1.7 プロローグ アルスの場合
召喚のメモ。
この前兄貴が落としたモノ。
それは机の中からでも分かる程、存在感を放っていた。
実技の内容も分からないし、召喚魔法について何か知ることができれば何かの役に立つかもしれない。
俺だけじゃなくイストにだって有益なはずだ。
......。
いや、違う。言い訳はダメだ。
俺は何もやりたい事がない今の自分が嫌いだ。
ただ単純に、今の状況を変えてくれそうなこのメモが見たい。
「......やるか」
俺は立ち上がり机に向かった。
引き出しにそっと手をかける。
中にはメモと少量の雑貨しか入っていないのに、引き出しはいつもより重く感じる。
俺は引き出しを開き、何度も折り畳まれたメモを手に取った。
......ははっ。
なんでこんな紙切れ1枚なんかに、緊張してるんだろう。
自分が予想以上に震えているのが分かり、俺は笑ってしまった。
......。
この震えは怖いからってのもある...。
でも......。
俺は震える指を押さえながら、折り畳まれたメモを開き始めた。
......嘘だろ。
メモを開き中を確認すると、確かに兄貴の文字でびっしり書いてある。
書いてはいるのだが...。
......兄貴、もっと綺麗にメモとれよ!!
メモに書いている文章はミミズののたくったような文字がさらに1時間這い回ったような字で書かれていた。
兄貴の字が汚いのは過去問をもらった時から知っているけど、じっくりと見れば確認できる程度の悪筆だったはずだ。
......そういや兄貴、召喚魔法で魔力吸い取られてたんだった。
多分これは、魔力を吸い取られた後に朦朧としながらメモを取ったんだろう。
......ダメだ!まだ諦めないぞ。
兄貴の文字解読は過去問で予習済みだ!
俺はメモに書いてある文章をじっと眺めた。
よく見るとメモは3段落で書かれており、2段落目には1〜4の箇条書きで何かが書かれている。
2段落目のそれぞれの1番目の文字を見ると次の文字であることが分かった。
1.水
2.地
3.風
4.火
水、地、風、火......?。
これが召喚と何の関係があるんだろう?。
でもこの4つについては知っている。
地水風火とはこの世界を構成する4元素のことだ。
その為魔法も大きく分けるとこの4つの属性に分けられる。
でもどうやってこの属性を召喚に利用するんだろう......。
だって例えば火と水を合わしたら絶対水が火を消しちゃうじゃん!
召喚について知ろうとしたつもりが、逆に謎が深まってしまったような気がする。
うーん......。どうしたらいいかな。
......。
俺は考えた。
兄貴が朦朧としてこのメモを書いたんだとしたら、これが最後のメモって事になる。
でも、もしかしたら召喚をする前に書いたメモが兄貴の部屋にまだあるかもしれない。
......それどころか、兄貴の部屋に召喚の教科書があるって可能性もある。
隣の部屋から兄貴のイビキが聞こえる。
兄貴は寝たら大抵の事じゃ起きない。
「......今がチャンスか?」
俺は兄貴の部屋に行く決心をした。