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錬金術で進める国作り  作者: 黄昏人
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マサキに危機が迫ること

読んで頂いてありがとうございます。

 マサキには、直属の10人もの護衛部隊がいて、常時最低3名は彼に同行している。この点では、アマオウの警備はもっと厳重であるが、マサキの場合は次代の領主であるカジオウと同等である。とは言え、カジオウは体術、剣と槍については幼いころから訓練していて、その上に拳銃を常時携帯しているので、よほどのことがない限り自分の身は守れる。


 一方でマサキも小なりと言え、領主の息子に生まれているため、武芸はそれなりに習って来た。だが、彼は、才能がなく進歩が遅いことから訓練に熱心になり切れず、それよりは物つくりや開発に熱中してきたので、体術、剣・槍を使った武術は平均以下であるため、彼はカジオウに比べ容易な標的と言えよう。


 だが、アマオウやカジオウと違って、マサキのその価値から暗殺することを選ぶものはいないとシマズ上層部も考えていて、マサキの武芸の実力から誘拐を最も警戒している。

 これは彼自身も自覚してきたため、銃についても自衛のために拳銃は早いうちから作って携行しており、射撃訓練は十分に行っている。とは言え、自分の希少性を理解して、その上で不意を突かれるとか、多人数に襲われたら自衛しきれないことは自覚しており、護衛の存在は有難いと思っている。


 さて、マサキはシマズの街を歩いている。普段は研究所にこもっているが、流石に気晴らしが必要なので、週末には大抵シマズの中心街に出かけることにしている。ちなみに、ワ国は週が5日であり、それぞれ火の日、水の日、木の日、金の日、陽の日なって陽の日が週末として基本的は休日になっている。


 シマズ家では陽の日が休日で、よほどの緊急事態でない限り職場は閉められる。マサキの総合技術研究所も同様であるが、結構研究馬鹿が多いので自主的に研究を続けている者も多い。勤務の日には、マサキには秘書がついてスケジュール管理をしている他に、所属の総合研究室には5人の研究員が配置されている。


 研究所の研究職員は290人であるが、他に研究の過程で必要な工作を行うための技術員が250人、更には総務、購買、渉外の事務要員が120人いる。そのほかに直属の警備隊員が50人配置されているが、1㎞離れた位置に総兵力1万5千人の軍の駐屯地があって、必要な場合には駆けつけることになっている。


 マサキの住居は、500m四方の研究所の工作棟の一角にあって、簡素な50㎡程度のものであるが、小さなキッチンにバス・トイレ付だから、この時代の平均的には恵まれている方だ。とは言え、最近で変わりつつあるものの、使用人を多く使って生活することが富裕者であるいう常識からは、半日程度の掃除・洗濯のみの手伝いしか使っていない彼は、その地位に似合わない生活をしていると言えよう。


 その日は、3人の護衛、アキタ・シンジロウ、マキタ・サトシ、ニシダ・アカネ、ムカイ・ミネの男女4名が護衛について、シマズの繁華街を歩いている。戦闘においては、筋力に劣る女性は一般に能力は男には劣る。護衛の2人の女性、アカネとミネは軍と警護隊の中で女性の中では、トップの者を選んではいるが、刀剣、銃を使った総合力では大差はないものの、他の男性護衛官に比べると腕力で明らかに劣る。


 それを押して、彼女らを選んでいるのは、マサキが日常的に長い時間を共に過ごす護衛が男ばかりだと、自分が得たい市井の情報は女性でないと分からないことが多いと強弁してでのことである。しかし本音では、回りに男ばかりではうっとうしいということから来ている。


 アカネは中背で少しずんぐりしているが、ふっくらして顔立ちは整った巨乳であり、無口でからかうと顔を赤らめる可愛いところがある。ミネは美人ではないが、女性としては長身の細身で、良く喋る明るい性格でその場を明るくする。15歳のマサキより、彼女らの歳は5つほど上であるが、精神が大人の彼にとっては好ましい。


 すこし無理をしてこのようは配置にしたわけだが、常時共にいる護衛の半数が女性というのは中々楽しい。だから、戦闘力で選ばれた彼女等ではあるが、中々良い人材なので積極的に話しかけて、彼女等にも楽しんでもらうように心がけている。


 シマズ直轄領では、経済的に豊かになって人々に不満が少ないことに加え、一定の集落ごとに警察組織である警務隊を配備していることもあって治安は良い。このことも、女性の護衛官が認められた理由である。治安が良いとは言え、最近北ワ王国がシマズに人を送り込んでいるという情報があるので護衛は油断できない。


 彼らが歩いているここは、シマズ領でも唯一であるアーケード街であって、幅8mほどのアーケードの両側には商店が立ち並んで、様々な商品を陳列して客を呼び込んでいる。

 ゆったり歩く老若男女が、ひっきりなしに商店を覗きながら通っているが、皆こざっぱりした服装であり汚れた服を着たものはいない。ただ、シマズの市民であろう比較的華やいだ色の服装のなかに、野良着に近い服装の者は、保護領など地方から出てきた者達であろう。


 マサキが、こうやって商店街と含めて街を歩くのが好きなのは、自分が主導して進めている数々の改革が、市民生活にどのように影響を与えているかを自分の目で確かめたいからである。彼の目標は自分が暮らす環境を、住んでいた日本程度の文化の場所にして、前と同等の快適な暮らしをしたいということだ。


 日本という国は、シマズ領等と比べれば人々が遥かに密集して暮らしていて、ストレスもそれなりにあった。さらに忙しく働く必要はあったが、それなりに働いていれば、安全で基本的には衣食住には困らない所であった。気候は、寒い日もあればうだるような暑さもあったものの、普通の人が買えるエアコンで簡単に快適に出来た。


 つまり、生活を快適にする手段が揃っていた。さらに、特筆すべきは非常に豊かな種類の食が味わえたし、本、テレビ、エンターネットなどと知的好奇心、遊び心を満たす媒体が容易に使える場所であった。

 それに対して、自分が転生した“この世界”は日本的なところであって、錬金術を含めた魔法が使えるが、社会状況は戦国時代、文明状況は江戸時代程度である。

 だから、マサキは実家で自分の生活を快適にするために頑張ったのだが、その際に大いに助けになったのは、鑑定と魔法を駆使した錬物術であった。


 魔法が無い地球の過去では、例えば近代日本の包丁一つ再現するのは非常に困難である。まあ形だけであれば、質の悪いこの世界の鉄を使って作るのはそれほど難しくはないだろう。だが、鍛冶専門の練達の錬金術師でない限り質は到底及ぶまい。それが、錬金術を駆使すれば“このように”というイメージがあれば、多少曖昧でも自分で調整できる。


 そのイメージであるが、自分は日本で技術者ではあり、現場も含めて広く様々なことをやっていたが、当然のことながらオールマイティではなく、曖昧にしか知らないこと、忘れたことも多い。ところが、そのこと、物に意識を集中するとクリヤーに脳裏に浮かんでくるのだ。


 マサキは転生させてくれた“誰か”の意思だと思っているが、全く意識もしたこともないようなものは無理であるのは確かだ。実家において、またシマズ家において、非常に広い分野で主導して改革を進めてこられたのはそのおかげであるが、いかにも都合がよすぎると聊か腑に落ちないマサキであった。


 ゆっくり歩きながら商店の品ぞろえを見て、いくつかの元の開発品から派生した新製品が売られているのを発見して、自律的な変革が起きているに思わずニマニマしてしまうマサキであったが、隣のミネがハッと緊張したのに気付いた。


 他の護衛を見ると、隊長のアキタは腰を落として背に負った小銃に手をかけて身構えるところで、マキタもアカネも腰の拳銃に手をやって身構えている。このあたりの気配に気づかないのは自分の“武人”として未熟な証拠だと思う彼であった。


 彼らの向いている方を見ると、路地に3人が横に並んで火縄銃を構えようとしている。その横の家から飛び出してきたらしい。まだ多くの人目があるのに大胆なことだが、流れ弾が人に当たろうと気にしないのだろう。加えて、近くの商店から槍を持った男が5人、また別の商店からさらに5人が飛び出してくる。


「マキタ、マサキ様を庇え!アカネ、ミネ槍を持ったそいつらを撃て!」

 アキタが叫び、自分は小銃を背から回して、素早く構えて直ちに撃ち放す。バン、バン、バンと連続音が鳴って、すでに銃を構えて撃ってしまった1人を交えて3人共にのけ反って倒れ伏す。


 一方で、槍を持って迫って来る5人については、ミネとアカネが銃を引き抜こうとしたが、マサキの横で彼を庇う動きをしたミネが、銃弾を受けて「アウ!」と叫び倒れる。アカネは気にした様子を見せず回転式拳銃を抜いてバン、バン、バンと撃つ。

 また、マサキ前に立ちはだかってかばっているマキタも、背負っていた小銃を構えて血相を変えて走り寄る槍の男たちに向けてバン、バン、バンと撃つ。


 隊長のアキタとマキタの銃は、まだシマズでも数の少ない5発の銃倉を持った銃であり、引き金を引けば連発出来る上にライフルであるので、彼らの腕なら100mは必中距離である。火縄銃の男たちの距離まで30mであったので、撃ったアキタにとってはとっさであったが必中距離であり、それぞれが胸や胴に弾を食らって倒れ伏した。


 さらには、アカネは回転拳銃を両手で持って、着実に撃っており、マキタも同様にきっちり狙いをつけて撃っている。厳しい訓練を受けた彼らは、槍を持って迫って来る男たちの殺気、さらには周辺の買い物客が狂乱するのにも動揺することはないので、10m以下の距離では外す方が難しいほどであった。


 10秒ほどの後には、火縄銃の男たちは全て倒れており、槍の男たちも一人を除いて倒れているが、ほとんどがうめき声をあげてうごめいている。いずれも、狙いやすく的を外す可能性が低い胴体を撃たれているので即死はしていないのだ。


 しかし最後の一人が、歯をむき出して女性の買い物客の襟を掴み、短刀で首筋に刃をあてて、何やらわめいている。だが、顔が剥き出しになっているのでその顔をアキタは表情も変えずに素早く狙って撃つ。

 銃声と共に額に赤い丸が出来、そこから赤いものが吹き出すと共に、男が後ろに崩れ落ちて、すでに気絶している女と共に倒れる。その際に、女の首に付き付けた刃のために薄く切り傷がついたが、幸い血が出るかでないかの傷で跡形なく治るであろう。


 その間に、マサキは少なくとも当面撃たれることはないという状況を確認しながら、撃たれたショックに顔色が白くなったミネを抱き起してその傷を診ていた。まずは、彼女の草色の制服をサッと点検してその肩に穴が開いているのを見てまずは一安心した。


 腹や胸を撃たれて内臓が傷ついていると、現在のシマズの医療レベルでは助からない可能性もある。まずは、制服の前のボタンを外して、それを脱がしながら鑑定で傷を探って、傷の状態を確認する。幸い弾は抜けているが、直径が1㎝ほどもある鉛の弾は組織を手ひどく傷つけている。


 とりあえず、念動力で傷口を押えて、噴き出す血液の勢いを弱め、次いで錬金術で血管を含めた組織を縫い合わせていくが、いわゆる“魔法”のように組織がアッと言う間に回復したりはしない。ただ、傷によって傷ついた血管を塞ぎ組織を溶着させることはできるので、出血死することはないし、痛みも早いうちに収まる。


 その意味では数分で“ある程度治った”状態にすることが出来るので、怪我で死ぬことも殆どないし、その後の回復も普通に治療した場合に比べ非常に速い。ただ、肺や肝臓、腎臓などの臓器が傷ついていると、その機能を十分理解できていないので助からない可能性もある。


 このような治療法はマサキが始めて、医者に教えてシマズには行き渡り始めた方法である。その応用で少し前までは致命的な病気である盲腸炎なども、今では簡単な外科手術と併用して恐れる病気ではなくなった。そして、生体への錬金術の利用によって、マサキの前世の地球でも治癒できなかったガンを含む悪性潰瘍も治療可能になっている。

 一方ではやはり医学知識の不足で、諸々の伝染病、感染症は依然として大きな脅威になっており、この点ではマサキは領の医療部と協力して解決に尽力している。


 マサキが応急措置を済ませたところで、ショック状態から抜け出したミネが目を開き、自分の状態に気付いて慌てて言った。

「あ、ああ、マサキ様!わ、私は?」


「ミネ、大丈夫だ。俺を庇って撃たれたんだ。一応治療はしているが、すぐに医者に運ぶからな」

 マサキが応えて言ったが、続いて同僚のアカネが安心させるように言う。


 とは言え、実際はマサキを庇っていたのはマキタであるので、ミネは庇って撃たれたわけではなく横に居たので撃たれたというのが正しい。

「ミネちゃん、大丈夫よ。襲ってきた敵は全員倒したわ。ミネちゃん以外に怪我をした人はいないよ」


 彼女が言うが、横たわった彼女をマサキが抱き、それを30人ほどの買い物客や店のものが、遠巻きに取り囲んでいる。一方で、アキタとマキタの2人の男性の護衛は、銃を構えて倒れた襲撃者を足蹴にしてその状態を点検している。死んだ振りをして襲われる可能性を考えているのだ。


 そして、警務隊の隊員が3名、駆け付けてくる。俄かに起こった銃声や悲鳴を聞いて駆け付けた、この商店街に配置された警務隊員であるが、さらにサイレンの音が聞こえてくる。あれはマキタが携帯している通報装置で非常通報をしたのに応じて、警務隊の本部から出動してきたものだろう。


 現状のところ無線電話はあるが、持って歩くに重いため、携帯用の非常通報装置をマキタが携帯している。これはいくつかの信号を送れるのみであり、声を始めとした音を伝えることはできない。

 とは言え、普通の有線電話はできており、シマズ直轄領では使えるようになっている。原理的には使える技術も多いので、すでに携帯用の無線電話の試作機で試験中であり、まだ携帯には難があるが領都シマズではすでに使える。そして1年以内では、属領を含めてシマズ領内では携帯型が使えるようになるはずだ。


 また、今のところ携帯発信機の位置を知る設備はないが、マサキの予定はあらかじめ警務隊本部に知らせており、そこに非常警報が鳴れば、彼の出回る予定地に警務隊が急行することになるのだ。このようにして、13人の襲撃部隊を動員したマサキ誘拐計画は失敗した。


 計画は護衛を打ち倒してマサキを拐取する予定であったようで、アーケードの外に乗用車を待たせていたが、マサキの護衛が連発銃をもっていることを知らず、自分たちの火縄銃程度の性能と考えていたための失敗である。

 だから、火縄銃もマサキには当てるつもりは元々なく護衛を狙ったもので、そのためにマサキの横にいたミネに命中することになったものだ。


 13人の襲撃者の内で即死したのは、弾が心臓に命中した2人と、額に命中した一人であったが、他の5人も内蔵を損傷しており間もなく死に、5人は生き残って意識を取り戻したものの自決した。鍛え上げられた襲撃者であったが、連発銃で撃たれると鍛えた武芸も発揮できないことになる。


 ちなみに、捕らえられた自動車については運転手が捕まったが、金で雇われたやくざ者で状況を全く知らず、結局襲撃者についての情報は明らかにならなかった。


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