二話
まばゆい太陽、美しい青空、透き通る風。運ばれる草の匂い。季節は夏になるころ。虫達が飛び回り、番を探そうと心地よい曲を奏でる。
そんな美しい緑溢れる草原に一筋の茶色い線。人や馬車が踏み荒らしたであろう道があり、その道を辿るように集団が歩いている。
俺達バッシュ組もその中にいて、目的地はリールの森だ。
リールの森に魔物のスタンピードの兆候がありと。ユニオンを結成して、こうして進軍している。
「う~ん微妙に暑い~」
「そうだな」
「なんでアルヴィンさんは涼しそうなんですか~」
「みたら分かるだろ」
リズが暑いと唸り声をあげる。暑いのは苦手だっていってたけど、これぐらいの暑さでへばってるのか。
気温は大体28度はいかないくらいか?日が出てるから暑いのはたしかかも。
ちなみに俺は今、特殊なマントを付けている、なんと、このマント温度調節機能が付いている。
溶岩地帯には必需品のマントで内部の温度を20度に保つ魔術が刻まれている。魔力消費するけど。
俺の魔力量は普通の人間よりかなり多いのでこういった快適な旅が出来る。
「ずるい~。私も中に入れてください~」
「おう!いいぞ!ばっちこーい!」
「なんか身の危険を感じるので遠慮します」
俺が邪な気持ちMAXでカモンすると、真顔で断られた。顔か?
「アルヴィンさん私が入ります」
「うぇっ?あっ、うん。い、いいよ」
「ぷっ!嘘です。キョドリすぎです」
ヴェラが俺を小馬鹿にしてきた。くそ!純心無垢で清らかな俺の心を弄びやがって!
「じゃあ俺がはいるぜ!」
「いえ、身の危険を感じるので遠慮します」
「てめぇ!」
バッシュがふざけたことをぬかして来たので、丁重にお断りした。
いやねぇ、俺は男と抱き合う趣味ないし。
「前に勇者様がいると思うと興奮するなー!」
「…そうすか」
マルサスは勇者に夢中だ。勇者一行はこの集団の前の方に豪華な馬車に乗って移動している。…けっ!いいご身分だ!
リールの森には先に複数の冒険者パーティーが向かい安全を確保しているらしい。
そして、この本陣がリールの森に到着し準備が整い次第、作戦が開始する。
ちなみに、リールの森までは歩いて丸1日かかるが、今回は人数が多いため行軍は遅く1日半掛かる予想だ。
「あとどれぐらいですか~。暑い~」
「早朝に出発して多分5時間くらい進んでるから、あと1日ちょっとだな」
俺が残酷な現実をリズに教える。
「うげ~、さっさと先に進んだらいんじゃないっすか~」
リズが文句を口に出してるとマルサスが窘める。
「リズ、団体行動なんだから我慢しなよ」
「じゃ、マルサスがおぶってよ」
「お前、俺におぶれって…もし知り合いに見られたらお前が怒られるぞ」
「ぶ~」
「?リズ、俺がおぶってやるよ。カモン」
「顔がキモいので遠慮します」
失礼な!!ただおぶったときの感触を想像して、むふふってしてただけだ!…キモいかもな。
「お前らあまり文句いうなよ。他の冒険者もいるんだから」
バッシュが流石に周りの冒険者に睨まれると思い、注意してきた。
文句いってんのリズだけなのにな。
「ほらリズ、怒られたぞ」
マルサスがリズを窘める。
「ごめんなさい」
「他にも暑い人はいるんだ、我慢していこう」
バッシュも暑そうだ、暑いの苦手だっていってたな。
何か俺だけ涼しい思いして悪いな。…脱ぐ気はないけど。それに大きな荷物を俺が持ってるわけだし。
「魔物だーー!!」
前の方から魔物の襲来を告げる声が聞こえた。
「ハァールタイガーだー!!」
ハァールタイガー。群れで行動する虎の魔物だ。単体はそこまで強くないが群れで必ず行動して狩りを行う。
見た目は虎だが、前足の足首よりちょっと上に刃物みたいな出っ張りがあり、それで攻撃する。
「てことは群れか」
「どうするよアルヴィン?いく必要あると思うか?」
「いや、あれ見ろよ」
前方を見ると豪華な馬車から人が降りてきた。勇者と聖女の三人だ。その先にはハァールタイガーの群が約30ほどいる。
「おお!勇者様だ!」
「やだ!カッコいい!」
「聖女様も出てこられた!」
周囲の冒険者達が騒ぎだし、前方の勇者達へ注目が集まる。
現れた勇者は灰色の髪を揺らしながら魔物達を見据える。すると、腰に掛けてある剣を抜く。
「おお!勇者様がやるぞ!」
「きゃー!!」
「こりゃ参加したかいがあるぜ!!」
「ヤバい!リズ!見なよ!カッコいい!」
冒険者達が喧しい。そしてマルサスも喧しい。勇者が剣を抜き構えると露になる、美しい銀色の剣。あれが噂に聞く聖剣だ。
「すまないが、終わりだ」
勇者、クリア。彼がそう呟き剣を横に振り抜く。すると、離れていたところに見えたハァールタイガーの群れが一瞬で血塗れになる。
まるで…いや確実に斬撃を飛ばしたのだろう。離れているため状況がよくわからないが。
「あれが勇者か…ありゃ反則だな。アルヴィン」
バッシュが俺に同意を求めてきた。…本当に反則だなあれ。ただ剣振っただけだぜ。
よくアニメとか漫画で似たようなの見るけど、実際あんなのチートだな。
マルサスも遠距離に風の斬撃飛ばすけど、連射出来ないうえ魔力消費が大きいから比べ物にならん。
「あぁ、ただ振り抜いただけだよな。あれが連続で出来るなら距離なんて関係ない。勝てる気がしないな」
「でもお前の盾なら防げるんじゃないか?」
「何故防ぐ事態になるか分からんが。多分無理だね。盾の防御力を超えてくる。…いや、今の盾ならもしかすると防げるかも」
「まっ、味方でホントによかったよ。今回のスタンピードは強力な助っ人がいるだけ気が楽だな。油断はしないけど」
「そうだな」
周りの連中は歓声をあげている。まっ、勇者の力の一端を垣間見て興奮する気持ちも分からんではない。
魔物の死体を処理して進軍が再開されたが、冒険者達はみな勇者の話題で持ちきりだ。
ただ勇者に頼ったことはしないで欲しいものだ。
その後、何度か魔物と遭遇しながら進み、日が落ちようとしていたので、夜営をすることとなった。
「夜営なんてホントに久しぶりです」
ヴェラが夕食のスープを飲みながら呟いてきた。
「そういや、このメンツで街の外の依頼って近場しか受けてないもんな」
バッシュがヴェラの言葉を聞いて返答する。そういえばそうだな。
「そうですね、基本的にダンジョンばかりいってましたし」
「ダンジョンのほうが稼ぎの効率はいいからな」
マルサスもはまってきた。ダンジョンの稼ぎがいいのは確かだ。街の外に出て魔物を探しても遭遇しないほうが確実は高い。
だったらダンジョンにいって、魔物を探したほうが早いうえ、ダンジョンから出ると街の中だというのも便利である。
しかも、ダンジョンの場合は他の冒険者とも出会う確率がある。
トラブルが起きる可能性もあるが、自分達が危ない場合助けを要請するすることも可能だ。
だからダンジョンがある街の周りには魔物被害がよくある、間引く人間が少ないためだ。
「でもたまには夜営もいいですね、バッシュさん。女性陣はいやでしょうけど」
「たしかに嫌ですね。バッシュさんとの営みで汗臭い女って思われたくないです」
「いやヴェラよ、ないからね?」
生々しい男女の会話が聞こえた。これがリア充か、一人身の俺には刺激が強いな。くっそ羨ましいわ!
「はふ~、疲れた、寝る~」
リズがぐでってしてる。よほど暑かったんだな、意固地にならず俺のマントに入ればいいのに。ふひっ
しかたない、俺が添い寝でもしてやるか。
「リズ、上を見なよ。星がキレイだ」
「うぇっ?あっホントだ~」
おっと、リア充タイムの始まりかい。肉体18歳で精神35歳の失恋4回してる俺にはとても眩しいよ。…虚しい。ヴェラさん俺と星を見ないかい?
ふとヴェラを向くと。
「キレイですね、バッシュさん」
「あ、あぁ、そうだな、ヴェラ近い」
おっとこっちもか、ヴェラが寄り添っている。俺を一人ぽつんと置いて自分達の世界に入るか。…精神に異常をきたす前に寝よ。見張り頼んだぞ。
俺は晩飯を平らげるとそそくさとテントに入り、ふて寝した。絶対に起きてやらん。
ふと、目が覚める。なんか誰かに見られていた気がする。起きて周りを見渡すと誰もいない。
「気のせいか?…なんか香水の匂いがするな。まさか」
俺はもしかして泥棒でも入ったのかと持ち物を調べる。
「別になにも盗られていないな。ポーチも無事だ」
俺の財産が詰まったポーチも懐にある。一体なんだろう?
「ちょっと外にでるか」
俺は気になってテントから出る。足元でマルサス、横でバッシュが寝てたので起こさないように注意しながら進む。
「少し明るくなってきたな。あっ、ヴェラ」
外に出ると夜が明け始めていて、ヴェラが見張りをしていた。
「おはようございます、アルヴィン。ずっと寝てたね」
「精神的ストレスが原因です」
うん、寝てる途中でマルサスに声掛けられたけど、憎悪の目を向けたら怯んで、どっかいったからそのまま寝た。
「そ、そう。失恋したあとにあの空気は辛いもんね」
分かってるならやめてくれてもいいんだよ?多分お前はわざとやったんだろ?いい笑顔してんじゃねえよ!
「いじめだよな」
「はい。ところでアルヴィンと聖女様って知り合い?」
肯定しやがった。ところで何でいきなり聖女が?もしかして来たのか?嫌味でもいいに来やがったな。
まじで四年会わないだけで性格悪くなったな。王都暮らしすると変わるんかね?
「同じ村出身なだけだよ。あっちは俺の顔なんて覚えてないだろ」
「そうなんだ?そのわりにあれこれ……なんでもない。もしかしてアルヴィンは鈍感ですか?」
鈍感か、そうかもね。フェルトさんが結婚してるとか気付かなかったし。
「そうかもな。まっ仕方ない。人それぞれだ」
「すんごい適当に返してきたね。聖女様とは何もなかったんだね?」
「ないね。一切なにもない。村であっても話したことなんて一度もないし、俺はあいつの名前も知らん」
追及されたくないし、知り合いだと思われたくもない。もうあいつは別人だから俺の知ってるルーナでもないしな。
「なんか力が篭ってるね。そういうことにしとく。見張り、替わってもらえる?」
「丁重にお断りします。精神的ダメージがまだ癒えてない」
「…………ふてくされすぎですよー」
「へっ、リア充にはこの気持ちが分からんさ。でも替わるよ少しだけ寝な」
「…分かったこっちへきて」
「おう」
ヴェラが座ってる丸太の横に座る。
「では失礼して」
ヴェラが俺の太ももに寝る。あれ?これ膝枕?逆じゃない?てかなんで?
「ヴェラさん?」
「テントに戻るの面倒なんで」
「いや、そうではなく」
「たまにはリア充の気分を味わって」
「お前はいいのか、バッシュに見られると」
「別に構ないよ」
うーんヴェラの思考回路がわからん。好きでもない男の膝枕とか寝れるんか?
いや、経験豊富なヴェラさんなら寝れるんだろうな。てか、スースーって寝てる。
寝顔がめっちゃキレイだな。彼女がいればこんな感じなのかな。
…おっと反応してはいけない。この娘はバッシュ、俺の親友の女なのだ。友情を裏切る気は一切ない。
俺がヴェラを膝枕して、暫くたつと周りのテントから人が出始めた。俺もヴェラを起こす、男だけのパーティーだっているのだ。この光景をみてやっかみを買うのはごめんだ。とても名残惜しいけど。
そして、みんなが起きて来たので朝食を準備する人、テントを片付ける人に分かれて作業した。
冒険者達が朝食を終えて出発の準備を整えていると。前のほうで勇者がみんなに向けてお早うと挨拶をしていて、隣には三人の聖女も一緒に挨拶をしていた。
ふと、ルーナと目が合う。…うげっ、朝から気分が悪くなる、折角ヴェラに癒してもらったのに。
…なんであいつ機嫌がよさそうなんだ?夜はお楽しみだったのか?口元がひくひくして変だし。
先頭の騎士から出発と合図があり、みんなが歩き出す。
それからお昼頃まで進軍してリールの森へ到着した。途中でも何度か魔物と遭遇するも、今回は冒険者達で片付けた。
「やっと着きましたね~」
「あぁ、みんなお疲れ様。一息つこう」
リズがまたぐでーとなり、バッシュがみんなを労う。
やっとついたな、やっぱり人が多いと行軍が遅くなるのは本当だな。色んな人がいて色んな要素が増えるもんな。
…それにしても、リールの森からすごくいやな気配を感じるのな。
俺はリールの森から冷たくも残酷な気配を感じて身震いした。




