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二話

大鍋屋を後にした俺はバッシュと並びながら歩いていた。バッシュは、左腰に細い剣、右腰に幅広の小剣を下げ、ブレストプレート、籠手、グリーブを装備している。

こいつは前衛の剣士で、赤鬼なんて二つ名でこのイフリムでは有名だ。ちなみに、俺は本人の前で赤鬼とは呼ばない。本人が凄く微妙な顔をするんだよなー。

赤鬼の二つ名は、以前酒場でバッシュが乱闘騒ぎを起こした際に、怒りで真っ赤になった顔とツンツンヘアーを見て、店員のお姉ちゃんが「店に赤鬼が現れました助けてー!」と助けを求めたのが由来だ。


…それにしても、さっきからすれ違う女性がバッシュをじっと見つめて立ち止まる。そう、まるで俺が隣にいないかのように。

一応言っておくけど身長はバッシュより俺の方が高いし、白髪なので日中は結構目立つ。

だが、それ以上にバッシュがイケメンなのである。

これが格差社会か、と本日二度目の現実を痛感しているとギルドに到着する。


大鍋屋からギルドは歩いて10分程の距離であるため、あっという間に到着する。その間に8人程の女性に見つめられた。バッシュがね。


ギルドの扉を開け中に入ると、数名の冒険者達がいた、ある者は依頼の張り付けボードを、またある者は受け付け嬢と世間話をしている。


「何か今日は冒険者が少ないな?」


俺がバッシュにそう呟くと。


「あぁ、確かにな。てか今日は何か街の中が騒がしくないか?」


確かにな、俺の精神的ダメージがいつもより多かった。別に僻んでないよ?実際朝の7時前にも関わらず、いつもより倍以上の人が歩いていた。


「今日は祭りでもあったっけ?」


「あら?知らないの?」


俺達の後ろから女性が声を掛けて来た。


「昨日、近くの森で魔族と勇者の戦闘があったそうよ」


彼女の名前はキャスティー、ガルフェン組と呼ばれる冒険者パーティーに所属している魔術師だ。


キャスティーは艶やかな黒髪で、全体が濃い紫色と一部に金色の装飾を施したローブを着て、自身の身長ほどの杖を持っている。


「勇者が?」


つい、機嫌が悪くなり低い声で問い返してしまった。


「えぇ、そうよ。どうやら森の中で悪魔が目撃され

て、直ぐに勇者が駆けつけたそうよ」


「へぇ、偶然勇者も近くにでもいたのか?」


バッシュが問い返す。


「らしいわね。遠征の帰り道に近くを寄ったらしいわ。何でも、聖女の一人の故郷がこの辺らしいわよ?」


興味がなさそうな顔で彼女は返答する。

実際、彼女にとって勇者パーティーなどあまり興味がないのだろう。俺も彼女が一体、何に興味があるかなど、分からんけど。


…聖女は多分里帰りなのだろう、既になくなってしまった村ではあるが、子供の頃の思い出が詰まっているのだから。あいつの両親は今、王都に移り住んでいるはずだから、懐かしくなって寄っただけなんだろうな。勇者と共にいるであろう彼女の顔を思いだし、胸がざわつく。


「どうした?気分でも悪いのか?」


バッシュが俺の異変に気付き、声を掛けてきた。

…顔に出てたか、あまり勇者の話しはしたくないが聞かなければいけないことがある。


「何でもない。もしかしてだけど、勇者がこの街に来るのか?」


俺の質問にキャスティーは腕を組ながら。


「というより、昨日の深夜にこの街に入って、今は伯爵の邸宅にいるそうよ。」


俺は、そうかと呟き黙ってしまう。

決して、キャスティーが腕を組んだから、たわわな物が主張して、動揺しているわけではない。今、唾を飲み込むと何か不味いと思って我慢して何かない。ないったらない。

キャスティーがしてやったりという顔を横目に、如何に勇者に会わないで済むか予定を考えていると、突然後ろから俺の首周辺に衝撃が走る。


「よう、アルヴィンおはよう。」


「…おはようガルフェン」


いきなり後ろから俺の肩に腕を組んで来た大柄な男、ガルフェンに挨拶を返す。


「なんだ?元気がないな、寝不足か?」


「お前がいきなり後ろから抱きついてきたからテンション下がったの。」


「やめてくれ。男に抱きつく趣味はない」


真顔で返して来やがったこいつ。自分から絡んできやがったくせに。


「おはよう、ガルフェン」

「おはようございます!バッシュさん。バッシュさんからも言ってやってくださいよ。朝から元気ださないと、1日中暗いぞって」


こいつ、覚えてろよ。


「暑苦しいからはなれろ。」


強引に腕を振り払い離れる。バッシュは苦笑いし、キャスティーは微笑み。ガルフェンは、がははと笑う。まったく、朝から騒がしい奴だ。だけど、さっきの胸のざわつきが薄らぐ。ガルフェンは俺の機嫌が悪いのを察してくれたんだろうな。

だからこうやって、つっかかってきて和ませようとしてくれた。いつも助けてもらってばかりだな、としみじみ思う。


このガルフェンは、ガルフェン組のパーティーリーダーで銀級冒険者であり、豪激の二つ名を持っている。そして、こっちのナイスバディの美女、キャスティーも銀級冒険者だ。

さて、冒険者の階級は上位から、オリハルコン、ミスリル、白金、金、銀、銅、鋼鉄、鉄、の八階級となっている。

新米冒険者は鉄級から始まり、納品した素材、達成した依頼内容によってギルドが査定を行い、資格ありと判断されれば階級が上がる。

冒険者にとってミスリル級が目標であり、オリハルコン級はまさに人類の英雄。それこそ勇者や三聖女クラスしか到達出来ない。

また、ギルドにある依頼は難易度によって受けることが出来る階級に制限を設けている。依頼は基本的に一つ上の階級の依頼を受けることが出来る。例えば銀級推奨と書いてある依頼は、銅級から受注できる。

もちろん推奨階級が高いほど難易度は高いが、報酬も上がるため、冒険者はみな上を目指す。なにより階級は冒険者にとってのステータスだ。

金級ともなれば一目置かれ、白金級になれば所属ギルドの顔となりうる。ミスリルは英雄扱いされ、国からも保証がある。

ついでに言うと俺はオリハルコンを目指している。

以前酒場で一緒に飲んだ冒険者に、盾しか能がないのにオリハルコンとか笑えねぇ、がはははと、笑われたことがある。…笑ってんじゃん…


話はそれたが、この二人は冒険者を始めて4年で銀級である。4年で銀級はまぁ、そこそこいるのだが、二人の場合もうじき金級である。

正直、いずれミスリル級に届くと期待されている若者達だ。俺なんて、3年半でやっと銅級だぜ?正直羨ましすぎるわ!


「で、何でお前そんな機嫌悪いんだ?」


蒸し返すのかよ!さっきの感謝を返せ!この脳筋!


「勇者がこの街にいるって話てたのよ。」


「マジか!いつ来たんだ?今日の朝か?」


「あら?知らないの?昨日の深夜に街に入ったそうよ?」


興奮しながらいつ来たのか聞くガルフェン、にキャスティーが聞いてないの?と不思議そうに首を傾ける。可愛い。


「…まさか、夜に変なお店いってないでしょうね?」


一瞬にして周囲の温度が下がった気がする、てかほんとに下がってないか?温度操作の魔術つかってる?キャスティーさんギルドで許可なく魔術はダメですよ。

キャスティーを見ると顔は能面のようになり目がとても怖い、あの視線にさらされてるガルフェンは恐怖で失神するのではと心配になる。

すまんな俺の感謝を返せなんて思って。お前のことは忘れない。


「いやっ!違うからな!?昨日の夜はバッシュさんと一緒に酒場で飲んでたんだよ!」


ガルフェンが必死に弁解する。見苦しいさっさと逝けリア充。


「ガ、ガルフェンの言ってることは本当だからな?

昨日はこいつが米酒、二口で酔いつぶれて宿に引きずってたっんだよ」


おい、バッシュそこでアシストするな。こいつは逝かねばならんのだ。


「あらそうなの。ありがとうございますバッシュさん。いつも迷惑をおかけします。」


周囲の温度が元に戻る。戻んな。


「いや、いつも誘ってんのは俺だからな、こっちこそ迷惑かけてるな」


…ちっ、悪は滅びなかったな。


ガルフェンが死の危機から脱し、ホッと一息ついているのを横目に俺は舌打ちする。


「まぁ、街中が慌ただしいのは、勇者一行を一目見たいからか」


バッシュが結論を口にする。そんなに勇者なんてみたいかね?


「おっ、もしかしてバッシュさん達は勇者を見に行くんですか?」


「いや、まだ決めてないかな。勇者がいるなんて俺達も今知ったばかりだし。」


バッシュが変なことをいい始める。


「じゃあ皆で一緒に見にいきませんか?」


「断る!!」


ガルフェンがアホなことを言い出すので即、断る。


「即答かい」「即答ね」「即答だな」


三人がハモる。当たり前だろ?正直あいつにあったら俺何言い出すか分かんねぇし。


「そんな芸能人が地元に来たからって、ソワソワして見に行くようなミーハーじゃねぇんすよ、俺は。」


正直な話、今日貢ぐ分を稼がねばならないので、そんなもんを、見に行く余裕はないんだよね。

芸能人?ミーハー?と三人が疑問に思い呟いている。


「あなた、本当に勇者が嫌いなのね?」


「うん?そんなのか?」


キャスティーが呟いたのを聞き、バッシュが俺に聞いてきた。


「別に?嫌いじゃないさ、ただな…」


煮え切らない返答をする俺にバッシュが訝しげな顔をする。


「まぁ、このことは後で話すよ。」


とにかくこの話の流れを断ちきる。


「とりあえずバッシュ、皆が来たら今日の予定を決めようぜ。」


「そうだな。あいつらが来たら多数決で決めるか。」


勇者の話しをしたくないがため、話しの流れを変えることに成功して安堵する。


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