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錬金術で進める国作り  作者: 黄昏人
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シマズ家、軍事大演習に他の領を招待すること

お読みいただきありがとうございます。

 シマズ家は、南北ワ大島の全ての領主に軍事大演習の招待状を送った。無論その中に、北ワ王国も含まれている。これは、カジオウがマサキの提案に基づいて言い出したもので。シマズ家での数回の評定の上で決断され、内容が決められたものである。


「こういうことで、北ワ王国を含めたすべての領主を招いて、我らが軍事演習を見せましょう。そのことで、どうあっても我らには敵わないということを思い知らせれば、我が領に攻め込むこともなくなります。結果として、我々も余分な軍を備える必要もなくなりますので、より豊かになることに専念できます」


 カジオウは、その軍事演習のことを言い出して3回目の評定の席でこのように言ったが、それに対して建設奉行である、ニシバヤシ・フミタカが、軍務奉行カスガの顔を見て反論する。


「しかし、そのようなことになれば、毎日訓練を繰り返している5万もの常備兵と、それに伴う大きな予算が不要ということなりはしませんか?それは、軍の戦士たちに失礼なことになりはしないかと私は懸念していますが、いかがなものでしょうか?」


 それに対して軍務奉行のカスガが応じる。

「我々軍の役割は、いざというときの備えである。我らの南ワ大島の南側の諸領については、5年前の戦いで我がシマズ家が敵として手に余ることを思い知ったので、まず攻め込んでくることはないであろう。

 しかし、特に北ワ王国を中心に、北ワ大島の諸領に加え南ワ大島の北側の我らに敵対的な諸領は、まだ北ワ王国を中心にまとまれば勝てると思っておる。


 確かに兵力で言えば、彼らは我が領の5万の3倍から4倍は集められるから、彼らの常識からはそうであろう。ただ、評定に出ている皆も承知しているように、彼らの考えは間違っておる。実際には、槍と剣それに弓が主たる武器で火縄銃が補助になる彼らの軍では、わが軍には敵わん。

 今や2万5千の小銃を備え、さらに迫撃砲、大砲まで装備しておるわが軍に対しては、兵数が10倍を超えるならいざ知らず、その程度の差は意味がないじゃ。だから、油断さえしなければ、ワ国におけるどのような形の戦が起きても、かならず勝てる。


 とは言え、あの6年前の一方的な戦いでも我が軍に102人の死者と、52人の不具者がでた。まあ、軍人が死ぬのは職業病みたいなものではあるが、我ら軍人のとっても鍛えた同僚兵が死ぬのは心に来るものがある。

 我々としては、無論いつ戦になってもいいという心構えは持っているが、半面で今言ったような理由で戦になることは嬉しいことではないのじゃ。我らは、幸いにして圧倒的な強者の側である。だから、その強さを見せつけてかかってくる気を無くすというは、いい方法じゃと思う。


 一方で、我が領は際立って豊かなことは知れ渡っており、他の領にしてみれば垂涎の地である以上、軍の規模を一定に保って軍備も整え、兵を精強に保つことが必要であることは今後も明らかである。さらに、この世では敵になりうるのは、必ずしもワ国内のみでなく遠く海を渡った国々かも知れん。

 ニシバヤシ殿は我らに気を使ってくれたようだが、我らの軍が今後も強くあることが必要なことは明らかである。そして、それは大殿を始め皆さま方に判って頂いているものと信じておるよ」


 カスガが言って、武人らしく厳つい顔をゆがめて笑う。それに同意して、主君のアマオウが続けて言葉を付け加えることで、シマズ家としての方針は決まった。


「そうじゃ。余としては我が領はいずれ国を名乗りたいと思っておる。そして軍は、今後も領民の数に対しては今程度の規模で大きすぎないように留めておきたいと思っている。その代わりに、兵の全員に優れた武器を持たせ、移動はすべて自動車で素早く行えるように装備を改善するつもりじゃ。

 それを余裕も持って成し遂げるには、我が領はもっと豊かになる必要がある。だから、それを勝つに決まっている戦で邪魔をされたくはないのじゃ。だから余もわが軍の強さを周りに見せつけ、戦をせずに済むようにするというカジオウの考えに同意しておる。

 ただ具体的にどうするかなどの点はこの評定で十分に話し合って欲しいと思っておる」


        ー*-*-*-*-*-*-*-


 北ワ王国の、最大40万の軍を統べる軍事奉行であるマカズ・ジュウロウは、第1師団長のミワ・カズジ他の10人の随員と共に、北ワ王国最大の軍船ミマル大王丸に乗ってシマズ領の沿岸の新しい街であるテツトの港に着いた。ミマル大王丸は長さ80m幅が12m余の巨大船であり、北ワ王国は同型艦が他に6隻ある。


 さらには、現在ほぼ同じ大きさの輸送艦が10隻完成しており、続けて20隻が建造中である。これには、500人の兵を乗せて航行できるので、他の既存の軍の艦や民間の船を合わせて一度に2万人を輸送可能である。これらは、無論シマズ領へ攻め込むための準備であり、最終的には北ワ国から南ワ大島の北岸に10万人の兵を送り込み、南ワ大島の北側の領からの兵を合わせて15万を超える軍を催す予定である。


 これは、シマズ家の銭の発行、優れた鉄材の販売開始によって南北ワ大島全体としてのワ国の覇権を脅かされており、座視できないということから、すでに北ワ国としてはシマズを滅ぼす決定をしている。

 その一環として、シマズの研究所を率いている天才少年を拐取すべく試みたが、精鋭の影の者を10人以上動員し銃を持ち込んだにも関わらず失敗した。それに伴ってシマズに送り込んでいた影の者も一網打尽に捕らえられてしまい、元々細かった情報網がほとんど途絶えた状態になった。


 とは言え、それまでの影の者の調べでは、シマズの兵力は5万であり全てが常備兵である。北ワ王国の常備兵は7万であり、必要に応じて百姓兵を動員すれば、40万を超える兵力を揃えることができる。従って単純な兵力では勝てるが、問題はシマズには鉄砲が数多く備えられているということで、1万丁以上は確実とされている。


 北ワ王国においても、銃については10年以上前から入手して調べているが、結論としては金ばかりかかって、実用性に乏しいと言う結論になっている。このために、百丁ほど揃えて鉄砲隊を編成して使えるように訓練をするにとどめている。


 ただ、使うのに熟練を要しない点と、弓より威力が大きいこと、さらに大きな音がする点からは、数を集めて使えば威力を発揮するということについては認めている。だから、シマズが南ワ大島の戦で使って、倍以上の相手に圧倒的に勝ったという知らせから、慌てて調達を始め、国内の鍛冶の者に作らせており、現状では3千丁ほども配備してさらに鉄砲隊を編成して訓練している。


 ただ、気になっているのは、シマズの銃は南ワ大島の戦で、距離100mを超える射撃で敵の指揮官を撃ち倒しているという情報がある点である。

 北ワ王国の作っている銃では、名人であれば100mでもほぼ命中できる距離ではあるが、一般の兵であれば人体にほぼ確実に命中できる距離は半分の50mである。だから、軍部の結論ではシマズは集中的な訓練で、名人級の射手を揃えたのであろうということになった。


 また、シマズの銃は火縄を使っていないという情報がある。これについては、鉄砲をもたらした大陸の商人や、鍛冶師にも確認したが『そのような銃があるわけはない』、という意見であった。だから、情報が誤りという結論になっている。彼等には、ライフリングの効果、さらには薬莢と信管などは理解の外にある。だから、彼らは敵の3倍の兵力をもってすれば、鉄砲の数の差は埋められると考えている訳だ。


 ミマル大王丸が、テツトの港に近づいて減速のために帆を縮めようとしたとき、軍務奉行のマカズとミワ将軍を始め視察団の者達は、舷側で近づいてくる港を見ていたが、その奥に異様な塔や筒が建っており、筒からは灰色の煙が巻き上がっている。また、巨大な建物が10棟余りも立ち並んでいる。


「あれが、テツト製鉄所と言われる鉄を作る工場です。製造量は1日に千トンと言われていますが、いくらなんでも嘘だと思っています」

 それを指さして、シマズを担当している外事奉行所の若いキロムが言う。


「むう。それにしても規模が大きいが、石炭を使って作っていると言うのは本当か?」

 マカズが問うのにキロムは応える。

「はい、事実のようです。大量の石炭が運びこまれているのは確かで、燃料として木材や木炭は運ばれていません。だから、シマズは何らかの方法で鉄を作るにあたっての石炭の害を除く方法を見つけたようです」


「うーむ、我が国でも石炭を蒸し焼きにすれば、木炭のようになるのではないかとやってはみたが、途方もなく害のある煙が大量に出て到底続けられんかった。ただ、そうやって蒸し焼きにした石炭は、あの臭い煙を出さなかったから、製鉄には使えるじゃろうな。どうやっているのか知りたいものじゃ」


「ええ、それにシマズで作る鉄は、わが国のものと値段はほとんど一緒ですが、鍛冶師に評判が良いようです。実際に我が鍛冶師がシマズ製の鉄を使うと、その鉄材の形といい質といい、鍛冶仕事が大いに楽だと言います。その鍛冶師は、同じ値段だとなかなか我が国のものは買ってもらえんだろうと言っておりました」

 キロムの言葉にミワ将軍が「フン」と鼻息荒く言う。


「だから、奪えば良いのじゃ。あの製鉄所もその石炭を蒸し焼きにする工場も、そうした技術も全て奪い取れば良いのじゃ。フン、それをシマズは軍事演習を見せるなどと調子に乗りおって」


 そういう話をするうちに、5人ほどが乗った長さ7mほどの小舟が近づいてくるが、それには漕ぎ手がおらず、さらには帆もなく、工場にあるような筒が立っており、うっすらと煙を吐いている。


「なんじゃ、あの船は、帆も漕ぎ手もおらん。あれは、噂の動力というもので走る船か。しかし速い!」


 そのように乗客がワイワイ言っているが、船をどんどん近づいてきて、中の一人が声を張り上げる。

「我々は、シマズの外事奉行所の者だ。北ワ王国の皆さん、ようこそシマズへ。さて、この船を港に着けるために、テツトの港の水先案内人を乗せて欲しい」


 そのことはあらかじめ通知されていたので、若い案内人が縄梯子をたどってミマル大王丸に乗って来る。彼が、総舵手に指図をして、その後港に入る岸壁への接舷までを行う。

 港は幅1㎞、奥行が500mほどもある湾の奥に作られており、長さが200mほどもあるコンクリート製のふ頭が整然と3本並んでおり、岸には大きな倉庫が立ち並んでいる。ふ頭は幅が30mほどもあって、干潮時でも水深が10mの船までが接舷できる。


 むろん、喫水が5m足らずのミマル大王丸は楽々と接舷できる。船に乗った一行は、そのコンクリート製のふ頭の規模とその見慣れない材質に驚いた。北ワ王国の最大の港は首都ワトがキズナミ湖岸に位置しているので、ワト港であり、広さのみで言えばずっとテツトの港より広く、大小さまざまな船が舫っている。


 そして大規模と思っていたワトの港の桟橋は、数は多いが木製で長さは精々50m足らずで幅もずっと狭い。テツトの港に舫っている船の数は多くはないが、ミマル大王丸を超える大きさの船が3隻ほどいる。それらは軍船でなく輸送船のようであるが、どうも鉄製の船に見える。


 王国ではミマル大王丸もそうだが、軍船については鉄板で木船を補強しているが、鉄で作られた船はない。そしてそれを運搬船に使うとは、造船技術についてもシマズが遥かに進んでいるようだ。ちなみにふ頭には中型であるが他の領の旗を掲げた軍船がすでに接舷しているから、すでに船でシマズの演習を視察に来たものが着いているようだ。


「ミマル大王丸を見せつけて驚かすどころではないな。どうもあの船は、鉄でできているようじゃが、それが商船とはな。間違いなくここには居ないが軍船も作っているじゃろう。しかも、あれらの船には帆がない。ということは先ほどの小舟もそうじゃが、帆が無くても船を進める方法があるということじゃ。

 それに、ほれ見ろ、そのふ頭にも大きな車が止まっているが、他にも港には馬を繋いでいない様々な車が多くある。あれが、噂に聞く自動車というものか。どうも馬車より早いそうじゃな」


 軍務奉行のカスガが達観したようにそのように言う。彼は製鉄所、自動車、動力で航行する鉄船、さらには火縄を使わない銃、加えて爆発を起こす弾を撃ちだす砲のことなどを諜報のものから聞いてはいた。しかし、それは信じきれなかったのだが、テツトに近づくにつれて、信じざるを得なくなったのだ。


 帆船のミマル大王丸は苦労してふ頭に接舷し、船の舷側までの3mほどを降りるために階段が船から降ろされると、ふ頭で待っていた制服を着ている若い男が階段を登って乗ってきた。そして、シマズ側の水先案内人に促されて、階段の近くで待っていた視察団に向かってきびきびと頭を下げて言う。


「いらっしゃいませ。シマズにようこそ。私は外事奉行所のサナダと申します。皆さんのシマズの街の宿への案内を申しつかっています。大演習への視察の方は10人でございますね?」


「ええ、カスガ軍務奉行を筆頭に、私を含むこの10人が演習の視察団になります」

 外事奉行所の若いキロムが軍務卿を指して言う。その後、先導するサナダについて一行は階段を降り、待っていた小型のバスに乗る。


 無論、皆バスはもちろん自動車に乗るのは始めてである。見栄があるので懸命に驚いた顔を見せないようにしているが、恐る恐るクッションの効いたシートに乗って、シマズまでの約30㎞を1時間弱で走り抜ける。同じバスに乗ってきたサナダは、一行を宿泊先の旅館「シマズ」に送って帰ってしまったが、翌朝迎えに来るということである。


 ちなみに、旅館シマズは領都でも最大のもので、1人部屋が100室、最大3人が泊まれる大部屋が100室ある大旅館である。北ワ国の一同は、3人だけはシマズの招待ということで宿泊費はシマズ家負担であり、それ以上は各領の自己負担になっている。


 とは言え、謎に包まれていたシマズの軍備が部分的に明らかになるというのであるから、シマズの属領を含めて招待された各領は少なくとも5人以上は送り込んでいて、北ワ王国のように最大人数と言われている10人を送り込んできた領も多い。


 北ワ王国の一行は、その半日足らずのうちに出会った余りの刺激の多さに疲れ果てていた。それはテツトの港での風景、初めて自動車であるバスに乗ったこと、石つくり、コンクリート作りの建物が立ち並ぶテツトの街を、両側に歩道を配した舗装の広い道を走ったことがある。


 その間に、多くの乗用車、トラック、バスになどの自動車にすれ違うたびに、ガラス窓を開けて乗り出さんばかりに確かめざるを得なかった。さらに、郊外に出ると、農道が配された四角形の整然とした農場に、自国の不規則な農地を思いその先進性を認めるざるを得なかった。しかもそこにも農場で作業している“自動車”が見られるのだ。


 そして、領都シマズに近づくと、増えて来る石つくり、コンクリート作りの建物、さらに様々な煙突の立った工場の多さ、増えてくる自動車類が目を引き、シマズに入ると人々、特に女性の華やかな服装が目を引いた。さらには、到着した旅館「シマズ」の、高さについては3階建てではあるが、緑を配した巨大な宿泊棟にまた度肝を抜かれ、そのロビーの華やかさにも圧倒された。


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