二十話
胸に刺さった炎剣を見て、俺は唖然としていた。くそ!疲れたところに…
「イレギュラー!ヨクモォォ!コトゴトクワタシノジャマヲシタナ!ココデシネェ!」
「そうはいかない!」
ビギニンが炎剣を突き刺したまま上に持ち上げようとするが、レスターが横から剣を突き入れ、俺からビギニンを引き離した。
「ぐは!」
痛い!熱さと痛みが同時に襲ってくる!自分の肉が焼けた匂いも不快感を誘ってきて最悪だ!…バッシュもこの痛みを味わったわけか。
「アルヴィン!」
ジェシカとヴェラが俺に駆け寄って介抱してくれる。
「オノレ!ジャマダ!」
「許さない!!」
ヴェラが魔弓師のスキルで作成した魔力の矢でビギニンを撃ち、爆発がおきる。
「グアァァ!!」
爆発で吹き飛んでいくビギニン。だが、身体が再生していく。
「くそ!」
「レスター!僕と一緒にあいつを倒すぞ!」
「く!了解!」
勇者も加勢してレスターの二人がかりでビギニンを追い詰めていく。すると、ドン!と、爆発音が響き、大きな砂煙が近くで巻き上がる。
「な!まさか!」
勇者クリアが砂煙の方を見て叫ぶ。砂煙が晴れると、そこには黒い大きな狼がいた。…邪狼だ。
「帰るぞビギニン。今、コンディがやられた」
「喋った!」
ジェシカとヴェラが叫ぶ。フェンリルは喋らないので驚くのも無理はないだろう。俺も驚いている。
「ナ!…カツドウニシショウガデルナ…」
「そうだ。お前も大分追い詰められている。ここは撤退だ。残量もないだろう」
「逃がすか!」
勇者クリアが聖剣を光らせて光のビームを邪狼へと放つ。
「…無駄だ。…がぁ!」
邪狼が口から衝撃波を飛ばすと、光のビームが霧散する。…いいとこないな、光のビーム。
勇者の攻撃を無効にされ、皆が驚いていると、邪狼の姿が消えて、ビギニンの元に居た。
「さて、乗れビギニン」
「オジャマシマス、フェンリルサマ」
ビギニンが邪狼の背に乗る。このままじゃ逃げられる!
「ぐ!」
追いかけようと一歩踏み込むが、激痛が胸から走り足が止まる。痛みで視界が歪む。…あ、これヤバい。
「…我は貴様を諦めんぞ。かならず手に入れる」
そう言い残して邪狼が消えた。
「くそ…待てよ…」
悔しいな。奴を封じる方法が分かって、後一歩だったのに。邪狼の横槍さえなければ…。くそ!
「…げぼ!」
急に吐血しだす。…さっきの激痛、もしかして傷口が開いたのか?
「ぐぼがぼ!」
血が器官に入ったのか息が出来ない。ヤバい…意識が…。
足に力が入らず、前のめりに倒れ込むが、誰かに抱き止められる。
意識が遠退き、痛みが薄くなる。身体の感覚が無くなる。寒い。とても寒い。
「…誰か………ておね……!彼だ……死な………お願い、死なな…でぇ!」
ルーナの顔がうっすらと見える、どんな表情をしてるかまではよく分からなくて、必死に叫んでいるのが分かる。
だが、徐々に視界が暗くなり、意識が途切れる。
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「やぁ!よく頑張ったね」
また、白い空間に居た。目の前に白髪の男性。カーウェイが居て、彼は満面の笑みで俺を迎えている。
「…あんた、なんなんだ?」
「私かい?そうだね、君のご先祖様かな」
カーウェイは俺の先祖だという。…え?マジで?それって。
「…あなたは二人の救世主の一人、魔導師カーウェイ…様ですか?」
「うん、そうだよ」
マジかよ!俺、あのカーウェイの子孫かよ!
カーウェイ。二千年前に存在した英雄で、厄祭から世界を救い、魔術を世界に広めた伝導者だ。
神しか扱えない奇跡、魔法を、カーウェイは使っていたとされている。
「あの、カーウェイ様の子孫って、親父ですか?それとも母さん?」
「あぁ、私の血筋は皆白髪になるんだよ。…私の能力を受け継いでいるからね」
てことは、母さんがカーウェイの子孫ってことか。それにしても、白髪は皆カーウェイの子孫ってのは初耳だ。
この世界じゃ白髪はとても珍しいってのに関係しているのか?
「そうなんですか…、あの、先ほどは助かりました。カーウェイ様の助言がなければ死んでました」
「礼には及ばないよ。あれは君の力だ。君が起こした結果だよ」
カーウェイ様が優しく微笑む。慈しむように、とても嬉しそうに。
「…あまりここに居られないないな。疑問に思うことは多々あると思うけど、君は一つ成長した。そのスキルは想いが集まると強くなる。それは実感したね?」
「はい、信じてくれと言ったらどんどん強くなりました」
あの場に居た皆が信じてくれたから、セイントウォールは大きく、強固になった。あの感覚は今も鮮明に覚えている。
「その力を持っている者は他にも居る。例えば君の側にいるヴェラという女の子だね」
「ヴェラ?彼女もですか?」
マジか。ヴェラも俺と同じで、想いで強くなる?…もしかして。
「あの、魔弓師ですか?」
「そう、あれも想いが集えば威力が強くなる。だから気を付けるんだよ。…強すぎる力は危険だからね」
当たったよ。…強すぎる力は危険か。…俺はあのときとんでもない力でビギニンを蹂躙したよな。たしかに、強すぎる力は危ない。
「すみません、想いって具体的になんですか?」
想いと言われても抽象的過ぎる。どんな想いが俺のスキルを強くするか分からないと、流石に不味いだろ。
「そうだねぇ、例えば信頼。これはさっきも実感したね?それと、愛や慈しみ、尊敬、感謝とかかな。簡単に言うと正の感情だね。これらが君に向くとスキルが強くなるんだ」
…なるほどな。結構難しくないか、それ?俺、尊敬されるような人間じゃないし、感謝も…まぁ、今回皆を守ったことで得られるけどさ。信頼も多分大丈夫か。
でも、カーウェイ様が言ったことは基本的に積み重ねで得られるモノだ。おいそれと得られるモノじゃない。
「難しい顔をしているね。あ、あと、スキルが強くなるのはあくまで他の人が君の事を想っている時だけだからね。常に強くなるわけじゃないよ」
「あ、やっぱりそんなんですね」
ヴァジュラドラゴンの時も一度強くなって、その後のビギニンとの戦いでは、元に戻ってたっけ。…ま、じゃないとチート過ぎるよな。
「…時間だ。あの子が私を閉め出してしまう」
「え?あの」
「まだ聞きたい事はあるだろうけど、今回はここまで。またの機会に話すよ。…たぶん君は直に目覚める。その時に会おう」
カーウェイ様が消えていく。まだ聞きたいことは山ほどある。
例えば、何故死んだはずの皆に会えたのか。何故、俺は黒い霧に呑まれて暴走したのか。何故、俺とヴェラが、想いで強くなるスキルを得たのか。あのカーウェイ様にそっくりな、黒い男性は誰なのか。その彼が言っていた神の使徒とは一体なんなのか。
疑問は多く残り、ぐるぐると頭の中で回っているが、答えが出ない。…やはり次会えたら聞こう。
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「……ここは、あ!………知らない天井だ…」
俺は目が覚めると定番のネタを披露する。やってみたかったのよ。
上半身を起こして辺りを見ると、白い布団に大きなベッド。ベッドの傍らには小さな棚が置かれ。棚の上に豪華な花瓶があって、綺麗な花が入っている。
壁には鳥の彫像や、犬の彫像などが置いてあり、どれも高級品だというのが俺の貧弱な品性でもよく分かる。
一言でいうなら、絵に書いたような貴族の寝室である。
そして、真に不思議ながら、何故か俺の左手をずっと握っている人物がいる。
だらしなくも涎を垂れ流し、このシルクのような、…てか、多分シルクのシーツを汚して。これまただらしない顔でグースカ寝ているのは我が妹ロゼッタである。
椅子に座って、上半身だけをベッドに預ける形だ。…よく寝れるなこいつ。それにしてもぶっ細工な寝顔だ。普通にしてる分には店の客からモッテモテの可愛い顔なんだが。
多分今の顔を見たらドン引きだろうな。…涎めっちゃ汚いし。
「おい、起きろ。身体痛めるぞ」
「ふが、まだ食べる…」
何食べてんだよ。幸せそうな寝顔しやがって。…ぐふ!ちょっとならいいよね?最近こいつ、生意気にも育って来てるからな。
「ほら、起きないとその胸揉むぞぉぉ」
手をわきわきさせながら、出来るだけゲスな顔をしてロゼッタに手を伸ばす。
「…何やってんですか?年頃の女の子に」
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
俺は思わず飛び起きて部屋の角に逃げる。なんと、反対にヴェラさんが居た。とても冷たい視線を俺に送る。…あれ?なんか、背中がゾクゾクするぞ?…これは…。
いかん!新しい道に進んではいかん!俺はノーマルだ!
「ヴェラさん…いらしたんですね…」
俺は震える声でヴェラに話し掛ける。…仕方ないよね。あの目がとても怖いんだもん。
「…はい、一度起きてやり直してるところからばっちり見てました」
畜生!全部見てんのかよ!恥ずかしい!居るんなら居るっていってくれよ!
…は!まさか!気配隠蔽のスキルを使ってやがったな!こんちくしょう!
「…これは二人だけの秘密に…」
「嫌です。女の子の敵には容赦しません」
バッサリと切り捨てやがるヴェラさん。駄目だ、俺の社会的立場が殺される!
「いやだなヴェラさん、振りに決まってるじゃないっすかぁ。ホントに触る気は…」
「私が居なかったら確実に触ってましたよね?私が抱きついてた時に感触、楽しんでましたよね?」
「ぶふっ!」
変なところで図星を言われて吹いてしまった。…バレてーら。逃げられん。…かくなるうえは!
「すんませんしたぁぁ!!」
全力で土下座しかない。俺に残された最良の選択肢だ。…決して、ヴェラの凍てつく視線を見たくないからじゃないよ?
「…はぁ、生死の境をさ迷って。目覚めてやることが、ネタに走ってからのセクハラとは。…今回は貸し一つですよ」
女神ヴェラが許してくれた。とうやら俺の罪は一つ許されたようだ。ヴェラさんが神々しい。
「ありがたやぁぁ!」
「…駄目だこの人」
「う~ん。なぁにぃ?」
涎を垂らしながらロゼッタが起きたようだ。こんだけ騒げば当然か。…ち!
「…アルヴィン?」
「おう、おはよう。涎拭けよ」
ひどい寝癖のロゼッタに俺は乙女として、せめて涎は拭けと忠告する。が、俺の言葉が聞こえていないのか、ロゼッタは目をぱちぱちさせてから俺に突っ込んできた。
「うわぁぁん!ばかぁ!よがっだぁ!」
泣きながら俺に抱きつくロゼッタ。…涎がパジャマに付いたな。…さっき触れなかった柔らかいモノが当たってるのでよしとしよう。
ヴェラはこの光景を見て、微笑んでいる。よく見ると、ヴェラの目が少し赤い。…表情も暗いし、やっぱバッシュのことがかなり堪えてるな。
ロゼッタが落ち着いてから俺が気を失っ後のの話を聞く。
俺が倒れた後、必死で聖女ルーナが助けを求めたこと、治療のために俺から離そうとしたが、なかなか離れてくれなかったとか。
俺の負傷が予想以上に酷く、内臓が重度の火傷で絶望的だったらしい。そこへ、癒しの聖女がスキルで俺の内臓や血が大量に入った肺などを癒してくれたそうだ。
それから俺は三日間目が覚めなかったらしい。で、重症の俺をレスターがシムルグに乗せて運び、街の治療院に運んでくれた。
ジェシカのシムルグにはヴェラが同伴して、ずっと俺を看病してくれてたこと。
俺の負傷を聞き付けて、ローガンさん達が駆けつけて、ロゼッタも一緒に看病してくれたらしい。
その後、容態が安定した俺はデュイバス伯爵の邸宅に運ばれ、今に至るらしい。
後、ユニオンの調査によって、リールの森に居る魔物が安定して、スタンピードの恐れは無くなったと言われた。
「なるほど、…ところで、何で俺は伯爵の邸宅にいるの?」
さて、何故一介の冒険者である俺が伯爵の屋敷に居るのか?甚だ疑問だ。
「…今回、アナタはビギニンを倒す手前まで追い詰めた功労者として評価されたのよ。アナタの幼馴染の報告を聞いてね」
レスター達か。…でもさ、だからって自宅に連れてくるなんてな。…よっぽど気に入られたのか?
「あと、私がね、アルヴィンさんは竜のブレスを防ぎきったって言ったら、連れていくぞってなった」
止めはお前かい!真偽のほどでも確認するために連れてこられたんじゃねぇかこれ?
その後、俺が目覚めた事を伝えにヴェラが部屋から出ていき、俺は備えられていた綺麗な服に着替える。
伯爵の使用人が置いていった服で、俺が目覚めたらこれに着替えてくれということらしい。
着てみると、かなり高級な礼服だということが分かる。肌触りもしっとりしていて、着心地がとてもいいのだ。…これ、ホントに着てもいいの?間違ったとかないよね?
それからロゼッタと暇潰しにと、リールの森での事をを話した。だが、なぜかロゼッタが挙動不審で、少し上の空だ。
「ロゼッタ大丈夫か?」
「え、…別に大丈夫だよ。で、その黒炎に逃げられたんだよね?」
何か変だな?…トイレか?そういえば俺もこいつも起きてからトイレ行ってないな。配慮が足りなかったな。
「あぁ、そうなんだが…。我慢はよくないぞ?」
「ふぇ?!何の事?私何も我慢なんて!」
焦っている、間違いない、これは大きい方か。すまんな、気配りの出来ないお兄ちゃんで。
「いや、大きいのを我慢すると後ですんげぇ痛くなるからな。出すもんは出しとけよ」
「…は?」
「ちゃんと換気はしろよ。この間はマジで臭かったからな」
俺は爽やかな笑顔で、部屋に備え付けてあるトイレのドアをサムズアップしながら、カッコつけて指指す。
「くたばりやがれ糞アルヴィン!!」
「ぶご!!…あ、ヤバい」
ロゼッタが何故か怒りだしておもいっきり顔面を殴ってきた。意識を失い掛けてふと、股間の力が弱まるのを感じる。
ヤバい!さっきから我慢してたんだ!ここで漏らしたらマジで不敬罪になりかねないぞ!
何度か俺を殴った後、赤い般若のような顔をしてドスドスと部屋を出ていった。
「…死ぬ…」
変なとこで命の危険に晒された。…トイレいこ…
正式にヒロイン、ロゼッタ登場です。
自分の中で、イメージが臭いヒロインになってます




