ただ、それだけで。
窓越しに射し込んでくる、お昼過ぎの暖かな日差しが反射して、目が覚めた。
木漏れ日とそよ風。
澄んだ青空。鳥の囀り。
庭の草花はのんびりと揺れていて
蝶は優雅に飛んでいる。
『いい天気だね〜』
『そうだねぇ』って。
お洗濯干して、他愛もない話をして。
午後から何処か出かけようか。なんて話をしていた筈なのに
いつのまにか畳の部屋でごろ寝していた。二人して。
「───…。」
せっかく休みがかぶったというのに、このまま寝て過ごすのは勿体ない。と、隣で眠る彼のほうへと体を向ける。
穏やかな呼吸音。
ぴょこぴょこと跳ねている、癖のついた髪。
意外と長い睫毛。
眠っていても崩れることのない整った顔。
……あれ、なんだろう、これ。
不意に、なぜだかきゅうっと、胸を締め付けられた。
「──…ふみ と、」
静かに、彼の名前を呼んだ。
ゆったりとした口調も、笑うと細まる目も。
骨張った長い指も、なにもかも。
ぜんぶ、全部好き。凄く好き。
「………文人、」
どうして今、こんな気持ちになったのかは分からない。けど、隣で眠る彼をみて、どうしようもないくらい、幸せを感じていて──。
なんとも言えない幸福感が、胸に込み上げてきて
涙が滲んだ。
「……文人、」
もう一度 呼んで
「───好き」
ぽつりと呟くと
「………おれも好き。」
ぱちりと開かれた双眸が
ゆっくりと、三日月となって私をとらえた。
「…っあ、起 、きて…、」
「…そんなに見つめられたら起きちゃうよ」
くすりと笑って、伸ばされた大きな手。
私の髪を優しく梳いて
「………ねぇ、どうして泣いているの?」
優しい声で、そう聞いた。
───どうして…かは、分からない。けど、
あなたの、愛おしそうに頭を撫でる、大きくて優しいその手が好き。寝起きの少し、低く掠れたその声が好き。
今だってそうだ。こうして目が覚めたとき
「──…あなたが、隣に居てくれるのが、」
毎日、顔をみれて、返事がかえってきて。
何気ない日常の中で、当たり前に繰り返されること。
それは本当に、本当に、
「嬉しくて、幸せで…、」
大切で、かけがえのないもの。
そう気づいたときには 涙が零れていた。
「……おれもそうだよ。」
ふわりと笑う。抱き寄せられて、額がくっ付く。
あぁ、文人、体温高い。
溶けゆくように、優しく、柔らかく。
体中にじんわりと、幸せが流れてゆく。
文人の匂いで、いっぱいになる。
「ねぇ、琴葉」
「うん?」
「おれもね、琴葉と一緒になれて、幸せなんだよ」
見つめる眼差し。
頬をなぞる指先は、私の目元を、優しく拭って、
囁いて。
「───好きだよ。」
重なる唇。
「おれと…出逢ってくれて、ありがとう」
「………っふ、みと…っ」
そう言ったあなたの顔は、あまりにも優しくて、愛に満ちていて、幸せそうに微笑むから。また、涙が零れた。
「…今日はよく泣くねぇ。どうしたの」
「──…だって…、だって」
眉を下げて、少し困ったふうに笑う文人は、ぽんぽんとあやすように、私の背中を叩いた。
「もう、そんなに泣かないの。ね?」
「……っう、ん」
いつも。いつも。どうしてあなたの温もりは、こんなにも優しくて、落ち着くのだろうか……。それはきっと。
大好きなあなただから、安心するんだ。
あなただから、こんなにも愛おしくて、大切で、幸せなんだ。
「、……ねぇ文人。私もね」
愛と優しさ、思いやり。それらが溢れだすように、
ぽろりとまた、涙が伝う。
「……っわた、しも、」
文人は静かに、頬に掌を充てると、指の腹でそっと涙を拭ってくれる。その優しい手に癒されて、また泣きそうになるけれど。鼻をすすって我慢した。
陽だまりの部屋で、優しさいっぱいに包まれて──。
重ねるように、その手を握る。
見つめあって。笑った。
「───あなたに出逢えて、幸せよ。」
流れゆく日々のなかで、あなたが隣に居てくれる。
ただ、それだけで。
それだけで、幸せ。