麻衣
悟さん、ありがとう。麻衣は幸せでした。
今度の日曜日、悟さんが18歳の誕生日をお祝いしてくれるって言ってくれたので、麻衣はとても楽しみにしていました。
でも、もう無理なようです。
麻衣は幼いころから身体が弱くて、10代になってからのほとんどをサナトリウムで過ごしました。
だからほとんど外のことを知らずに育ったのです。
悟さんが初めてサナトリウムの職員として来てくれた日、麻衣は生まれて初めて胸がときめくのを感じました。
恥ずかしいけど、麻衣に恋なんて一生訪れないと思ってたののですよ。
でも背が高くてハンサムな悟さんを一目見たとき、これが恋なんだと確信しました。
麻衣のような病弱な娘に思われて、悟さんはご迷惑かもしれませんね。
でも、どうかお許しください。麻衣の人生でただ一度きりの恋なのです。
今の麻衣は体中にいろんな管を付けられて、一日中起きているのか寝ているのかもわからなくなってきました。
今日は少しだけ具合が良いので、こうして看護婦さんがテープレコーダーに麻衣の声を録音してくださっているの。
上手に声が出ないので、まるでお婆さんみたいですね。
このテープを聞いて、悟さんが幻滅しなければ良いのだけど。
こんなにやせ細った麻衣に
「麻衣ちゃんはとてもチャーミングだ」
と言ってくれた悟さん。ほんとうにうれしかった。
短い人生だったけど、悟さんの言葉だけが麻衣の生きる支えだったのですよ。
日曜日まで生きていたかった。
大好きな悟さん、さようなら。