1.3 プロローグ アルスの場合
1ヶ月後、なぜか兄貴が寮から戻ってきた。
それどころか何か様子がおかしい。
「おかえり、何かあったの?」
と俺が聞くと兄貴が息絶え絶えに言う。
「アルスか......ただいま......」
よく見ると兄貴はこの前と比べて明らかに元気が無い。
もしかして......。
「もしかして召喚関係?」
「......はぁ......はぁ...... そうだ......」
兄貴が答える。
この前威勢を張ってたのは誰だよ......。
でも、いつも元気な兄貴がこんなになるなんて、
召喚って......結構やばい......?
「とにかく今は安静にしとかないとね。肩貸そうか?」
「......悪い...... 助かるわ......」
とりあえずリビングのソファに連れて行くか。
兄貴をリビングに連れて行く途中、兄貴のポケットから何やらメモが落ちたのに気づいた。
「兄貴、何か落ちたよ」
兄貴は疲れているのか、ソファにたどり着くとすぐさま寝てしまった。
俺はそのメモを拾う。
なんて書いてあるんだろう......。
何回も折り畳まれたメモの上面を見ると文字が書いてあった。
「召喚の方法」
これって......。
もう1度メモの上面を見てみるが、やはり召喚について書いてあるようだった。
魔法というのは公の場で言うと、魔法訓練校でしか習う事はできない。
だからと言って、魔法を使える人が全然いないって事じゃない。
訓練校に通っていなくても、魔法を学んだ人から教わることは自由にできるからだ。
しかし召喚は別だ。
召喚は下手に扱うと魔力が吸い取られてしまって、今回の兄貴のようになってしまったり、魔力が暴走して周りに危害を与えてしまう恐れがある。
そのため訓練校の卒業者は、召喚については一切教えてくれなかった。
この前卒業生である父さんに聞いた時も、お前にはまだ早いって言われたっけ。
俺はそのメモが危険だと知りつつも、手を伸ばし中身を確認したい衝動に駆られた。
......いやっ......!だめだ!!
この前初級を卒業した兄貴ですらあんなになってるんだぞ......。
俺がやったら多分死ぬだろ......。
アサトルフに合格して、ある程度魔法ができるようになってから練習すればいいさ。
......。
ガチャッッ!!
急に玄関のドアが開く音が聞こえた。
えっ!?何で俺メモに腕伸ばしてるの!?
その急な出来事に俺は咄嗟にメモを拾ってしまった!
「ただいまーってあれ、アルス、何でそんなに驚いた顔してるのよ?」
「ーーいやっ!何でもないよ母さん。おかえり!」
不自然だと思われたらまずい。
......そうだ。
「あ、母さん!今さっき兄貴が急に帰ってきて何やら召喚で失敗したみたいでさ、それに驚いちゃってたんだよね」
「今リビングのソファで寝てるから、看病してあげた方がいいんじゃない?」
そう言うと母さんは靴を乱雑に脱ぎ、こちらに向かって走ってきた。
「......アルス!!そういう事はもっと早く言いなさい!」
母さんは俺を通り過ぎて、兄貴が寝てるソファへ移動した。
兄貴の顔を確認して、ひとまず大事には至らないことを知って安心したようだった。
......ふー。何とか誤魔化せたな。
何か急に疲れちゃったな。1度寝てから頭を整理するか。
そう思った俺は自分の部屋へと戻っていった。