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天翼王国銀河戦記  作者: ニコライ
第4章

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第25話

 

 新王国歴7268年10月28日




「それではこれより、フィルド帝国首都星系攻略戦作戦会議を開始します」


 あの日、アレウス殿下達を救出してから約3ヶ月半後。

 俺を始めとした全員生体義鎧の王国軍代表団は連邦軍帝国派遣艦隊の旗艦ザーハロティアⅧに乗り、巨大な会議場で着席した。

 帝国の首都星系を攻略し、帝国首脳部を捕らえる作戦。そのための軍議。どうしても合同作戦にならざるを得ず、俺達が欠席できる理由はなかった。

 もっとも、連邦による出来レースのような気がしないでもないが。


「なお、本会議には同盟国のバーディスランド王国軍より代表団がいらっしゃっています。代表はガイル-シュルトハイン元帥閣下です」

「よろしく頼む」

「ありがとうございます、シュルトハイン閣下。では順序に従い、現状確認から始めます。ライドリア閣下、よろしいでしょうか」

「うむ」


 ライドリア元帥。彼が連邦軍帝国銀河派遣艦隊の最高指揮官で、名目上は俺と同格の相手だ。

 とはいえ国力の差もあり、実際の扱いは2段ほど低くなっている。戦略的な戦果は俺達の方が上なんだが……いや、文句を言って聞く相手じゃないな。


「では始めます。帝国への大規模攻勢を開始してからから早7ヶ月、戦況は大きく変化しました。銀河外縁部は半数以上を制圧、帝国艦隊の数は当初の4割以下となりました。工廠星系はほぼ全てを制圧し、いくつかは当方の補給線に組み込んでおります。また、行く手を阻んでいた惑星規模要塞はバーディスランド王国軍によって破壊され、バルジ内への侵入に成功しました。そして我々は現在、帝国首都星系を望める場所まで来ております。これは連邦史上初の快挙です」


 この3ヶ月半で帝国銀河バルジ内にある工廠星系は6割以上で施設を完全破壊し、星系を丸ごと封鎖した。さらに多数の星が制圧している。

 まあ、8割ほどは連邦軍に押し付けたが。シュベールしか住まない星、それも戦略的価値がない星だと、完全破壊しないように自制する方が大変だからな。

 ちなみに、連邦軍の投入艦艇は合計1800億隻、損失艦は約200億隻だ。可能ならばもう少し減らしたいが……ペースとしては順調だった。


「そして集結した全軍をもって、帝国首都星系に対し総攻撃を開始することとなりました」


 開始日は連邦各国の標準時が違うためここでは言わないようだが、バーディスランド王国の時刻では9日後、11月7日だ。

 作戦は……俺の想定通りになりそうだな。悪い方の。


「現在立てられている作戦案はこちらになります。帝国首都星系と他星系の連絡線は断っているため、しばらく増援の心配はありません。問題は星系各所が要塞化されていること、それと……」


 帝国首都星系は三連星の恒星を中心に、9個の惑星が公転している星系だ。首都星は第4惑星で、3つの衛星を伴っている。さらに第5惑星と第6惑星、および第7惑星の第3から第9までの衛星がテラフォーミングされており、住んでいるシュベールの数は1000億を軽く超えている。

 そして首都星の3つの衛星だけでなく、第5惑星の2つの衛星、第6惑星の4つの衛星、第7惑星の第10から第24衛星まで、さらに各所の小惑星が要塞化されており、非常に防御力が高い。

 しかも、今はそれだけではなかった。


「大量の帝国軍艦艇が駐留していることです。皇族軍だけで500億を超えています。正確な数は分かりませんが……」

「王国軍の偵察結果では約1000億隻だ。機動要塞は約10万、大まかな配置はこれになる。機動要塞の数こそ少ないが、問題は要塞の火力だろう」

「ありがとうございます、シュルトハイン閣下」

「これより正確なデータはないのか?」

「いや、現在も潜宙艦を偵察に出しているが、これ以上は無理だ。半数以上が沈められ、30%程は隠れるだけで精一杯。情報を送れる艦は5%もいない。見つけられていない敵艦も多数存在するだろう」

「そうか……ちっ」


 もちろん嘘だ。これより良いデータは取れている。と言っても、精度の向上は130%程度でしかないが。

 この原因は帝国軍が敷いた異常なまでに分厚い対潜網にある。ソナーを搭載した人工衛星が大量に存在し、特別に対潜攻撃用の魚雷を搭載した200m級駆逐艦が至る所を走り回っている。

 また1000億には含んでいないが、潜宙艦だけでも10億を超えている。20億という可能性すらあるほどだ。

 そのせいで、戦略艦隊の潜宙艦が次々と沈められている。危険すぎるため、海軍の潜宙艦は出せない。もちろん、沈められる前にある程度の被害を与えている。だが、敵の数が多すぎて焼け石に水だった。


「それで、連邦軍の作戦について教えてもらうことはできるか?」

「ええ、今から行います。作戦としましては、敵要塞への対シールド大型ミサイルの一斉攻撃を主体とします。超長距離からの一斉発射です。着弾までの時間が長くなり、迎撃される数も増えるでしょうが、仕方がありません」

「補給に問題はないのか?アレの貯蔵はそう多くないぞ」

「問題ありません、ガルド閣下。次とその次の補給で大量に届けられる予定となっております。増援と共に」

「む、なら良いか」

「機動兵器部隊ははどうです?」

「基本的には艦隊防空に用いる予定です。機動兵器部隊を単独で運用しても効果は薄いかと」


 表示された艦隊配置図と作戦予定図は連邦軍が全方位で攻撃を仕掛け、正面から帝国軍を撃破するというものだ。一応王国軍の配置場所も書かれているが、敵主力とは戦えない位置でしかない。

 どうやら連邦軍としては、自分達が主力となって首都星系を攻略し、そのまま戦後の主導権を握りたいようだ。総統府の、そして諜報部の予想はそうなっている。メルナもそう感じたらしい。

 そしてこれは、確かに悪くはない作戦だ。だが……このままだと負けるな。帝国を甘く見過ぎている。


「少し良いか?作戦に追加を行いたい」

「シュルトハイン閣下?しかし……」

「単純なことだ。敵艦隊の半数以上と要塞の8割を消し去る方法がある」

「「「「は⁉︎」」」」

「閣下?いったい何を……」

「シュルトハイン元帥!」

「ガイル?」

「先生、それは……」

「そういうことね」


 連邦軍(向こう)の面々は疑念を示し、王国軍(こちら)の面々は驚愕する。理解したのはリーリアだけだった。

 俺としては2度もアレを使いたくはない。だが、今回は使うしかない。そうしなければ負ける。

 機密だのどうの言っていられる場合ではない。まあ、極秘で父さんの許可を取ったが。


「俺の権限で使用する。それで構わないか?」

「それなら……」

「しかし……」

「そういうことであれば……」

「合理的だし……」


 また、ここにいるのは全員が戦略艦隊関係者、直接間接を問わずアレを見た面々だ。アレの有用性はよく知っている。

 だからこそ否定しづらく、この場で言ったことは責められやすい。だが、連邦軍の作戦を変えさせるにはこれしか無かった。


「そちらの方々の反応からして、本当にあるようですね。して、その方法とは?」

「詳しくは言えない。というより、俺も原理の全てを理解しているわけではない。だが、これは戦略兵器だ。安易に使えるものではない」

「ふむ……」

「仕組みをお教えしていただいても?」

「大まかには可能だ。今回使う手は潜宙艦から派生した技術の1つになる。空間との相互作用を利用して敵艦を破壊するものだ。戦略兵器として配備されている」

「戦略兵器か。廃れたはずのものが出てくるとは……」

「おい、その技術を得ることは可能か?」

「いや、無理だ。高度な潜宙艦技術を持たなければ前提条件すら満たせない。特定分野で言えば、帝国を上回るほどのな。連邦での利用は不可能だろう。そもそも、王国軍ですら気安く使えないものだ」


 嘘は言っていない。実際、アレは潜宙艦の異次元潜行技術から派生して生まれたものだ。しかし気安く使えないのは、俺が拒絶しているからにすぎない。

 だが、こう言っておけば潜宙艦を犠牲にしてでも放つもの、もしくは製造が難しいミサイルの類だと誤解してくれるだろう。後で気づいたとしても、最初の印象というのは拭いがたい。


「これを使うために、ある程度事前に配置する必要がある。まあ、全てこちらで行うが……排除する敵はこれで良いか?」

「私に異論はありませんが……ライドリア閣下?」

「それで構わん」

「了解しました。シュルトハイン閣下、それで構いません」

「分かった。それと、攻撃成功後の配置はこれを想定している。どうだ?」


 俺が開いた作戦予定図では、王国軍の各艦隊がアレの攻撃を受けなかった帝国軍と相対しているのに対し、連邦軍は防御の薄い2ヶ所に集中的に展開している。王国軍(俺達)が外周にて敵と牽制しあっている間に、連邦軍は2方向から首都星へなだれ込むことが可能な布陣だ。

 悪い話ではない。これなら連邦軍は食いつくだろう。


「これは、なるほど……」

「ふむ、悪くない」

「しかし、これはバーディスランド王国軍が囮となる布陣では?」

「構わない。単艦での火力は王国軍が上だが、数も含めれば連邦軍が主力だ。主力には主力の役割がある」

「良い心がけだな」

「そうですか。ライドリア閣下、よろしいでしょうか?」

「ワザワザ譲ってくれるのだ。その好意は受けておこう」


 乗ったか。

 これで勝てるな、俺達が。


「感謝する。勝利のためには必要なことだ」

「構わん。これは互いの利益になる」


 勝利のために必要で、互いの利益になる。それは正しい。

 1つ違うのは、その互いが想定している状況が完全に異なっていることか。


「ではそれを基幹として作戦を訂正します。皆様方、よろしいですか?」

「良いだろう」

「問題無いな」

「そうですね」

「ありがとうございます。では本日の軍議は終了します。訂正後に再度声をかけますので、どうぞご参加ください」


 王国軍から帝国首都星系に関するデータを渡したのは初めてなため、連邦軍の作戦が大幅な練り直しになるのは仕方のないことだ。

 予想通りに。


「ありがとうございました、シュルトハイン閣下」

「いや、構わない。王国軍としても、今回の作戦は非常に重要だ。役割を分けることは当然のこと、別に連邦を気遣ったわけではない」

「そうですか。それで、この後はどうされるおつもりで?もしお時間があるようでしたら……」

「この後は王国軍の側でも軍議を行う。艦隊配置に調整、やることは多い」

「そうでしたか。それでは私は失礼します」


 連邦軍との軍議が終わった直後、俺達は輸送艇(ババール)を使って大型戦艦(ザックバッハ級)に乗り、連邦軍の艦隊から離れた。

 そしてすぐに、アーマーディレストで軍議を開く。参加者は少将以上が全員だ。こちらは王国軍内での会議であると同時に……本当の作戦会議でもある。


「さて、敵の主力艦隊を連邦軍に押し付けることには成功した。連邦軍の投入艦艇は約1000億隻。火力では連邦軍が優秀なため負けることはないだろうが、最低でも半数は沈むだろう。そして時間がかかる。俺達はその間に、首都星を攻略する」


 連邦軍が侵攻する2方向、そこには隠密性の高い要塞群に隠れた帝国軍艦隊がいる。数は合計して1000億隻以上、首都星系に駐留する艦の約半数だ。

 しかもそこの防衛ラインはワザと薄く見えるようになっている。連邦軍だけでは引っかかっていただろう。

 それともう1つ。それ以外の場所にいる敵艦は9割以上を殲滅可能だ。要塞は数個を残して壊滅、残った数個も中破以上になる。あの場で言ったのはワザとスペックを落とした値でしかない。

 まあ、アレでも破格な性能だからな。アレすら信じていない可能性もある。こういうことが苦手な俺としては、その方が楽なことこの上ないが。


「しかし、当初の推定数300億隻と比べれば6倍以上と、非常に多い。そして、どこからこの数を調達したかは全く分かっていない。そのせいで、戦略掃討砲を使わなければならなくなった」


 皇族軍の定数は氏族軍と同じ100億隻、10ヶ皇族軍の合計は1000億隻だ。これだけでも、2000億隻が異常だということが良く分かる。

 しかも、今までの戦闘で500億隻は撃沈されたという連邦軍からの情報がある。王国軍が沈めたものを加えると700億に達するだろう。氏族軍の損耗も似たようなもので、 そもそも工廠星系は大半が壊滅した。数を増やすことすら簡単ではないはずだ。

 そんな状態で、敵の数が増えている。どこから補充したのかは分からないが、気は抜けないだろう。

 また、機動要塞の割合が低いため、旗艦が管制しているとは考えにくいな。要塞が大元となっている可能性が高い。

 だが、必ず攻略する。


「しかしそんなことよりも、作戦を確認しよう。戦略掃討砲の掃射により、敵の数は大幅に減る。敵主力は連邦軍が引き受けるため、残りの残数は100億程度となる。要塞も惑星地表のものを除いて全て壊滅させられる。これはほぼ確定事項だ。数が減ることはあっても、増えることはない」


 分散した100億隻程度であれば、王国軍単独でも対処できる。要塞は全滅させるため、支障は無いはずだ。

 連邦軍が来るまでに要塞のシールドを突破できるかは疑問だが……やるしかないな。


「撃ち漏らすことになる敵艦は主に帝国首都星静止軌道周辺、および小惑星帯周辺だ。他に大した数が残ることはない。邪魔をされることは無いはずだ。ただし、敵潜宙艦は相当数が残るだろう。アレは潜宙艦を巻き込むことも可能だが、ここまで広域に展開していては、半数を撃破することすら難しい。未発見の敵艦がいる可能性も高く、戦闘中に攻撃を受けることもあるだろう。注意しろ」


 しかし潜宙艦は10億隻中、最低でも1億隻は残る可能性がある。未発見の艦も含めると3億隻を超えるかもしれない。

 大規模艦隊戦中に奇襲されると危ないだろう。だが、これより大きな問題がある。


「とはいえ、それはまだ序の口だ。最後かつ最大の問題は首都星地表に存在する6ヶ所の要塞になる。その中でもアルドバルン要塞は最大の規模を誇っており、非常シールドが厚い。帝国首脳部の逃亡先のため、ここは必ず攻略する必要がある」


 諜報部の成果でも、シールドが強固ということしか分からなかった。衛星改装型要塞と同レベルという噂があるようだが、真偽は不明だ。

 しかし、どうにかするしかないな。泣き言を言う余裕はない。


「まずはここまでだ。何か質問は?」

「シュルトハイン元帥、本気で戦略兵器を使うおつもりでしょうか?」

「本気だ。全26門の戦略掃討砲ヴァルツディレストを使用し、敵の9割以上を殲滅する。これは既に決定事項だ。父さんとは相談済みで……今、陛下からの承諾も得た」

「了解しました。では、我々海軍の役目は戦略兵器の後ということでよろしいですか?」

「ああ、海軍にも役目はある。というより、この数を戦略艦隊だけで殲滅するのは無理だからな」


 艦隊だけなら、不可能では無い。しかしその後に要塞を攻略しなければならない以上、ギリギリの戦いを続けるわけにはいかない。

 そして、時間をかければ連邦軍が来る前に帝国軍の増援が来る可能性がある。連邦軍が敗退する可能性も否定しきれない。そうなれば、撤退する他に道はないだろう。

 そのため、戦術的な損失は増えるかもしれないが、戦略的には最も損失を減らせる作戦として、これを立案した。


「では、戦略掃討砲が照射された後はどうするんですか?」

「それはこの後に説明するつもりだったが……他に質問が無ければいいだろう。まず、戦略掃討砲が敵艦隊へ当たる30秒ほど前に分散して亜空間ワープを行い、戦略掃討砲の射線上へ敵艦を誘導する。照射完了後は残敵を掃討した後、それぞれの戦域へ亜空間ワープを行え」


 最初は、連邦軍に渡したものと同じ位置に跳ぶ。陽動と欺瞞を兼ねたものだ。

 正直に言って、指摘されるまで欺瞞の方は考えていなかったが。


「戦略艦隊は8つ全て首都星へ回す。地表の要塞を攻略するにはアーマーディレスト級全艦の火力を持って当たるしかない。小惑星帯は第5および第9統合艦隊に任せる。だが、他の統合艦隊が必要なら言え。一任する以上、必要な責任は全て取る」

「いえ、責任は自分達でとります。第2統合艦隊と第14統合艦隊がいれば大丈夫です」

「そうか?それなら任せる。好きにやれ」

「了解しました」

「が、頑張ります!」


 レックス元帥とミーシャ元帥、この2人なら大丈夫だろう。小惑星帯の敵艦はそう多くなく、要塞は全て排除する。被害は少なく、攻略できるはずだ。

 またこれにより、戦略艦隊(俺達)のサポートに就くのは第7統合艦隊のみとなったが、問題は無い。むしろ、2ヶ統合艦隊だけだとしても邪魔になったかもしれない。


「しかし……陸軍の出番はほぼ無いだろう。制圧する必要があるのは地表の要塞1つであり、戦略艦隊揚陸部隊だけで埋められる程度の広さだ。帰還しても構わないが……どうする?」

「それは……シュルトハイン元帥はどうお考えで?」

「正直に言うと、帰還を推奨する。使用不可能な部隊を抱えて行動する余裕はあまり無い」

「了解しました。それでは、我々陸軍の全部隊は本土へ帰還いたします。ご武運を」

「すまないな。だが、本土が攻撃を受けないとも限らない。その時は頼む」

「は!」


 意気込みを否定するようですまないと思う。だが事実である以上、この選択は間違いではない。

 俺の判断ということで納得してくれるとは思うが……一応、父さんにも頼んでおくか。


「それと、本作戦では戦術兵器の使用も解禁する。必要ならば好きなだけ使え」

「は!」

「了解しました」


 対多戦闘には戦術兵器が1番だ。今まで対帝国で使わなかったのは奇襲効果を高めるためであり、最後となれば遠慮はいらない。

 たとえAIでも、情報が無ければ対処はできないのだから。


「作戦説明はこれで終わりだ。詳しことはデータを送る。他に質問は……無いな。では、解散」


 今回話すのは大まかなことのみ、細かな作戦は今後少しずつ詰めていく。

 そのため、この後も色々と仕事がある、が……その前にやりたいことがある。


「先生、作戦についてですが……」

「ポーラ、戦略砲の射線のシミュレートを再度行ってくれ。敵艦隊の想定される動きも含めて、徹底的にだ。時間がかかっても構わない」

「え?はい、分かりました」

「すまないな。だが、先にやってほしい。大丈夫か?」

「もちろんです」


 ポーラに悪いとは思うが、俺にも色々とある。もしかしたら、何か気づいているかもしれないが、確認するつもりはない。

 そんなわけで、自室に続く角を曲がったところ……リーリアが壁に背を預けて待っていた。


「酷い男ね、貴方は」

「酷い言い草だな、リーリア」

「事実でしょ?女の子の気持ちを冷たく捨てたんだもの。後で慰めておいてあげるけど」

「助かる。俺が言うと逆効果になりそうだ」

「その通りよ。嫌ったような言い方だったもの。収まるまでは私がやるわ。けど、代わりに……」


 しかも、俺が数回しか見たことがないほど強気……というより怒ってるな、これは。それだけのことをしたと思っているが……

 しかし思考に逃げることは許されず、襟首を掴まれ、無理矢理屈まされた。そして額を押し付けられ……


「トリガーを半分寄越しなさい。それくらいなら一緒に背負えるわ」


 っ、それは……


「……何のことだ?」

「気づいてないとでも思った?メルナも気づいてるわよ。対応は私に一任されたけど」

「まったく……本当に敵わないな」


 全ての弱音を言えるのはリーリアだけだが、メルナも俺をよく見ている。

 確かに、バレていてもおかしくは無い、か。


「で、どう?」

「分かった。半分預ける。だが、後悔はするなよ?」

「あの時の貴方を見て、覚悟しない方がおかしいわね。けど……」

「ん?」

「貴方に全ての責任を任せないといけないほど、私は弱くないわ」


 やっぱり強いな、リーリアは。普段は俺に合わせているのかもしれないが、こういう度胸が要る時は本当に敵わない。

 助けられてばかりだ。


「いつもより強気か?ここまでなるのは珍しいな」

「普段は私も弱気側だけど、自身が無いわけじゃないわよ?けど、こういう時くらいは強気になるわ。虚勢でもね。だって、意地を張ってでもやることでしょ?」

「そうだな、その通りだ。間違いは……俺1人でやろうとしたことか」

「ええ。少なくとも私、それとメルナも手伝えるわ。貴方は昔からそうだけど、責任なんて分ければいいのよ。1人じゃないんだから、ね?」


 その通りだ。俺は1人じゃない。メルナやリーリアが、仲間達がいる。頼ることは悪いことでは無い。

 とはいえ固定化されてしまった俺だ、これを完全に変えるのは難しいだろう。だが……少しずつ変化させることは、不可能では無いはずだ。


「ああ、分かった。今まで以上に頼らせてもらう」

「それで良いわ。でも、まだ不安で……私を抱いて安心できるなら、今からしてもいいわよ?」

「いや、今は止めておく。止まらなくなりそうだ」

「何それ。そんなに私が愛おしくなったわけ?」

「そうかもな」


 実際そうなんだろう。口に出すのは恥ずかしいが。











 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











 新王国歴7268年11月6日




「8ヶ戦略艦隊、全艦配置に着きました」

「無人アーマーディレスト級、指定位置到着。修正誤差、0.0001%以下」

「海軍5ヶ統合艦隊、後方で連邦軍を警戒中」

「戦闘艦および要塞艦、アーマーディレスト級以外は全て警戒態勢。全武装アクティブ」

「帝国首都星系、重力情報を取得完了。測定点は残り8%」

「潜宙艦隊からの情報は予定通り。惑星、衛星、小惑星、軌道全て計算通り」

「敵艦隊、配置変わらず。射線良し」


 そして攻略戦前日。戦略艦隊は恒星から約1光日の位置にバラけて配置され、準備を行っていた。

 今日アレを放ち、明日の戦闘に間に合わせる。そういう作戦のためだ。


「各アーマーディレスト級へ通達、戦略掃討砲ヴァルツディレストの発射準備を開始しろ。射線および拡散率は事前のデータを参照、9割以上を消せ」

「了解。全アーマーディレスト級へ通達」

「戦略砲ヴァルツディレスト、掃射準備開始」

「無人アーマーディレスト級とのリンク確立。同時操作可能」

「ジェネレーター出力向上。限界出力まで150秒」

「対空レーザー砲を除き全武装オフライン、エネルギーカット。シールド出力低下開始。余剰エネルギーは全て戦略砲へ」

「ヴァルツディレスト、全システムを3重にチェック……全てオールグリーン」

「空間機動出力向上、艦体固定を最優先」

「周囲のラファレンスト級とのリンク確立。トラクタービームによる相対位置固定実行」

「全測定点にて重力情報取得完了。誤差、0.000001%以下」

「最終シミュレータ、出力確認。全データを射撃管制へ」

「艦体固定、射線軸固定、必要データ全て取得。発射準備第1段階、全て完了」


 戦略掃討砲ヴァルツディレストは戦略兵器というだけあり、多数の安全装置が組み込まれている。

 そして、まずはシェーンが鍵を外す。


「……第1セーフティ……解除」


 指紋、掌紋、声紋、網膜、脳波を照合し、パスワードを入力することで、ようやく1つのセーフティが解除される。

 これを4回。面倒だが、必要なことだ。


「第1セーフティ解除を確認、第2段階へ移行」

「エネルギーチャンバー解放、ジェネレーターとの大型エネルギー伝導ケーブル直結確認」

「エネルギー注入開始。注入速度、現在毎秒0.8%」

「エネルギーチャンバー、正常に稼動中。濃縮は規定通り、流出は確認できず」

「現在エネルギー20%、終了まで約80秒」

「ラファレンスト級からのエネルギー送信確認。注入速度さらに向上」

「本艦周囲、シミュレートより空間変位が若干大きい。安定化のため、空間機動の出力上昇開始」

「エネルギーはシールドより抽出。チャンバーへの注入速度は変わらず」

「現在エネルギー50%、終了まで約20秒」

「ラファレンスト級とのエネルギー伝送用トラクタービーム多重接続が重力環境と干渉したことにより、想定誤差を上回った模様。現在シミュレート再構築中」

「シミュレート終了、修正値を各所へ送信」

「エネルギー100%、エネルギーチャンバーへの注入完了」


 2回目、しかも違う銀河での実戦投入、いくらか問題はあるようだ。しかし、それは致命的なものではない。


「第2セーフティを解除します」


 そのため、ポーラが次の段階へ移行させる。


「第2セーフティの解除を確認、第3段階へ移行」

「エネルギー空間転換装置のロック解除を確認。システムチェック開始」

「システムオールグリーン確認。エネルギー空間転換装置、試運転開始」

「動作中システムチェック……異常は認められず」

「空間波動への転換、問題無し。全て規定の範囲内」

「規定経路以外での流出無し。試運転終了」

「確認作業全て完了、次段階へ移行可能」


 第1段階はただエネルギーを貯めるだけだったが、第2段階はそのエネルギーに1段階目の転換をかける場所だ。

 そして、この空間波動というものは空間波と異なる。というより、これは波ですらなく、波動というのは便宜上の名前だ。本来の名称は何だったか……まあ、今はいいか。

 次はメルナだ。


「第3セーフティ、解除しますね」


 メルナがセーフティを解除するとともに、第1段階とは異なるチャンバーへの扉が開く。

 そして転換装置へ流れるエネルギーが増え、空間波動へ変化する。


「第3セーフティの解除を確認、第4段階へ移行」

「空間チャンバー解放、エネルギー空間転換装置と接続。空間波動、チャンバーへの充填を開始」

「充填速度は現在毎秒0.4%。エネルギー空間転換装置の出力上昇開始」

「空間波動、密度は正常。転換過程に異常無し」

「出力向上確認。空間波動充填速度向上」

「空間チャンバーからの流出は確認できず。現在充填量12%」

「現在、充填速度は毎秒1.4%。さらなる速度向上を実行」

「使用エネルギー分をエネルギーチャンバーへ注入開始。エネルギー98%を保持」

「空間チャンバー内壁にてシールドとの反発発生。これは想定の範囲内、システムが自動調整」

「空間チャンバー、現在充填量43%。100%まで約30秒」

「潜宙艦隊より連絡。敵艦隊の動きに変化無し。掃射コースは予定通り」

「アーマーディレスト、全システムを戦略砲ヴァルツディレスト発射態勢へ。対空レーザー砲を除く全武装は解除まで使用不可能」

「シールド出力、通常の20%で安定。変換用意良し」

「空間チャンバー充填量100%。空間波動の流出無し」

「エネルギーチャンバー、再度100%へ」


 ここまでで2つのチャンバーには大量のエネルギーと波動が溜まっており、暴発すればアーマーディレストすら沈むような量だ。

 嫌が応にも緊張が高まり、同時に期待も増えていく。そして、最後は俺の番だ。


「最終セーフティ、解除」


 なお、この最終セーフティは生体認証やパスワードだけでなく、物理キーも使う。

 この物理キーは元素操作装置を使っても複製できないナノマシンを内蔵し、電子鍵も入った特殊なもので、戦略艦隊司令長官しか所持できない。

 また最終セーフティの解除には、物理キーに内蔵されたダイヤル10個を回し、それぞれに書かれた100個の数字の中から正しい数列に合わせる必要もある。

 半分くらいは見た目で決めたそうだが……実用性もかなり付与されたものだった。


「最終セーフティ解除を確認、最終段階へ移行」

「砲口部装甲板解放、空間変換装置作動開始」

「砲口部のシールド、開口部を形成」

「艦首シールド変形、特性変換、砲撃態勢へ」

「艦首付近へ特殊力場生成。拡散開始の用意良し」

「空間チャンバー、砲口と接続。最終ロック解除開始」

「空間機動稼動準備、射線軸変更用意」

「最終ロック解除完了。トリガーとのリンク構築完了」

「砲口部全システムオールグリーン、エラーは確認できず。最終段階全て終了、戦略掃討砲ヴァルツディレスト発射準備良し」


 砲口部の装甲が開き、シールドが専用のものへ変化する。

 チャンバーが砲口と接続し、波動変換でも問題はない。

 射線確保には艦体ごと動かすため、空間機動も準備した。まあ、0.01度に満たない程度の変化しかないが。

 そうして全ての準備が終わり、俺の元にトリガーが現れる。なので次の行動を取ることにした。


「全戦略艦隊司令長官へ、ヴァルツディレストのトリガーを俺に集めろ」


 セーフティを全て外してしまえば、他の戦略艦隊に操作を委ねることもできる。

 なお、これについては事前に説得済みなため、問題無く制御権が俺に渡ってくる。話し合った甲斐があったな。

 とはいえリーリアからしてみれば、あれは説得ではなく脅しだそうだが……完全同時発射の方が良いよな?


「リーリア。約束通り、半分は任せる」

『ええ、タイミングは大丈夫よね?』

「俺達が合わせそびれたことがあったか?」

『無いわ』

「照射開始時間まで、10、9、8、7、6、5、4、3」

「戦略掃討砲ヴァルツディレスト……掃射開始!」

『発射!』


 トリガーを引くと空間波動が空間チャンバーから砲口へ放出され、さらに空間変換装置で消滅波動へ変換される。

 その消滅波動は直径50kmの砲口から放出されるが、しばらくはシールドが抑え込むため、何の変化も起きない。兵器として効果を発揮し始めるのは1万km地点からだ。


「戦略掃討砲ヴァルツディレスト、掃射開始。空間変換装置正常に作動中」

「シールドおよび特殊力場に異常無し。拡散位置も予定通り」

「無人アーマーディレスト級3門、他22門、全門照射確認」

「射線は全てシミュレート通り、エラー無し」

「空間機動により射線変更開始、トラクタービーム出力調整……全て予定通り」

「消滅波動、正常な作用開始を確認」

「エネルギー空間転換装置稼動、空間チャンバーへ高速充填開始」

「エネルギーチャンバーへのエネルギー注入、最大速度で再開。全エネルギー消費まで40秒」

「エネルギー空間転換装置、空間変換装置、連続使用の影響は認められず。出力安定」

「全てシミュレーション通りに移行中、工程誤差0.0000001%以下」

「掃射維持時間、残り25秒。ジェネレーターの限界時間は残り150秒」

「海軍より連絡。全ての過程において、連邦軍の活動は確認出来ず。観測艦無し」

「情報を取得していた潜宙艦隊の約20%が撃沈されました」

「エネルギーチャンバー残量ゼロ、閉鎖します」

「掃射終了まで5、4、3、2、1、終了。全安全装置起動、セーフティロック」

「空間反動への対処開始。空間機動およびシールドの出力最大」


 そして、消滅波動は砲口から直進するが、それは広範囲にエゲツない効果を常に生み出し続けている。既に一部は確認できているようだ。

 しかし、俺とリーリアにはそんなことを気にする余裕すら無かった。


「ぐっ……」

『これは……つ、辛いわね』

「ようやく、っ、分かったか?」

『ええ……貴方が嫌がるはずよ……』


 精神へ直接流れ込んでくる、世界を壊す感覚。幻覚や錯覚だと言えれば良いのだが、あまりにもリアルすぎて幻覚だとは思えないな。

 イメージとしては……ファンタジー系のマンガやゲームによくある、MP不足とかいうものに近いのかもしれない。実際は全く違うだろうが。


「空間反動への対処終了。ジェネレーター出力通常値へ」

「各武装接続オンライン。シールド変換停止、出力向上。戦闘機能回復完了」

「ラファレンスト級とのエネルギー回路切断、トラクタービーム接続解除」

「全アーマーディレスト級、戦闘機能回復を確認。亜空間ワープも用意開始」


 と、後処理も終わったようだ。

 それなら、次に移るとしよう。


「落ち着かせる暇は無いか……戦略艦隊全艦亜空間ワープ開始。作戦待機位置へ移動する」

「了解。全艦へ亜空間ワープ開始を通達」

「無人戦略艦隊との同期再開、ジェネレーター出力向上」

「全艦亜空間ワープ準備完了」

「……亜空間ワープ、開始」


 ここは中心付近まで1光日と近い。逆探知されることは無いだろうが、念のため移動しておく。


「亜空間ワープ終了、全艦追従確認。場所は予定通り、首都星系より1.3光年の位置」

「ジェネレーター出力正常。以後12時間経過観察」

「全艦警戒態勢へ移行」

「先生、戦略掃討砲ヴァルツディレスト掃射作戦は全て終了しました。成功です」

「明日の作戦開始までは警戒態勢を維持しつつ、交互に休息を取れ。事前の計画通りだ」


 今日の作戦行動はこれで終わり、敵に動きが無ければ明日までは休める。

 無理はしない方が良いな……格好はつけさせてもらうが。


「お兄ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫だ。2回目だからな」

『嘘よ。少なくとも後ろわね。これ、慣れるようなものじゃないわ』

「……本当?」

「リーリア、お前な……本当だ。だが、気分が悪いのはすぐに戻る。気にする必要は無い」

「本当ですね?」

「ああ、本当だ……そんなに信用できないか?」

「ええ」

「うん」

「はい」

「……そう」

『無理よね』

「ぐっ……」


 信頼されてないのか、逆の意味で信頼されているのか……

 少なくとも、俺の負けは確定だな。


「分かった、しばらく休む。メルナ、ポーラ、頼んだ」

「ええ、任されました」

「はい、任せてください」

『じゃあ、私もそっちに行くわ』

「……来るのか?」

『ええ、休憩は私にも必要だもの。悪い?』

「いや、悪くはないが……交渉済みか」

『そういうことよ』


 抜け目ない……だが、まあ良いか。こういうのも悪くない。












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