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3: 森のウルフマン一族 ②


 人間を食べてから、『ボク』は変わった。


 考えることを覚えた。

 外からの情報を吸収し、思考し、自分の能力の色々な使い方を見つけた。

 それからはひたすら、モンスターと戦った。


 草原を滑り抜け、森に侵入して目に付くモンスターを食い散らかした。

 知能の高いモンスターはボクを見て、たいした敵じゃないと油断する。


 ボクが雑魚モンスターのスライムだから。

 スライムの力を知らないやつらを、片っ端から食ってやった。


 スライムは弱くない。

 それを証明するために、ボクは強くなる。

 殺されるだけの一生はもう終わりだ。


 この森に棲むモンスターは全て!


 ボク、スライムの捕食対象だ――。


---

--

-


 ウルフマンが次々とボクに飛び掛かってきては、ボクのスライムボディの中で溶かされていく。


『なんで攻撃がきかないんだァァァア!!』


 そんな物理攻撃じゃボクは倒せないけど、無理はないか。

 この犬畜生は、スライムみたいな特殊な形態の相手とは戦ったことがないんだ。


『ダメだ、食いちぎれねえ! 先に牙が溶かされてしまう!』

『全員、下がれ!!』


 バッとウルフマンたちがボクから遠ざかった。

 それと同時に、根っこから引き抜かれた木が飛んできた!?


『うわっ!』


 間一髪で避けると、後ろでバキバキッと他の木が薙ぎ払われる。

 なんて威力だ……。


『オマエ、ただのスライムではないな! さては魔族か!!』


 体格が一回り大きい二足歩行のウルフマンが思念で話しかけてくる。

 ウルフマンたちのリーダーはあいつだな。

 あいつを殺せばボクの勝ちだ!


 ボクはリーダーのウルフマンに飛び掛かる。だが。


『甘く見るなッ!!』

『うぎゃ!?』


 ギランとした爪が当たり、飛び掛かるボクを空へ弾き上げた。

 ひゅーっと落下してくるボクを、ウルフマンは再び爪を向けて地面で待ち構えている。

 

 まずい!

 あれをもっかい食らうのはまずいぞ!


 ボクは身体を回転させて空からスライム液を飛び散らせる。

 消化液の雨だ!


『ウグッ、これは!』

『ギャァァア』

『ボスゥゥウ』


 消化液は他のウルフマンにもまとめて被害を与えた。

 ウルフマンたちがやられ、ボクに経験値(ちから)が集まってくる。


 今ならこのリーダーを飲み込める!

 

『このスライムガァァアッ!!』

『食らえ!!』


 ウルフマンの爪が迫る。

 ボクは身体を本来の大きさに戻し、落下時にウルフマンをそのまま飲み込んだ。


『グガッ!! グガガガガ!!』


 ボクの体内でもがくウルフマンのリーダー。

 もう遅い!

 あとは消化するだけだ!!


ジュゥゥゥゥウ!!


『グガッ、ガギィ……!!』


 鋭い爪がボクの体内を切り裂き、腕が外に飛び出る。脱出される!

 ザシュザシュと攻撃が止まらない。

 スライム液が外に漏れ始めた。

 くそ、あともう少しで……!



 そして、中のウルフマンの動きが止まった。

 弱弱しい心臓の音だ。

 やった! こいつはもう抵抗する力を失ったのだ!


『そ、そんな……』

『オレらのボスがやられるなんて!』


 生き残っていた少数のウルフマンたちが絶望している。

 フヘヘヘ、残念だったな犬っころ共!!


 ボクの勝ちだ!

 ボクを止められるやつはいない!

 みんな食ってやる!

 今からウルフマン一族全員、地獄行きだ!

 



「――シャイニング・バースト!!」




 と、その時。

 森の遠くからいくつもの光の玉が飛んできて、辺りを爆発させた。


『なんだこの光は!?』

『焼けるゥウ! ウギャアァァァア!』

『人間だ! 人間が攻めてきたぞ!』


 リーダーを失ったウルフマンたちは、もう統率が効かないただの狼と化した。

 四散するように逃げて行く。

 

 かく言うボクも、早く逃げないといけない!

 だが消化が!


 このボスだけでも殺して消化を終わらせないと!


「……! まだモンスターがいるぞ、ユフィア!」

「はい! ――シャイニング・バースト!」


 そして、また光の玉が飛んできた。

 光が目の前で爆発を起こす。


『アギャァアアア、熱い熱い熱いッ!?』


 爆発は大したことないのに、この光はなんだ!?

 滅茶苦茶苦しいぞ!

 身体が蒸発してしまう!!


 スライム液が煙を上げ始めた辺りで、ボクは限界に達し消化途中のウルフマンリーダーを放棄して逃げだした!

 ボクの吸収されるはずだったウルフマンリーダーの経験値(ちから)が失われていく。


『くそっ! くそっ人間め! あとちょっとのところで!!』

『ゴハッ……残念、だったな……スライムめが――ッ』


 後ろからまた光が炸裂し、ウルフマンリーダーが木端微塵に吹き飛んだ。

 うわああもったいない!

 もったいないが、その光は嫌いなんだよおおお!


 ボクは情けなく森の奥へと滑っていった……。


---

--

-


 戦闘で荒れたてた森の中に、一組の男女が足を踏み入れる。


「あら? 今のスライムに見えたのですが」

「気のせいだろ。それよりもこれ見ろよ」

「……ええ。酷いですわ」


 ウルフマンの死体の数々を見た二人は、その光景に唖然とする。


「ウルフマンの討伐に来たつもりがよ、すでにやられまくってやんの……」

「すでに別の冒険者が? それとも……」

「冒険者なら、金になる死体を放置はしねえだろ、普通はよ? ま、深いことは気にすんな。俺たちは死体を持ち帰ってこれを報告するだけだ」

「そう、ですわね……」


 腑に落ちないことが多々あるも、二人の冒険者はウルフマンの死体を集め、王都へと帰っていくのだった。



スライム Lv:22


冒険者 Lv:13~

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