数が死傷し、大将たるゲンゴが戦死することになった。家督を継いだショウザは、取りあえず開発した村も含め既存の村を放棄するしか方法がなかった。


 とは言え、本人も父の無念の死とその思いをそのままにすることは、慚愧たる思いであったし、家臣からも再度の討伐行を主張する者がいた。だが、勝てる術が見いだせない以上、領主として更なる犠牲を出す危険を冒すことはできなかった。その意味ではショウザは理性的な領主であると言えよう。


 そこでショウザは、シマズの軍事大演習を見て、シマズ軍ならばトカゲ人などの強力な魔獣も退治できるのではないかと思った。そこで、シマズからの傘下に入るようの誘いと、領の大規模な開発の申し出を受けて、その了承の交換条件として魔獣の退治を依頼したのだ。


 なお、多くの犠牲の上に退治された少数のトカゲ人とオオトカゲについて、その死体を獣類に詳しい者が調べている。その結果、これらには魔素が多く含まれて、普通の獣に比べ強化されて、凶暴性も増しているということで、大森林の大型獣は魔獣と呼ばれることになっている。


 シマズ家からコンノ家に送られて、領主の交換条件を聞いた使者は、シマズ軍であれば魔獣如きは簡単に退治できると思いその場で引き受けた。そして、国王に呼び名が変わったアマオウもそれを了承した。しかし、要求を振られた軍の参謀長のミカイ・ジウンは、そのように簡単な任務ではないと考えた。


 彼は、槍や斧で歯が立たないような頑強な魔獣に普通の銃では通じないことをまず考え、慎重な調査が必要であると考えたのだ。ろくに道路が整備されていない集落のあった陸側からは、大きな機材を持ち込んで部隊を送り込むことは困難である。


 だから、まず大森林の南側が海に面していることを利用して、艦船とそのころ試用され始めた新発明の機材を使って調査を行うことで、思いがけない重要な発見もあって短期間に大きな成果を得た。そのために、魔獣の討伐行が趣を変えて国を挙げての重要な作戦になりつつある。


 そのための部隊を送り出すための準備に追われている時に、外事方からニシキ・タダシがミカイを訪ねて来た。ミカイは、コンノ家から魔獣退治を要請されて請けた本人であり、いつそれが始まるか気にかけていたのだが、コンノ家に報告するにも軍の行動に時間ががかかっているのを懸念していた。


 だが、いくら何でも格上の軍のN0.3である参謀長を叱りつける訳にはいかない。自室に訪ねたニシキを見たミカイが笑って尋ねる。

「これはニシキ殿、今日はコンノの魔獣退治の催促かな?」

「え、いや、そういう訳ではないのですが、私自身がコンノ・ショウザ殿とお約束した形になったものですから、どういう状況か知りたいと思いまして……」

「まあ、この件は国王陛下もご了承されてのことなので、我らも達成すべく努力している。ただ、その魔獣は調べるにつけ容易ならない相手であることが判ってきたのだ」

「おお、しかし、無敵のシマズ軍なら、魔獣ごとき……」

「いや、そこがまず間違っている。この近辺の中央山地にも人を襲う熊や猪、野犬がおり、人々が時折被害を受けている。わが軍は単発銃が標準装備になっているが、君は単発銃で熊を撃ったら倒せると思うかな?」

「そ、それは倒せるでしょうが、熊は頑丈だから2~3発必要かな?」

「そう、獣は人に比べて遥かに頑丈だ。だからその胴体だったら10発程度撃っても怒らせるだけで倒すのは難しいな。目や口に打ち込まないとね。とは言え、こうした害獣を退治するための猟銃はすでに開発されていて、それは銃の口径も大きく発射に使う火薬の量も多い。

 しかし、コンノの大森林の魔獣はずっと手強いと考えているので、その猟銃でどの程度通じるか、森林でも持ちこめる迫撃砲でも通じるか疑問であると思っている。


 結局、我らは人が相手であれば、このワ国の範囲での相手であれば各兵の持つ銃や迫撃砲があるから無敵であろう。しかし、魔獣に対してはまだ何とも言えないのだ。

 そして、侵略を意図する敵国と違って、対することが必然でもない魔獣という相手に対して、我が兵士の犠牲を顧みず対するわけにはいかないのだ。この点はカジオウ王太子殿下にもご了承を頂いている」


「なるほど、確かにそれは道理ですな。しかし、コンノ家への約束のことは置いておいても、すでに我がシマズ王国の版図である大森林とその周辺を放置するというのは、いかにも……」


「そうだ。それがあるので、まずは現状で現地に持ち込める最強の武器を持った調査隊を出そうということだ。それで、必要とあらばマサキ様にもお知恵を借りてより強力な兵器を開発し、万全の体制で魔獣を退治する」


 ニシキは、マサキの名まで出して軍が前のめりであるのに少し驚いた。本当に手強い相手であれば、大森林を放置するという選択肢もあるのだ。

「ええと、ミカイ参謀長殿。軍はえらく力が入っているようですが、何かあるのでしょうか?」


 ニシキの問いに、ミカイはニヤリと笑った。

「実はあるのだよ。これは秘密であるがな、貴君の立場なら打ち明けていいだろう。しかし、他に漏らされると罰せられることは言っておくぞ」


 ニシキが戸惑いながら頷くと、ミカイが続ける。

「実は軍は、3隻の小型艇を使って大森林の海側をじっくり調べたのだ。そこで、1ヵ所で油が海に流れているのを発見したのだ。その油を採取して、マサキ様に見せたら『原油だ!』といって大喜びされたよ」


「原油!あの貴重な燃料になる油が取れるという?」


「ああ、持って帰った油はそうだ。そして調査船の乗員は、それが岸辺から流れてきているのを目撃していて、上陸して沸いている点を確認している。だから、マサキ様はそこを掘れば原油を取れるはずだと言われている。

 最初は前に村のあったあたりの陸側から調査して魔獣の討伐をする予定だったが、今はその油が出ている岸辺から調査を始めることになった。調査の主体は魔獣より原油になったがね。

 その場合には、艦船が使えるので魔獣が出ても退治するのに大いに有利だ。なにしろ艦には陸では運ぶのが困難な大口径の大砲を乗っているからな。調査と銘打っているが、実質的には沿岸に橋頭保を作るための乗り込みだ」


「ほほう。原油と言うか石油があればとことは良く聞きましたが、もしそこで大量の石油が取れれば、シマズのみならずワ国の開発がもっと進むようになりますな。それは楽しみです」


「そうでしょう。この件は無論、国王陛下も王太子殿下もご存じで、王国の総力を挙げて今回の件を実施するように申しつかっている」


「なるほど、それで参謀長自ら指揮を執っておられるのですな。その意味ではミカイ殿が指揮を執っているのが不思議ではあったのです。しかし、その原油の量が少なかったら懸けた費用と人員にくらべ成果が乏しいことになりはしませんかな?」


「ああ、そのことは陛下も殿下もご承知の上だ。いずれにせよ、広大な大森林の中には何らかの資源はあるに違いない。少なくとも木材という資源は莫大であるし、その伐採の跡地には人々が住むにふさわしいものになるでしょう。

 そのために、いずれにせよ、大森林の魔獣は退治する必要があります。しかし、実は魔獣は思ったよりずっと巨大で強いものがいることが判って来たのです」


「ええ、どのようにしてそれを?」


「マサキ様が作った回転浮揚機のことは聞かれたか?」


「ええ?マサキ様が飛行機というものを作ってそれで空を飛んだのは知っています。マサキ様は将来にはそれに数百人を乗せて飛べると言われていますよね。しかし、そのためにはどうしても液体の燃料が必要と聞きました」


「ああ、そうなのだ。でも最初に作られた飛行機は滑走する必要があったが、回転浮揚機は頭上で羽根を回して浮き上がるものなのだ。だから、狭いところからでも飛びたてるし、降りことができるのと、空中で同じ位置で浮かんでおれるわけだ。だから、わが海軍の船に乗せて大森林の上で飛ばしたのだよ。

 その結果、大森林には高さ5mを超えて7mほどもある魔獣が、数は多くはないがいることが判ったのと、飛ぶ魔獣もいることが判ったのです。ただ、飛ぶ魔獣は幸いそれほど強くなくて、狙撃銃で十分撃ち落とせるのでそれほど脅威にはならないようだ」


「その回転浮揚機はその飛ぶ魔獣に襲われなかったのですか?」


「ああ、実際に5羽ほどに襲われたが、連発狙撃銃を持った名手を乗せていたので、3羽撃ち落とすと他は逃げていったらしい。まあ調査隊は、上陸班が100~200名、皆連発大口径銃を持ち、さらに直接照準の迫撃砲を20基以上、手投げ弾を各2発ずつ携行します。それを海岸から艦砲で補助する訳だね

 陸地には資材倉庫を建てて弾薬に食料、機材、弾薬を保管するが、海軍の最大の戦艦シマズ、1000人乗りの輸送艦アズマが1隻、その他小型舟艇等が10隻動員されますので、資器材の補給には問題はない。さらに、回転浮揚機は3機現地に持ち込まれるからね。


 だから、海軍の艦船乗組員を加えると全体の要員は720人に達する行動になる。最新の機器も使って軍としてもそれなりの作戦と言えるだろうね。

 コンノに説明するなら、『軍は補給の容易な沿岸地方から調査を始めて、大森林の中の魔獣の種類、個体の数を把握して封じ込めるなり、討伐する手法をまず確立すべく行動している』ということだな。

 それに、魔獣は当初考えていたよりずっと強力なものが数多く存在することが明らかになったとも告げるべきですな」


「なるほど了解しました。コンノにはそのように報告しておきましょう」

 ニシキはミカイに深く頭を下げた。


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