1.2 プロローグ アルスの場合
もうすぐ春がやってくる季節なのに、窓の外では雪が降り続いていた。
ホットミルクをマグカップに注いでいると、玄関からドアの開く音が聞こえた。
「やったぁぁぁぁ!アルス!ついに終わったぞ!!」
玄関を覗くと兄貴のラノスが頭に着いた雪を落としながら靴を脱いでいる。
「おかえり、兄貴」
話によると兄貴は今日をもって初級魔法訓練校-アサトルフの卒業試験に合格したようだった。
「まあ、おめでとう」
「まあって何だよ!」
賛辞を送ると、すぐさまツッコミが入る。
「うそうそごめん、だって兄貴が勉強してるの知ってたからさ」
「だから合格するのも当たり前かなって」
兄貴が1ヶ月も前から毎日勉強や訓練をしていたのを俺は知っている。
アサトルフというのはこの町で有名な魔法訓練校である。
魔法使いになりたい者は魔法訓練校に行くのが常識であり、その中には初級と上級の2つが存在する。
兄貴の通うアサトルフは初級、上級の一貫訓練校であるため、上級に進級するためには厳しい試験に合格しなくてはならない。
だから結構すごい事なんだけど......。
でも兄貴がとびっきりの笑顔を見せつけてきたのが気に食わなかった俺は、兄貴を少しからかう事にした。
「でも来週から上級訓練校で召喚について教わるらしいし、兄貴の事だから張り切りすぎて倒れちゃうんじゃない?」
召喚とは上級に入ってから1年目に主に習う授業である。
上級に通う魔法使いでも、一握りの人しか習得することができない魔法らしい。
それに下手に扱おうとすると体の中の魔力が全部吸い取られてしまうそうだ。
「さっきからいちいち何なんだよ!俺は魔力が吸い取られるぐらいじゃどうもしないぜ!」
「そりゃあお前の言う通り張り切るけどさ、召喚だし当然だろ」
まあ、そうだけど......。
続けて兄貴は俺に言った。
「それにお前、再来月初級の試験あるだろう。そんな態度だと過去問渡さないぜ?」
兄貴の言葉に俺はたじろぐ。
えっ!?
そもそもアサトルフは定員数も少ないし、魔法使いになりたい人も増えてきてるから、それはダメだって!
何とかして兄貴の機嫌を取らないと。
「まじでごめん!兄貴!!」
「何したらいい!?マッサージ?それとも何が飲み物持ってこようか?」
俺は誠意いっぱいゴマをすった。
兄貴は机に置いてある俺のマグカップを見る。
「ホットミルクなら許してやってもいいぜ」
兄貴は俺に微笑んだ。
「オッケー兄貴!ちょっと待ってて!」
俺はキッチンに向かって駆け、ミルクの入った鍋に再び火をかけ始めた。
砂糖を温まったミルクに混ぜながら思う。
これで落ちたら一生恨むからな。