7: 荒地のボンバーウッズ ①
……日照りだ。
輝く太陽の日照りで熱くなった大地を、ボクは彷徨っている。
強い日差し。
進んでも進んでも変わらない景色。
そして、たまに転がっている干ばつしたモンスターの死骸。
とてつもなく暑い環境なのだ。
枯れ果てた大地には、草一本も生えていない。
ボクの身体からも、白い煙が上がっている。
日照りの熱で少しずつ身体のスライム液が蒸発している……。
壁を越えてからはずっとこの調子だ。
『そろそろ限界だ……。水か、食べれるものがないと、身体が!』
景色は一向に変わらない。
カラカラに水分のなくなったモンスターの死骸を食べても、それだけじゃ長くは続かないだろう。
さすがにボクもどこかで完全補給をしないと、スライム液が干乾びて死んでしまうことになる!
こんなモンスターすらいない道半ばで、孤独に死んでいくなんてまっぴらごめんだ!
ボクはただ、黙々と進み続けた。
強いエネルギーの感じる場所はまだ遠い。
目に見えないゴールが、果てしなく遠いような感覚に襲われる。
ぐわあぁぁ、暑さでどうにかなってしまいそうだ!
『――……んぐ? あれは…………ッ!?』
何もない荒地を期待もせず突き進んでいたら。
なんと森が見えたのだ!
干しあがったこの環境の中、ポツンと、前方に小さな森が広がっていた。
なんという奇跡だ!!
行こう! すぐに補給しに行こう!!
ボクはまともに思考することを止めていた。
なぜこんな不自然な場所に森があるのかなんて、そんな疑問はどーでもよくなっていた。
でもこの暑さの中じゃ仕方ないことだ。
考えるだけ無駄というもの。
ゴロゴロと転がって、ボクは森の中へ一目散にダイブする。
あああ、紛うことなき自然の香り!
身体が喜んでいるのが分かる!
パッサパサに干乾びていたボクの心が満たされていっている!
『危ないところだった、これでもうしばらくはしのげそうだ! しっかりと補給できるまで、ここで休憩しよう』
水分がいっぱいに含まれた新鮮な草をモグモグ吸収しながら、ボクは安心して、ひと時の眠りにつくのであった。
風が吹くような環境じゃないはずなのに、森がざわざわと揺れている。
そんな単純な気配があることにも気づかずに……。
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『――――グォオオオオオ!!』
『……ぅ! なんだ?』
一体、どれくらい寝ていたんだろうか。
ボクは自然ではない、うるさい鳴き声で目を覚ますことになった。
今のは、モンスターの声?
もしかして、ボク以外にも他のモンスターが来ているのか?
……いや。
考えなくても分かるか。
こんな所に森があれば、日照りにやられた生き物たちも必然、ここへ群がってくることだろう。
きっとボクと同じように、安全地帯を求めてやってきたのだ。
『にしても、あの声は穏やかじゃないなー』
ボクに対してではなかったが、明らかに威嚇か、興奮したような鳴き方だった。
近くで、何かが起こっている。
何か、争いのエネルギーを感じるぞ!
『――グォオオオオオッ!!』
ボクはエネルギーのする森の場所へ向かって行くことにした。
近づいていくごとに、鳴き声が大きく、それも悲痛な声に変わっていく。
そして、ボクは見ることになる。
一匹の大柄なモンスターが、木の根に縛られて苦しんでいるところを!
『これは!?』
『グォオオオオオ!! グガガガガッ!』
鳴き声を上げて暴れ回っているモンスターの身体が、蔓のように伸びた根っこで捕えられていたのだ。
何十本も纏わりついていて、モンスターはもがくことしかできない。
『グガガガガ』
声がか細くなり、勢いも弱まっていく。
もがき過ぎて体力が落ちているようだが、原因はそれだけじゃない。
モンスターの身体が、搾りかすのようにどんどん縮んでいる!
まさか根にエネルギーを吸収されているのか!
『グガ……ガ――』
モンスターの中から、エネルギーの反応が途絶えた。
そのまま、根が死骸を土の中に引きづり込んでいく。
後には、何も残っていない。
『どういうことだ……この森、普通じゃないぞ! モンスターを襲う森なんて普通じゃない! 何もかもがおかしい!』
ボクは今、嗅覚の力を使っているが、モンスターのエネルギーはもう感じられない。
この森にモンスターの反応はない。
それなのに、ついさっきまでモンスターが木の攻撃を受けていた!
あまりにも矛盾している!
『嫌な予感がするぞ……何かに追い詰められている気がする。こんなジメジメした気分になるのは、初めてだ』
そもそも、干ばつしたこの荒地の環境に森があること自体おかしかった。
暑さに思考をやられて、気付くことが出来なかった。
敵はこの森に潜む"何か"か?
新手のモンスターか?
分からない……敵の正体が分からない!
危険すぎる!
『すぐにこの森から脱出しないと……!』
ムワァァァアア――……。
急いでボクは転がり、森の来た道を突っ切っていくが、なぜか外にたどり着かない。
あれ、この森、こんなに広かったか?
いやいや、そんなはずはない。
ここは規模の小さな森だった。
全力で進んでるんだ、森の外がすぐに見えないとおかしい!
だがいくら転がっても、進む道はずっと森の中。
どういうわけか、森から脱出できないのだ。
これはまさか……。
『ボクはすでに、敵の罠にハマっているのか……!?』
ムワァァァアア――……。
『――――逃がさない。ワシはお前を逃がさない。久々の獲物だ、待ちに待った食料だ、逃がす馬鹿がどこにいる――』
思念だと!?
ボクはどこからか聞こえてくる思念に困惑した。
敵はやっぱりモンスターの類だろう。
けど、敵のエネルギーはどこにある?
こいつは、どこにいるんだ?
どこからボクを見ているんだ!?
『次の狙いはボクか! どこに隠れてるんだ、出て来いよこの臆病者っ!!』
『フォッフォッフォ。ワシが隠れているだと? 小さき獲物よ、ワシはずっと前からお前の目の前にいたぞ。意味が分かるか? それともワシがデカすぎて分からなかったかのッ』
ズズズズと地面が揺れている。
空の雲が、緩やかに流れるはずの雲がすごいスピードで視界を通り過ぎている。
森が、ボクを乗せたまま場所を移動しているのか!?
『森を、操っている……? これって!』
ようやく、ボクは理解した。
森全体が、ボクに牙を剥いていたことに。
森の思念が高らかに嘲笑っている。
『気付くのがちと遅かったようだな、小さき獲物よ!
このワシが支配する森「ボンバーウッズ」へ、のこのことやってきた侵入者よ!
手厚く歓迎してやろうぞッ、その身を我が贄として差し出すがいいッ!!』
スライム Lv:36
ボンバーウッズ Lv:50