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錬金術で進める国作り  作者: 黄昏人
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マサキの婚約者のこと

読んで頂いてありがとうございます。

 マサキには婚約者がいる。シマズ家にとって、マサキの重要性はますます高まっており、よそに引き抜かれるか気まぐれを起こして、どこかに行ってしまうようでは困るのである。幸いに本人は、生産技術研究所の所長という立場と仕事に満足しているようであるが、この種の天才は何を考えているのか解らない。


 それには、やはり女である。マサキを引き留めるかすがいになるその女も、やはりシマズ家のものでなくてはならないということで、年もマサキと同じであるカジオウの妹のユキエということになった。

 シマズ家の君主のアマオウには、正妻に加えて3人の側室がいる。正妻は嘗てシマズと同格の領主であったウミベ家の長女であり、他はシマズ家の家臣の家の出身であって、皆それなりの家の者である。


 ワ国においては、はっきりと定義付けられてはいないが、領主一族と直属の家臣がいわゆる貴族階級、家臣の家来が騎士階級、それ以外が平民ということになる。

 領主のアマオウの立場で側室になれるのは、一定の行儀作法を教えられている騎士階級までとされていて、それ以外は妾ということになるが、平民の富裕層も側室になっている場合が多い。領主によっては、10人を超えるような多くの妻妾を貯えているが、アマオウは女に関しては行儀のよい方であると言えるだろう。


 ちなみに、嫡子は側室の子までということになるので、アマオウの嫡子はカジオウが長子である4男、7女であるので、マサキへ嫁にやる女子に不自由はない。姫と呼ばれる領主の娘は、政略結婚の駒であることは承知している。とは言え、彼女らも人である以上、好きになれる人と結ばれたいという思いはある。


 年齢的にマサキに合うシマズ家の姫は、マサキの2つ上の3女のユリカ、同じ年のユキエ、3つ下のリリアナであった。シマズ家も古い家柄なので、アマオウ・カジオウ共に整った顔立ちであり、正室・側室共に美人と言える容貌であり、その血を引いている姫たちも美人である。


 3女のユリカは第2側室のマリエの子で、目が下がった優し気な顔立ちで、内向的でおっとりした性格である。4女のユキエは正妻ユミカの子であり、少し浅黒い肌色で細く引き締まった体つきで活発に動き回っているが、それに似あって整った顔立ちにきらきら光る強い眼光の印象が強い。


 6女のアリサは、最年少の側室のアリカの子で、その時点ではまだ11歳、比較的勝ち気であるがまだ良く事態が解っておらず、自分で意思表示をする素地はない。娘に甘いアマオウはこの3人を呼んで、各母親とカジオウも立ち合いの元で意向を聞いた。まだ、マサキが14歳の時である。


 ちなみに、シマズ家では、しばしば上級家臣の家族を含めて、交流会として食事会や園遊会を開いていて、マサキも必ず呼ばれているので、お互いに相手を知っている。とは言え、マサキは決して愛想のいい少年ではなく、殆ど姫たちに近づくことはなく、技術や実務の開発をやっている連中としゃべっている。


「お前たちも、マサキが様々に領の役に立っていることを知っているであろう?マサキは我がシマズ家の一番重要な家臣の一人だ。そこで、お前たちの望む者にマサキと娶わせたいと思っているが、どうじゃ?」

 それに応じてサッと手をあげて立候補したのがユキエである。


「はい、父上!同じ年だし、私がいいと思います。私はマサキ君とは何度も話をして、相手を良く知っています。私は、あの、マサキ君が好きだから……、結婚したいと思っています」


 流石に顔を赤らめて言うユキエに、にこやかな顔でアマオウが応じる。

「おお、そうか。そういえば、良く交流会でユキエはマサキと話していたな」


 アマオウが言うように、好奇心の強いユキエは、マサキという存在に興味深々であったので、自分から近づいていろいろ話しかけていたのだ。マサキも主君の娘とは言え、美少女に話しかけられて悪い気持ちはせず、話に応じて楽しく話し込んでいた。


 この中で、マサキは自分のやっていることを気持ち良く話していたが、つい専門的になりすぎて何度もハッとしたことがある。だが、相手も興味深そうに聞いているので、安心したこともあって、つい話し込んでしまうことになる。


 従って、マサキは馬の合う相手として相手を認識しているが、まだ結婚のことなど考えていないし、相手の立場を考えれば自分と結婚する相手としては考えていなかった。しかし、男に比べ早熟な女性は違う。


 姉ユリカと妹のリリアナは、はっきり意思表示をしたユキエに驚いているが、悔しい思いもしている。深窓の姫である2人には、到底この場で立候補する度胸はないものの、マサキのことはお付きの侍女などの話から有望株として捉えていた。


 そして、マサキ自身も自分たちに近寄って話しかけるような愛想の良さはないものの、たびたび彼に対して称賛の声が聞こえていることからも、どうせ政略結婚をするなら自分にとはぼんやり考えてはいた。そこに父の言葉であるから、出来ればと思ったのだが先を越されてしまった。 


 一方で、ユキエが自ら積極的にマサキに話しかけているのには気づいていて、そのための勉強をしているのは知っていた。だから、ユキエがそのように立候補したのは納得のいく話である。


「父上様、私もマサキなら良いと思ったのですが……。まあ、ユキエは前から熱心でしたからね。仕方がありません」

 ユリカが、いつものようにおっとりと言うのに続いて、リリアナが口を尖らせて言う。


「父上、私はちょっと悔しいです。私がもう少し……、ユキエ姉さまと同じ位大人だったら……。でもユキエお姉さまとマサキはお似合いだと思います」

 リリアナは、そう言い終わってユキエを見てニコリと笑う。


 シマズ家はそれで片付いたが、マサキについては、シマズ家の家老という役職の家宰の役割のシマズ・コウザブロウという老人が使者に立って、マサキにユキエ姫を娶わせたいという意向を告げた。

「大殿はそのような御意向であり、ユキエ姫自ら貴殿に嫁入りしたいと仰せじゃ。姫のような、賢い美人にそのように思われて幸せなことじゃな。まことに羨ましいぞ、ホホホ」


 コウザブロウはそう言って笑うが、マサキはこの骨と皮のように痩せた温厚な爺さんが好きだった。そして、ユキエの意向を表面に出した点も気に入った。『有難くお受けしろ』などと言われるとムカ!とするところだが、この爺さんは強要をしようとはしない。


「はい、有難くお受けします。私もユキエ姫だったら大歓迎です」

 だから、マサキはあっさりそのように言って、応接室のソファーで向かい合っているコウザブロウに頭を下げた。彼としては、シマズの姫たちは傲慢さや高圧的なところがないので比較的気に入っていた。


 しかし、自分から近づくのは、そのような野心があると見られることがうっとうしくて避けていたのと、どうせ話が通じないという諦めがあった。その点でユキエについては、自分から話しかけてきたこともあり、自分の話を理解しているという点で別格であった。


 さらに、引き締まった美貌と活発な彼女は自分の好みにぴったりである。前世において、自分は頭には多少自信があって、それなりの学歴と技術者としての経歴を持って来たが、平凡な容姿であり決してモテる方ではなかった。だから、ユキエのレベルの美女には最初から気後れして近づけなかっただろう。


 今生においても、容姿は前世と大差はなく決して女性から持て囃されるほどではない。しかし、確かに自分の持っている知識と身に付けた技能は、今の世界の世相では垂涎のものであることも良く理解している。だから、ユキエとの婚姻がまあ妥当であることは解るが、彼女の意思によってという点は正直嬉しかった。


 このようにして、同年齢のマサキとシマズ本家の4女であるユキエ姫の婚約がなり、お互いに18歳になった時に結婚することになった。この世界でも、余りに若年で子供を作るのは、母体に悪いということで知られており、とりわけ上流階級では特段の理由がない限り、女性の18歳が結婚の下限の年齢となっている。


 とは言え、全体に豊かになったシマズ領では変わってきたものの、庶民は結婚式もやらない場合が多く、一緒に住むようになったら“所帯を持った”証というカップルが多い。この場合にはもちろん年齢はお構いなしである。


 シマズ家は、シマズ家一同に家臣の主だったものを集めて、マサキとユキエの婚約を正式に宣言した。これは、領主一家相互で結婚する場合に行われる儀式を踏襲したものである。だから、その後は他に憚ることなく一緒に行動できるようになったものの、この階層では婚約したとは言っても、その頻繁な交流は余り一般的なものではない。


 しかし、彼らは同じ領にいるという利点もあって、しばしば城内や研究所で一緒に過ごし、城下町やマサキの出先にも共に出かけている。とは言え、外に出る時は必ず護衛が付くし、城内や研究所でも2人きりになることは中々難しい。


 婚約した14歳から婚約期間の18歳までの年齢は、少なくとも男は異性への好奇心もあって最も性欲盛んな頃で、女もその面では好奇心が強い。その意味では、日本での老年までの記憶があるマサキにとっては、性については未知の世界である訳がないので、好奇心は薄いが、肉体的には性的欲求は強い。


 だから、マサキとしては傍にユキエという婚約者の美少女が居れば、肉体的接触もしたいのである。だが、いろいろ探った限りでは、領主の子弟のクラスの婚約関係では婚前交渉というのはご法度のようで、どうもそうならないように周囲の警戒心も強い。


 どうやらユキエといちゃつくのはダメのようで、なによりそれが明らかになった場合には彼女が傷つく。結婚式までは僕らは清い関係だな、とマサキは少し物悲しく思う。そういうことで、ユキエとの接触は、外に出て護衛以外に人が見ていない時に、手をつなぐ程度にしている。


「マサキ、今日は街に行こうよ」

 ユキエがマサキの研究所の部屋に来て言う。研究所の本部棟に近い平屋の建物がマサキの物として割り当てられており、ここに彼のバス・トイレ付きの私室と作業兼居間の部屋があって、私的な時間にはマサキは大体ここにいる。彼の執務室は本部棟にあってそこには秘書がついている。


 その日は、5日の1週間の内の休日である陽の日であるが、ユキエはこの休日には大抵マサキと会っている。マサキも、最初は研究漬けであった自分の生活の入り込んでくるユキエに、『婚約者とは言え、これでいいのか?』と自問していた。しかし、実際に彼女と一緒の時間は楽しく、却って研究も捗ることを自覚して、積極的に会うことにしている。


「ああ、そうだな。だけど、今日はすこし遠出をしよう。ムロ池を回ってムロ川沿いに海岸まで行こう。ユキエの乗ってきた自動車があるから、護衛も十分だろう。そうだな?」

 マサキはユキエに応じて、護衛隊のリーダーのアキタに聞くと、彼も頷く。


 研究所はユキエの住んでいる城からは5㎞ほど離れていて、彼女はここに来るときは城に何台もある乗用車に護衛と共に乗って来る。また、現場によく行くマサキも自分の乗用車を持っている。ちなみに乗用車を使えるのは、特権階級の証であり、軍事大演習が行われる時点で、乗用車の生産台数は年産千台余であり、まだ3千台しか現存していない。


 産業用に重要なトラックと多くの人を運べるバスの生産は、乗用車より優先度が高くなっていて、乗用車より手間がかかるのに、それぞれ年間2千台、1千台生産されている。これらの自動車の駆動はモーターによっているが、熱を電気に変換しており、熱源は薪、石炭またはコークスである。


 つまり、固形燃料であるために、30分に一度程度は人手で燃料を補給する必要があって不便である。とは言え、人や荷物を載せて時速40~50㎞で移動できる圧倒的な速度から、その燃料補給も必要なものとして受け入れられている。前世を知っているマサキとしては、早く石油を発見したいと熱望している。

 しかし、シマズ領の幹部やマサキなどが使っている100台ほどの乗用車は、コークスを作る過程で出来る量の限られた灯油を使っているので先の不便さはない。


 マサキの車は、後部座席が2列になっているので、護衛の4人は楽に乗せられる。仕事での外出時には研究所の運転手が運転するので、マサキは助手席であるが、休日は自分で運転する。だから、助手席にユキエ、後部座席に男女4人の護衛を乗せてマサキは車を起動する。


 起動スイッチを押すと、燃焼室で灯油に火がついてその熱で魔道具が電気を起こし始めるが、熱が十分でない最初の出力は小さいのでモーターを空転させる。一定の回転数とトルクになった時に、クラッチを繋いで走り始めることになる。バッテリーは積んでいるが、現状では容量が小さいために、走行には使えないためその容量アップが研究所の大きな課題になっている。


 また、内燃エンジンも開発中で、試作品は出来ているが、精度よくエンジンを作ることが難しく、現状では熱を電力に変換する魔道具とモーターの方が、効率と寿命が遥かに勝るという結果になっている。さらに、必要な液体燃料が量の限られた灯油ではどのみち実用化できない。それに、魔道具を使っての熱電力駆動はモーターの回転による唸り音のみであるために、圧倒的に静かで振動も小さい。


 マサキの運転する車は、3人の門衛のいる研究所のごついゲートをくぐって、シマズの街を走り始める。車が走る道路は、路肩まで入れると片側の幅が3mの2車線である。両側の排水溝の外に幅が3mの歩道がついており、10m置きに街路樹が植わっているが、まだ植えられて5年目なので樹はまだ若い。


 路面は歩道と共にアソファルト舗装がされているので、雨が降ってもぬかるむことがない。この道路がシマズの街の道路の標準であるが、幹線道路として定められている路線は、もう一車線増やせるように空き地を取ってある。

 この道路が計画された時には、『こんなとんでもなく広い道路を作るとは!』と議論になった。だが、これは地球の日本と海外の渋滞を知っているマサキがカジオウを説得して標準化したものである。


 市街が一旦形成されると、後で道路を広げるのは至難の業になる。シマズには500m四方程度の旧市街地があり、商店などが並んでいたが、そこの道路はトラックやバスが入るのも困難な狭い道であるため、もはや商店街としては機能しておらず、広い道路を取った新市街地に機能が移転している。


 目的地であるムロ池は、南北に長さ30㎞幅が15㎞もあって水源として重要であるが、その清澄な水と水辺の景色から観光地化している。この池には岸辺を周回する道路があり、あちこちに緑地が設けられている。その周回道路までの30㎞は2車線の道路が繋がっているが、この道路は全ての直轄領の主要な街、属領の領都を繋いでおり、1日数本のバスが走っている。


 マサキの車の走る道路には、休日とあってトラックは少なめで乗用車とバスが多いが、まだ限られた自動車の数のため、それほど多くの車とすれ違うことはない。まだ、技術が未熟であるため自動車の速度の限界は時速60㎞程度であるので、道行く車の走る速度は概ね時速40㎞である。


「ユキエは、外にはそれなりに出かけるのか?」

 運転しながらのマサキの問いにユキエが応える。


「ええ、まあ2週に1回位はね。色んな行事にシマズの者として行くわけよ。大抵は道路や施設、建物の完成式に呼ばれて行くことになるわね。前は馬車だったから大仕事だったけど、今は車だから、遠くても100㎞程度なので常に日帰りね」


「ああ、なるほど。まあ、ユキエの姉妹は皆美人だから、出席してもらうと喜ぶ人は多いよね。しかし、今度シマズ王国になると、行く先はもっと遠くなるな。ユキエはその時は王女様か。どう、ユキエ王女様?」


「フフフ。まあ悪くはないわね。でも、そうなるのはマサキ、あなたのお陰ね」


「ああ、とは言え、シマズが俺の考えと考案を採用してくれているからでもあるよね。俺が、実家でやっていたら、ここまでたどり着かなかったかもね」

 車の中で仲良く会話を交わす2人であった。


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