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錬金術で進める国作り  作者: 黄昏人
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マサキがカジオウに臣従すること、ワ国への登場

新しく連載を始めました。

よろしくお願いいたします。

 12歳のマサキは、カジオウに仕えて2年になる。カジオウは現在50万民の大名であるシマズ家の嫡男であり、直属の家来を20人抱えていて、マサキはその一人である。マサキはオリタという2つの村を領有する2500民の領主の2男であった。


 ちなみに、ワ国では領の大きさは統治する民の数で表すことになっている。一応、各領では落長と呼ばれる20~100戸の代表が、各戸の人数を数百戸を管理する群長に毎年報告することになっているので住民の数は概ね把握されている。


 マサキはかつて、そのオリタ領のコメの生産高を2倍にして、さらにイモ類、大豆、果樹などの換金性の高い作物を育て、加えて酪農を始めて乳製品の生産をしたことで領の収入は数年で高まり、それは3倍ほどに及ぶとまで言われた。この変化に気付いたカジオウが、それら全てがマサキの手から始まっていることを突き止めると、自分の家来に勧誘した。


 それは、マサキが“工作小屋”と呼ぶ小屋の中でのことで、カジオウがその中の様々なマサキの作品を、マサキから説明を受けながらしげしげと見た後であった。互いに向かい合って椅子に座る、当時10歳のマサキは、カジオウに聞いた。


「カジオウ様は、このオリタ領も含む25万民の大名であるカジタ家の跡継ぎですよね。あなたはシマズ領を、というかシマズ家をどのようにしようと考えているのですか?」


「ぶ、無礼な。大名家の若君であるカジオウ様になんということ!」

 カジオウに随行してきた、従者のキムラ・コウゾウが叫ぶが、カジオウは腕を上げて「よい、邪魔をするな」とコウゾウを止め、マサキの問いに答える。


「うん、わしはこの戦の絶えぬワ国の戦を無くす。そして、民が戦で死ぬことなく、飢えることなく、笑って暮らせる国にしたい。だから、シマズ家をこのワ国の支配者にしなければならん。そのためには、シマズ領をより豊かで、強くしなければならん」


「うん、そうです。その通りです!民が戦で死ぬことなく、飢えることなく、笑って暮らせる国。素晴らしい。ただ、そのためにワ国の支配者ですか。また戦が必要になるのですね?」

 マサキは一旦目を輝かせ、腰を浮かせて言ったが、最後にトーンが下がる。それでもカジオウが続ける。


「うむ、それはやむを得ん。ただ、その戦も出来るだけ犠牲が少なく、民が巻き込まれないようにやっていくつもりだ。そのためには、国を豊かに、強くして、戦をしなくても周りの国々が降ってくるようにしたい。

 ただ、そうもいかん場合もあるだろう。お前も、今のワ国が戦をせずに統一できるとは思っておらんだろう。そして、統一無くして戦のない世は来ないと思うであろう?」


「ええ、まあそうですね………。私もこのオリタの小領では限界であるとは思っていました。領を大きくすること、最後はワ国の統一は必要です。戦とはいうのは、全くの無駄な行為です。その労力と資材、食料を生産的なことに回せば、どれほどのことができるか………。ですが、解りました。やむを得ないことではありますね」


「だから、カジタ・マサキ、お前が欲しい。お前の知識と錬物術が欲しい。それで、我がシマズ家を強くして豊かな国を広げていきたいのだ。どうだ、わしの従者になって、お前の力を貸してくれんか?」


「解りました。カジオウ様にお仕えします。シマズ領をワ国一の富裕な領にして見せましょう」


 マサキが10歳の幼い子供とも思えぬ不敵な顔をして、大言壮語としか思えないことを言う。家臣のキムラ・コウゾウはなんという傲慢な子供かと思って、口を出そうと思ったが、横目で見た主君が満足そうな顔をしているのを見てその気が失せてしまった。


 自分では及びもつかないほどに深慮遠謀の若殿が、この子供を認めている。それほどのものかと彼は訝しんだが、じっくり見極めようと思い直す。そして、主君が正しかったと心から認めたのは、マサキが年若い同僚になって1年を過ぎた頃であった。


 カジオウは、マサキのことが耳に入って以来、徹底して彼のことを調べさせてから、彼に会いに行っている。なにしろ、オリタ領はシマズ家の支配下にあり、調査にはオリタ家の者も協力しており全く問題がない。調査の結果、まだ幼いマサキが本物の天才であることをカジオウは確信して、なんとしても自分の配下にすると決意した。


 ただ、常日頃のマサキの言動から、彼がこの時代と土地柄から見て異常とも言える価値観を持っていることが窺えた。戦を忌嫌っていること。民が豊かで幸せになるよう願っていること。そしてそのためには国が富む必要があるということなどを公言している。


 これは、カジオウにとってもある意味新しい考えであった。しかし、彼は国を統一するためには戦は必要なものであると思っており、戦そのものは嫌いではない。また、民は自分に従うもので、不満を持たせて逆らわせてはならんが、服従させるためには自分に対する恐れが必要であると思っていた。


 その意味では、マサキの言うことは甘っちょろい。ただ、父の金策を傍から見ていて、戦に勝つためには国が豊かでなくてはならないことは良く解っていた。そして、国を豊かにするにはオリタ家の実例にみられるように、マサキの知恵と錬物術は極めて有用である。


 貧しかった小領主であるオリタ家でできたことを、シマズ領全体でやればどれほどのものになるか。それがワ国全体に及べばどれほどになるか。いずれにせよ、マサキは自分に従わせなければならない。その説得のために考えた理屈が、先に述べた内容であり、マサキが感激して従うであろうと考えた次第だ。


 そして、すこし議論はあったが実際にその通りになった。その意味では、当時早熟な15歳のカジオウが10歳のマサキをうまく説き伏せたということになる。ただ、カジオウとしてもマサキが異常なほどに頭脳明晰であることを良く解っており、彼を甘く見てはいない。


 だから、基本的には彼に言ったことは守っていくつもりであった。領を豊かにすること、その豊かさとマサキがもたらす数々のもので戦には必ず勝って領民に痛みを味わわせることなく領を広げ、その豊かさを広げていく。最後はワ国全土にそれを広げるのだ。つまり、シマズ・カジオウはワ国の覇者になる訳で、それこそが自分の野望である。


 ちなみにカジオウはシマズ家の嫡男であって暫定次期領主であるが、家督の継承権に関しては盤石の体制とは言えない。弟が2人おり、上の弟のシゲノリは尖った性格のカジオウに対して温厚かつ優等生であり、彼を次期領主に推すものも多い。


 ただ、父のアマオウは尖った性格のカジオウを評価しており、世継ぎを変えるつもりはなかった。そして、マサキを引き込んだことで更にその気持ちが強くなっている。なにしろ、マサキがカジオウの元で活動し始めて僅か2年でシマズ領は面積で3倍、領民は2倍になったのだ。


 それは、当然カジオウの手柄ということになっている。カジオウはマサキが誘いに応じてからというもの、戦と謀り事に余念がなく極めて多忙な父を捕まえてはマサキに関しての話をしている。


「ふむ、解った。わしもそのオリタ家のことは耳に入っていた。大分隠しておったようだの。オリタ家の話ではまず運が良く、さらには様々に工夫して景気が良くなったということじゃったが、なるほどお前の調べでは3倍に近い増収になっているとはなあ。領民もこの4年で1800ほどから2500に増えておる。

 我が家への年貢は5割増しか。増収から考えると少ないが、確かに我が領では年貢は、面積あたりになっておるからのう。不正と責めることはできんな。しかしまさか面積当たりの取れ高が倍以上になるとは思わんよな。それに、米以外には年貢は考えてはおらんかった」


 アマオウはカジオウの差し出した書類を面白そうに見てから、真剣な眼で長男に向き直る。

「確かに、そのマサキという者が農産において大きな力を出したのは判る。食い物が増産できるというのは、国の力を増すこと。確かに事実であり、マサキを引き込んだのはお前の手柄じゃ。しかし、それにしても、食い物で国を大きくするとまでいうのは言い過ぎじゃろう。国を大きくするのは戦であり、武人の質と数じゃ」


「しかし、父上、マサキが言うには、あいつの家のあったオリタ領はとかく手狭で、欲しい資源がないためにできることに制約が多かったと。その点では、比べものにならないほど広いシマズ家では様々な資源を使って、大きなこともできると言うことです。例えば、戦において鉄は非常に重要ですよね?」


「ああ、その通りだ。我が家では鉄鉱石が採れるのでそれなりに作れるが、錬物のできる職人も余りおらんので大した量は作れん。まあ、一応武士に刀を与え、百姓兵に槍を与える程度のことは出来ておるがの」


「それが、マサキの言うには、鉄だけでも今の10倍も、ひょっとしたら100倍も出来るのです。そのためには、今のように木炭を使っているのではだめで、隣のキクタ領の燃える石、石炭を使う必要があると言いますが。マサキは鉄だけでなく、他の金物ももっと簡単に多量に作れると言います。

 それだけではありません。マサキは様々な便利なものを作り出しており、それを使えば、農作、漁獲、林作の生産が大いに捗るようにさせられると言います」


「ふーむ。まあマサキが色々使えることは解かった。しかし、戦に使えるものも何か作り出すよう命じよ。マサキも隣のキクタ領の石炭を手に入れたいと言うのじゃろう。であれば、いずれにせよ戦になる。また、石炭だけではない、今後欲しいものを産出する領は、戦で切り取る必要があるはずじゃ」


「はい、父上。私もそのように導くつもりです。マサキは多くの人死が出る戦を嫌っており、自分の領の豊かさを見せつけて自ら併合を望むようにということを言っております。私は、この考えはなかなか捨てたものではないと思っております。

 しかし、我が領が実際に豊かになって、そのようになるためには時間がかかります。だから、当分は戦で欲しい領は切り取るしかありません」


「ふむ、富があれば相手が勝手に降ってくるか……。面白い。当主は無理かもしれんが、重臣共はより良い報酬を示せば降るじゃろう。戦なしに切り取れるなら、その方が良い。戦は何せ金がかかる」

 長く戦を繰り返して、領を広げてきたアマオウは、意外に戦好きではないようだ。


「よし、カジオウ。いずれにせよマサキを取り立てたのはでかした。大いに我がシマズ領を豊かにしてくれ。そして、差し当たり戦に使えるようなものを作り出すよう促してみてくれ」


 この話し合いが、カジオウが次期領主となることを決定づけるものになった。事実、シマズ家はその後2年で更に倍の領民を抱える領となったが、それはカジオウとその家臣の働きが大きいとは衆目の一致するところであり、カジオウの次期領主の座は実に盤石なものとなった。


 ―*-*-*-*-*-*-*-*-


 ちなみに、オリタ家の3男であるマサキが、前世の意識を取り戻したのは5歳の時であり、それまでは年齢から考えてもぼんやりした子であった。ある時、彼は庭をぼんやり歩いていて、足元にあった丸太の切れ端に気付かず踏んで、派手に転んで踏み固められた地面に後頭部を激しく打ちつけた。


 その後、高熱を出してうなされていたが、2日寝込んだ末に意識を取り戻した。父ハヤトの正妻であるヨシノはぼんやりしている3男を可愛がっていたので、心配のあまりどちらが怪我人か分からぬほど衰弱したとか。目が覚めたマサキは、5歳の我が身の内に、日本という国の老年のエンジニアであったセイジの魂が宿ったことを悟った。


 目覚めたその日から、マサキは変わってしまった。重ねた年月の重みでどうしてもセイジの意識のほうが優勢になるため、ぼんやりした5歳の子供として振舞うのは精神的にとても無理である。

 だから、周りの者は妖異かと不気味がったが、母のヨシノが『この子は頭を激しく打って、いままで詰まっていた何かが取れて普通になったのよ』と庇い続けたため、周りもそう扱うようになった。だが、実際の所は、5歳にしてはどう見ても言葉も振る舞いも異常に聡い子になってしまった。


 マサキの意識が、セイジのそれと融合してから、最も関心を持ったのは人々が使っている魔法である。日本の戦国時代にも似た戦乱のこの世界では、大抵のものがある程度の魔法は使える。この点で過去の日本でなく、地球でもないことが明らかである。


 とは言え、魔法として出来るのは火を起こす、涼しい風を起こす、灯りを灯す、水を操る、さらに小さな物を持ち上げる程度のことである。ごくまれに、非常に魔力の強い者がいて、彼らは火の玉を敵に投げつけて殺すほどの火傷を負わせたり、風で数人を吹き飛ばすようなことが出来る。


 しかし、しばしば起きる戦の中にあって、それは戦局を変える大きな力になるとは見做されていない。それよりも、魔力で物質に働きかけて物の形を変え、性質を変えたりできる、『錬物術』と呼ばれる魔法の能力の一種の方がずっと有用であると見做されていえる。


 錬物術師と呼ばれる彼らは、日本で言えば物を作る職人に相当するであろう。彼らは集めた砂鉄からなにも道具を使わず延べ鉄を作り、それからさらに刀身や槍の穂先、さらに農具、包丁を作ることが出来る。これは、経験的に元の砂鉄を溶けるほど熱すればずっと楽に物の加工が出来ることが判っており、こうした錬物には熱を加えるのが常識になっている。


 また、木工にしても丸太から直接お椀や箸等を作り出すことも出来るし、家の木組を加工する、組み立てを錬物術で行うこともできる。更に、田畑の耕作を行い、畑に魔力を作用させて実りを良くすることまでも出来る。しかし、これらは不思議で便利な能力ではあるものの、何が出来るか、またその成果に個人差が大きく、多くの者は人力で道具を使っての作業を行っている。


 マサキは、“目覚め”た当初から夢中になって魔法を使った。まずは伸ばした手の指先に灯りを灯した。黄色っぽい20Wの電球程度の明るさであり、この程度であれば本を読みながら2時間でも3時間でも灯しておける。また暑かったら、扇風機代わりに風を自分に向かって吹かせる。


 眼で見た物を引き寄せることが出来る。これはいろいろ調べた結果、最大20㎏までは持ちあげることが出来て、200gの石ころを30mほど飛ばすことが出来た。残念ながら、成長したマサキなら手で投げた方が遠くまで届くだろう。ちなみに、度量衡や時間の単位は日本と同じであり、えらくご都合主義だなと思ったものだ。


 また、ファイヤーボールというか火の玉を作って、飛ばすことが出来る。これは、結構危険な魔法であり、直径30㎝ほど火の玉を作って30mほど飛ばせる。速度は石を投げる程度であり、躱そうと思えば簡単だ。それに、火の玉を作るのに凄く魔力を使うので精々2回連続でやれれば良いほどだ。


 水に関しては、そこに水があれば、自在に操れるほか、何もないところでも手の平にちょろちょろというレベルの水を生み出せる。また、中々使えると思ったのは身体強化である。これは魔力で筋力を増強して、普段の倍程度の力を出せるものであるが、所詮その時の筋力に対しての倍であるので、素の筋力を上げないと余り意味がない。


 つまり、魔法は便利で興味ぶかい現象を生み出せるのだが、身体強化はともかく、他はそれほど有用とは言えないというのが、散々試した結果の結論である。しかし、『錬物術』と呼ばれる魔法は使いようによっては極めて有用である。


 これに関しては調べれば調べるほど興味が湧き、彼のエンジニア魂に火がついて、夢中になってその研究にのめり込んだ。ただ、錬物術という言葉は、セイジから引き継いだ自分の感性に合わないということで、マサキは『錬金術』という言葉に固執しており、後に多くの弟子や部下に対しても錬金術と呼ぶよう強制することになる。


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