1.6 プロローグ アルスの場合
「......ごちそうさま」
俺は夕ご飯を食べ終わり、立ち上がった。
明日からもイストとの練習があるし今日も早めに寝ようかな。
階段を上がり自分の部屋に戻ろうとすると、リビングから声が聞こえた。
「そいえばアルス、お前試験大丈夫そうかー?」
兄貴だった。
うーん。どうなんだろう。
兄貴からもらった過去問もよく分からない問題ばっかだったし、結局実技だけで合否が決まりそうな気がする。
「......一応練習してるし、どうにかなるんじゃない?」
俺はそう答える。実技の内容さえ分かればもっと確証が持てるんだけど......。
「兄貴、やっぱり実技の内容は教えてくれないの?」
俺は兄貴に聞く。
「実技はな、実際に試験受けてからのお楽しみだ」
兄貴が心底楽しそうな目で俺を見る。
「兄ちゃんはな、試験の前日死ぬほど緊張した。俺は実技の内容も知らなかったし、過去問も父さんから貰えなかったんだぞ!」
それに......。
兄貴は続ける。
「俺は今試験を受けた身としてな、実技の内容を知らなくて良かったと思ってる。あの時のワクワクはそう簡単に味わえるもんじゃないぜ」
「だからお前にもその感覚を味わって欲しいんだ。きっと後悔はしないと思う」
......なんだそれ。それでもし合格できなかったらどうすんだよ。
俺は少し苛立ち始めた。
「分かった分かった。実技の内容についてはもう聞かないよ。」
「それじゃ、俺明日も練習あるから先に部屋戻るね。」
俺は兄貴の返事を待たずに階段を駆け上がった。
部屋のドアを開けると俺はベッドに思い切り倒れ込んだ。
なぜか兄貴の言葉が何度も頭の中で繰り返される。
いいじゃんか、別に。実技の内容を教えてくれたって。それで合格の確率を少しでも上げられるんだから。
あーあ。どうしよう。これで試験に対してほとんど分かんないまま行くことになるんだろうな。
イストに何て話せばいいんだろう。兄貴から実技何をするのか聞けませんでしたって正直に話すか。
でも、あいつのことだからもっと不安になりそうだし......。
俺は窓の方へ目をやる。月上がりに照らされた海に1つの大きな鳥の影が見えた。
イストは今頃、父さんの剣を打つのを見るのに夢中になってるんだろうな。
......魔法以外にも道があるのって少し羨ましい。
道って言うか、やりたい事......?
それに対して俺はどうなんだろう?
魔法訓練校に行きたいのも、特別な理由なんて無くて、ただ父さんや兄貴が行ってるからってだけだもんな」
......。
なんかつまんねぇ生き方だな。
人生を変える何かが俺に現れてくれたら......。
なぜか分からないけど感傷的な気分になった。
机の上の時計を見ると針は真上を指している。
......そういえば何かを忘れている気がする。
机を見ると何かを思い出しそうな気持ちになった。
「......あっ!」
思えば俺は召喚のメモを持ってるんだった。
何かを変えるもの。
召喚のメモ。
2つの言葉が混ざり合い、俺の中の何かを刺激した。