ギャンブラー
賭け事、勝負事が好きで、小説に出来ればいいと思い書きました。
不定期ですが書き続けたいと思ってますー!
三日月 鏡夜は山奥へと向かっていた。それは、差出人不明の招待状が自分の元へ届けられていたからだ。
内容を要約すると、全国各地から集められたギャンブラーを戦わせる。と書かれていて、招待状の裏にはトランプのスペードの4が貼り付けられていた。
数時間かけて向かい、指定された場所へ行くと案内人らしき人が立っている。
「招待状の確認を。」
言われた通りに招待状とトランプを見せると、腕に巻くホルダーのような物をもらう。
ホルダーを付けることを促され、言われるがままに鏡夜はホルダーを付けるとカードが差し込めるようになっている事に気が付き、スペードの4を差し込む。
「では、こちらに。」
大きな岩にはハンドルが付けられており、案内人がそれを力いっぱい回すと岩がせり上がり、地下へ続く通路が現れる。
「どうぞお進みください。」
案内人は通路の奥を指差し、鏡夜はそれに従い進んだ。
奥まで進んでいくと、赤や黄色に装飾された煌びやかで綺麗な大きな部屋が現れる。さらにその先には枝分かれするようにドアが点在し、ここが中央の部屋であることは簡単に想像がつく。
その部屋には招待客らしき人が、50名ほど確認できる。
どうやら鏡夜が最後だったらしく、部屋に入ると同時に金色で重々しい扉が閉められていく。
「皆さま、今日はお集まりいただき誠にありがとうございます。」
黒タキシードの男は、部屋の入り口とは真逆の壇上に立ってマイクに向かってそう言った。
「さて、皆さまが集められた理由としまして、純粋にギャンブルを観たいからです。」
その時、鏡夜を含めその場にいた全員が、全員ギャンブラーであることを悟った。
空間内に現れるどよめき。それは不安だからではなく、ギャンブルに勝てば自分の財産が増えるという、勘から基づく確信である。
「細かい説明は後回しにしましょう。今、ここには52人のプレイヤーがいます。この数が何を意味するかは皆さまお分かりでしょう。」
52とは、トランプのひとつの全体の枚数であり、それぞれの招待状に貼り付けられていたカードでもある。
「その全員にとりあえず100億円をプレゼントします。よって現在の総額は5200億円となりました。これを皆さまに奪いあってもらうのですが、100億円は後々回収しますので、私たちに損害は全くないためお気になさらず。」
そう言い終わると右中央の扉が開き、進めるようになっている。全員が流れるようにそこへ向かい、鏡夜もそれについて行く。
右の部屋では列ができていて、全員に1枚1億円の価値のあるチップを100枚ずつ渡していく。しかし、そこにお金の重みは無く、おもちゃを手にするのと何も変わらない。支給されているものをただ受け取っているだけ。
列の最後だった鏡夜にチップが渡される。簡単なコインケースに入っているそれは、本当におもちゃのようだった。
ギャンブルに対して慣れ切っていた鏡夜は、利益も損害も遊びの一巻に過ぎない。ただ、他の全員もギャンブラーと感じて、遊びとは違うなにかを見出そうとしていた……
「それでは、そろそろゲームへと移りましょうか。皆さまの招待状と一緒にカードも送らせてもらいました。そのカードの数字と対応する部屋へお進みくださいませ。」
4の部屋を探すと、元いた部屋の2階にほとんどの数字の部屋がある。2から数えて時計回りに3~10.J.Q.Kの部屋は見つかるが、Aの部屋だけはどこにも見つからない。
階段を上り、部屋の扉を開けると同じ4のカードを持つプレイヤーが既に座っていた。鏡夜はスペードのマークのある席に座る。見慣れたカウンターのような卓はギャンブルをするためのもの、空いたひとつの席にディーラーが着くことは容易に想像がつく。初めから席にいた周りの3人の様子を窺うと、全員が落ち着き、全員が相手の様子を窺っている。
席に座っていると、遅れて一人入ってくる。タイミング的にも運営側の人間だということがすぐにわかる。その男は遅れてきたことを悪びれるわけでもなく、何事も無かったかのように口を開く。
「皆さまお待たせしました。これからゲームを始めさせていただきます。その前にまず簡単な説明を。私たちは、皆さまを見世物にする事で利益を得ています。さらに、敗者を私たちで管理する事でさらに大きな利益を得ますので、管理費についてはご心配なさらず。その副作用として、勝者は大金を得られるというシステムですので、そちらもお気になさらぬようギャンブルをお楽しみください。」
そこから延々と運営の説明は続いた。要約すると渡されたカードには意味があり、スペードは理詰めを得意とする者、ハートは心理戦を得意とする者、ダイヤはチップを大きく賭けるのを得意とする者、クラブは強運者を意味し、数字が大きければランクが高いらしい。
そして、戦い方と所持金に応じてランクが再編成され、1番低いランク4名から脱落する方式で、最終的にはAを持つ4名が残る。
「以上がこの館のルールとなります。ご清聴ありがとうございました。それでは第1ゲームを始めます。最初ですので簡単なゲームを。」
鏡夜は少しイラついていた。なかなか始まらないゲームと延々に続く説明。それが態度に出ていたのか左隣に座るハートのマークの男に鼻で笑われる。軽く睨みつけると、鏡夜は溜息をつき、また運営の男の話に耳を傾ける。
ルール
①賭け金として、チップを全員1枚場に支払う。
②52枚のトランプの山からランダムに1枚ずつ、親から順番に全員にカードを配る。
③自分のカードが他の人のカードより弱いと思えば、チップを1枚を場に支払い、さらにカードをもらう。(最大5枚まで。)
④自分の持っているカードに1枚鍵を掛けることができる。鍵をかけるにはチップ5枚必要。鍵をかけたカードにコマンドを実行するにはチップが10枚必要。
⑤親から順番に、他のプレイヤーのカードを『略奪』『交換』『焼却』『譲渡』からひとつまで選び、実行する。
・略奪…選択したプレイヤーからカードをランダムに1枚奪う。カードが1枚のプレイヤーには実行不可。また、カードの枚数が3枚以上の時も実行不可。費用として、そのプレイヤーにチップを5枚支払う。
・交換…選択したプレイヤーと自分でランダムに選んだカードを1枚ずつ渡し合う。費用として、交換を実行したプレイヤーがチップ2枚を支払う。
・焼却…選択したプレイヤーからカードをランダムに1枚選び、内容を伏せたままゲームから除外する。カードが1枚のプレイヤーには実行不可。費用として、そのプレイヤーにチップを4枚支払う。
・譲渡…選択したプレイヤーへカードを1枚選び、渡す。費用として、実行したプレイヤーが1枚支払う。また、このコマンドのみ何回でも行うことができる。
⑥コマンドを全員終えたら、レイズターン
⑦勝者が場にあるチップを全て得る。
⑧これらの動作を最大8回繰り返す。チップが1枚もないプレイヤーが出た時点でゲーム終了とする。
レイズターンには3つのコマンドが自由にひとつ行える。
・レイズ…賭け金を上げる行為。
・コール…レイズされた額に合わせる行為。最後にレイズした人から全員がコールをすればレイズターン終了となる。
・フォールド…勝てないと思った時にゲームから降りる行為。その時賭けたチップは返ってこない。
これらが全てのルールとなる。4人の中で1番強いカードを持っていれば勝ちという事だが、簡単ではあれ、単純ではない。
「楽しそうなルールじゃないか! 早く始めよう…!」
ハートの男は意気揚々としている。ダイヤもクラブも楽しそうな表情を顔に浮かべ、まるで三時のおやつの時の子供のようである。鏡夜も顔には出さなかったが、内心楽しみではある。
他人とは違う。これに勝って証明する。それが鏡夜の存在意義。