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錬金術で進める国作り  作者: 黄昏人
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産業革命、シマズ領で進んでいるそれが巻き起こす渦

読んで頂いてありがとうございます。

アマオウとカジオウは、マサキの案内で完成したテツトの製鉄所などの工場群を視察している。ここは製鉄所として高炉や製鋼所に加えて、コークス炉で石炭からコークスを製造している。製鉄に石炭を直接用いると、石炭に含まれる硫黄分などが、出来た鉄を脆くするので、古くから製鉄には木炭が使われてきた。


この木炭は大量に必要なので、あるところで製鉄が行われると周辺の山はたちまちはげ山になってしまう。実際にワ国においても、主として砂鉄から鉄を作る際には木炭が使われ、このために多くの樹木が切り倒された。マサキが目論む産業革命には大量に鉄が必要であり、このために木炭を使っていると全土がはげ山になってしまうので、石炭からコークスを作ることは必須である。


ただ、コークスを作る際に、石炭を単純な蒸し焼きにすると有害な硫黄酸化物が大量に排出されるので、大規模なコークス炉だと辺り一帯が人が住めないほどの環境になってしまう。だから、その排ガスを浄化する必要があるのだが、この際にタールや軽油、硫黄の化合物など多くの有用な副製品が得られる。


石油精製の場合でも同様に有用な副産物が得られるが、残念ながら現状では原油は見つかっていない。その意味では、コークス炉から得られる軽油は、大量ではないが貴重で手軽な燃料として使われ始めている。このコークス炉と排ガスの浄化及び副産物の回収については、極めて複雑なシステムになる。


だが、錬金術のあるこの世界では大いに錬金術師が魔力を使って反応に介入して比較的簡易な設備で、副産物の回収と製品化を行っている。

また、製鉄所の仕組みは銑鉄を作る高炉と、銑鉄を鋼鉄に変える転炉、さらに型鋼などをつくる鋳造工程からなるが、マサキはその仕組みは基本的にはそのまま踏襲して、ほぼ前世の設備を建設している。ただ、高炉、絵転炉による製鋼、鋳造の各工程で錬金術師が魔力を駆使して、設備の制御の部分を大いに簡略化している。


製鉄所における主要な排ガスの発生源である高炉については、簡略な浄化設備をつけて極力大気汚染の発生を防ぐようにしているが、無論マサキの前世のほどの効果はない。


マサキがコークス炉を指しながら説明している。

「大殿様、これがコークス炉です。コークスと言うのは鉄の製造に必要な燃料で、石炭を蒸し焼きにして、鉄に有害な物質を取り除き、さらに高い熱量を持つようにしたものです。

今のテツト製鉄所の鉄の製造量は日に1千トンですが、コークスが大体5百トンくらい必要で、そのコークスを作るためには5倍程度の石炭が必要です。つまり1日に2千5百トンの石炭が毎日運びこまれています。

そして、石炭のコークス化によってさまざまな副産物が生まれています。硫酸などの薬品、瀝青材の原料になるタール、尿素、軽油などで、領都シマズの道路の舗装に使われているのは、ここで作られているタールです」


マサキが説明するのに頷いたアマオウは尋ねる。

「うむ、石炭は古くから使われていたが、出てくる煙が臭くてな。それを蒸し焼きをするというのは気が付かなかったな。そういう意味では木炭も同じことだの。しかし、歩留まりが悪いのだなあ。その代わりに大量の副産物が出るわけではあるが……」


「はい、それは確かにそうです。ですが、まあこのコークス炉もそうですが、製鉄の高炉も電気を莫大に使います。ですが、どちらも大量の熱を出していますので、発電の魔道具の生まれる電力で十分に賄って、余った分をこのテツトの街に供給しています。だから、石炭の有用性を余すことなく使ってはいるわけです」


「まあ、そうだの。ところで、このテツトでの鉄の生産も2千トン位で打ち止めと言うが、今後今シマズで起きている様々な変革が、ワ国に広がっていくと到底その程度では足りないと思うがそれはどうするかのう」


「父上、現在我がシマズの鉄の必要量は、鉄道に使っている量を含めても年間150万トンに足りませんので、このシマズ製鉄所の生産量で充分です。

とは言え、今後鋼鉄船の建造、傘下に入った国々への鉄道の延長などに加え、民間の鉄需要の高まりなどを考えると、5年後には消費量300万トン、10年後には400万トンになると考えています。その点は、前にもお話したとおりですが、つまり当分はこのテツト製鉄所の生産で事足りるということです」


途中でカジオウが口を挟むが、アマオウが少し不機嫌そうに言う。

「ふん、それは承知しておる。しかし、それは我らの版図と鉄の使う場所がこのシマズ領に限った場合の話じゃ。先の評定で言ったように、わしもこちらから南ワ大島の諸国、北ワ大島に攻め込むつもりはない。

しかし、我がシマズ領はこの製鉄所で作られた鉄が大量に使われていることから判るように、どんどんと豊かになっている。多分このシマズを除けば、南ワ大島、北ワ大島の両方を含めても鉄の年間の生産量というか消費量は10万トン足らずじゃろう。


そして、このテツト製鉄所の作る鋼材の費用は、その値段を鉄生産でも有名で他の諸国がこぞって買っている北ワ国の半分以下にしても十分なほど安い。この南ワ大島の、南岸の諸国はすでにこぞって我が領から鉄を買っている。その値段は北ワ国と同じにしているにもかかわらずじゃ。

つまり、質が違うのじゃ。彼らが買っているのは延べ板か延べ棒であるが、わが鋼鉄は質が均一で鍛冶屋での鍛冶が北ワ国のものに比べると遥かに楽であるらしい。つまり鍛冶の費用が安くなるので、鉄を同じ値段で買ってもわが方の鉄を買いたいということじゃ。

我が領では、鋼鉄製品で売れているのはレールもその一つだが、型鋼の量が最も多くなりつつある。他の領に売れているのは今のところはわずかであるが、今後は増えて来るであろうが、ワ国はそのようなものは作れん。つまりは、我らが領を閉ざさない限り、他の領はこのテツトの鉄を欲しがるから、1日2千トン足らずの生産量では早晩追い付かなくなるということじゃ」


「ふむ、なるほど、そうですな。しかし、このテツトでは残念ながら水が足りん。鉄を1トン作るのに120倍ほどの水が必要になるが、この場所では今後引いてくる水を含めても鉄2千トンの生産が限度ですな。ですから、水が豊富な場所で次の製鉄所を計画する必要があります」


アマオウが応えるのに、マサキが続けて言う。

「それと、石炭については当分の間大丈夫ですが、ヤマシタ領の鉱山では鉱石の量が思ったより少ないので早々に他を探す必要があります。その点では、北ワ国の鉱山は極めて規模が大きいようですね」


「ふむ。南北ワ大島の最大の大国である北ワ王国には、すでにシマズ貨幣の件で大いに機嫌を損ねている。さらに彼らの同じように大事な利権である製鉄の件では、わが国が周辺の領に売っているのを国王ミズラ様自らがいたくご立腹のようだ。加えて、こちらの都合として、我らが大いに欲しい鉄鉱山は北ワ王国にある。ハハハ! どうじゃ、カジオウ、次期領主としてどうしたら良いか考えを申せ」


「ハハハ、父上も人が悪い。もはや結論は出ているでしょうに。まあ、ここに至っては、こちらが大人しくしていても相手が放って置いてくれませぬな。幸いに、現状では兵の数は大きく劣りますが、兵器の質では完全に勝っています。以前の戦いでは、わが方はほとんど被害なしに相手を打ち負かしました。

諜報の調べでは、北ワ国は2千から3千丁の銃を備えているとのことです。ただいずれも火縄銃で、火薬は早合を使っているようですが、銃をひっくり返して弾込めをする方式ですから時間がかかりますし、射程は精々70m足らずです。我が方の小銃はすでに2万丁、迫撃砲を5百基を配備して、さらにテツトとシマズには大砲を備えています。


小銃は単発銃ではありますが、ライフルを刻んでいますし、5秒に1発から彼らの火縄銃に比べて10倍の早さで連射できるうえに、射程は少なくとも2倍以上です。

ただ、相手も銃を持っている以上は、こちらの被害なしとはいかないでしょうが、狙撃銃と迫撃砲を合わせて指揮官を真っ先に狙うという戦法は基本的に使えると思っています。また兵器以上に大事なのは兵の移動と装備と兵器の運搬手段ですが、これはトラックの数が大分揃ってきたので、1個師団については領内であれば、あっという間に展開できます。


まあ、油断してはなりませんが、判っている限りでは負ける要素はないでしょう。本当はこちらで時を選べるのでこっちから攻め込みたいところです。ですが、現状では十分な船腹をもっていないこともあり、まだ、長く大国として敬われてきた北ワ国に侵略するというのは、いささか外聞が悪いと言うこともあります」


カジオウがこのように言うが、軍においては、その進軍速度というものは非常に重要である。騎馬が重要視されるのは、戦闘における速度と馬体を合わせた重量による突進力もさることながら、歩兵の3倍から5倍に達する移動の早さである。

敵の位置を把握できれば、一つの騎馬集団が2つ、3つの敵に当たることが可能になる。つまり、早い速度で移動できる軍はその戦力を2倍、3倍に生かすことが可能なのだ。


ちなみに、シマズ家では、すでに車は実用化されているが、これはエンジン駆動ではなく全てモーター駆動である。蒸気機関や軽油を使ったエンジンは試作されてはいるが、熱することで電気を起こせる魔道具がある以上なにも工作に難しいエンジンを作ることはないということだ。


この自動車はコークスを燃やして電気を起こし、その電気でモーターを駆動するようになっている。自動車の開発ではトランスミッションとタイヤで苦労している。トランスミッションは、いずれ自動車には必要と考えられていたので、馬車用として実用化されて、使っていくうちに改良を重ねられてきた。


この時期の車輪は鋼製であったために、板バネ方式のショックアブソーバーがあっても乗り心地は良い物ではなかった。タイヤについては、コークスの製造時のタール分が出来はじめて、試行錯誤して弾力のあるネオプレンに近いものを開発することでタイヤ部分はできた。


ただ、チューブは更に苦労したが、ネオプレンの成分を変えて最終的に何とか使える者が出来ている。この点は錬金術が使えるこの世界であればこそであり、錬金術師が比較的簡単に様々に成分を変えたものを作れるから完成したようなものである。ただ、現状では耐久性に難があるため、タイヤについてはゴム製品の民生への活用を含めて、マサキ指揮下の総合研究所で重要なテーマとして位置づけられている。


マサキの知恵を導入したシマズ領は、速度の速い輸送手段の確保は最重要課題として位置づけられてきたので、道路の整備が積極的になされている。その中で、当初は運搬手段として馬車が使われてきたが、幹線路には鉄道が敷かれさらに、乗用車やトラックとバスを導入し始めている。


さらに道路は、表面が錬金術で固められているが、この強度は低品質のコンクリート程度である。また、下層の締固めが不十分なので、相当に凹凸があるものの、ぬかるむ土の道よりははるかに増しである。今では、領都シマズを中心にコークス炉のタールを用いたアスファルトによって舗装されつつあるが、全体に行き渡るには時間を要する。


このように路面状態はあまりよくはないが、自動車は時速40~50㎞で走行できるので、トラックを使える軍団は迅速な移動が可能である。しかもその軍団は当然全ての兵が小銃を持って、迫撃砲を多数装備した部隊であるので、シマズ領に侵攻することは事実上不可能であろう。

 

挿絵(By みてみん)


 シマズ領はシマズ直轄領に加え、西属領、東属領の属国化した周辺の領を含めれば、170万民を超え、全体で550万民と言われる南ワ大島最大の勢力になっている。先ほど述べた自動車が問題なく通行できる道路は直轄領ではすでに張り巡らされており、属領の各領都に伸びつつあるところである。


 他の領では、接している山地については放置していて、自領としての自覚がなく領には含めていない。これは、人口の割に領の面積が大きく、未だ開発されていない土地が平地にも多く残っていること、また山地には凶暴な野獣が多く生息していることによる。


 対してシマズでは、山地も領有化してそこに眠る資源を探ることを領の方針として決めている。これは、強力な銃と人が持ち運べる迫撃砲を所有していることで、野獣を恐れず入り込むことができるためである。

 実際に多くの探検部隊が山地に入り込んで様々な資源を発見している。だから、シマズ家が山の頂点に至る山地を自国領として宣言しているが、他の領にしてみれば余り実感がない模様で特に異議を申し立てるものはない。


 ところで、属領の住民は、ほぼ自由にシマズ領に入ることができてその繁栄を知っているので、大いに羨んで自分の地域もシマズに取り込んで欲しいと思っている者が多くなっている。とりわけ、シマズに併合された地域も急速に豊かになるのを見ているのだから、当然の反応であろう。


 これは一般住民のみならず、武士階級の多くもそのように思う者が増えており、彼らは領主とその一族を突き上げている。中には領主自身がそのように考えている領もあり、彼らはシマズに併合を申し入れてきている。 


 だが、現状ではシマズの旧来からの版図と直轄領に入った地域の開発が手一杯ということで、待たせているのが現状である。拙速に併合した結果、開発が大幅に遅れ不満を持たせる結果になるのを懸念してのことである。 


 その日、領主のアマオウとカジオウは、コークス炉から高炉、転炉、鋳造所をじっくり視察して、自領の発展のほどをさらに確信することが出来た。彼らはシマズ城から乗用車でやって来たが、僅か35㎞の行程なので朝城を発って、夕刻に帰るので日帰りである。


 シマズとテツトの間には鉄道も通っているが、それを使うと警護のために一般の人の乗降を止める必要があるので乗用車を使うことになったのだ。この点では、カジオウは無論、アマオウも合理的な人物である。


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