8: 荒地のボンバーウッズ ②
気付くのが遅かった!
この森自体がモンスターだったのだ。
やっぱりこんな荒地に、不自然なほど潤った森があることがおかしかった!
ここに生えてる新鮮な野草や熟した木の実、その全てが獲物を誘き寄せるための、罠!
何にもない荒地を彷徨って弱りきったモンスターなら、絶対にここを訪れてしまうだろう。
この森がモンスターの口の中に繋がっているとも知らずに!!
今まさに、そんなマヌケなスライムが捕食されようとしている!?
クッソおおお!!
『抵抗なぞ無駄よ小さき獲物! スライムにこの根っこの拘束を解くことはできぬ。大人しく養分となれ!』
『ぐあ!! いつの間に!?』
ズボボボと地面から飛び出した沢山の硬い根っこがボクを締め上げてくる。
全然力が入らない…!
さっきのモンスターと同じ状況だ!
エネルギーを、吸われている!!
『馬鹿な!! こんなことで! くぅ!』
『恨むのなら儂との出会いを恨むことだ。この世は弱肉強食! 儂の活動領域に踏み込んだ身の程を弁えぬお主が悪いのだ!フォッフォ!』
『放せええええ!!』
『無駄に足掻く弱者は実に愉快じゃのお! フォッフォッフォ!!』
思念が、遠のいて聴こえてくる。
エネルギーを搾り取られてスライムボディが枯れていく…死ぬのか、ここで。
ボクはもっと強くなるために、外の世界へ飛び出したのに、こんなところでボクの旅は終わるのか。
道半ばで、ただのモンスターに捕食される。
今までのスライムと、同じ末路を辿るなんて。
こんなに呆気なく……ッ。
いやだいやだいやだいやだいやだぁぁぁあ!!
ピカァッ!
『ムム、なんぞ!?』
『ここで食われるくらいなら、自爆してやる!!』
このまま巻き込まれて死ね!
ボクは残っていた体内のエネルギーを使い、身体を膨張させ、破裂した。
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『ヌゥゥウ!? やりおったわ、あの雑魚種が!!』
破裂したスライムの消化液が飛び散り、森の一部がジュゥウと溶かされてしまった。
かなり強力な消化液なのか、侵食が完全に収まるまでに、日が三度沈むのを待つ羽目になった。
その上で、森の半分が爛れて使い物にならない。
こうなってはもう切り捨てるしかないだろう。
ボンバーウッズにとって、これまでにないほどの大損害だった。
モンスターのエネルギーを回収できていなければ被害はさらに広がっていたかもしれない。
スライムごときが、いらぬ爪痕を残しおってからに……。
まあよかろう。
『エネルギーは多少奪えた。これであと十数日は凌げるじゃろうか』
ボンバーウッズは、自身のエネルギー量が心許ないことを実感していた。
最近はただでさえ少ない荒地のモンスターが、めっきり姿を現わさなくなった。
きっと人間が狩りまくるせいだ。
かといって人間を捕食してもモンスターほどのエネルギーは得られないという不条理。
この強力な巨体を維持するために、エネルギーの回収も楽ではないのだ。
『……にしてもあのスライム、なぜ荒地に出現したのやら』
荒地のモンスターにスライム種はいない。
弱小のスライムじゃ、この荒地の環境では生きていけないからだ。
別の場所から迷い込んで来たのだろうが、単体でというのが妙だった。
スライムは雑魚種だ、よって群れをなす。
自我が弱く、本能でしか行動できないはずだがアレは明らかに違った。
こちらの思念も通じていたし、スライムとは思えないエネルギー量を保持していた。
本当にスライムだったのか?
ますます訳の分からない個体だが。
『考えの深みから抜け出せなくなるのはワシの寿命が近いせいか……』
もう養分になったのでどうでもいいと、ボンバーウッズは荒地を彷徨う。
今まで通り、何事もなく。
ぷるん。