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錬金術で進める国作り  作者: 黄昏人
14/27

大演習その後、シマズ王国建国が発表されること

読んで頂いてありがとうございます。

 大演習の結果は、東西の属領の直轄領への動きとしてすぐに現れた。ここには、東がヤマナ、ミゾベ、アシダの3家、西がナカノ、ムラソコ、キシベ、カジキ、ヤマギシの5家であり、最大の領民を抱えるミゾベで15万民の中小領地である。


挿絵(By みてみん)


 そして、これらの家々はそれぞれの領主の元に自治は行っているが、一定の税をシマズに納めて、防衛についてはシマズに頼るという決まりになっている。従来これらの領は、数年に一度は近隣の領と同盟し、また争っていたが、南ワ大島の南側にシマズという絶対強者が出てからは、そのような争いはなくなった。


 無論、侵略されることに怯えていた領にとっては、シマズの属領という立場は有難いものであるが、逆に領を大きくしようという野心のある領主にとっては忌々しい体制である。とは言え、彼等とて、6年ほど前のシマズとの戦いでシマズに敵し得ないことは実感して、シマズに逆らって戦うつもりはなくなっている。


 これらの領主にとっては、領を広げより多くの領民を支配するということは、収入が増えることで自分と従う家来が豊かになって良い生活をして、さらにより多くの人々を支配することでの満足感を得ることである。しかし、彼らは戦による損害は軽微ではあったが、シマズに一方的に敗れて降伏してその支配下に入った。


 だから、当然支配者のシマズからは領に監視人を置かれて、あれこれ指図をされ、作物を始めあれこれ取り上げられるなど搾取されてより貧しくなると覚悟していた。そして、確かにシマズから大勢の人が来て、開発計画なるものを出してきて、それに沿って様々なことが一斉に始まった。


 農場の整備・開発、稲の植え付け方法の変更に、イモを始めとした野菜など新しい作物の栽培を強制された。さらには、必要ということで多くの建物が建てられ新たな水路が作られた。加えて、道を広げて道の表面を錬物術で固めるなどの整備も大々的に行われたが、それら為に大部分の領民が動員された。


 驚くことに動員した者には日当が払われたが、それらすべての仕事への負担は大部分シマズが行ったが、そのかかった費用は領の借金ということになり領側は抗議した。これに対して、シマズはこれらの“投資”は何倍にもなって返ってくると言っていたが、信じられないものの従うしかない領の支配層は暗い気持ちになった。


 しかも、百姓への年貢は大体6公4民であったのものが、4公6民に強制され、その上にシマズ家への上納は領収入の1割5分というのだ。流石に限度を超えているとして、シマズの連中の泊まっている宿に切り込もうという話も出た。だが、若手でシマズの手先になって働いているものが必死で留める。


 彼らが、図や表を使って懸命に説明するのを聞くと、3年後には新しく飼う家畜も含めた農作の産高と諸々の新しく作る産物を金で計算すると領全体の収入が3倍の収入になると言う。だから、領に残る金は今までの2倍以上になり、その上今後は対外的な戦は考えなくてもよく、各領は盗賊などの治安維持のみ担えば良い。


 今までの戦に備えての費用は、概ね領の支出の3割から5割に達していたのだから、領に残る金は3倍程度になることは間違いない。しかも領の家臣のかなりの数がシマズの家来になるので、家臣の棒給を大幅に上げることが可能になる。そういう説明をされると、家臣は皆表情が一変して、幸せそうな顔になり、領主一族には多少不満そうな者もいたものの騒ぎは治まってしまった。


 そして、驚いたことに実際に3年後には領の生産高は3倍程度になり、領への収入も2~3倍になった。そのためシマズへの返済を入れて、領主と一族・家臣への棒給を2倍にしても、なお十分な貯蓄が出来ている。領民については、大部分の領で従来は1割の地主と9割の小作の構成であり、領民の収入が大幅に上がっても地主の懐を肥やすだけの結果になることが見えていた。


 そこで、シマズの指導で領民側の収入増の7割を小作に、3割を地主に渡すように税を調整している。そのことで小作人と言えども、少なくとも2.5倍以上の収入増になっている。それも過去の豊作時での比較なので、イモ類の栽培の普及と相まって、飢餓など考えもつかない話になっている。


 こうして人々の家計にゆとりが出てくると、当然消費が活発になってくる。様々な日用品、嗜好品、衣服がどんどん売れ、家の補修、建て替えがどこでも行われるようになる。そうなると、農山村における余っていた人手が雇用されてそれなりに稼ぐようになる。


 その結果、シマズの直轄領のみでなく、東西属領でも需要が出た様々なものを作る大中小の工場ができ、元売り・小売りの店が出来て、流通網が整備と共に経済が加速度的に活発に回るようになる。こうなると、シマズの開発の一翼を担う属領でもその支配に不満を持つものはほとんど居なくなってくる。


 そこで、不満を持つ存在としては領主とその一族であるが、彼らにしても特に女性は、戦に怯えずにより豊かに暮らせる生活に満足しており、元に戻りたいと思う者はいなかった。その状況の中で、属領では直轄領化することを望むものが家臣の階層から自律的に出てきて、領主も賛同せざるを得ない状況にある。


 一方で、属領の周辺の領民及び支配層は、シマズ領の経済的繁栄を十分知っていて、そのおこぼれに与っている。境界の内外で明らかに暮らしぶりが異なるので、その情報を遮断したいのだが、そのおこぼれを預かるには交流を止める訳にもいかない。


 だから支配層は、少しづつ経済状況は好転しているのに、どんどん領民がシマズ領に流れ出るのを止めることも出来ず、シマズとの比較で日に日に高まる不満を意識しない訳にはいかなかった。これらの領には状況を読み切ってシマズ家に属領化を、いや直轄領化を申し入れてきた領主もある。


 それらに対しては、シマズとしては「待って欲しい」という返事になっている。それは、人材面、資金・資材の面で余裕がないということに尽きる。ただ、これらの領の人材育成については協力するということで、人を受け入れて開発現場に入れて働かせている。無論日当は払っているので、派遣された者はノウハウが身に付いた上に自分の収入も上がって喜んでいる。


 このように申し入れた領の中にはコンノ領がある。コンノ領は南ワ大島でも第2の面積の大領でありシマズ直轄領の1.5倍以上の面積であるが、領民は20万とそれほど多くない。領の大部分が森林に覆われていて、野獣が多いために開発は遅れていて比較的貧しい。


 そのためもあって、ここを侵略しようという領も殆どおらず、近隣と争うことも余りなかった。だが、猟師が多く彼らは威力を求めて鉄砲を広く使っているので兵は精強であると言われている。実のところ、コンノ領については、鉄鉱山があるのは知られていて、豊かな水資源の故もあってシマズとしては大規模製鉄所の候補として目を付けていたのだ。


 鉄鉱山については、コンノ領の製鉄の技術が未熟であったために小規模な炉で細々と製鉄をしていたが、シマズの影の者の調査では鉱脈は相当に大規模なものであることが判っている。それにワ国最大のカジノ湖から流れ出るカジノ川の河口の小さな漁村マサラであれば、用水も十分使え日産百万トンでも製鉄が可能である。


 マサキは、ワ国全体の20年後の鉄材の需要は年間1千万トンと見込んでいるので、現在のテツトでは製鉄量の100倍を超える用水の面で到底生産できない。だから、適地を探していたのだが、ワ国最大の淡水湖であるカジノ湖周辺には狙いをつけていた。


 しかも、大規模である可能性の高い鉄鉱山を持つコンノ領に狙いをつけて、外事方から数度の接触をしていた。その結果、比較的前向きであるとの感触を得て、シマズの外事方No.2のニシキ・タダシがコンノ領カミナを訪問した。


 今や南ワ大島で最大の勢力になったシマズ家の使者であるから、領主コンノ・ショウザが会うことになった。謁見の間になっている大広間に通されたニシキは正座して、対座に10人ほどの家臣が居並び、君主の座に座ったショウザを見上げて、口上を述べながら平伏する。


「主人、シマズ・アマオウよりの使者として参りました。なにとぞよろしくお願い致します」

 口上の後に体を起こしたコンノに、30歳代の始めの浅黒い顔の精悍で逞しいショウザが応じる。


「うむ、同盟の話ということで、アマオウ殿から文を頂いておる。具体的な話を伺いたい」


「は、ではざっくばらんに言わせて頂きます。コンノ様には我が領のテツトの製鉄所のことは御存じかと思います」


「うむ、我が領でも鉄は作っているが、比べ物にならないほどの規模であるとか。しかも我が領の鉄では到底できない値でより良質の鉄を作れると聞いておる。お陰で我が領の鉄生産はほぼ止めている。羨ましいことじゃ」


「ええ、ただ、我が領ではあのテツトで作る鉄の量ではすでに足りなくなっています。ですが、テツトでは使える水の量が限られているので、今以上に作る量を増やせないのです」


「ほう、何と、途方もない大きな工場であると聞いているが……。それでも足りんとはな」


「はい、今のシマズのみの需要であれば、同じ位の工場をもう一つ別に作れば良いのです。ですが、鉄をつくること自体は、出来るだけ大きな規模でやった方が費用は安くできます。少し前までは、北ワ王国のものが最も質が良く値もそこそこでしたが、今のテツトで作る鉄は質がそれ以上で値は半分以下にできます。

 ですから、我が家では近い将来は南北ワ大島で使う鉄材は全てシマズ製になると考えています。ですから、テツトで作っている鉄の10倍、20倍の量を作る工場を目論んでいる訳です」


「ほほう、なんと。うむ、わが家で使う鉄は、自分で作るものは質が劣るので、今やほとんどがシマズ製である。ただ値は北ワ王国の物と同じ程度と聞いているが、貴家の属領ではそれが半分程度とも言うな」


「はい、実際は属領と同じ値でお売りできます。しかし、北ワ王国の鉄より安くするとその怒りを買うので、他の領には北ワ王国と同じ値にしているのです」


「とは言え、同じ値だと誰も質の劣る北ワ王国の物は買わんだろうに、ハハハ」

 口を開いて豪快に笑うショウザに合わせて笑いを浮かべてコンノは応じる。


「まあ、実際はそうなので、その辺りは変えようという話はあるのですが、何分鉄の生産が窮屈なものですから、需要があまり増えても困る訳です。まあ、そういうことで、我が領としてはもっともっと大規模な製鉄所を作りたいと思っております」


 相手の目を見て言うニシキにショウザは頷く。

「ふむ、それで?」


「その工場を作る立地として、貴コンノ領はワ国での随一なのですよ。それに、我が領では紙を大々的に作ろうと思っていますが、それにも貴領は最適なのです」


「ふむ、なるほど。先ほどニシキ殿は製鉄には水が大事と言ったが、確かにわがコンノは水という意味では南北ワ大島でも随一だろうな。ただ、紙とは?我が領には大森林はあるが、紙を作れるコウゾなどは殆ど見つかっておらん。だから、紙と言う意味が解らんが、どうして紙なのか?」


「はい。わがシマズではコウゾなどのように樹皮のみを使うのではなく、木材の中身を使って紙を作る方法を開発しました。そして、その方法も大量の水を使うのです。だから、貴コンノ領は製紙を大々的に行うにも最適なのです。とは言え、はっきり申し上げて、製鉄所と製紙工場は極めて大事なので、よほどシマズに親しい領にしか作れません」


 そう言って、自分の目を見るニシキにショウザは「ハハハ、なるほど、それは道理じゃな」と、大きく笑った後真面目な顔になって続ける。


「うむ、実のところシマズの事を調べたが、シマズが南ワ大島を平らげる気になった場合には、我々には勝ち目はないことが判った。そして、シマズの直轄領と属領になった領民と領主に家来たちも、少なくともそれ以前よりずっと豊かに暮らしていることも判った。

 実のところ、我がコンノ領の大森林の野獣は手強すぎて、今の農地や街を守るのにもままならん状態だ。正直に言ってシマズがその優れた武器を使って、野獣の駆除を含めて領の支配をしてくれるのなら、歓迎する気持ちがある」

 そう言う主君を周りの10人を超える家来たちが笑って見ているので、了承済なのだろう。


「はい、我々も正直に申しますが、貴領のことはそれなりに調べています。勿論、野獣と呼んでいますが実際は魔素で凶暴化し強くなった魔獣ですな、あれの事も知っており、我々であれば退治はできます。幸い強い魔獣はそれほど数はおりませんので、爆裂する大砲などを使えば大丈夫と踏んでいます。

 大殿からの条件としては、友好領から直轄領になったウミベ殿と同等として扱うということですが、よろしいですか?よろしければ、コンノ領はシマズの直轄領になることに同意ということを報告します」


「うむ、ウミベ殿と同等であれば上等だ。どのみち、我々はシマズの傘下に入る以外の道は残されていないことは解っていた。それに、それだけ我がコンノ領が有用であるということは、領民が豊かになれることは間違いない。儂も、ここにいる家臣共もこのコンノで十分活躍する余地はあるだろう」


「はい、その通りです。多分すぐに沿岸のマサラの漁村に大きな港を作って、製鉄所の建設にかかります。それは、今のテツトとは比べものにならないほどに規模の大きなものになります。更には水路や道路の建設、街の建設、製紙工場の建設など莫大な金が落ちます。

 ですから、コンノ様また家臣の方々、さらに領民の方々は大忙しになります。多分コンノはワ国でも最も栄えた地区になると考えています」


 この訪問は、シマズで行われた軍事大演習の3ヵ月前(1ヶ月は45日、但し1日は20時間)に行われたもので、コンノ家も演習の視察に当主自ら参加して、決断が間違っていなかったことを再確認した。ちなみに、大演習の時点では、コンノ家はアマオウへの訪問を済ませて、コンノ領をシマズ直轄領になることを約束している。


 それに並行して、コンノ領の開発計画が説明されたが、その練り上げられた内容を知って、コンノ・ショウザはコンノ家のシマズへの服従は既定の路線であり、自領内へも情報源があったことを悟った。とは言え、どの道シマズ家がその気になれば、征服は避けられないだから、意向を聞かれただけ増しということになる。


 コンノ・ショウザはシマズ家に属して、コンノ領の領長というシマズ家の要人になって、棒給を受け取ることになる。いわば高級サラリーマンになるのだが、対外的な戦を心配する必要はない一方で、シマズの施政の方針に従って領を治めていくことになる。また、彼が苦労してきた魔獣については、シマズ軍が重火器を持った3大隊、3千人の兵力の軍を送ってくることになっている。


 実のところ、大演習の段階ではシマズの東西属領は、シマズ家の直轄領になることを了承していた。領主とその一族が反対する領があったが、家臣がそれを許さなかった。もっとも強硬であったカジキの領主と、その世継ぎは、家臣から押し込められて権力を失ったが、領民からも苦情は出なかった。


 大演習から1月後に、シマズはシマズ王国として3か月後に建国祭をすることを発表した。その時点での領土は東西属領にコンノ・カイベ・サキタ領を含めた範囲であり、その領民、いや国民は300万人で南ワ大島の推定人口550万人の概ね6割を占めている。


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